修行と託けイタチを家から連れ出したものの、シスイはどうしたものかと考えあぐねていた。だが、その話題について先に切り出したのはイタチの方からであった。
「サスケが、写輪眼を開眼した」
河原に座り水分補給をしている時、イタチはぽつりと呟いた。イタチが八歳で写輪眼を開眼した時、今生きている一族の中では最も早い開眼とされていたが、サスケは六歳とイタチよりもさらに早い開眼だ。
「……そうか」
写輪眼だけではなく、あれは万華鏡写輪眼であった。それに左目は伝説上のものと考えていたもので、今でもあれは幻を見ていたのではないかとも思うほど信じられない。実際、幻を見せられたのだが。
「意外と、驚かないんだな」
「いや、そうでもないさ。……開眼したきっかけは?」
今日のイタチの様子を見る限り、サスケが幻術の中で見せたあの光景について知らないのだろう。あれは、家族に見せるにはあまりに酷なものだった。家族であればこそ、術者当人もその受け手も、シスイ以上に精神なダメージを受けることだろう。最悪の場合には関係そのものに亀裂が入る可能性もなくはない。
「サスケは夢を見たと言っていたが……とても信じられない」
「夢、か……」
サスケは優しい子だとイタチは事ある毎に口にしていたが、確かにそのようだと、シスイはわずかに笑む。
あの日から、サスケの言うように、ダンゾウの手の者と衝突することは極力避けた。あのような結末を避けることができるのであれば、何があっても堪え忍ぶことができるだろう。
「お陰で、例の件は流れた」
例の件とは、うちは一族の里に対するクーデターのことだ。里と一族との間に立ち、二人して衝突を止めるべく奮闘していたが、今となってはそれでさえ日々拗れていくばかりであったように思う。
「よかったな。……戦わないで済むのなら、それがいい」
「ああ」
空が夕日に染まる頃、サスケと話がしたいと言うとイタチは二つ返事でシスイを自宅に招いた。
「こんにちは、サスケくん」
「……シスイさん」
会うのはあの日以来だ。サスケは池の鯉に餌をやる手を止め、シスイの方を見る。
「イタチから聞いたよ。開眼、おめでとう」
サスケの幻術を受けたのだから、イタチから聞かずとも開眼については知っている。それにも関わらず、シスイはあたかもイタチから初めて聞いたことのように振舞った。
その言葉に、サスケの顔からいくらか緊張の色が薄れたのが見てとれる。
「気分はどうだい」
「まだ、……慣れない」
「そうだろうね」
この場にはシスイだけでなくイタチもいることから、サスケは一つ一つ、言葉を選んでいるようだった。写輪眼の開眼したての頃は、「慣れない」といえる現象が起きる。しかし、今のサスケにそれはないだろうことはシスイにはよくわかる。あれはあまりに洗練された幻術だった。
「アカデミーは、どう?困っていることは」
「授業は退屈だが……悪くはない」
「そうか。友だちは?」
数奇な運命を持つサスケには、アカデミー生など難しいのではないかとシスイは思い、この問いに対する返事には期待していなかった。
「ナルトがいる。……アイツも、オレと同じだ」
その言葉の意味を瞬時に理解し、シスイは目を見開く。
うずまきナルト。里の極秘事項であるが九尾の人柱力であり、先の災害の記憶とともに里の内部では九尾の狐と忌み嫌われる存在だ。それから、うちは一族が里の隅に追いやられる程に恐れられていることとも関連があった。かつて、この里の創立時にはうちはマダラが九尾を操り里を襲い、それを初代火影・千手柱間が迎え討った。地形そのものを変えるような想像を絶する戦いについては、今や伝説として語られている。それゆえに、うちは一族は九尾を操る。という誤った認識が今も、特に里の上層部には根強く残っていた。それがうちは一族と里の因縁の根幹であった。
「……同じ、って?」
「修行とか……アイツもオレと同じで、よく一緒にやってる」
返事は一つ間を置いて返ってきた。やはり、あの言葉はそのままの意味と捉えて良いらしい。
これはどう考えても常ならぬ事態だ。だが、サスケはそれを明らかにしない。何か他に目的があるというのだろうか。
この行く末を見届けるまでは、たとえ何があろうと死ぬわけにはいかない。
あの時サスケはシスイに言った。
ーー死ぬくらいなら生きて力を貸してくれ。
「サスケくん、もし困ったことがあればいつでも声をかけてほしい。大事な弟分の、実の弟だからな。要するに俺の弟でもあるってことさ」
それがシスイの答えだ。
「ありがとうございます。……だが、兄さんはイタチだけでいい」
「はは、手厳しいな」
サスケは、シスイという人物についてよくは知らない。幼い頃の記憶の中にイタチと共に時々現れる、類稀なる才を持ちながら早世した忍。ただそれだけだ。それだけに、手荒な真似をした。シスイとイタチの仲についてはなんとなく理解しており、あの幻術のことが彼の口からイタチの耳に入ることも考えていたが、今日のやりとりからそれは杞憂であったことを知る。