里脱出計画
今日の授業は半日で、明日からは夏休み期間に入る。サスケとナルトはいつものように共に帰路につき、帰り道の河原でお互いの成績表を見せ合った。サスケは優秀、一方ナルトはそこそこである。
「ヘマするのって意外と難しいってばよ」
いくら頭ではわかっていても、自然と動いてしまう体はどうしようもない。おかげでクラス内では落ちこぼれだとか言う者はいつのまにかいなくなっていた。
「だからそう言っただろう。だが、筆記は実力で問題ないな」
「ちょ、おま」
「ところでナルト……」
「ん?」
「クーデターは未然に防いだ。だが、その結果、兄さんは暁を内部から監視できなくなる」
今のイタチでは暁から信用を得るのは難しい。
「そういや大蛇丸も暁に入る予定だろ。味方になってくんねえかな」
色々と無理がある提案だ。
「……まずコンタクト取るのに苦労しそうだな。いろんな意味で」
「そんなら、仲間を増やすってのはどうだってばよ?」
「仲間?」
「エロ仙人とか、綱手のバアちゃんとか。できれば長門も。話せばわかると思う」
「長門はともかく、自来也に会うのはおまえにしては良い案だ」
「よし、じゃあエロ仙人に会いに行くってばよ!」
「……あの人は風来坊だろ?」
「そうだったー!!マジどこにいんだ」
「オレは兄さんに相談する。何か知っているかもしれない。おまえは三代目に」
「じいちゃんなら何か知ってるかもな!」
「もし分かれば、この夏休みを使って会いに行くぞ」
「おお……サスケと旅行!」
「おい勘違いするな。遊びではない」
「せっかくガキに戻ったんだ。クーデターも防いだし、楽しまねぇと損だろ?」
「……それも、そうだな」
あの頃、景色は色彩がなくモノクロのようで、まるで地獄の中にでもいるような日々だった。だが、今は違う。またとない奇跡のような出来事を感受し、あの頃にできなかったことを一つ一つ積み重ねて自分の土台とするのもいいだろう。
ナルトは早速アポなしで火影室を訪れていた。
「どうしたナルト。わしは忙しくて構ってやれんぞ」
ヒルゼンは突然現れたナルトに驚くこともなく、書類を読んだり筆を動かしたりしていた。
「んじゃなくってさー、じいちゃんじいちゃん、三忍のエロ仙人って今どこに居るか知んない?教えてくんねーかなあ?」
「む?ナルト、三忍を知っておるか。エロ仙人というと……自来也か」
「そーそー!」
「残念だがわしも知らん」
「えー……」
「して、自来也に会うのはそれなりの理由があるんじゃろう?」
「教えてくんないんなら、オレも教えないもんね」
「ふむ。自来也の居そうな場所は知っておるぞ」
「な……!」
「教えてくれたらわしも教えよう」
ヒルゼンはニヤリと笑った。
「蛾蟇と契約したいんだってばよ!」
それが目的のうちの一つであることには変わりない。嘘ではない。
「ほう。蛾蟇。まだ六歳のおまえには蛾蟇なんぞ出せんだろう」
「んなことないってばよ!こー見えてもオレってば色々術使えるんだってばよ。そんなことよりさ、エロ仙人の行きそうな場所って?」
「数日前のことだ。風の国との国境近くにある温泉街から便りがあった。しばらく滞在するらしい」
「何ていう所に泊まってんの?!」
「そこまでは知らんのう……。だがナルト、どうやって行くつもりだ?」
「そ、それは今から考えるってばよ」
「おまえ一人では里からは出せんぞ。他の子どもたちもそうだがな。覚えておくことだ」
「そっか……」
ナルトはしゅんと肩を落として火影室を後にした。
(すまん、ナルト。里を出ることは許可できん……)
万が一、人柱力であるナルトが他の里に拐われ里の脅威となるようなことがあってはならない。ナルトが九尾の人柱力であることは里の重要気密事項だが、それが漏洩していないとは言い切れない。ヒルゼンは目を伏した。
イタチは自宅の縁側で忍具の手入れをしていた。
「兄さん」
「どうしたサスケ」
手を止めたイタチの隣に胡座をかいて座る。
「三忍の自来也のこと、何か知らない?どこにいるかとか……」
「自来也様は……常にどこに留まることを知らない方だと伺っている。……何かあったのか?」
「いや、それはない。ただ、今のうちにできることは進めておきたい」
「それが自来也様とどう関係があるか分からないが……」
「六年前の事件の犯人を探し、一族の潔白を証明したい。その布石だ」
イタチは唖然とした。天気の良い昼間に、それも暖かな陽気が差す縁側で話す内容の話ではない。
「……前も聞いたことだが、お前はどこまで知っている?」
「あの九尾の事件は自然発生ではない。兄さんも気づいてるはずだ。首謀者がいる」
「そこまで言うということは……誰か、見当はついているのか?」
「ああ。うちはマダラを騙るうちはオビト。そしてその裏に全ての元凶がいる」
「……待ってくれ。混乱している」
イタチもかの事件を疑問視し、情報を集めてきた。サスケが言っていることが真実であれば全ての辻褄が合う。しかし、たった六歳の弟がどう知り得たのか疑問が残る。
「兄さん、協力して欲しい」
が、弟にそう頼まれては断る理由はない。イタチはチョロかった。
「わかった。どうしたらいい?」
サスケは可愛い弟であることには変わりない。行動を共にすることで、己の知りたいことに辿り着ける可能性もある。
「見ての通り、オレはまだ六歳で子どもだ。できないことが多すぎる」
「……そうだ、この事は誰にも話していないが、お前には伝えておく。俺は仮面の男と接触した」
「その男は、何か言っていたか?」
「『もう少しで面白いことになったが、計画が台無しだ』とだけ言っていた」
「そう、か……」
「あれがお前の言う、オビトか?」
「……おそらくそうだ」
「わからない事ばかりだ……。ただ、このままでは多くの者が犠牲になるだろう」
「ああ」
サスケの表情が曇った。
「サスケ!エロ仙人のいる所がわかったってばよ!」
「表から入ってこい!」
待っていられず家にまでやって来たあげく生垣を軽く越えてきたナルトをサスケは一蹴する。しかしナルトは構わずに話を続ける。
「風の国との国境付近にある湯ノ花街っていう温泉街だってばよ。あ、イタチの兄ちゃん!お邪魔してますってばよ」
「あ、ああ……」
サスケと話していたとはいえ、ナルトの気配に気づかなかった。それにナルトの身のこなしはアカデミー生とは思えないものだ。
「けど、オレってば九喇嘛もいるし、一人じゃ里の外に出れないってばよ……」
「それは、保護者役がいれば問題ないのか?」
「たぶんな」
サスケはしばらく考える素振りを見せると、イタチの方に向き直って小首を傾げた。
「兄さん、夏休みに一緒に湯ノ花街に行きたいな」
サスケのピュアスマイル攻撃。
「ぐっ、サスケ……それは反則だ」
イタチはその場に崩れるように倒れ、白旗が上がっているのが見える。極度のブラコンであるイタチにとっては最強の技だ。ナルトも流れ弾をくらって両手で顔を覆っている。一方サスケはというと、スンと真顔に戻っていた。忍たるもの使えるものは何でも使う。
「……イタチ。おまえ達は一体何をしているんだ」
いつからそこにいたのか、フガクは呆れ顔だ。
「っ、父さん!」
イタチは佇まいを正す。
「そんなに驚かなくても良いじゃないか。……友達が来ていたのか」
「お邪魔してるってばよ」
「ああ、こんにちは。何を話していたんだ?」
「夏休みになったから、兄さんに湯ノ花街に連れていってもらえないか頼んでいた。子どもだけでは里の外に出れないから」
「……駄目だ。おまえ達は六歳になったばかりで自分の身も守れんだろう」
「「できる!」ってばよ!」
「ほう。証明してみろ」
ナルトは九尾チャクラを一部解放し、サスケは諏佐能乎を出した。
「は……?」
「「これで問題ないだろ!」」
フガクは焦った。確かに問題がなさそうなことに。
「そ、そうだ。宿題はどうした。宿題があるだろう」
「「今日済ませる!」ってばよ!」
九尾チャクラと須佐能乎が消えた瞬間、その場にサスケとナルトの影分身が十人ずつ現れた。それも一瞬でその場から消えた。彼らが向かうは自分の机。
「……イタチ、おまえは仕事があるから付き添うのは難しいだろう」
「あ、いえ、長期の休暇を頂きましたので」
察してくれないイタチ。わざとかもしれない。
「そうか。サスケの出したあれは……須佐能乎。それにナルトくんも九尾のチャクラを自分のモノにしているのか。それにあの身のこなしは……上層部はあいつらの事を知らんのか?」
「はい。知らないようです……」
「まあ、……うちがわざわざ報告する内容ではない、な」
「そう、……ですね」
報告したところで二人の行動がより制限されることになる可能性もある。フガクは何も見なかったことにした。
翌日、サスケとナルトは夏休みの宿題を持ってフガクの書斎に押しかけていた。
「「できました!自由研究は旅先でします!!」」
「わ、わかった。だが……三代目はお許しになるのか?」
「ハーレムの術で一発!チョロかったってばよ」
「ハーレムの術?」
ヒルゼンはナルトには保護者のあてがないと踏んでいたため、朝っぱらから駄々をこねるナルトに渋々一筆書いてしまっていた。ナルトは外出許可証をフガクに見せ、ハーレムの術をお見舞いした。
「っ……!!」
「旦那様♪」
あられもない姿の美女集団。フガクも男である。憐れかな男性の性よ。普段は威厳のあるうちは当主も形無しだ。
「えっ……」
ミコトがナルトをもてなすため、お茶と茶菓子を書斎に持ってきたのだが、タイミングが悪かった。彼女が目にしたのは、美女たちに迫られ赤面しつつも鼻の下が伸びているフガクと、それを冷静に見ているサスケの姿だった。
(あっ、やべーってばよ!)
ナルトは瞬時に変化し直した。
「奥さん……」
ミコトの周囲にはズラリと容姿端麗な和装男子が現れていた。
「あらやだイケメン……」
ミコトはキャッと乙女のように恥じらい両手で頬をおおう。
「母さん?……っ!!」
イタチは書斎の異変を感じ、ミコトを追ってきたらしい。書斎には異様な光景。イタチの目に写輪眼が紅く光る。
(写輪眼?!)
写輪眼の相手はさすがにしたくない。ナルトは更に変化をした。
「……サスケ?!」
そこには幼いサスケから大人の色香を纏うサスケまでが揃っていた。
(これぞ秘技・サスケ図鑑の術だってばよ……!)
「兄さん、いつまでも愛してぶっ!」
その中でも一番幼いサスケがぎゅっとイタチの手を握り、言い終わる前に本物のサスケがナルト本体に蹴りを入れた。
「うちの家族をおちょくるな!」
影分身が消え、フガクをはじめとするうちは一家は我に返った。
「こ、これがハーレムの術……。恐ろしい術だ」
「……は?父さん?!」
「いいかサスケ。一瞬の隙が、運命を左右することもある」
「……はい」
「「ナルト君、さっきの術、もう一回いいかい?」かしら?」
「え、兄さん?!母さん?!」
恐るべしハーレムの術。