だから付き合ってないってばよ   作:冬乃菊

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将来の夢

 それから数日後、授業参観の日がやってきた。

 アカデミーの授業参観では、昼休みから保護者の教室への立ち入りを許可している。生徒の親は教室の後ろの壁際から、昼休みはどのように過ごしているのかとわが子の様子を見ていた。そして今日という特別な日も、ナルトとサスケとヒナタはいつものように過ごしていた。

 休み時間だからと教室で走っている者もいたが、三人は定位置で黙々と食事をしていた。ナルトは弁当まるごと一つ受けとるのは気が引けるということで、ヒナタは小さい容器におかずを詰めて持ち寄っていた。そしてナルトの主食は主に惣菜パンだ。

「サスケとヒナタん家は今日誰が来るんだってばよ?」

「私のところは父様が来ると思う。お仕事じゃなければだけれど……」

「……」

「ふーん。……で、サスケんとこは?」

「……」

 サスケは無言で頭を抱えていた。

「……おーい」

「後で嫌でもわかる」

「そっか。楽しみにしてるってばよ!」

「しなくていい」

 すると一瞬、教室の空気が変わった。日向一族の当主、ヒアシが直々に出向いてきた。その出で立ちは普通に立っていても威圧感がある。それに加え、一家総出で現れたのはうちは一族当主。サスケは恥ずかしさに肩を震わせる。ナルトは教室の後ろの方に立っている生徒の父兄を一瞥し、再びタッパーに向き合った。

「ああ……おまえも大変だってばよ。愛されてんな」

 ナルトにそう言われ、サスケは恐る恐る少しだけ後ろを振り返ると、即刻フガクとイタチと目があった。ブンブンと手を振ってくるのがまた恥ずかしい。羞恥に頬を染めながら、サスケはプイとそっぽ向いた。

(((か、可愛い……!!)))

 ただでさえ目立つうちは一族。他の生徒の父兄もサスケのツンデレな仕草に目を奪われていた。一方ヒナタは後ろを振り返ってヒアシと目が合うと小さく会釈した。さすがは日向家の娘さんだと、他の父母もひそひそと囁きあっている。

「フガク、こうして直に会うのは久しいな」

「ヒアシ、おまえと違って可愛い子じゃないか。名前は?」

 そっくりだったら困る。

「ヒナタという。……そちらこそ可愛いご子息ですな。成績も優秀だとか。うちのヒナタも見習ってもらわなければ」

 フガクとヒアシがそんなことを話していると、誰の親かは知れないが声が聞こえてきた。

 あれが例の子よ。うちの子と同じクラスだなんて嫌だわ。

 それは、サスケとヒナタの間に座っているナルトに向けられている言葉だ。小さな声であったが、サスケとヒナタの耳には届いていたらしい。二人ともじっとその大人を見ていた。フガクとヒアシはその視線に確固とした意志があるのを感じた。

 

 授業参観の授業内容は、アカデミー一年生らしい「将来の夢」についての作文だ。作文といっても原稿用紙一枚にもならない小さな用紙。中身は三十路だというのに将来の夢と言われてナルトは悩んだが、自分の道は初めから一つと決まっている。今が地獄でも天国でも夢であったとしても、それは変わらなかった。

「それでは、始める。みんな、将来の夢は考えてきたか?一番に発表したい者は手をあげろー」

「はいはいはいはいーっ!」

 ナルトは即座に手をあげた。他の生徒も親の手前手をあげていたが、ナルトよりは遅い。ちょうどその時、教室の後ろのドアに三代目火影が現れた。

「それではナルト。だが、はいは一回だぞ」

「オレの将来の夢は、火影になることです。火影になったら、みんなが苦しまない平和な世の中にしたいです!おわり!」

「そうか。ナルトの夢は火影なんだな。火影になるのはみんなの夢だからな!頑張れよナルト!では、次に発表する者ー」

「はい」

「珍しいな。それでは次、サスケ」

「オレは、未来の火影の右腕になります。そして里を影から支えていきたいです。そういう忍になるのがオレの夢です」

 サスケはそういい放つと、隣に座るナルトの顔を見て口角を上げる。ナルトを羨ましがる声がちらほらと聞こえてくる。

「……火影の右腕かあ。頼もしいな!それでは次~」

「はいっ」

「ヒナタ、元気な声だな!それじゃこれからは前列、その次の列と順番に発表してもらうことにする」

「わたしは将来、未来の火影の横に立てるような、立派な忍になりたいです。だからアカデミーでは勉強も実技も頑張ります」

 ナルトへの熱烈なラブコールだった。ヒナタはどうだと言わんばかりにサスケの方を見るが、サスケは目線が合っても意図が汲めずに小首を傾げていた。

「うちのヒナタはおたくのサスケ君をライバル視しているようですな……」

「サスケ、まさか……」

 ヒアシは未だに娘の恋を受け止めきれていない上に相手までわかってしまい、わずかに眉間に皺を寄せる。一方で、フガクはヒアシの言葉を独自解釈して盛大な勘違いをしようとしていた。

 その後も最後の一人まで発表が続いた。その最後の生徒が発表を終えた後、イルカはコホンと小さく咳払いする。

「最後に、三代目火影様からのお言葉がある。火影様、お願いします」

 気配を消して保護者の中にいた火影の存在に生徒たちは気づいておらず、まさか火影が来ているとは思いもしない子どもたちは浮き足立つ。

 ヒルゼンは教壇に登上し、生徒とその保護者たちを一瞥した。

「アカデミーに入学して半年となった。子どもたちはもう立派に将来の事を考えられるようになっている。アカデミーを卒業するまでに己の夢に少しでも近づけるよう、努力して欲しい。里の子は里の宝。里の未来を作るのはおまえ達だ。これからも日々精進せよ。期待しておるぞ」

 話が終わると、子どもたちの方から元気の良い返事が返ってきた。火影は満足気に口角を上げ、教室を出ていく。

 

 火影が教壇から下りる際に、ナルトの手に小さい紙くずのようなものが当たって机の上に転がった。よく見ると幾重かに折られている。その紙を開くと短いメッセージが書かれていた。

 

 生徒とその保護者が手を繋いで帰っていく光景は、アカデミー授業参観終了後の見慣れた光景だ。

「ナルト、また明日」

「ナルトくん、またね」

 正直なところ、親よりもナルトと一緒に帰りたいと思うサスケとヒナタであったが、わざわざ授業参観に足を運んだ親心を無下にもできず、ナルトとはアカデミーの門を出たところで別れた。

 ナルトは二人の後ろ姿を見送りながら、ハーフパンツのポケットの中にしまったあの紙切れを取り出した。

「『一楽で』か……」

 墨と筆で書かれた達筆な筆跡。その差出人の見当はついている。ナルトは一楽へと向かった。

「来たかナルト、遅いぞ」

 店の戸を開けると思ったとおり、そこには三代目火影・ヒルゼンの姿があった。

「じいちゃんが早すぎるんだってばよ。おっちゃん!ラーメン一つ!」

 ナルトは当たり前のように火影の隣に座ってラーメンを頼んだ。

「ナルト、友ができたと聞いたぞ」

「サスケとヒナタだってばよ」

「よかったのう。サスケとヒナタはどんな子だ?」

「サスケはいいヤツだし、すっげー強い。たまにムカつくけど、オレとはかなりの友達だってばよ。ヒナタは頑張り屋だな。弁当も作ってくれるしなんでかサスケと張り合おうとしてる可愛い女の子だってばよ」

「そうか……よりにもよって、木ノ葉の名家の子息か。ヒナタとサスケの一族のことを知っとるか?」

「日向とうちはだろ?血継限界の瞳術をもつ里でも指折りの強い一族だってばよ」

「知っておったか。どちらの一族も気位が高くてな、一族以外の者とはあまりつきあわん」

「ふーん……」

「だが、四代目火影は違った。ヒナタとサスケの父にあたるヒアシとフガクは良い友であった。その四代目の亡き今となっては二人ともあまり交流はないようだが……」

「知らなかったってばよ」

「うむ。おまえたちの姿を見て、わしもふとその事を思い出したんじゃ。おまえも案外火影になれるかもしれんのう?ナルト」

「なれるかもじゃなくって、なるんだってばよ」

「楽しみにしとるぞ」

 ナルトはラーメンを食べ終わるとヒルゼンと別れ、家へと向かった。一楽で聞いた話は初耳だった。きっと、三代目は自分の知らない両親のことをもっと多く知っているのだろう。しかし今はナルトが四代目の息子であることは、ナルトを含む里全体の秘密だ。秘密というよりも、ナルトが九尾の人柱力であることの方が里の人々にとっては重大な事実で、中にはナルトのことを化け狐と呼び、あたかも九尾が人の子に化けていると考えている者もいるほどにその憎しみは根深い。

 

 サスケは家族と帰宅すると、すぐにナルトの家へと向かった。家族は皆、うちはの会合へと向かっており自宅には誰もいなかった。アカデミー生であるサスケはまだ一族の会合には出席できない。今、会合で何が話し合われているのかを知っているだけに、この広い家に一人でいることなどできなかった。そこで思い出すのはかつての穏やかな日々と、あの月夜の日に見たイタチの写輪眼。赤い眼と赤い血。そして闇へと堕ち、過ごした日々。心拍数が上がっていくのが分かった。あの日の出来事についてはもう自分なりに整理をし受け入れていたにも関わらず、あの日をまた繰り返すかもしれないと思うと心がざわめき立った。

 

 ナルトのアパートに来たものの、ドアの向こうにナルトのチャクラは感じない。サスケは背をドアにもたれてその場に座り込んだ。

 どれくらいそうしていただろうか。聞き覚えのある足音に気がつき振り返ると、目を真ん丸くさせ驚いているナルトがいた。

「どうしたんだってばよ。家出か?」

「違う」

「とにかく中に入れよ」

 そこはサスケにとっては久しぶりの、懐かしいナルトのアパートだ。記憶よりもいくらか綺麗にしてある。腐った牛乳と食べかけのカップ麺などは見当たらない。日の当たる窓辺には観葉植物が青々としていた。

 サスケは勝手にコップを借りると冷蔵庫からトマトジュースを取り出した。これはサスケからナルトへの差し入れだった。野菜を取れというメッセージを込めて渡したが、キャップは緩んでおらず、真新しい音がした。

「何があった?」

「今日は一族の会合の日だ」

 二人はダイニングの椅子に腰かけた。

「そっか」

「会合場所は分かっている。出向いて一族全員を幻術に落とすことも可能だった」

「うん」

「だが、しないことを選んだ」

「信じて待つんだろ?」

「……そう決めた」

 ナルトは急いで話題を探す。

「なあ、これからアカデミーでどうする?オレってば、卒業したらサスケと同じ班がいいってばよ」

「そうだな」

「ならオレが落ちこぼれ役やったらいいよな」

 卒業後の班分けは基本的に力が均一となるようバランスを考え決められる。つまり、主席と落ちこぼれは必然的に同じ班になると考えて良い。だが、サスケは訝し気な表情をしていた。

「できるのか?ペーパーテストはともかく、問題は実技だ」

 咄嗟の判断や反射的な行動までコントロールできるのかとナルトの考えにサスケは懐疑的だ。

「うーん、ま、やってみるしかないってばよ」

「……それよりも、突出しないか?」

「は?」

「スリーマンセルが組めないくらいに」

「うーん…。もしやるなら最後の半年だけだ。オレたちまだこんな体だしさ、オビトとかマダラとかつえーヤツに目ぇ付けられたら色々と面倒だってばよ」

「だが、オレは一族に力を示さなければならない。もしクーデターの話が流れたら、の話だが……」

 一族を動かすにはそれが都合がいい。彼らが想いを託したくなるような存在となれば、一族の未来を少しでも変えられるだろうか。

「一族の希望になるってことか」

「ああ」

「そっか。でも不自然じゃない程度に止めとけな?今のおまえ、六歳の子どもらしくないってばよ。気負いすぎだ」

「そうだな……オレたちは、もう……」

 一人ではない。あの頃のように孤独に生きる必要はない。

 ナルトの身体から橙色のチャクラが溢れ、狐の形をとる。

「オイ、うちはの小僧。お前らしくねぇな。いつもの威勢はどうした」

「九喇嘛……」

「クーデターが起こらねぇなら、これから面白いことになりそうだ。ワシは起こらない方に賭ける」

 そう言うと九喇嘛は消えた。

「ははっ、九喇嘛ってば案外お前のことも気にかけてんだよなぁ」

「……そうなのか?」

「うん」

 ナルトが敵わない相手に遭遇した時には頼れる者はサスケだけだ。サスケの存在は九喇嘛と同じくナルトにとっての命綱のようなものであり、「相棒」でもある。気にしないはずがない。

 

――ピンポーン

 インターホンが鳴り、ナルトは玄関へと向かった。

「サスケ!おまえのにーちゃん迎えに来たってばよ」

 サスケは急いでコップを洗い、玄関へと向かった。

「サスケ、帰ろう」

 イタチの表情は穏やかだ。

「……兄さん」

 サスケはその差し出された手を取る。

「また来いよ」

「ああ」

「ナルトくん、弟が世話になった。今度うちに遊びに来るといい。母さんも君と話したがっていたから」

「え、まじ?オレってばサスケの母ちゃんと話すことねえけど……」

 ナルトは困ったようにぽりぽりと頭をかいた。

「では、邪魔したな」

「おう」

 

 サスケはイタチに手を引かれて夜道を歩いた。この懐かしい感覚を噛み締めるかのように、イタチの手をぎゅっと強く握る。

「サスケ、……泣いてるのか?」

 その声かけにも顔を上げずうつむいたままだ。イタチは立ち止まって、サスケの顔が見えるようにその場に膝を折る。涙はないが、漆黒の瞳が戸惑い泳いでいた。

「……兄さん」

 イタチは一考するが、やがて悲しげな表情を浮かべ、いつものようにサスケの額を軽く小突いた。

「……ゆるせサスケ」

 この弟を守るために、闇に生きる覚悟はとうの昔にできていた。

「ゆるさない。絶対に」

 一人で闇を背負って生き、そして死んだイタチの所業が脳裏に過る。今度はそうはさせない。

 時々、弟はまるでなにもかもを知っているようなことを言う。一族の者がサスケに話しているのかとも思い注意を払ってみるが、そのような事はなかった。もしくはサスケの眼に突然開眼した輪廻眼が関与していることを疑ったが、伝説とされる瞳力なだけに資料が少なすぎて調べようがなかった。

「大丈夫だ、サスケ。お前の心配しているようなことにはならないから」

 そのイタチの言葉に、サスケの目が大きく見開かれた。

 

「ただいま」

 イタチの声が聞こえるなりミコトとフガクはバタバタと玄関へ駆けつけ、その隣に立つサスケの姿を見て胸を撫で下ろした。

「ただいま。……勝手に出ていって、ごめん」

 サスケはそれだけ言うと、プイと顔を背けた。フガクは微笑を浮かべる。

「……サスケ、俺はおまえやイタチのいる未来を見てみたいと思った。今事を起こしてもな、失う物が多い。いや、今でなくとも……。それを教えてくれたのは、お前たち。未来を担うお前たちだ。ナルトくんは俺たちよりもひどい扱いを受けている。なのに、たった六歳の子が怨み言一つ言わずに、世の中のことを考えていた。それを知って、己の器の小ささを思い知ったよ。自分の家族さえ守れない者が一族の長など務まるはずもない、とな」

 フガクはそう言い終えると、自嘲的な笑みを浮かべた。

「サスケ、イタチもごめんなさいね。私たちの子なのに。今まで心配ばかりかけてしまって……。サスケ、こっちに来なさい」

 サスケはミコトに呼ばれるまま、近づいた。すると柔らかくて温かい感触に包まれた。母の腕だ。柔らかな匂いが鼻を擽る。フガクもサスケの頭を撫でた。

「それに、輪廻眼が開眼したのは、なにか理由あってのことだろう。一族の者には伝えなかったが。……親として、それを見届けなければならないと思う。なにかあればいつでも相談しなさい」

 ミコトの腕から解放されたサスケは、父の言葉に小さく頷いた。

 

 うちは一族にはサスケの知らない掟が存在した。子の色恋に関することは親であろうと口出し無用。それはかつて、一族内で起きた数々の事件を鑑み、戒めとして口伝にて語り継がれてきた言葉だった。

 サスケが自室に戻ったのを確認し、フガクは意を決してミコトとイタチに意見を求めた。 

「サスケとナルト君の関係についてだが……」

 今日の授業参観の際に見たヒナタのサスケに向ける対抗心とこれまでのサスケの行動を総合的に鑑みると、ある一つの結論に辿り着く。

「少なくとも好き、でしょうね……。それがどういう種類のものかまではわからないけれど、お弁当まで作って持って行ったことがあるくらいよ」

「……俺も、そう思います。しばらく様子を見ませんか。まだ六歳ですし」

 今日のサスケの行動からも、少なからずナルトは心の拠り所となっているだろうことは察することができる。





(2026.4.16)
 九喇嘛について追記
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