だから付き合ってないってばよ   作:冬乃菊

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『二回目』の意義

 風の国の主要都市であるアルテまでの距離は、木ノ葉隠れの里から大和京までの距離の約二倍にあたる。大和京から国境までは移動速度を優先したため最低限の警戒体制のもと約五日で辿り着いた。そして今日、火の国最後の宿場町を後にする。

 

 これより先は国外となり、ナルト、サスケ、ヒナタも気を引き締める。カカシは自分の前を行くヨリミチに声をかけた。

「ヨリミチ殿、これからは何があるか分かりません。何が起こってもけして慌てず、私どもにお任せください」

「……ええ、そう努めます」

 国境を越えるからといい大名行列の進行は止まらない。行列の速さはけして優雅なものではなく、普通に歩くよりも速く、移動に重点が置かれていた。

 カカシは隣を歩くヒナタに目配せする。

「よし、ヒナタ。白眼で道中に怪しいことがないか確認してくれ。道の脇も見落とすなよ」

 ヒナタの目の周囲にチャクラが集中する。ヒナタの白眼の透視眼による視野はおよそ八〇〇メートル。

「はい。……あっ、前方一〇〇メートル先に落石のトラップがあります。そしてその五〇メートル先に忍が四名……道の左右に二名ずつです」

 予測通り、道中にはトラップが仕掛けられていた。大名行列の先頭付近にはナルトがいるが、持ち場を離れるのはリスクが高い。

 カカシは親指を噛み、血を滴らせ印を結ぶと小型の忍犬が現れた。

「パックン、ナルトの影分身と一緒に大名行列を先行してくれ。約一〇〇メートル先に罠がある。そしてその五〇メートル先に忍。戦闘になっても深追いはナシ。難しければオレに報告ね。ナルトは前方の騎馬隊の横についてる。持ち場は離れないように必ず影分身を出してもらえよ」

「うむ、わかった」

「よろしくねー」

 パックンは大名行列から外れて前方へと駆けていった。

 カカシは後方のサスケにサインを送る。敵がいるが持ち場は離れるな。今回の護衛は縦に長い大名行列の護衛であり、持ち場を離れるのは危険である。緊急召集時には発音玉で知らせることとなっている。

「おまえがナルトだな」

「あ、パックン!」

「会ったことがあったか?……まあそれは置いといて、カカシからの伝言だ。この先にトラップを発見した。ナルトの影分身と対処するようにとのことだ」

「早速か。……よし」

 印も組まずに行列の脇にナルトの影分身が出現した。

「案内頼むってばよ!」

 

 ヒナタが示したところにはワイヤーがあった。そのワイヤーを辿ると楔があり、絶妙な長さと角度が計算されている。楔の上には巨大な岩が積まれており、一つ崩れると全ての岩が崩れ落ちる仕組みだった。

「この岩で足止めし攻撃するつもりだったか。どうする、ナルト」

「土遁と大玉螺旋丸でいくってばよ」

 ナルトが印を結び掌を地面にあてると、横に一〇メートルほどの土壁が現れた。さらにナルトは土壁を跳び越え、右手に貯めたチャクラの塊を岩に向けた。すると砕けた岩の破片は坂を転がっていくが、その先にナルトの土壁がある。

「これで大丈夫だってばよ」

「この先にいた忍の匂いが遠くなった。カカシは深追いするなと言っていたが……」

「そっか。ならこれで終りだな」

「いや、待て。わしと組んで行列を先行する」

「おう!」

 ナルトとパックンは周囲を警戒しながら先行した。

「……先生、ナルトくんがトラップを解除しました。そのまま進行方向へ進んでいます」

 ヒナタはナルトたちの動きを白眼で感知していた。

「上手くいったな。……敵さんもこのまま退いてくれればいいんだけどねー」

 ナルトの土遁と螺旋丸を目の当たりにした忍たちは報告のため一時退却し、カカシの思惑通りに事は進んでいる。

「……木ノ葉のガキはあんなことまでやるのか」

「中忍……いや、あの術の精度はそれ以上だ」

 もし、ナルトが成人した大人の姿であったなら、彼らはこれほどまでに恐れなかったはずだ。その外見からナルトが部隊の隊長でないことは明白であり、その隊長は更に力をもった忍だと推測していた。

 

 部下から報告を受けた砂隠れの上忍は、予想外の現状を知り閉口する。

「……止むを得まい。今回は本来の予定通り会談ができるようにする他ないな。下手を打てば計画が露見するだろう。大名にも木ノ葉隠れの忍にも知られてはならない」

 

 火の国の大名行列は小さな宿場町で一晩中過ごすこととなった。カカシは人がいないことを確認し、話をするために零班を宿場町の外れにある小屋に連れ出した。周囲の警戒はカカシの忍犬に任せている。

「ヨリミチ殿、この道中にトラップがありました。工作したのは間違いなく忍。しかしどこの忍かまでは特定できません」

「それで構いません。もし、砂隠れの忍であっても問題ありません。我らに実害はないのですから。……この件は大名様に知らせておりません」

「……何か考えがおありの様ですね」

「ええ、実は風の国の官吏に、私の友人がいるのです。今回の会談は、我らが画策しました。その狙いは、火の国と風の国の友好関係の強化です」

「すっげーな!」

 ナルトはヨリミチの言葉に目を輝かせた。

「友好関係……か。こっちにその気があっても、相手にその気がなければ難しいだろう。そもそも何故今友好関係なんかのために危険をおかす必要があるのかわからない」

 サスケは真っ直ぐすぎるナルトとは違い懐疑的な物の見方をするが、彼の言葉はその本心と異なっていることもある。

「……仰る通りです。確かに難しい事ですが、双方がそっぽを向いていては一向に良い関係は築けません。また、火の国の治安は安定していますが、周囲の小国は違います。治安の悪さは犯罪を招きます。そして貧困も。それらは国を越えて脅威となるでしょう。放っておくことはできません。改善していくには各国の協力が必要だと、わたしは考えています。何事も、大事を起こすには同志が必要です。まずは隣国で交流のある風の国との距離を縮めたい」

「フン……この時勢にそんな考えを持っている奴がいたとはな。来た甲斐があった」

 サスケはわずかに笑みを浮かべた。

「オレも大賛成!みんなが仲良くするのはいいことだってばよ」

「わ、わたしも良いことだと思います」

 ヒナタは元来争いを好まない性格ゆえに、ヨリミチの言う理想はとても魅力的なものに思えた。

「そう言ってくれますか。この考えはあまり理解されないのですよ。わたしの同僚たちは他の国の事など放っておけと言うのです。忍と貴族……立場は違えど、同じ考えを持つ者と言葉を交わせるとは喜ばしいことです」

「そうだな」

「君の名は……うずまきナルト、でしたね。覚えておきましょう」

「おう!将来火影になる男だってばよ!」

「頼もしいことだ」

「……もしもーし。話が逸れてますよ。つまりヨリミチ殿が仰りたいことは、今回の事で風の国との関係を悪くしたくない、ということでしょうか。だから大名様の耳に入れるな、と」

「ええ。話が早くて助かります。風の国の上部も我々と同じく一枚岩ではありません。隙をうかがい、足を掬おうとも考えているかもしれません。ですが我々はそれを許してはなりません。友好関係を築くための新しい足枷を増やすわけにはいかないのです」

 火の国と風の国の互いの信頼を守ること。それが本来の任務の目的であり、ただの護衛ではない。とてもCランク任務とはいえない難易度の高い要求だった。

 

 夜間もカカシの忍犬が見張りにあたる。宿場町の周辺に感知系のトラップも数ヶ所設置した。そしてナルトは数人の影分身を野に放った。

「おまえら、見張りはいいからよく寝とけよ。これがあと四日も続くんだから」

「わかったってばよー」

「……ああ」

「はい」

 ナルトとサスケとヒナタは欠伸をしながら歩いていくカカシの後ろ姿を見送った。カカシは大名の隣の部屋で寝るらしい。

「ナルトくん、サスケくん、わたしは向こうの宿で寝るね。女性専用なんだって」

 ヒナタは同行する侍女が停泊する宿に呼ばれていた。護衛も兼ねてのことだ。

「サスケはどうすんだ?」

「おまえは?」

「んなの決めてないってばよ」

「……簡易テントなら持っている」

 サスケはポーチから小さい巻物を取り出した。

「マジ?!サンキュってばよ」

 サスケは大名が泊まっている場所が見え、かつ目立たない場所を選んで印を結んだ。テントは四人は寝れるくらいの広さで、二人には十分だった。

 ナルトはどかっと腰を下ろすとサスケを見上げた。

「サスケって相変わらず準備いいな」

「誰のせいだと思っているんだ」

 ナルトの準備はあてにならない。長年の経験から分かりきっていることだ。

 日はもうとうに暮れている。二人は体を横たえた。電灯を切ると途端にテントの中は暗闇に包まれる。

「サスケ……前もさ、この頃にこういう事ってあったのかな」

「さあな。オレの記憶にはないが、知らないだけかもしれない」

「もしあった事でも、大したことが決まらなかったから知られなかったってこともあり得るな」

 サスケが動く気配がした。

「……ナルト」

 前よりも少し声が近い。ナルトは暗闇の中、その視線を感じた。

「うん?」

「この世界は、前よりも良くなっていると思うか」

 けして叶うことのないはずの願いが叶ったような今は、サスケにとってはどうであるかはなどもう言うまでもない。だが、ナルトにとってはどうだろうか。以前と変わったことはそれほどないだろう。

「……少なくとも、オレにとってもそうだってばよ。おまえも、手を伸ばせばすぐに届く所にちゃんといるしな。それが一番デカい。だけどさ、今ンなって思うんだ。あの大戦の後、世界がガラリと変わったのは、お前が忍の闇を全部背負って……一族を失って復讐に駆られて里と忍世界に恨みを持って、全てを捧げたお前の生き様があってこそだったのかもなって」

 ナルトはこれからどう事が動くか、またあの頃のように新たな世を開くことができるだろうかなどと時々思案することがあった。なぜ自分があれ程のことを成し遂げることができたのか。それを支えたものは何であったのか。

「そんな事を考えていたのか。マダラにオビト、それから長門。忍の闇を世に知らしめたのはオレだけではない。……何があっても、例え再び一族を失おうとも、今回はお前と道を違えたりしない。それがオレにとっての『二回目』の意義だ」

 けして、ナルトと一族とを天秤にかけているわけではない。ただ、同じような事が起きようとも、今はもう一人で背負う必要がないということ。あの頃とは違い、視野は開けて数多の選択肢が見えてくるだろう。見えずとも、見出さねばならない。

「ははっ、またお前が牙剥いてきたらヤベーから冗談抜きで安心した。そんなことねぇってことわかってっけどさ。……せっかくの『二回目』だ。やれることは全部やってやる。後んなって後悔しねぇようにな」

「後悔しないように、か」

「やれるってばよ。オレたちの、革命だ。オレはオレの忍道を信じる」

「ああ、できるだろう。お前の言葉は……存在は、人の心を動かす。このオレがそうだったように」

「……相変わらずおまえはオレを買い被りすぎだってばよ」

「その言葉、そっくりそのままお前に返してやる。……世界がガラリと変わったのは、お前がかなりのウスラトンカチだったからだ」

 二人はくつくつとひとしきり笑い合うと、互いに背中を向けて丸くなった。

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