試験官の指示に従い向かったのは三次試験の会場。
二階の観覧席には各々の班の担当上忍の姿もあり、受験者たちは久々に見る担当上忍に向かって手を振ったりと、二次試験を通過したという安堵が行動に現れている。
会場内の正面の壁には大きな電子モニターがあり、中央には木ノ葉隠れの忍装束を身に纏った青年が立っていた。
「……ゴホッ、三次試験は、私、月光ハヤテが審判を務めます。残ったのは二十一名。三次試験ではランダムで選ばれた二名に一対一の試合を行ってもらいます。どちらかが戦闘不能となれば試合終了となり、勝者が本選への出場権利を得ることができます。それから、対戦者の抽選の前に一つだけ……。この予選の公平さを保つため、二次試験を最初に通過した木ノ葉隠れの里・第零班に本選出場のシード権を与えます」
ナルトとサスケとヒナタは互いに顔を見合わせる。
畏怖や好奇の入り交じった視線が三人を突き刺した。
すると、受験者の一人が声を上げる。
「ちょっと待てよ!!その方が不公平じゃねーか!!」
周囲からは確かに正論だという声も挙がり、試験官の発言に視線が集まる。
「……ゴホッ、第零班は二次試験開始後、わずか四十分で塔へと辿り着きました。それも無傷で。ゴホゴホッ。……彼らと初戦で戦いたいですか?」
二次試験の通過者は一日目に第零班と我愛羅の班が通過しただけで、それ以降の通過者は試験開始から三日目以降にしか現れなかった。ここにいる受験者にはそれがどれ程のことなのか、すぐに理解できた。
第零班があり得ない早さで通過していることを知っていたテマリやカンクロウは、予選で彼らと当たらないと知り密かに胸を撫で下ろしていた。
「なお、予選通過者には零班のデータを提供します。持ち出しは不可ですから、全員で観ていただくこととなります」
ここには個人情報保護などという概念はなく、パーソナルデータを晒されるのかとナルトとサスケは身の危険を感じた。だが、予選に参加しない以上、戦法に関する情報が得られない等と他の予選通過者に不利益が被ることは理解できる。
「異議はないようですね。……それでは早速、一試合目の抽選を行います。上のモニターに名前が出た者はここに残り、その他の受験者は二階へと移動をお願いします」
一試合目はサクラといの。色恋云々に関する聞くに耐えない舌戦が既に始まっている。
「色気づいちゃって、しかも失恋って笑っちゃうんですけどぉ」
「うっさいわね、いのブタ!何もしなかったアンタよりマシよ!修行つけてもらってるんだから!てか今は大事なお師匠様で恋愛感情ナシ!」
「フン、せいぜい先生の顔に泥を塗らないことね、デコデコちゃん!」
サクラといのはイタチ派だ。当時、複雑怪奇な感情と諸事情によりナルトにしか笑顔を向けなかったサスケと、生徒たち全員に分け隔てなく微笑むイタチとでは当然ともいえる結果であった。むしろ、塩対応でもくノ一人気の半分を獲得していたサスケの方が異常ともいえる。
三人は階段をかけ上がってカカシの元へ向かった。
「カカシ先生!!なーんでオレら勝手に本選出場することなってンの?てかオレたちのデータってなんだよ!」
「お疲れさん。って、疲れてなさそうだけど。……二次試験では、やってくれたみたいだな。オレもびっくりだよ。予選が試合観戦だけで終わるなんてな。……データの内容はオレも聞いてない」
カカシは疲れた顔をしていた。隣には顔の濃い男がカカシとは対照的に目を輝かせている。
「お前たちが死の森をたった四十分で抜けてきたのか!ウンウン、青春だな!!」
「ボクよりも年下なのにそのパワー!君たちは尊敬するに値します!どんな修行をしているんですか?!」
「カカシ、どんな修行をしてるんだ?!」
第零班は濃い顔の二人に迫られていた。二人の後ろにいるネジとテンテンが引き攣った顔をしている。だが、修行の内容については気になっているようだ。
「修行?ナルトとサスケはともかく、……ヒナタとなら基本的な体力をつける修行とか、チャクラコントロールを高める修行とか、性質変化の修行とか……まあ、こんな感じ」
抽象的で具体的な内容がない。
「お前……くノ一との修行しかしていないのか」
「ヒナタとなら」というカカシの台詞がガイとしては気になったらしい。
「え、何言って……あ、事実だけど、ヒナタが可哀想だからやめたげて」
カカシはガイのヘルメット頭をチョップした。
「ふふっ、先生方って仲が良いんですね」
ヒナタの声でその場が和む。日向一族は皆ネジのようなものだとなぜか思い込んでいたテンテンとリーは頭を殴られたような感覚がした。
「ははは!カカシはオレの永遠のライバルだ!」
ガイはカカシの肩に腕を回して親指を立ててキラリとポーズをとって見せた。一方、カカシはいそいそと懐からイチャイチャパラダイスを取り出し読む体勢に入っている。
(うっ……これ、絵的にキツイわ)
テンテンは心の中でそう思っていたが、いくらダサくても上司は上司ということで口には出さずに無言で項垂れた。
「……ヒナタ様、本戦出場、おめでとうございます」
「ネジ兄さん……ありがとうございます。予選、応援しています。本当なら私も予選に出ないといけないと思うんですけど……」
ネジは僅かに眉を寄せ大きくため息を吐く。その様子にヒナタはびくりと肩を震わせるが、返ってきたのは意外な言葉であった。
「……あなたは強い。そこの二人が規格外なだけであって、比較する必要はないでしょう」
あのプライドの塊であるネジがはっきりと「強い」と断言した。それだけでもガイ、リー、テンテンにとっては大事件である。
「規格外って……オレらの組手を見ただけで何がわかるんだってばよ」
ナルトはハハッと惚けてみせるが、ネジの表情は変わらない。
「わかるさ。ヒアシ様もお前たちを気にしておられる。そもそも一族の演習場に一族以外の者を入れること自体が今までにないことだ。……正直なところ、今のオレの実力では敵わないと分かってはいるが、もし本戦で相対することがあるなら、全力で挑む」
あの日から、ネジはそれまで以上に修行に励んでいた。
予選が終わり、本選開始までの準備期間として一ヶ月が与えられた。
「父様」
「ヒナタか、入りなさい」
落ち着いた声が返ってきたため、ヒナタは一呼吸置いて返事をした。
「……はい」
ヒアシは入ってきたヒナタの姿を見て目を見開く。一週間にわたる中忍選抜試験から戻ったばかりなのだから、さぞかし汚れているだろうと践んでいた。だが、その予想を裏切りヒナタは怪我一つなく、身につけている服にも汚れは殆ど見られない。
「見たところ、大事ないようだな」
「一ヶ月後、中忍選抜試験の本選へ進むこととなりました」
「そうか。……おめでとう」
「ネジ兄さんもです」
「うむ……。して、試験はどうであった」
「実は、……二次試験を一番に通過したので三次試験の予選は免除されました。でも、これはナルトくんやサスケくんのお陰です」
ヒナタはサスケやナルトと比べると明らかに力が劣っていることを自覚している。二次試験でもヒナタは自分なりに動いたが、やはり二人と比較すると情けなく感じてしまう。二次試験を通過し、三次試験の本選出場まで決めたにも関わらず、ヒナタの表情は冴えなかった。その理由がそこにあることはヒナタの父であるヒアシであれば手に取るように分かる。
「その『お陰様』、という言葉は大切にしなさい」
「……はい」
「分からぬか。お陰様で、お互い様、という言葉は他者を認める言葉だ。宗家の嫡子としてヒナタ、お前に必要な言葉だと私は考える。その心、忘れるでない」
ヒアシ自身、それはつい最近まで忘れていた感覚だった。というのも日向宗家当主という重責と立場は、そういう身近な大切なものを忘れさせる。そして、そういった感覚を思い出すことができたのは、ヒナタのアカデミーでの話を聞いたりナルトやサスケと一緒にいる姿を見ていたからだった。どんなに高い地位に居たとしても、人は一人では生きれない。そして一族においても。日向という一族はその一族の中で終始するものでもない。
子ども達にとって一族の括りなどあってないようなもの。大人の作った括りや建前など容易く飛び越えていった。
「父様……」
「ヒナタ、お前は誰よりも心根が優しく強い子だ」
劣等感という気持ちが如何に厄介なものか知っているが、ヒナタはそれを物ともせずに直向きに努力している。
ヒアシは厳格な父親で、叱咤激励することはあっても、褒めることはあまない。ヒナタは思いがけない言葉に目を丸くしたが、すぐにはにかみ微笑んだ。
「父様や……零班の皆のお陰です」
「本選となると今までのようにはいかないだろう。励みなさい」
「はい」
その頃、サスケも家に帰ると家族に本選出場が決まったことを報告していた。
「くれぐれも目立つマネはしないでくれ」
浮き足立っている両親とイタチを見ていると妙な不安に駈られる。
「サスケ、これは良いでしょ?母さん、可愛いと思うんだけど……」
ミコトの手には見覚えのあるブツがあった。
「……」
「これ?ふふっ、大蛇丸さんと一緒に作ったのよ。一緒にサスケを応援しましょうの会で。会員は大蛇丸さんと、イタチと私よ」
イタチもサッときらびやかな団扇を取り出した。
「……」
初めは大蛇丸のことを警戒していたミコトも、今や大蛇丸とは放っておいたら井戸端会議を始めるような仲となっていた。イタチに至っては、サスケ愛という共通点において意気投合してしまっている。
サスケの精神年齢は高くとも、身体は思春期の少年だ。精神年齢はある程度外見に伴ってくるため、いくら家族という存在を大切に思うサスケでも構われ過ぎるのは苦痛でしかない。
大蛇丸という名が出て、親には報告が必要かとサスケは右腕に封じている刀を出す。
「大蛇丸から……草薙の刀を譲り受けた。……銘刀だ」
「まあ……良かったのかしら。本当に、サスケにだけは惜しみのない方ね」
その頃ナルトは、一人で自分のアパートにいた。一人の空間にはもう慣れており、帰ってすぐに放置していた観葉植物に水やりをする。
ーーコンコン
振り返ると、窓の外には針金のような白髪頭のあの男がいた。
「エロ仙人」
ナルトはじょうろを置いて、窓の鍵を開けた。
「ナルト、本選出場おめでとう」
「ありがとうってばよ。……ってか来るなら玄関から来ればいいのに」
「いや、もし他に誰かいれば声をかけずに帰るつもりでのぉ……」
「のぞきかよ!」
「ガキの私生活をのぞく趣味は断じてない」
自来也は腐った牛乳を飲んだような表情をした。
「で、火影がこんな所に来てもいいのか?」
「可愛くないガキだのぉ……。直接祝いの言葉をかけたくてだな……」
「そんなん中忍になったらでいいってばよ。でも、ありがとうな」
「一応、短くてもワシはおまえの師でもあるからのぉ。……なんだ、嫌か」
「……そんな風に思ってくれてたんだな」
自来也とは、アカデミーの頃の最初の夏休みに形ばかりの修行をし、里に帰ってからは数年同居していたこともある。だが、正式に師弟関係を結んだわけではなかった。
「ふん。……お前にはもう一つ用があってな。コイツを探して里に連れて来てほしい。この一ヶ月は暇だろう」
自来也はとある人物の写った写真をナルトに見せた。
ナルトの力を知っているとはいえ、いくらなんでも本選前の準備期間に頼むことではない。だがその写真の人物は今後の里になくてはならない存在だと、ナルトにもわかった。
「いいけどさ、急になんで?何かあんの?」
「ううむ……大蛇丸のヤツが急に共同研究などと言い出してのォ」
「ふーん。他に手がかりとかねーの?」
「短冊街にいることはわかっとる」
「よし。探してみるってばよ」
「それでこそワシの弟子!この書簡も一緒に渡してくれ。この件はイタチにも伝えとる。サスケも誘って観光がてら行ってくるといい。頼んだぞ、ナルト」
自来也はそれだけ伝えると姿を消した。そこでどうしてサスケとイタチの名が出てくるのかと思ったが、自来也と大蛇丸を里に連れ帰った時のことを思い出した。そういうことなのだろう。
ナルトは再びその写真に目を落とす。それは一人の若い女性の写真。彼女こそ、自来也や大蛇丸と並び称される伝説の三忍の紅一点、千手綱手だ。特殊な術でいつも若い女性の姿をしている医療忍者であり、現在主流となっているスリーマンセルに医療忍者を組み込むスタイルを考案したくノ一だ。そして彼女は、初代火影・千手柱間の孫娘でもある。
次回、ナルコちゃんが頑張ります。
綱手捜索改稿中です。ナルコを出すのは決定事項ですが、執筆中(妄想中)にサァコ(サスケ)も現れました。このまま進めますか?
-
ナルコだけでいい
-
サァコも見てみたい
-
サスコだろ