だから付き合ってないってばよ   作:冬乃菊

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推量れぬ力

 空を舞う鳥の声。その意味は中忍以上の忍であれば理解できる。里の召集命令だ。

 カカシは火影の執務室へと向かった。そこには下忍を部下に持つ上忍師とアカデミー関係職員の顔が揃ってる。

 火影と書いてある机には火影の笠を被った自来也がおり、その左右には大蛇丸とヒルゼンの姿があった。部屋の空気はピンと張り詰めている。

「これより一週間後、七の月一日をもって中忍選抜試験を始める。さて、まずは新人の下忍を担当している者から前に出ろのォ」

 カカシと紅、アスマが一歩前へと歩み出る。二人がが迷いのない目をしているのとは反対に、カカシはどこか浮かない顔をしている。

「推したい下忍はおるか?……うむ。では、アスマから」

「アスマ第十班。山中いの、奈良シカマル、秋道チョウジ、以上三名。猿飛アスマの名をもって、中忍選抜試験に推薦します」

「紅第八班。犬塚キバ、油目シノ、春野サクラ、以上三名。夕日紅の名をもって左に同じ」

「カカシ第零班。……失礼ながら五代目様、この件についてご相談願えますか」

 張り詰めていた空気が変わった。零班というと戦時中でなく平時であるにも関わらず、既に数々の逸話を残していることから新人の中でも新鋭揃いという専らの噂だ。それだけに言葉を濁したカカシが、その場にいた者たちの目には奇異に写った。

「うむ。……カカシはこの後ここに残れ」

 

 推薦者の名前が全て上がると、召集された者たちはカカシを残し解散した。気配が消えたことを確認すると、カカシは口を開いた。

「正直なところ、ヒナタは別として……ナルトとサスケの実力は計れていません。上忍師として情けない話ですが……」

 自来也と大蛇丸は顔を見合わせた。

「この私にも分からないんだから、あなたに分かるはずがないでしょう」

「ワシどころかこやつまで里に戻してしまう程だからのォ」

 二人のそのやり取りをみてヒルゼンは笑みを浮かべる。

「これまで、ナルトに封印されているものや、出生に関する情報はナルトを守るために極秘としていたが、自来也の話によると……その力を完全に制御できているとか。にわかに信じ難い話ではあるがそれが本当なら、今回の中忍選抜試験、ワシは楽しみにしておるぞ。カカシ」

「サスケくんも中忍選抜試験となれば、うちはの名を背負って出てくるはず。一体何を見せてくれるのかしら」

 上忍師として部下の力を見極めることは当然のことだとカカシは考えていた。だが、ナルトとサスケに限っては里の上層部も規格外として認識しておりそういったことをカカシに求めているわけではないことを知る。

「……では、カカシ率いる第零班、うずまきナルト、うちはサスケ、日向ヒナタ、以上三名。中忍選抜試験に推薦します。……お三方ともナルトとサスケに注目されているようですが、日向ヒナタの成長もぜひ御覧下さい。オレの愛弟子ですから」

「うむ。あの二人とのスリーマンセルが成り立っているくらいだ。もちろん期待しとる。ホレ、志願書だ」

 カカシは三枚の志願書を受け取った。

 

 火影塔の外には、アスマと紅、そしてイルカの姿があった。カカシが出てくるなりイルカは声をかける。

「カカシさん!……その、推薦はどうしました?」

「イルカ先生。それにアスマ、紅……。何?みんなして、オレ待ち?」

「そりゃ気になるだろ。さっきまで他の奴らもここにいたんだけどな」

「その紙……。推薦を決めたのね」

「まあね。悩んだんだけどさ」

「……良かったです。俺はてっきり、すぐ三人とも推薦されると思っていたので……疑問でこうして待っていたくらいです。中忍試験、楽しみにしています。では俺はこれで」

 イルカは上忍たちを前に気を使い、すぐに立ち去った。

「はぁ……。あいつらに第零班とは関わるなって釘打っとかねえとな」

「優しいのね。相手の力量を見極める力も必要よ」

 

 翌日、カカシはナルトたちに志願書を渡した。

「お前らを中忍選抜試験に推薦しちゃったから。受ける者はサインして明日の午後四時までにアカデミーの三〇一に来ること。以上!」

 カカシは伝えたいことだけ伝えて姿を消した。

「ようやくオレも中忍か!今度はぜってー一発で通ってみせるってばよ」

「……ヒナタ、お前はどうする」

「わたしも受けるよ。どこまでやれるかは分からないけれど、自分の力を試してみたい」

 先日とは変わって、ヒナタの目は再び強い光を灯していた。

「よし。……明日、余裕をもって午後二時にアカデミーの近くの書店の前に集合だ」

 

 

 ナルトとサスケはヒナタと別れた後、ナルトのアパートへと向かった。部屋には盗聴を防ぐ結界の札が貼ってある。その他にも念には念を入れ、いくつかのセキュリティを備えていた。

「ナルト、中忍試験ではどうする」

「……そうだな。試験以外での戦闘は極力避ける。前はゲジマユとやりあったけどさ」

「わかった」

「試験では……ちょっと本気見せるのもアリかもな。ずっとセーブしてっから色々と鈍ってねーかな。周囲巻き込まない程度に全力でやる」

「……以前、奴らに目をつけられたらまずいと言っていたのはお前だ」

「あの頃より身長伸びたし、スタミナも増えたし……もういいだろ。なんとかなる」

 それはなんとかなるのか?とサスケは疑問に思ったが二人で手がけた結界は補強したし面倒なのでスルーすることにした。

「ああ。わかった。オレも全力でいく。……周囲を巻き込まない程度に」

「周囲を巻き込まないって……めちゃくちゃ難しくね?普通に会場吹っ飛ぶぞ」

「会場を吹っ飛ばしたら……負け、でどうだ」

「うへー。難しいってばよ。それって結局全力じゃねーし」

 二人が本当に全力を出そうものなら里の存亡に関わる。

「アカデミーの頃、結界の勉強をしていたことがあっただろう。何か使えそうなものはないのか」

「あー!!それ!それがあったってばよ!さすがサスケ!」

「会場のことは心配しなくていいんだな」

「……たぶん!」

 

 ナルトの煮え切らない返事に不安を覚えたサスケは、結界術の資料、もしくは他に役に立ちそうな書物があればと里の図書館を訪れた。

 書棚を見ながら歩いていると、次の棚を曲がったところで見つけてしまった。

(サクラ……)

 思わず隠れてしまったが、サクラもサスケのことに気づいていたようですぐにサスケを追いかける。

「どうして隠れるのよ……サスケくん」

「いや……」

「ふーん」

「何か、探しているのか?」

「中忍試験に関わる資料があればと思って来たんだけど、……あるわけないわよね〜」

 しっかり者のサクラのことだから、調べられることは調べ尽くしておきたいのだろう。それに両親が忍でないことから得られる情報も限られている。

「少しでも構わないのなら、心当たりがある」

 書籍の棚ではなく里の週報を保管している棚へと移動すると、サスケが説明せずともサクラは理解したようだった。毎年この時期の週報であれば、中忍試験に関する記事が一つ二つ程度は載っている。何も情報がないよりはマシだといえる程度のものでしかないが。

「なるほどね。……サスケくん、ありがとう」

「ああ。……中忍試験は他里の忍も参加する。木ノ葉のように生優しくない者もいる。気を抜くな」

「兄弟子としての忠告ってことね。わかったわ」

 サスケは僅かに笑む。サクラは兄弟子という言葉を殊の外気に入っているようだった。

 サスケが特別気にかける女性は母を除くと二人だけだ。同じ班の仲間であり親友の妻となり得るヒナタと、目の前にいるサクラ。今はまだお前は特別だと伝えることはできないが、時が来れば伝えたい。

 

 

 その日、里では中忍選抜試験が執り行われるという話でもちきりだった。サスケの家族の耳にも入っており、その日の夜の食卓でも話題となった。

「サスケ」

「何?」

「中忍選抜試験には出るのか?」

「ああ。明日、志願書を提出する」

「……中忍試験、ですか」

「再不斬さんも白さんも、サスケが本選まで残ったら皆で観に行きましょうね」

「白と再不斬は知らんだろうな。木ノ葉の中忍試験は砂、雨、草、滝で行う合同試験だ。砂が加わったのは今年からだがな。一次試験、二次試験、三次試験の予選と本選とで構成される。力が伴わない者は命を落とすこともある、下忍にとっては初めての関門だ」

 フガクは見事に要点のみ説明した。サスケは中忍選抜試験については経験済みであるが、もし何も知らない時にフガクがいたらこれほど心強いものはないだろう。

「命を落とす危険性としては二次試験が一番高い。心配ないとは思うが、気をつけろ。試験とはいえ、何者が掻い潜って紛れているか知れないからね」

「兄さん、わかっている」

 前回は大蛇丸が紛れ込んでいた。

「三次試験はそのような危険がねぇのか?」

「三次試験は予選も本選も、一対一の試合だ。その場には審判もいるため、重傷を負う可能性はあっても死亡することはそうそうないだろう」

「そうか。木ノ葉は緩いな。……良い意味でだ」

 ちなみにアカデミーの卒業試験が分身の術と聞いて、再不斬は同じ忍でも隠れ里が違うだけでこうも違うのかとも思った。

「サスケくん、頑張ってくださいね。君なら全く問題ないとは思いますが」

「ああ」

 サスケは夕食を頬張りながら、以前の中忍選抜試験のことを思い返していた。本選の最中に大蛇丸による木ノ葉崩しが起こり、そのまま試験は中断された。その後、我愛羅を倒したナルトを見て、劣等感を抱いたこともあった。

 今回は恐らく前回のような事件は起こらないとみる。大蛇丸が里に帰還したことにより、音隠れという隠れ里は現在存在しない。だが、予め知っていた危機を忌避したと同時に、予測できない出来事が起こらないという保証はない。

 

 

 志願書をもらったヒナタは、帰宅するとすぐにヒアシへと報告した。

「父様、カカシ先生から中忍選抜試験に推薦して頂きました。明日、志願書を提出します」

「うむ。……中忍選抜試験は任務ではない。だが、場合によってはより危険な状況となりうる。決して気を抜くでない」

「……胆に命じます」

 ヒナタの決意は固い。ヒアシは短期間で大きく成長した娘の姿を前に目を細めた。

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