だから付き合ってないってばよ   作:冬乃菊

9 / 38
【注】独自解釈・捏造あり。


真夜中の密会

 自来也を連れて里に戻ると、火影執務室で込み入った話をするらしくヒルゼンにより人払いがされ火影塔を後にした。

 

 一旦自宅に帰って冷蔵庫やパントリーの中を確認し、ナルトは生鮮食品などの食料確保のために再び街中に出る。サスケがあんまり煩いもので、最近は一日おきの自炊を心掛けていた。

「えっと……カップ麺とー、キャベツにシメジに魚の切り身にー」

 カップ麺を取り扱っているよろず屋の店主は無愛想。

「……」

 お金のやり取りも一切無言。

 八百屋の親父は高圧的。

「ほら、早く行きな」

 お金を渡すと、キャベツとシメジの入った袋をズイと突き出され、早々に店を後にしてほしいと言わなくてもわかるような対応。

 魚屋のおばちゃんはまるで汚いものを見るかのような目で見てくる。

「はぁ……また来たのかい」

 

 当然ながら、ナルトは先天的にラーメンが好きだったのではない。何か調理をするとなると、こうして複数の店を周らなくてはならず必然的に多くの人と接することとなる。かつて、幼い頃のナルトにとってはそれが苦痛でしかなかった。故に手間のかからない食事といえばカップ麺。ラーメンへとつながる。それに、ラーメン店の一楽の店主であるテウチは、この里では珍しいナルトをただのナルトとして見てくれる人物でもあり、心の拠り所でもあった。

 だが、今となっては買い物をすると時にそのような反応をされても、そのような態度をとる彼らの背景を理解し「そりゃそうなるよなぁ」「荒んでんなぁ」などと、それらをただの事象として認識できるため特に苦痛は感じない。

 店先の狭い路地。道を挟んだ向かい側の店舗の看板の裏。隣の店の暖簾の先。ナルトは何だか見られているな、と気配を感じつつも害はないため、買い物を終えると自宅へと足を向けた。

 あの頃は気づいていなかったが、この頃のナルトには暗部がつけられている。常に、一時も離れず、ということはないが、毎日誰かが監視していることには気がついていた。

 

 

 しばらく部屋を空けていたため、空気の入れ替えやら掃除やら、ナルトは呑気に鼻歌を歌いながら家の中をウロウロしていると、玄関の呼鈴が鳴った。

「はーい。……って、なんだ」

 玄関先には扉よりも僅かに背の高い大柄の男が立っていた。ナルトのよく見知った人物で、買い物中に感じた気配の主でもあった。自然な流れでそのまま部屋の中に招き入れる。

 自来也もそういう任を受けたのかもしれない。たった六歳の身で色々とやりすぎてしまったかもしれないと、ナルトは今さらながら湯の花街での自来也とのやりとりを思い返す。

「ナルト、しばらくここに世話になるからのォ」

 ナルトは目を丸くした。少し時期は早いが、かつて寝食を共にした修行の旅を思い出す。

 

 九尾が里を襲ったあの日。自来也は失踪した綱手の捜索と諜報活動のため、日頃より里を離れていた。あの日、もし里に己がいたのであれば、今とは違う未来があったのではないかと未だ自責の念に駆られることもある。

 愛弟子の忘れ形見が里にいる事は知っていたが、三代目火影・ヒルゼンの庇護下にあるものと特に心配はしていなかった。だが、歳をとると時間の流れがやけに早く、ある日突然、自分の認識ではまだ赤ん坊であるはずの愛弟子の忘れ形見が自ら訪ねて来たのには驚かされた。

 

「へ?……エロ仙人ってば行くとこねーの?」

 自来也が、せめてもの罪滅ぼしのつもりで、親代わりとしてしばらく同居することをナルトに提案するとこの反応である。

「家くらいあるわ。……しばらく、お前の様子を見る必要があると思ってのことだ」

 やはり六歳の身でやり過ぎてしまったのだと、ナルトは得心する。

 かつて、自来也は己の忍道を貫き一人で逝ってしまった。最後の会話でさえもう思い出せないでいる。自来也の死を聞かされた時には現実を受け入れることもままならず呆然としていたが、時が過ぎるとともにけして叶うことのない願望が胸の内を占めていったことを思い出す。もっと修行をつけてもらいたかった。色んな経験を話して聞かせてほしかった。だが、当然のことながら目の前にいる自来也はこの湿っぽい自分の感情を理解することはありえない。

「ふーん。……あ!なら、他にも術とか色々教えてくれってばよ」

 ナルトは渦巻く感情を飲み込み、自来也を見上げて笑った。

 かくして、ナルトと自来也の共同生活が始まった。

 

 

 ナルトはアカデミーへの入学と同時に里の孤児院を出て、このアパートで一人で暮らすことを余儀なくされたのだという。忍の隠れ里というこの特殊な環境下では、ナルトのような孤児はそう珍しくはない。

 里に戻って知ったナルトへの風当たりの強さ。アカデミーに入学してまだ間もない幼い少年には酷だろう。この環境がこの子の人格形成に悪影響を与えなければ良いが、と自来也は危惧しナルトの様子を観察していた。

 

 今日もまた、ナルトは食材を買ってきてキッチンに立っている。豚肉に、大根、人参、ゴボウ、長ネギ、味噌。最近は風も冷たくなってきて、温かいものが美味しく感じられる季節になってきた。

「……里の者から辛く当たられ嫌な思いをしとるだろう」

 トントントンと野菜を切る規則正しい音がする。その音は止まる事なく、ナルトはダイニングに座る自来也には背を向けたまま手を動かしている。

「急になんだよ。……そんな時期もあったけど、今はなんとも思わねぇってばよ。里のもんの気持ちもわかるしな」

「里の者の気持ちがわかる、か」

「うん。気持ちっつーか、……痛みってヤツ。オレが生まれた日にあんなことがあったんじゃそりゃ怖いよな、恨めしいよなってさ」

「……誰に聞かされた」

 自来也の声が一つ低くなった。ナルトの耳に入らないよう、ヒルゼンが箝口令を敷いているはずだった。

 里を襲い壊滅的な被害を出した九尾が己の腹に封印されていると知ったら、どう思うだろうか。封印した者を恨むだろうか。己を責めるだろうか。そこに生きる希望を見出すことができるだろうか。

「……じいちゃんはオレのことを思って秘密にしてくれてたんだろーな」

 ヒルゼンにとっても、自来也にとっても、ナルトは孫同然で、大切に思わないわけがない。

「オレってば、父ちゃんと母ちゃんの想いも全部知ってっし、里には大事な人たちがたくさんいる。だから、心配ないってばよ」

 全部、知っている。ナルトは一体どこまで知っているというのか。人柱力という存在。九尾という存在。それから、この木ノ葉隠れの里について。己の運命をどのように捉えているのだろうかと、自来也はその小さな背中をみつめる。

 

 

 その日の夜、自来也はふと目を覚ました。眼前には橙色のチャクラの塊。それは狐のような顔を模していた。

「随分とナルトのことを気にしているようだなぁ。コイツはそうヤワじゃねぇぞ。……おい、聞こえているか?」

 その橙色のチャクラを辿ると、ベッドの上に寝ているナルトの腹に行きつく。

「九尾……封印が解けかかっておったか」

「封印は必要なものだけを残して、余計なモンはワシとナルトで解術してやったわ」

 頭に過るは約六年前のあの災禍。

「……ナルトをどうする気だ」

「フン。……ナルトはワシの相棒だ。コイツが望むならいつでも力を貸してやる。それまでは……腹ン中でこの面白い状況を見物と洒落込むつもりだ」

 気配から察するに九尾には全く悪意がない。力・災禍の象徴とも言える九尾とまともに会話をしているこの状況がまず信じられず、夢かとも思うほどだ。それに加え、ナルトのことを何と言ったか。

「相棒……か」

「次期火影のテメェを見込んで話しに出てきてやってんだ。……他に漏らすなよ。お前はただナルトを信じてやったらいい」

 里には自来也が五代目となることが決まったと、最近になって至る所に公文書として貼り紙がされている。

「あいわかった」

 九尾に頼まれずとも信じるに決まっている。

 消えゆく橙色のチャクラの口角が僅かに上がったように見えた。

中身三十路のナルトが自炊するなら週に何回?

  • 1回
  • 2回
  • 3回
  • 4回
  • それ以上
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。