ーーパリン
突如、教室の窓が割れ黒い影が飛び込んでくる。
イビキは慌てずガラスの破片を避けている。
「第二次試験試験官、みたらしアンコ!ついてらっしゃい!」
返事はない。
「……なによ、ノリが悪いわね。場所を変えるわ。そこで二次試験の説明をする」
二次試験の会場は、第四十四演習場。零班が演習で使用した場所だ。地形はおおよそ把握できている。
「ようこそ、死の森へ」
そこには大蛇丸の姿もあった。
「あーっ!なーんで大蛇丸がここにいるんだってばよ!」
「あら、今さらそんな分かりきったことを聞くの?」
サスケは押し黙った。
「わからねーから聞いてんだってばよ!」
大蛇丸は火影相談役だ。試験官としていたとしてもなんら不思議ではない。
「サスケくんの勇姿を近くで見たいからに決まっているじゃない」
大蛇丸の手には、POP体でサスケと書かれたキラキラした団扇があった。
「見過ごせない公私混同、職権濫用だってばよ!」
「聞き捨てならないわね。私はただサスケくんが見れたらそれでいいのよ」
その場にいる全員が何言ってんだと思った。
「……大蛇丸様、説明は」
アンコが恐る恐るそう言うと、大蛇丸は受験者一人一人の目を見た。
「私は火影相談役を預かる大蛇丸。もう一人の試験官よ。第二次試験はサバイバル演習。その説明をするわ。一度しか言わないし、質問も受け付けないからよく聞きなさい。……まず、この天と地の巻物を各班に渡す。他の班から奪うなりし、天地を揃えてこの演習場の中央に辿り着いたら合格。期限は五日間。手段に禁じ手はなし。シンプルでしょう?……。でもここは死の森。油断すると簡単に、死ぬわよ」
大蛇丸の殺気は幻術のように死さえ感じさせる。受験者の中には気が動転した者や泣き出す者が出た。
「説明は以上。試験を受ける者は、同意書にサインしなさーい」
アンコは受験者に同意書を配布した。同意書の概要は、この試験で重症を負っても死亡しても試験管理委員会は一切の責任を負わないという内容だ。中には試験を棄権する者も出た。
残ったチームは同意書を提出すると各々ゲートに案内された。一ヵ所から全てのチームがスタートすると、始めから戦闘が起こってしまうため、そうならないよう配慮されている。
ゲートが開くまでは作戦タイムだ。
「知ってる奴は避けたいってばよ。やりづらい」
「わたしもそう思う」
「さっさと巻物揃えて塔を目指すぞ」
ゲートが開くと三人の会話は無駄になった。ヒナタの白眼に捕らえられた他里のチームを一瞬で蹴散らし、幸運にも違う種類の巻物が手に入ったため零班は一番乗りで塔に辿り着いた。
「えーと……前はなんであんなに苦労したんだってばよ」
作戦なんてあってないようなものだった。以前の二次試験ではもっと色々イベントがあったはずだと、この呆気ない結果にナルトが頭を捻る。
「それは受験者の中に大蛇丸が紛れていたからだろう……」
思い返せば、それが二人を離別へと導いた転機だったのかもしれない。大蛇丸から呪印を受けたサスケは闇へと引きずり込まれた。
塔の中央のモニター監視室のスタッフは、前代未聞のスピードに目を疑った。零班が到着したのはゲートが開いてからわずか四十分程度。それはほぼゲートから塔までの移動時間だ。
「……こいつら、たしか、たまに話題になる規格外のエリートチームだろ?」
「すでに下忍レベルじゃないぞ……」
「彼らはカカシ率いる第零班よ。……サスケくんの応援、するまでもなかったわね」
大蛇丸は使う機会のなかったサスケ応援団扇を見つめ、ため息をついた。監視室のスタッフは規格外チームの上にその内の一人であるサスケが大蛇丸の寵児でもあるのか、となんとも言えない気持ちを抱いていた。
塔の入り口はいくつもある。ナルトはその内一番近くにある扉に手を伸ばした。そして正面の壁には、回りくどい文章で要するに天地の巻物を開くよう書いてある。ナルトとサスケはそれぞれ巻物を開いた。その中身は口寄せの術の術式が書かれており、その中央には大きく「人」と書かれている。その意味を知っている二人は静かにその巻物を広げたまま床に置いた。
ーーポンッ!
口寄せの術式から現れたのは、うみのイルカ。
「二次試験、合格おめでとう!」
三人の顔を見るなり、イルカはそう言った。合格という言葉を聞き、ヒナタの表情がぱっと明るくなる。
イルカから見た三人は本当に死の森を通ってきたのかと思う程に小綺麗だ。
「イルカ先生、ありがとうってばよ!今度一楽のラーメンおごってー!」
「……はは、中忍試験に合格したらな!」
イルカはいつものナルトの様子に胸を撫で下ろした。つい最近まで自分の生徒だった三人が遠くに行ってしまうような気がしていた。
「よっし!約束だってばよ」
「それにしてもこのゴールは早すぎるぞ」
「運が良かった。ただそれだけだ」
サスケはイルカの顔を見ずにそう言った。
「運を掴むのも実力だな。それだけじゃないだろうが……」
上忍として彼らを見守ってきた立場でないイルカでさえも、彼らの底知れない力には気づいている。自然と噂が耳に入ってくるのだ。
それから三人は与えられた部屋で残りの試験時間を過ごすこととなった。元々ここは合宿場でもあったのかもしれない。塔の上部は二人部屋がいくつもあった。部屋には簡素な寝具と二段ベッドが置いてあるだけだ。ナルトは二段ベッドの上部の端に腰掛け足をぶらぶらさせていた。
「こんなことならもう少し死の森にいればよかったってばよ……。つまんねー」
「……何かに巻き込まれるよりはいい」
「あんま目立ちたくねーからな……」
「……」
即ゴールした時点で零班は目立っている。ナルトは何も考えていなかったらしく、サスケはあえて何も言わなかった。
ーーコンコンコン
姿は見えずとも気配でわかる。サスケは渋々腰を上げた。
「何だ」
「二次試験突破おめでとう、サスケ君。これは私からの餞別よ。受け取ってちょうだい」
「これは……」
「草薙ノ剣」
長年その身に携えてきた大蛇丸の愛刀だ。かつてサスケも譲り受け長年共に戦った思い入れのある品だ。
「貴重な物のはずだが、いいのか……?」
「フフ。今回の試験、あなたたちが最短記録を更新したのよ。これは私の期待の証よ。渡しておくわ」
「……有り難く使わせて貰う」
「私を里に帰したのはサスケくん、あなたよ。忘れないでちょうだい」
大蛇丸が木ノ葉隠れの里に戻った理由は、カカシの説得があったからと密やかに囁かれている。もちろん噂の元はあの時受付をしていたゲンマの口だ。当時はサスケもナルトもアカデミーに入ったばかりで、常識的に考えると天才と名を馳せていたカカシが関与していると考えるのが妥当だ。
「……変な感じだな」
大蛇丸が去ったのを確認すると、ナルトは二段ベッドから飛び降り下のベッドの上に腰かけた。
「ああ」
以前の大蛇丸のような取って食うような雰囲気はなく、とても穏やかに見えた。裏はないだろうが二人にとってこれ程不気味なものはない。
「あと四日か……」
今日は休むとして、明日から四日ここでどう過ごすかは悩み所だ。
「あの試合会場は使えるんじゃないか?」
確かに部屋は与えられたが、行動に制限はされていない。また、四日間もの間動かなければ体も鈍るだろう。
「明日ヒナタも誘っていってみっか」
翌日、食堂で朝食を食べていると我愛羅の班と鉢合わせした。そして何故だか六人で一つのテーブルを囲む状況となった。
「お前らが一番だったってな。俺らが一番だと思ったじゃん」
「お、おう!たまたま運が良かったんだってばよ。そういや我愛羅、久しぶりだな。こんな所で再会するなんてな」
「……覚えていたか」
「友達っつったろ?忘れるわけねーよ」
ナルトは隣に座る我愛羅の背中を笑いながらバシバシと叩いている。我愛羅を守る砂は動かない。テマリとカンクロウは唖然としてその光景を見ていた。そもそも砂隠れの里に友人などいないのに他里には友人がいるとはおかしな話だ。
試合開場で予選が始まるまでの間修行をしようかとも考えていたが、当然ながら他の試験通過者の目もある。零班は予選が開催されるまで与えられた部屋で自主トレおよび休息にあてる他なかった。
大蛇丸、優しいじゃん。