だから付き合ってないってばよ   作:冬乃菊

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綱手の勧誘

 ナルコのチャクラ感知を頼りに、四人は綱手との接触を図った。日はすでに暮れており、闇夜は人目を避け移動するのに都合が良かった。

 ナルコが綱手のチャクラを捉えたのは、かつて修行の旅で自来也と立ち寄った酒場だった。綱手と初めて出会った場所でもあり、そこは変わらないんだなと物思いに耽る。

「……ついでに飯にすっか」

 酒場の屋根の上でナルコが気軽に言った瞬間、うちは三人の視線が痛いほど突き刺さった。

「ここは……さすがにこの四人だと厳しい。俺が通報されるかもしれないな」

 シスイが苦笑すると、ナルトは「ああそっか」と印を結んだ。

ーーボフン

「これで大丈夫だってばよ。オレが保護者な」

 堂々とした体躯と、穏やかながらも力強い眼差し。火影時代そのままの三十路のナルトはニカッと笑う。

「は?」

 サスコは何が悲しくて自分一人が女に変化していなくてはならないのか。しかもお前が保護者とはどういう状況だと、写輪眼を向ける。

ーーボフン

 鋭い目元とすらりと洗練された容姿。そこには三十路のサスケがいた。

 十五歳の少女が一瞬で三十路の男性になるという、落差の激しい光景にイタチとシスイは言葉を失った。

「シスイの言う問題は解決したが、俺は……二人の精神構造が本気で不可解でならない」

「まったく同意する。……大方、あまり気にしていないんだろうな」

 二人の口調は、少女の姿であろうと三十路の男性であろうと、まったく変わっていなかった。

 

 

 薄い金髪を後ろで二つに結んだ凛とした女性、千手綱手が、シズネと共にカウンター席に座っていた。

 四人が店に入ると、すぐに目が合った。ナルトは四代目ミナトを意識した爽やかな笑みを浮かべ、声をかけた。

「よぅネエちゃん、一緒に飲もうぜ」

 下手なナンパかよと、うちは三人の視線が背中に突き刺さる。

 綱手は一瞬目を丸くしたが、やがて小さく頷き、店の奥にある広いテーブル席へと移動した。

「支払いはオレが持つ。好きなもん頼めよ」

 ナルトの今日の稼ぎは大きい。サスケにメニュー表を渡すと、注文するものはすぐに決まったようでイタチに渡った。

「すんませーん」

 ナルトが厨房に向かってぷらぷらと手を振ると、店員が伝票を持ってやってきた。

「スライストマトとクリームチーズのカナッペ、おかかの握り飯。それと烏龍茶」

 サスケは一通り注文を終えるとイタチに視線を送った。

「昆布の握り飯と梅昆布茶。それから…… 白玉抹茶ぱふぇ」

「お客様……白玉抹茶パフェは食後でよろしいでしょうか」

「いえ、すぐにお願いします」

 テーブルに妙な沈黙が落ちた。ナルトは慌ててメニューを奪い取り、追加注文を重ねる。

「……唐揚げ、焼き鳥の串盛り、揚げ出し豆腐、だし巻き卵、それとオレンジジュース。シスイは?」

「あったかいお茶で」

 今日はなんだかもう色々とお腹いっぱいのシスイであった。

「綱手のばあちゃんとシズネの姉ちゃんは?」

「私はいい」

「私もです……ハハ」

 自分は名乗っていないような、とシズネは戸惑いつつ笑って誤魔化している。

「んじゃ、以上!」

 飲まねえかと誘っておきながら、四人とも健全にノンアルコールだ。

 何だこの客と思いながら店員は厨房へと戻った。

「……用件は何だ」

 ナルトはせめて飲み物が届いてからと考えていたが、綱手は気が立っているらしい。当然ではあるが額あてを取っていてもすでに木ノ葉隠れの忍であることはバレているのだろう。

 サスケが風遁で盗聴防止の術を印もなく発動するのを確認し、綱手はわずかに目を見開いた。うちはの三人を一瞥し、低く呟く。

「うちは、か……」

 里からの遣いは、年に一度あるかないかで、その役にうちは一族が充てられたのは初めてのことだ。九尾事件の後は特に里の中枢から疎外されていたのではなかったかと、綱手は記憶を遡っていた。

「ってか自己紹介がまだだったな。オレはうずまきナルト。こっちはサスケ、イタチ、シスイ」

「うちはシスイ。聞いた事があるな」

「恐れ入ります」

 ナルトは自来也からの書簡をテーブルの上に滑らせた。

「エロ仙人からだってばよ。読めばわかる」

 綱手が書簡を開くと、二通の文書が出てきた。筆跡の違う筆跡を見た綱手の表情が緩んだ瞬間をナルトは見逃さなかった。

 注文した飲み物や料理が次々にテーブルに並んでいく。

 一通は自来也からのもの。医療忍術の指導者として里に戻るよう促し、ナルトとサスケが出場する中忍試験の本戦を共に観戦しようという、どこか照れくさい誘い文句が添えられていた。

(コイツらが……下忍だと?)

 実際の年齢は十二歳くらいのはずだが、隙を感じさせない立ち居振る舞いも外見相応といえる。それに先程のサスケの術。一体どれほどの修行を積めばその域に達するというのだろうか。

 もう一通は大蛇丸からで、「共同研究をしましょう。あなたの愛する人に合わせてあげる」という、綱手の心を強く揺さぶる内容だった。

 綱手は書簡を読み終え、静かに三人を見た。

「念のため聞いておくが……この研究にはお前たちも賛同しているのか」

 綱手が視線を向けているのはナルトではなく、サスケ、イタチ、シスイだ。まず、研究とは何のことかと頭の上に疑問符が浮かぶところであるが、そういったことには察しのいい三人はなんとなく理解した。

「オレたちに関する研究、か。……勝手なことを」

 研究、となるとその手紙の差出人も自ずと推測できる。サスケは溜め息をついた。草薙ノ刀を譲り渡したのにもそういう打算があったのだろうか。賛同しているか否か、その返答次第で綱手の里への帰還の可否が決まるのであれば慎重に言葉を選ばなくてはならない。

「……この研究はお前たち一族にとっても十分に利のあるものだと思うがな。ヤツから直接話を聞いた方がいい」

 一族にも利のある研究とはどういうことかと訝しむが、この件は特に綱手にとって重要なものではないらしい。

「……わかった」

 

 火影が代替わりし、五代目火影は伝説の三忍が一人だと風の噂で聞いていた。火影。綱手はクツクツと笑った。

「あの自来也が、火影とはな。それにあの大蛇丸も里に戻っている……」

「エロ仙人は上手くやってるってばよ。それに大蛇丸も……オレは最近まで信用してなかったけどさ、ちょっとは信用してやってもいいかなって」

 ナルトはうーんと腕を組んでいる。

「……火影なんてクソよ。バカ以外やりゃしない」

 綱手はそう言い捨てると酒をあおった。

 自来也と大蛇丸をもってしても、今の綱手の心の内に蔓延る闇を払拭することはできないらしい。ナルトは静かに綱手を見つめる。

「ばあちゃんは、初代火影の孫で、三代目の弟子だろ。同じ班だったエロ仙人は五代目だし。……なんでンなこと言うんだよ」

「……戦で死んだ私の弟も、恋人も、火影になるのが夢だと言っていた。私のじいさんも、夢のような事を言って里のために犬死にしたようなものさ」

 大切な者の死。それはいとも簡単に人を闇へと誘う。綱手の心は囚われたままだ。

 ナルトにとって初めての大切な者を失うという経験は自来也の死。経験してようやく、サスケの痛みを本当の意味で理解した。理解したと思っているだけで、本当に理解できたかは定かではない。

 綱手の痛みははかり知れず、安易に理解できるとも言えない。

「そっか。……オレは火影になる。んでもってぜってー死なねぇし、みんなでこの馬鹿げた戦いも終わらせてやる。……それくらいしねーと綱手のばあちゃんの気は晴らせねえかな」

 ナルトは困ったような笑みを浮かべた。

「……お前、おかしなことを言うヤツだな」

「よく言われるってばよ」

「お前たち以外も、私を勧誘する物好きがいてだな。そいつに返事をするのが三日後だ。……行くぞ、シズネ」

「はい、綱手様」

 

 二人が立ち去るのを見送り、イタチとシスイは綱手とシズネの座っていた側に座り直す。

「ツケの話は全くしなかったな」

 根回しがとか外堀をとか言っていたのは何だったのか。

「そういう話を持ち出すカンジじゃなかったろ?けど、掴みは悪くねーと思う。てか、勧誘って……。オビトのやつ、綱手のばあちゃんを勧誘したのかよ……」

 暁は欠員が出たら補充する体制で、慢性的に人手不足である。大蛇丸やイタチが暁にいないことからこのようなイベントが起こっているのかもしれない。

「黒ゼツは人の心の闇を利用する小賢しいヤツだ。今の綱手なら……付け入る隙はいくらでもある」

 サスケの知る綱手は五代目火影・綱手であり、彼女にもこのような脆い反面があったことには正直驚かされた。綱手が莫大なチャクラ量を誇る千手一族とうずまき一族の末裔であり、どのような形であれ利用はできるだろう。医療忍術スキルの価値も大きい。

「もしオビトが交戦する気なら、戦うしかねぇけどさ……。思い出したんだけど……」

「どうした」

「オビトって……この頃、霧隠れにいるんじゃね?確かそんな記録を見た気がするってばよ」

「……言われてみれば、そうだな」

 ナルトとサスケだけが合点しており、イタチとシスイは置いてけぼりだ。

「オビトが、霧隠れに?」

 シスイの問いにナルトはサスケに視線を送る。

「オビトは……水影を操っていたとされる」

 サスケが言いづらそうに声を落としてそう言った。

 それが白日の下に晒されよう者なら、たちまち霧隠れの里との紛争が勃発するだろう。

「……聞いておきながらなんだが、聞かなかったことにする」

「そうしてくれ」

 できることなら闇に葬り去りたい事実に、うちは三人は項垂れた。

 

 

 宿の座卓の上に置かれていた封筒の中には、それなりの金額の紙幣が入っていた。部屋に侵入された形跡がないところをみると、この封筒を置いたのはナルトの影分身だとわかる。

「これも泡銭だから綱手のばあちゃんのツケに充てるか。……ってオイ」

 うちは三人は一体何を考えているのか、揃って気の毒そうな視線を寄越してくる。

「酒を酌して話をしただけだって。……可愛い系のA子が、なんかしんねーけど高級クラブのオーナーっぽいヤツに気に入られて金渡されたんだよ。入店してくれって。……しねーけど」

 A子のように器量が良く弁が立つ女性であれば引く手数多であることは想像するに容易い。そのような手段を用いて対象者から情報を聞き出すこともないことはないが、それで割り増し賃金を渡してまで店に引き入れようとされた事例は聞いたことがない。さすがは意外性ナンバーワンである。また、その店のオーナーは天性の人誑しであるナルトを見抜いたということでもあり、そういう意味ではかなりの目利きだといえよう。

 幼い少女たちを救うべく、身を削るように情報収集にあたるナルトの姿勢は火影だったあの頃のナルトを彷彿とさせる。

「お前みたいな奴を何というか知っているか」

「……いつもの、ウスラトンカチ?」

 ナルトは封筒を自分の荷物の中にしまいながらサスケの問いに答える。

「そうだが、違う。……ワーカーホリックだ。仕事中毒」

(……オレも人のことを言えたものではないが)

 サスケもまた理由があったとはいえ、妻子を置いて約十年もの間里を離れていたことがある。いつの間にか長い時が経っていたというだけで仕方がないのだが、互いによくない傾向だ。

「仕事中毒なぁ……。でもやっぱさ、見過ごせねえんだ。特に子どもが被害に合ってんのは見てらんねえ」

 今回、ナルトがそこまで躍起になるのには理由がある。それは単純なもので、女児の親である男であれば女子誘拐事件と聞いて憤らないわけがないだろう。それはサスケにも同じく言えることだった。

「そうだな」

 その横顔に影が落ちる。

 

「……話を戻すとだ、A子が店で得た情報は顧客情報。街長とその取り巻きは、VIPとして扱われていた。B子は料亭で短冊街の街長とその部下たちの会話内容を盗聴した。そこで例の診療所の裏もとれた。C子は数軒の飲み屋の店主から街の派閥や抗争について聞いた。水面化で街長一派の横暴が増長している。対する反乱分子も短冊街の各所にある。シスイと行った賭博場の一つもそれにあたる。反乱分子の長は奉行所の所長だ。……結論から言うと、この事件は国の権力者が絡んでいるとみていい。下手に動くと里に釘を刺される上に、この事件も有耶無耶にされて終いだ」

 ナルトは白紙の用紙に情報を図式化しながら説明するが、サスケは訝し気に眉を顰める。

「何故、国の権力者が絡んでいると言い切れる」

「短冊街の街長は平カネモリ。お前も知ってんだろ」

 そう言いながら用紙にその名を書き入れる。

「……そういうことか。平は、大名の甥にあたるまどかエニシの腰巾着だったな」

「これ、頼むってばよ」

 ナルトは一筆したためた文をサスケに手渡す。

「渡すのは藤原ヨリミチ、でいいな」

「ああ」

 

 輪廻眼の瞳力により空間が開く。

 サスケはすぐに戻るとだけ言い、闇の中に姿を消した。

 細かいことは後でいい。今は一刻も早く、動くことのできる状況を作ることが先決だ。

 イタチもシスイもヨリミチとは面識がなく、二人の意図が汲めずにいた。その視線に気がつきナルトは説明を加える。

「ツテのある政治家に頼んで至急、任務依頼をしてもらう。……他に方法がねえんだ。ヨリミチは大名の側近の孫で風の国との同盟に携わった立役者だ。この前の大名護衛任務で色々あって。……藤原が今回の事について目を瞑るなら、それまでだけどさ、今は風の国との同盟も安定してきて、今なら内政に目を向ける余力はあるはずだ」

 藤原は現大名を支持しながらも革新派に属する。一方、大名の甥は従来の体制と有力者同士のパイプを用いて民からの搾取を継続したい権威主義派である。権威主義が悪というわけではなく、問題となるのはその上層部の偏った思想だ。

 忍界の転換期である今、国や世界もまた大きな変革のため水面下で蠢いており、これから大きな波が来ることを予感させる。

「話が大きすぎないか」

 ナルトとサスケのしていることは場合によっては処罰対象になりかねないことであり、シスイは天井を仰ぎ見る。今回二人と行動を共にすることで、時々疲れた顔で任務報告に来ていたカカシの気苦労について少し理解した。

 

 

 夏の宵。屋敷の池の水面に、点いたり消えたりする微かな光がふわふわと舞っていた。

 文机の小さな灯りの下、床につく前にと書類に目を通していた。御簾越しにも見える儚い光。あと数日でもう見ることができなくなるだろう。

 再び庭の方を見ると、御簾越しに人影を捉えヨリミチは静かに目を見開く。

「ナルトからだ」

 聞き覚えのある少年の声と、少年の名。

 御簾の下から一通の文が差し出され、ヨリミチはそれを手に取り再び文机の前に腰を下ろす。

「これは……。急を要するのですね」

「ああ。早ければ早い程いい。囚われている者がいるはずだ」

 その文には、短冊街である事件に関わっている可能性がある者の名が書かれており、更に調査、及び拘束するためには任務の依頼が必要だが判断は委ねる、といった内容が書かれていた。

 平カネモリ。彼は大名の甥であるまどかエニシの息のかかった者だ。彼のような者がわざわざ街長という立場に収まるなど、何かしらの利益や目的があってのことだろうと探りを入れていたがその全貌は掴めずにいた。このような形で手がかりを掴むことになろうとは思いもよらず、また、一刻を争う緊迫した状況に身震いがする。

「……わかりました。これからすぐ祖父に掛け合ってみましょう」

「今すぐ、その内容を頭に入れろ。今日ここには誰も来なかった。文などなかった。いいな」

「ええ」

 黒い炎が文に燈った。




 短時間でしたがアンケートご協力ありがとうございました。
 元四代目火影護衛係だった彼ら三人に決めます。(詳細は活動報告参照)

最新話について参考までにアンケート。短冊街に追加人員(スリーマンセル)が送られます。誰がいいですか?顔はわかるけど名前が思い出せない。および、顔も名前も思い出せないキャラ筆頭を挙げてみました。

  • たたみイワシ
  • 並足ライドウ
  • 山城アオバ
  • 神月イズモ
  • はがねコテツ
  • 不知火ゲンマ
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