ーーコツコツコツ
鳥が嘴で窓を突つく特徴的な音により目が覚める。自来也が窓を開けると、その鳥は満足したように朝焼の空に飛び去っていった。火影塔に来いということは余程の用件なのだろう。
「五代目様!至急、通信室へ。つい先程、大名様からの通信がありました」
火影執務室扉の前で当直の番をしていたイズモが待機していた。
早朝卯の刻、火の国の大名から火影宛に緊急通信が入ったため、自来也が火影塔に着き次第折り返す手筈となっていた。
通信室へ行くとすぐに担当者が火の国の大名へと連絡を入れ、画面に大名の顔が映し出された。
「待たせましたのォ。火急の任ですかな」
「なんの。こちらとて日の出早々あいすまぬ」
画像は荒いが音声は問題ない。挨拶もそこそこに大名は本題へと入った。
「短冊街で起きている誘拐事件に関する調査と子どもたちの保護を依頼したい。また、その事件の裏には平がおるらしい。黒ならば拘束するようにな。……これを機にエニシを追及する」
大名とはこうもまともに話す男だったろうか。
「これはまた……思い切られましたな」
(国の中枢がしばらくゴタつくだろうのォ……)
自来也は大名の護衛に関する任務が増える可能性を考えていた。そこに割く人員も確保せねばならない。
「家臣の忠言に耳を傾けたまでのこと。では、よろしく頼むの」
「承知仕った」
通信が途切れ、自来也は任務依頼書のため執務室へ向かう。
ーーコンコンコン
依頼書を書き上げたところで扉を叩く音がし自来也が返事をすると、訪れたのはまたイズモだった。
「なんだ、まだおったのか」
もう通常勤務の者と交代の時間ではなかったかと、自来也は差し出された小さな書簡を受け取る。
「当直は辰の刻までですから。……また、火急の報せが。短冊街からです」
それは伝書鷹の足に括るタイプのもので、内容は急ぐものであることが多い。
短冊街と聞き、自来也はナルトたちに何か問題でも生じたかと素早く書簡を開く。
「短冊街の奉行所長……」
珍しいことだと内容に目を通すと、驚くべきことに大名の依頼内容と酷似しており、異なる点は街長の平に言及していない点であった。
「さて、誰を送るべき、か」
人選を考えあぐねていると、いつの間にかイズモの背後に大蛇丸の姿があり、イズモは物凄い勢いで火影室の壁に寄った。そんなに驚かなくても、と大蛇丸はちらりとイズモを見遣る。イズモは軽く頭を下げてそそくさと退室した。
「話は聞かせてもらったわ。この後、中忍試験本戦の進行と警備に関する会議があるでしょう。来た者の中から選抜するのはどうかしら」
「……そうするか」
自来也はほんの少し考量するも、現地にいる四人のことを思えば上手くやるだろうと考えるのを手放した。筆をとり、ナルト宛にと任務依頼内容と増援をの知らせを書き終え連絡蝦蟇のコウスケに託す。
「妙木山にナルトを逆口寄せするなりして渡してくれ。……ああ、滞在している宿の住所も頼む」
「承知!」
コウスケはポンと消えた。
中忍試験本戦についての会議は四半刻もせずに終え、同盟里の係の者も含め、集まった者たちはあまりの駆け足に呆然とする。
「これにて会議を終える。……この後、ゲンマ、ライドウ、イワシは執務室に来い」
名を呼ばれた三人は自来也の顔を見るが特に険しい様子もなく、口調も平時と変わらず、何の事かと考えるが見当もつかなかった。
火影執務室に入るなり、ゲンマに渡されたのは二枚の任務依頼票だった。ランクはそれぞれAとB。
「あの会議参加者の中では、即席であっても班として成立する者を、と考えると……元四代目火影護衛のお前たち三人でのォ」
三人が共に四代目火影の護衛の任に付いていたのは今から十数年前のことであるが、今でも付き合いは続いており気心の知れた仲でもあった。ゲンマは、千本を楊枝のように口に咥え、額当てを後前に結んでいる特徴的な出立ちをしている男だ。ライドウは顔に火傷の跡をもつ。二人とも共に特別上忍だがイワシは中忍で、いくら連携がとれるとはいえ一度に二件は無理があるのではないかと、ライドウはゲンマの手にある依頼票を取り上げその内容を確認する。
「……五代目様、この二件の任務、ほぼ同じですね」
「本当だ」
イワシも依頼書を覗き込む。これであれば一度に二件の任務というのにも頷けるというものだ。
「うむ。ワシとしては街奉行所の所長が今になって隠れ里に依頼してきた点が気にかかる。……まぁ調べてみんことには分からんだろう。現地にはシスイ、イタチ、サスケ、ナルトがいる。合流して任務にあたってくれ」
三人は互いに顔を見合わせる。
四代目火影の護衛小隊とは名ばかりで、あの九尾事件の時にはまだ大人から守られる側にしか立つことができなかった。後になって四代目の訃報を聞き、もう少し自分が大人であれば、力が有れば何か違ったかもしれないと、どれだけ悔んだことだろう。あの頃は、忍の掟を胸に現実を受け入れる他なかった。
いつ頃からだったか、ナルトのことを九尾の子だと里の者が彼を忌み嫌うようになったのは。多くの孤児がそうであるように、アカデミー入学と共に一人暮らしを始めたナルトは、里の人々の抱える悲しみや憎しみを、当の本人は何も知らないまま一身に受けたことだろう。
四代目火影の子と公にされないということは、里にとっての機密情報だとゲンマは理解していた。里の者の多くを助けた四代目ミナトは、裏を返せば他里から多くの恨みをかっているようなものだ。その上、まだ幼い人柱力となると標的にならないはずがない。
彼は、どのような少年に育っただろうか。時々見かけるカカシの様子から推測すると、とんでもない跳ねっ返りなのだろう。それに中忍試験での快挙。
「……なんだ、不服か?」
三人が言葉を失っていると自来也はそのようなことを言う。どこからどこまでが勘定に入っているのか判断がつかない。
「……いえ、班の半数以上がうちはってのは初めて聞いたもので」
三組の写輪眼というだけで何だか凄味を感じる。
ライドウは能力と見た目に似合わずやや慎重すぎて尻込みするタイプかと、自来也は三人の様子を観察していた。
「確かに、めちゃくちゃレアだな。噂に聞く華麗な技を拝ませてもらうとするか」
「ゲンマさんのそのポジティブ精神、俺も見習います」
イワシは己を鼓舞するように独りごちる。
「……そもそもワシの私用の遣いで短冊街に向かわせていて、正式な任務を命じるつもりはなかったんだがな」
火影の私用の遣いとは何かと三人は気になったが、私用というだけあって聞きづらい。
「では、四人と合流しシスイまたはイタチに指示を仰ぐってことでいいですね」
予定になかった急な任務ということは、それだけ急ぐものである。ついつい話し込んでしまったが先を急ぐ必要があるのだろうとゲンマは話を切り上げる。ライドウとイワシもゲンマの一声に背筋を正す。
「うむ。聞くところによると、現場の状況もある程度整理しているらしい。合流して指示を受けろ。ほれ、宿の住所だ」
自来也は忘れるところだった、と懐に入れていた紙切れをゲンマに手渡した。
「あなたたち……サスケ君のこと、よろしく頼むわよ」
三人の背後にはいつの間にか大蛇丸がおり、例外なく三人揃って後ずさり執務室の机にぶつかった。
「……お前はもっと普通に出てこれんのか」
大蛇丸はイズモの反応が興味深く、今回も同じように登場してみただけだ。
「サスケ君の事だから全くもって心配はしていないけれど、私なりの餞の言葉よ。……サスケ君に何かあればその時は、覚悟しておきなさい。……とでも言えば、任務にも身が入るでしょう」
とんでもないパワハラである。
サスケが大蛇丸の寵児だと、中忍試験が開始し二次試験を終えたところで試験執行部内で真しやかに囁かれ始めた噂は本当だったのかと、三人は思い知る。
四人が執務室を後にすると、大蛇丸も後に続いた。
「私も実験材料を集めにいってくるわ。そろそろ在庫が底を尽きそうなのよ……」
わざわざ用事を言っていくということは、終日連絡がとれないとみていいのだろう。意味深な発言に自来也は訝しむが、この後に及んでまた殺人紛いの実験などに手を染めはしないだろうとその背を見送った。
寵児っていろんな意味があるけど、ここでは「お気に入り」という意味で使っています。