ナルコとサスコ
綱手捜索のメンバーは、当初予定していた人数に一名の増員が加わった。それは戦力不足が理由ではなく、当人からの志願によるものだった。
シスイは、綱手のいるという短冊街へと向かうナルト、サスケ、イタチの横に肩を並べ、木々の間を駆け抜ける。
「そんな面白そうな任務に、ついて行かない手はないよな。前回はお声が掛からなかったのが残念でね」
シスイは屈託のない笑みを浮かべ、心からそう思っている様子だった。
「本当に来るとはな」
イタチが数日里を離れることを伝えると、根掘り葉掘り聞かれた末の結果だ。
「五代目様からの許可も得ている。むしろ喜ばれたくらいさ」
自来也はイタチに加えシスイも同行できるとは、念のためのナルトの護衛も万全だと二つ返事でシスイを見送った。
「万華鏡うちは三人とオレって、どーいうフォーマンセルだってばよ」
うちは一族が九尾を操るなどと息巻いていたダンゾウの権力が強かった頃なら、この布陣は到底あり得なかっただろう。
「それを言うなら自来也と大蛇丸の時も異常だった。……二人のガキのお守りをする暗部のツーマンセル」
「そういやあん時のカカシ先生とイタチって……暗部か。……なんか忍って感じでかっけーよな」
「……お前には絶対に向かない部署だ」
「すっげーわかるけど悔しいってばよ」
ナルトはムムムと顔を顰めているところを見て、イタチとシスイは顔を見合わせくすりと笑った。ナルトとサスケが語らずとも、二人の様子を見ているだけでなんとなくわかる。二人の立場は対等でありながら、サスケはやや従属的に見えることもあった。
短冊街は街道の宿場町として栄える繁華街だ。宿屋、賭博場、色町が軒を連ね、非日常を求めて遠方から訪れる者も多い。そのため、里の任務服さえ着ていなければ、怪しまれることはほとんどない。
大通りを歩いていると、突然イタチが足を止めた。その視線の先には女性客が出入りする喫茶店がある。
「んだよ。美人でもいんの?」
「いや、アレだよ」
シスイは店の入り口の横に立てかけてある看板を指差す。
「けーき」という文字と、苺のショートケーキのイラストが描かれていた。
あのイタチが。暁でのスパイ活動をやり遂げ、サスケを騙し切ったあの男の中の男であるイタチが、まさかケーキが食べたいだなんて言うはずがない。
「ハハッ、んなわけねーだろ。な?……って、え」
そう言いながらナルトはイタチの顔見上げると一瞬思考が止まった。
確かにイタチは看板をじっと見つめている。
(あれは……絶対に美味しいものだ。……俺の勘がそう言っている)
この頃の「けーき」は木ノ葉隠れの里ではまだ珍しい代物だった。つまりイタチにとって、それは初めて出会う甘味なのだろう。
「兄さんは団子好きの甘党だ」
「……マジかよ」
店先で挙動不審になっているイタチの姿は人目につきやすい。シスイはさりげなく路地裏へと誘導した。
「で、どうするんだ」
「オレはいい。行くなら三人で行ってくれ。いくら兄さんの頼みでも、あんな女ばかりの場所は……」
サスケは女性客が多い場所に行くのを渋った。イタチは物憂げな目で弟を見つめる。
ナルトはすぐに理解した。ナルトがラーメンを好むようにイタチも甘いものを好み、ナルトがサスケとラーメンを食べたいと思うように、イタチもサスケと「けーき」を食べたいのだろう。
「……よっし、こうなったらオレが一肌脱いでやるってばよ」
ーーボフン
空色の大きな瞳に、快活さを思わせる小麦色の肌と二つに結った長い金色の髪。女性らしいふくよかな胸元に、なだらかな曲線が見事な腰。オレンジ色の短いスカートから覗くすらりとした健康的な脚。十五歳くらいの美少女ナルコがそこにいた。
「女性客はオレが牽制すっから、さっきの店で作戦会議な。サスケ」
ここで逃せば、イタチが「けーき」を食すことのできる次の機会はいつ訪れるかわからない。ナルトなりの思いやりだ。ちなみにこの任務は非公式であり火影のおつかいレベル。作戦会議とはいっても殺伐としたものではない。
「どうしてそうなる」
「なんならいっそお前もサスコでいいじゃん」
サスケは暫し思案の後に、印を結ぶ。
ーーボフン
「……兄さんのためと思えば致し方ない。それに、お前の世話になるのも癪だ」
サスケよりもいくらか柔らかい印象の涼し気な目元に、慎ましい胸元まで長く伸びたサラリと艶やかな濡羽色の髪。ナルコとは対照的な色彩のない装いにパンツスタイルで派手さはないが、絶対的美少女感は否めない、その名はサスコ。
「サスコ、座る時は足閉じろよ」
「わかっている」
イタチは放心しており、シスイは笑いを堪えるのに必死だ。
店内の内装は落ち着いた雰囲気の中に、女性客を意識した可愛らしい小物が散りばめられていた。カウンターには色とりどりの茶葉の入ったガラス瓶が並び、奥の棚には繊細な茶器が並んでいる。本来なら男性には敷居の高い店だが、ナルコとサスコを含めた四人で入ったことで少しはましになったようだ。
周囲の女性客からチラチラと視線が刺さるが、サスコが風遁で音の伝播を遮断した。
「……お前のチャクラ感知で探せばすぐだろう」
「確かに見つけるのは簡単だ。でもさ、突然迎えにきました、さあ里に帰ろうかってはなんねぇだろ。エロ仙人と大蛇丸ん時みたいにハーレムの術とサスケ図鑑の術なんかでは口説き落とせねーのは勿論、逆ハーレムの術でもまずムリだ」
「……つまり、里に帰るための十分な動機が足りない、ということか」
サスコは眉を寄せながらも、ナルコの言葉に耳を傾けた。外見は可憐な少女だが、中身は三十路の男。場数を踏んだ判断力は確かだ。
「そーいうこと。……綱手のばーちゃんは先の大戦で自分の恋人と弟を亡くして、忍を辞めたんだ。この書簡に何が書いてあるかしんねーけど、チャンスは一度きりと思っていい。それで話がつかねーと、次は難しい。ハードル上がんぞ」
十五歳の少女の姿で話す内容が完全に火影経験者のそれで、本気で里を背負ってきた男なのだと、シスイは改めて実感する。
「交渉事の経験があるんだな」
「まーな。色々あるんだってばよ。外堀を埋める根回しも必要だ」
「お待たせしました〜」
ナルコとサスコと同じ年頃の若い女性店員が笑顔で注文の品を運んでくる。白いテーブルクロスの上にスコーンやサンドイッチ、デザートが綺麗に盛り付けられている三段スタンドと苺のショートケーキ、紅茶が並んでいく。
イタチは表情こそほとんど変わらないが、瞳の奥に甘いものへの期待が静かに灯っていた。
「……食べないのか?」
シスイは念願の「けーき」を前に微動だにしないイタチを訝しむ。最も楽しみにしていたであろうイタチが手をつけないため、シスイもナルコもケーキに手を付けられずにいた。サスコはそんな三人をよそに、三段スタンドの下段にあるトマトの入ったサンドイッチを手に取る。
「この苺は、最初に食べるべきか、最後に残すべきか……考えていた」
シスイは苦笑し、イタチの皿に苺を移した。
「……いいのか」
「メインは下のケーキだろ」
シスイは生クリームとスライスされたイチゴと生クリームが二層に重なっているスポンジケーキをフォークで突つく。
「ケーキとか久々だからかうめ……美味しい、ってばよ。……サスコってばホントにいらねえの?一口やろうか?」
「いい」
サスコはトマトサンドを頬張りながら素っ気なく答えたが、ナルコは構わず口元にフォークを近づける。サスコは慌てて両手でガードし、反射的に持ち上がりそうになった脚を慌てて下ろす。店内で蹴り倒すわけにもいかず四苦八苦している。
シスイが引きつった笑みを浮かべた。
「……ようやくわかった。お前たちが同期からあらぬ誤解を受ける原因は、これか」
かなり的を射ているのだが、ナルコには響かない。
「十五の女子同士ならこれくらいフツーだって。変化の術において大切なことは三つ。一つ目は、恥を捨てろ。二つ目は、その者の人生を生きろ。三つ目は、えーと、……そういうことだってばよ」
「……二つだったな」
変化の術は影分身の術に並ぶナルコの十八番であり忍としての哲学があるようだと、シスイはこれ以上何も言うまいと言葉を腹に収めた。
「それで……これからどうする」
イタチは苺のショートケーキを平らげ、三段重ねの皿の中断のスコーンに手をつけようとしていた。三つの小さな白い陶器の器にはブルーベリージャムと蜂蜜とクリームチーズが入っている。
「まずは情報収集。同時に資金を集める。シスイは二十歳だっけ?」
「そうだね」
「ならオレとシスイがペアな。資金集めはオレがやる。それと賭博場関連と繁華街の情報収集を担当する。サスコとイタチはそれ以外のエリアの情報収集を頼む」
「待て。オレはこの後もこのままなのか」
「んだよサスコ。対象者が異性ならより情報が得られやすいってのは忍としての基本だってばよ。諜報活動は男女ペアってのも定石だろ」
サスコは忍としての基本だとか定石とかいう言葉に弱く、グッと押し黙る。
サスコはため息をつきながらも、内心では納得していた。三十路の自分がここまで本気でこの茶番のような状況に付き合っているのも、単に兄さんのためだと思えば致し方ない。甘味を平らげたイタチは、珍しく満足げな表情をしているように見えた。
アンケートありがとうございます。発語しづらいけど表記はサスコにしました。
最新話に関するアンケート。助けろください。。短冊街で起こる事件は?…書けるかどうかはわかりませんが。参考までにアンケートです。
-
違法薬物系
-
女子誘拐事件
-
トビこんにちわ事件
-
通り魔事件