綱手は三度の飯より博打を好む。そしてナルトにとっては勝手知ったる短冊街。かつて自来也と共に歩いた修行の旅の記憶を辿り、シスイと共に短冊街の賭博場を訊ね歩いた。
綱手の名は決まって笑い話の中に出てくる。この町では以前と変わらず「伝説のカモ」と呼ばれているらしい。
五階建ての建物の三階にある賭博場。まだあどけなさの残る少女と品の良い好青年に対し、そこに屯していた男たちは初めこそ怪訝な視線を寄越していたが、お構いなしに写真を持って聞き込みに挑むナルコの姿は男たちの目にはどうも健気に映ったようだった。
「もしかしなくても……ナルコちゃん、あの伝説のカモの子か?」
一人の男がそう独りごちると、周囲の男どもが騒つく。
「と、なると……出てった母ちゃん探してんのか」
「泣かせるねぇ!」
賭博場にいた者たちは勝手に話を作って盛り上がっている。
「ナハハ……すっげー会いたいんだってばよ」
ナルコは綱手に似ているとは言えないが、少女が妙齢の女性を探し歩く理由というとそういったものになるのだろう。わざわざ訂正して本当の理由を聞かれるのも面倒だと、ナルコは調子を合わせてあえて訂正せずに放っておくことにした。
その賭博場を後にしようとすると、カウンターに座っていた受付婆さんが思い出したかのように言った。
「最近、子ども……それも女の子がいなくなるっていう危ない噂もある。気をつけな。兄ちゃん、彼氏ならしっかり守ってやんなさいよ」
あえてそう見えるように組む男女ペアだが、はっきり言葉にされるとなんとも具合が悪い。しかし任務は任務と割り切るのが忍というものだ。
「ご忠告ありがとうございます。彼女は俺が守りますから、ご心配なく」
シスイはにっこりと笑ってそう言った。
「ダイジョーブだって!オレってば強いから」
ナルコは本気で言ったのだが、まさかこの根から明るい少女が強いなどとは想像もつかない。男たちはナルコちゃんは可愛いな〜、元気だな〜、などと、なぜか場の空気が和んだ。
しかし、受付け婆さんが言っている事が本当ならば有事ではないか。
「……ってか、そんな物騒な事件なら隠れ里に任務依頼しらたいいじゃん。何やってんだよこの街の上のモンは」
ナルコの吐く毒に、周囲の者たちは確かにそうだが、と顔を見合わせていた。そんな中、三十代半ばのガタイのいい男が声をあげる。
「そもそも隠れ里に依頼をかける立場の街長が……ここだけの話、とんでもないヤツなんだ。街のモンの暮らしだとか治安だとか関係ないって顔をしている」
男の表情に影が落ちる。本気で街のことを心配しているのだろう。このような場所にそうした志を持つ者がいるのかと、ナルコは先入観を持っていたことに気づく。
「ソイツは厄介だな……。なら街の奉行所は?そっからも至急の任務依頼ができるだろ」
男の表情が更に暗くなった。
「……そこも駄目だ。所長が腑抜けでな」
「おい、ヨリアキ!それは言い過ぎだ」
「なに、本当のことだ」
それから、時にはギャンブルに巻き込まれつつも持ち前の強運に助けられ、ナルコの干からびた蛙のような蝦蟇口財布はみるみるうちにはち切れんばかりに丸々と肥えてしまった。スロットも絵柄が揃うのは当たり前で、かなりの確率でレアな絵柄が揃うこともありコインの雪崩が止まらない。スタッフや客の視線が痛くて長居はできず、複数の店舗を梯子した。とんでもないデートコースだ。
「これが資金集めか。……必要な理由も、大体わかった」
シスイは苦笑を浮かべる。
「すっげーよな。綱手のばあちゃん。賭博場にツケつけまくりでさ」
行く先々の賭博場ではツケが管理されている帳簿を見せてもらっており、それらを合計すると膨大な金額となる。ナルコの収入を考えると赤字もいいところだ。
「五代目様に頼めば立て替えを検討してくれそうだけれど」
「わざわざ里の金を短冊街に落とす必要はねーよ。それに、泡銭は早く使えって言うだろ。この金も、ツケに充てればこの町で金がグルグル回ってるだけだってばよ」
「ははっ、金銭に関しても達観しているんだな」
「まーな。オレってば意外と商売も向いてるっぽいし、忍じゃなくてもやってけっかも」
ナルコは悪戯っぽく笑った。
ナルコにそういう「センス」があるとわかったのは、火影になってからだった。会議でなんとなくこうしたらいいんじゃね?という意見を言うと、それを裏付けする様々な情報が出揃って最終的にはそれが最善だろうというものになる。将来的に争いごとが減ることを見越し、忍としての生業だけではなく里を上げて産業を始めたのはこの男だ。隠れ里独自の科学力も国や諸外国に対する手札であり商品でもある。
その頃サスコとイタチは、事前情報を持たない今は初手からの鉢合わせを避けるべく、ナルコが綱手のチャクラを感知した場所から離れた通りを歩いていた。
「綱手様は医療忍術のエキスパート。それを生業にしておられるとみるのが妥当だろう。……サスコ、聞き込みは俺がする。兄が前に出た方が自然だ」
サスコの場合、いくら変化したとてイタチとの類似点の多さから恋人というよりも兄妹とするのが違和感がない。
「ああ」
そこは「わかった、お兄ちゃん」とかではないのかと、イタチは隣を歩くサスコを見下ろす。そして同時にああ、中身は三十路だったと思い直した。
サスコはナルコと別行動となった後も変化の術は解かず、言葉遣いは大きく足りないものがあるが努めて「フリ」をしている。
そもそもサスコがサスコのままでいることには理由がある。ナルコの主張に納得したことも理由の一つであるが、変化の術により輪廻眼もカバーされるため眼帯を付ける必要がなく、視界が良好であることからサスコの機嫌は上々だった。
「サスコは……真面目だな」
サスコは急にどうしたとイタチの顔を見上げた。
イタチの脳内にあるサスケエピソードファイルに、サスコエピソードが新たに追加された。
薬屋、診療所などの周囲を中心に聞き込みした結果、短冊街には綱手の他にもう一人、名のある女医がいることがわかった。
「女医同士の繋がりがある可能性も考えられる」
調べる対象の裾野は広い方がいい。必要のないと判断した事柄さえ、後になっては関連があったとわかることもある。
聞き込みに応じた初老の女性が、親切にも診療所とその住所の書いてあるチラシと飴ちゃんをサスコに手渡してくれた。チラシには「オウギ診療所」と書いてある。
「お嬢ちゃん、気をしっかりもちなさいね」
「……はい」
イタチの後ろに立っていただけなのだが、家に重病人がおり兄妹で治すことのできる医師を探しているのだと思われてしまうらしい。サスコは薄幸の美少女といったところだろうか。まったく見当違いもいいところである。
諜報活動においては宿選びも重要だ。
忍であれば逸れ者でも泊まることができるような隠れ家的な場所の方が良いのではと考えがちであるが、今の四人は「ただの若い男女」である。と考えると、格が低すぎても高すぎても良くない。中の上程度の宿で男女に分かれて二人部屋を二つとるのが最も怪しまれ難いだろう。受付の女性の対応もスムーズだった。
四人はナルコとサスコの部屋で、持ち込んだ弁当を食べながら情報を突き合わせ始める。この部屋の中では変化の術を維持する必要はなく、二人は解術し元の姿に戻っていた。
「今回、ナルトの話術が凄すぎて俺の出る幕はなかったな」
「そうか?賭博場とかこの年齢だと行けねーし、助かったってばよ。スロットの換金とかもな。それに、シスイがいなかったらオヤジたちの絡みはたぶんもっとウザかった」
「それはよかった」
「んで、こっちは綱手のばあちゃんが抱えてるツケの額がだいたい分かった。そっちはどうだ」
シスイは綱手のツケと聞き、金額を書き留めていた紙を出す。
その金額を見たサスケとイタチの表情は変わらないが、内心そんな綱手を里に呼び戻して大丈夫なのだろうかと一抹の不安が頭に過った。
「……綱手様はやはり女医としても有名らしい。ただし、大きな外傷は付き人が対応するとか」
「やっぱそうか……」
「知っていたのか?」
「綱手のばあちゃん、血がダメなんだ。たぶん戦争でのトラウマってやつ。それについてはどうにもなぁ」
トラウマについては自分で克服してもらうしかない。とりあえず綱手を一旦里に連れ帰るのが今回の目的だ。
「もう一つ気になる事がある。これは街でもらったものだが……」
サスケは宿に備え付けられているコップに水を注ぎ、あの初老の女性からもらった飴玉を入れる。毒見用に携帯している銀の針を差し入れると変色した。
「毒だな。……そもそもあんなチラシをたまたま持ち合わせているのもおかしいし、女医も患者も妙だった。今回は、兄さんもオレも一般人として振るまった。変に警戒されるようなことはしていない」
任務外で写輪眼を一般人に向けることはない。しかし、相手はただの一般人ではない可能性が浮上した。かといって、隠れ里が里外の事件に勝手に介入するわけにはいかないため、里に報告するような内容でもない。
四人は互いに顔を見合わせる。
「キナ臭いってーと、オレらのとこでもあったよな」
「女子誘拐事件。……もしかすると、何か関連があるかもしれないな」
「よっし、……オレはもう一仕事、情報収集に行ってくるってばよ」
ーーボフン
ナルトの周囲に、それぞれ年齢も系統も違う三人の美女が現れた。慣れているサスケの表情は変わらないが、シスイとイタチは目を見開く。
三人はパタパタと部屋の隅にある全身鏡の前に移動し、各々の姿を確認する。
「ふーん、私は可愛い系ね。りょ〜」
「私は……清楚系?」
「私は色気担当ってことね」
三人の美女はじゃーね。と部屋から出ていった。
「ナルト……おまえ、変化の術、というか演技力、極めているな……。それに持続時間も凄い」
「影分身の術の上、変化の術。それも別の人物に……。しかもその状態で諜報、か。……かなりの技術が必要なものだ」
「兄さん、シスイ……影分身の術と変化の術に関してはコイツの右に出るものはいない。……だが、無理はするな」
かつて、ナルトが面白半分、真剣半分で始めたドッキリお色気尋問。それぞれ系統の違う女性に変化し、自白剤入りの酒を対象者に勧め対象者の反応を見ながら好みの女性を絞り込み、巧みな話術で機密情報を聞き出した。その後実はナルトでしたとネタ明かしをすると、対象者は魂が抜けたように顔から生気がなくなった。そして、仕掛けた側のナルトも同じように精神的なダメージを受けていたことを今でも覚えている。どうでもいい男の性的嗜好など知りたくもないだろう。その頃のナルトはなんでもサスケの写輪眼に頼るわけには、と試行錯誤している時期でもあった。
「正直さ自分でも色んな意味でスゲーって思うけど、夜の短冊街には一番適してんだよな……」
ナルトは遠い目をしてそう言った。
それからすぐに項垂れ、一言。
「……マジかよ」
「どうした」
「オビトの奴と綱手のばあちゃんが接触した」
「すぐに向かうか」
「……あ、離れたってばよ。短冊街から出たっぽい」
「そうか」
「あー、油断した。なーんで今オビトが出てくるんだってばよ」
今すぐに戦闘とはならないが、オビトとはいずれ相見えることとなるだろう。
「……こちらは万華鏡三人だが」
「別天神、使おうか?」
どんな理由であれオビトは一族の汚点に他ならない。拘束・連行し、一族内で問い正すことが可能であればそうしたいのは当然だ。
「それは……綱手のばあちゃんに会って決める」
ナルトのドッキリお色気尋問は前からどっかで使いたかったネタです。
ただの興味です。オビトの光落ち、必要?
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ひつよう
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今はムリじゃね?
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最期に光落ちしたらそれでいい
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まかせる