ふろっぐ・あ・でっど・ほーす 作:スパークボンバージ・オーガ
この世の中、間に挟まってはいけないものが数多けれど私の中では最も許せない光景が目の前に広がっていた。
助走をつけて背後から殴りつけたいけどここは我慢しよう、そうしよう。代わりに怒りを果たし状に込めるんだ、幸い彼の体格はあまり大きい方じゃないっぽいし、パワー勝負ならワンチャンいけるかも……いやー真っ向だと厳しいか。なんなら不意打ちを――でもそんなまどろっこしいことはするならわざわざ果たし状を書く意味なんてないし。
「さっきから顔が怖いけど、大丈夫?」
ものすごく心配そうな表情をしてらっしゃるー!? なんでもないです、今日の学食なにかなーって考えてましたと答えたら、ふふっそっか、あなたらしいねと気が抜けたように笑顔を
「そういえば
一瞬にして息が詰まる、あの間に挟まってたのを
「気になるっていうか、なんとなく声をかけたいみたいというか……」
我ながら返答内容が終わっている……! なんでこんなにも誤魔化すのが下手すぎるんだ、お前そんなんだからババ抜き最弱ってボロくそに言われてきたんだろ。自分で言ってて悲しくなってきたでござんす、早くお昼になって欲しい。
「次の休み時間に御影くんに声をかけてみる?」
スゥーッ、マジでどうしましょ。目の前のちょっといたずらで楽しそうな上原さんの顔を見れるのは嬉しいけど嬉しくないぃ〜、高咲さんに向けてくださーい私壁でいいんで。呼ばなくても大丈夫ですます、あとで彼の席に――あれ? 御影くんの席ってどこだ?
「御影くんならあそこだよ」上原さんのお綺麗な指先が示した方向を見やると、くそ真面目そうに授業を受けている宿敵の姿が。場所にしてやや左斜め後方、意外とお席ご近所さんでしたのね。場所が分かれば果たし状を書き終えて叩きつけるだけ……らくしょー、らくしょーこれで――あ、せんせーと目が合った。
「さっきからキョロキョロして、どうしたんだ?」
なんでもありませーん、さーせんでした。めちゃくちゃ睨まれながら「じゃあ授業に集中しろ」と言われました、なにも言えねぇー。なんともいえないビミョーな雰囲気を感じながらお隣へ
お昼休み、お気に入りの花壇にお水やりがてら中庭でお弁当もぐもぐ。今日もお米が美味いでごわす、いやーこれ以上身長伸びないで欲しいなー、この前何気なく測ったら184センチになっていたざんす。2センチ伸びてたわー、またバレー部かバスケ部に勧誘されてまうで、はぁー
「やっぱりせつ菜ちゃんの曲いいよね!」
「私、
「しずくちゃんの舞台も良かったー」
ちょくちょく小耳に挟むスクールアイドルアイドル同好会の評判、最近あちこちでライブしている影響か色んな子が語り合っていたり、動画を見ていたりしている姿をちらほらと。直近だとモデルをやっていることで有名な
「みんな、すごいよねー」
はえ? なんか隣から声が聞こえるぞ? しかも知っている人の。幽霊であれと祈りながら顔を向ける、
「驚かせちゃってごめんね?」
こっちに顔を向けて苦笑いする高咲さん、なんでこんなところにいるんですか!? いつも一緒におられる
いやいやいやあの高咲さん大好きな上原さんだよ? そんな別れ話みたいなことはないでしょ。え? まだ付き合ってないって? 嘘だろ、なんであんなにラブラブなのに付き合ってねーんだよ、私の恋を終わりにしたいんだよチクショー。そもそも同じ土俵に立ててないっていう禁句はなしね。身長184センチ、体重73キロの身体で泣いて転がるぞ。
「最近歩夢の背中がさ、遠くなっていく感じがしてさ」
少し自信なさげだけど、声音自体は明るい。「だから私も頑張ろうって思ってるんだよね」そう言ったあと、こっちに向かって苦笑い――したと思ってたら、急に
「本当はね、いつかちゃんと歩夢に恩返ししたいと思っているんだ」
気恥しそうに、照れくさそうにはにかむ高咲さん。「せつ菜ちゃんや他のみんなにも感謝しているけど、私にもやっと一歩踏み出す勇気ができたのは歩夢のおかげだから」本当にこれ私聞いていい内容なの!? マジで私の幻聴なら助かるレベルの発言をさっきから耳にしているんですけど。もしかしなくても耳なし
高咲さんが顔を上げた――までは見えたんだけど、なんか急接近してる「だから次、歩夢がライブするとき協力して欲しい!」バチバチの美人でイケメンな美少女が顔を間近に近づけて、おにぎりを持っているおててを優しく握ってきたらあなたはどうしますか? 私は呼吸が止まりました、鼓動も止めたいです。「歩夢のやりたいことを私はいつまでもそばで応援しているって伝えたい!」ものすごく真剣な眼差しが突き刺さる、本当に申し訳ないんですけど私ではなくて上原さんに向けてください。私には荷が重いというか、場違いだと思うんですよね……そもそもなんで私の前でガンガン上原さんに対する想いをぶちまけているの、それを本人に言えよ。
込み上げてくるあるそれを抑え込んでいる内に「…………あ、ははは、ちょっとアレだったよね」気持ちが落ち着いた高咲さんがすーっと離れていく。「今の話さ、内緒にしておいてくれる?」苦笑を漏らしても美少女だし、なんかサラッととんでもない重荷を背負う羽目になりました。これ墓まで持っていかないといけないの? 冗談抜きでなにゆえに私頼られているのさ、デカイ図体しか取り柄がないですわよ。
「ところで話変わるけど」
まだ解放されない……なんか話す話題あり「授業中、
なんとか
* * *
あちこちから部活とか同好会で活気盛んな声が聞こえる中、奇跡的にひと気がない屋上で待機。えー、あいつ来ないと暇なんだよなー。スマホでお馬さんでも見てよーかな、それとも秋とか冬に向けてお花を仕入れようかなー。
うだうだ手持ち無沙汰を潰す方法を考えていると、静かに彼がやってきた。「あ、ども……はじめまして?」こっちの顔色を
「仲がいいと言いますか、あちらからお声をかけてもらっているので……」
間髪入れずに「んで、間に挟まっていると?」努めてにこにこ笑顔でプレッシャーを全開。でもお断りするのは忍びない気持ち分かるし、私も同じ立場だったらそうするかも。それはそれとして腹を切ってお詫びしてもらうか、今ここで私にぶっ飛ばされるかの二択しかないですけども。
「あー、もしかして
「正確には上原さんのファンで上原さんと一緒にいてほしいのが高咲さんと願ってやまないただの壁です」
御影くんがすぅーと息を呑む。「その……自分も……上原さんのことが好きで……」……あれ、流れ変わったぞ。「上原さんが高咲さんのことを好きなのも知っています」御影氏の表情が異性に対する好意と失恋に近しい失意がない交ぜになった感じになっている。「自分も間に入りたくないんですよねぇ……」あーすっごい分かる、死ぬほど分かるわー、なんだ君も同志だったんだねー、でも許されない行為だねー。やっぱり一発殴りたいわ。
とか考えている内になんかゴソゴソと懐を漁る御影くん、スッと出てきたのはカッターナイフ……カッターナイフ!? なんで入ってるの? 流石に刃物ありの喧嘩はできないでごんざんすよ。
「なにしようとしているの……?」
生命の危機を感じながら問うと彼は何食わぬ顔で一言。「これで切腹しようかと」へー、切腹するんだ。はい? 切腹って悪いことしたお侍さんが腹を切って
「あの……できれば……いや……」
今度は
……よくよく考えたら、私も彼の立場になったら多分同じことをするだろうし、
「介錯してあげようか?」
サクッと声をかけたら御影くんが弾けたように見上げる――普段眠そうなのにめちゃくちゃ見開いてる。そもそも珍妙なことを言い出したの、そっちなんだけど。
「切腹するんでしょ? だから介錯しようかって」
「………………へ?」
顔に“予想外なんですけど”って書いてある、おまけにカッターナイフ落とすし。そこまで動揺しなくてもいいじゃん、お前は切腹したかったんだろ。「おーけー、今から首の骨折って介錯するね」無性にムカついたのでフロント・チョークをかまします、なお御影くんは大人しく受け入れてくれました。いや抵抗しろよ、お前の命は紙より軽いんか。
「あれー、イケナイ遊びをしている人がいるねー。
パッと彼を解放して、声が聞こえた方に顔を向ける。ふわふわ柔らかそうな雰囲気のニジガク生が一人――あ、この人、あちこちでお昼寝して健全を乱してるとか乱してないとかで有名な
「近江さん、これはパンクラチオンという競技でして、丁度その解説を受けてたところです」
さっきまで首を絞められてたのに、息を吐くようにするすると嘘ついている御影くんが今一番怖い。え、なにこいつ、人間なの? あとパンクラチオンってなに? 私、プロレスしてたつもりなんだけど。
「パンクラチオン……?」
先輩も困惑してるじゃん、プロレスって言った方がまだ話通じたって。「古代ギリシャの格闘技ですね、目つぶしや噛みつき以外の技ならなんでもアリっていう競技でしたよね?」おい、こっちに話題を振るな、なんなら助けを求める目で見つめるな。「そ、そうだね、その通りだよ!」ものすごく声が裏返ったし、
「へぇー、そうなんだねー。彼方ちゃん知らなかったよ~」
感心したように
「でもー、“首の骨を折る”っていうのはちょっとやりすぎだと思うなー」
ですよねー、聞かれていますよねー、だから登場なさったんですよねー。悪役レスラーのモノマネとか言って誤魔化す? いや通じるかなー、さっきの感じだとワンチャンありそうだもんなぁ……やりますか!
「悪役レス「すみません、嘘つきました。実は護身術の心構えを習ってました」え?」
慌てて御影くんの顔を見る、何事もなさそうだけど明らかに目が泳いでる。言い出しっぺのお前が動揺してどうすんねん、ゴリ押しもなにもないじゃん!
だけど先輩はなにも言わず御影くんと私の顔を見比べ、思案するようにゆるーくうなったあと、「そっかー、
「お稽古中にお邪魔してごめんねー」申し訳なさそうに眉を下げつつも私の方に圧をかけるような眼差しを向ける先輩。「玲くんのこと、いじめないでね」本能的に敬礼してイエッサーって言ってました。だって怖いんだもん、緩やかに笑っているのに鋭い眼光が走っていて。
「じゃ、彼方ちゃんはここでお
ふわふわ雲みたいにゆったり去っていく先輩、とりあえずなんとかなった? 御影くんと顔を合わせてほっとひと息、「あとで自分が説明しておきます」あー、そういえば御影くんと知り合いみたいだったね。ご近所さん?
「いえ、バイト先が一緒なんです」
「そのわりには、なんか仲いいね?」
「まぁ、たまに同好会の方にも顔を出してますので」
ほへー、そうなんだ…………はっ? 今、同好会の方にも顔を出しているって言ったよね? 確か近江先輩って上原さんと同じ同好会にいた気がするから――
「御影くん、確認なんだけど」
「はい」
「その同好会って、スクールアイドル同好会?」
「…………………はい」
御影くんは目をそらして答える、予想してたけど改めて聞くと殺意が沸く。なにしれっと上原さんと距離を詰めてんの、しばくよ?
「あの、切腹しますので」
再びカッターナイフを手に取ったので、今度は無理やり止めて話をまとめる。要するに私も御影くんも上原さんが好きだけど上原さんの幸せを願って身を引きたい、だから――「明日から二人で逃げない?」
「は、い?」
めちゃくちゃ困惑してる、そこは乗ってくれよ~。「二人で協力して逃げれば上原さんと高咲さんの間に挟まれないと思うんだ」とりあえずひと通り話せば、御影くんも納得したように頷く。
「ってことで、明日から逃げるよ」
「あ、自分、明日は……」
「じゃ、また明日ねー」
結局御影氏の顔は晴れない――というかますます困っている感じになっている気がしてるけど気のせい、気のせい。
あ、ちなみにここから先はダイジェストでお送りします。え、なんでかって? そりゃあ、見るも無残な失敗の数々だからですよ。
* * *
じゃあ記念すべき最初の実行日、午前の授業が終わるチャイムが鳴ったとき
少し思案したあとに「あ、自分……」と御影くんがなにか言おうとしたところで彼の名前を呼ぶ声がした。声の主へ顔を向けると、なんとびっくり
* * *
さぁて気を取り直して次の日――お昼ご飯が終わったらライフデザイン学科から肥料をパク……じゃなくて拝借しないとなー。ん? 目の端でなんか踊っている人が見えるような……あ、御影くんだ。なんで踊っているんだろ? …………これ集合の合図だったわ。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
後ろを錆びついたロボットみたいに振り向くと、上原さんと高咲さんが目の前にいらっしゃいました。御影? あいつはジェスチャー中に机の足に
* * *
本日(多分最初の逃走失敗から三日後ぐらい)は上手くスニーキングして学食に到着しました、今食券を手に御影くんと列に並んでおります。けどね、なんかおかしいんですよ……なんでかって、マンモスもいいところの虹ヶ咲の学食――しかも激混みの昼どき――に我々が視認できる位置に意中の人と意中の人の意中の人がいるんですよ、今日のおめめの調子悪いのかなー? あ、こっちに気づいた、終わったわ。
「二人も学食なんだ。良かったら、一緒に食べない?」
はい、二人仲良く上原さんと高咲さんとご相席になりました。殺してくれ。
「……って、なんでこんなにも失敗してんの!?」
放課後、
「多分なんですけど……自分たち、魂レベルで噛み合わっていないかもしれません……あと目立ってますし……」
「なので、もうその場のノリで攻めるしかないかと……」
おい、私の方がパワーありそうだなって目をするな。フィジカル勝負はそっちの得意……いや頭も良かったわ、私なに一つ勝てなくない? なんなのこいつ……?
「自分、突破力はないので……お任せしたいかと思いまして」
「最悪上原さんと高咲さんの間を突っ切ることになっても?」
「……そのときは腹を切ります」
「……一緒に死ぬ場所探すかぁー」
もう一度天を仰ぐ、いつの間にか蛍光灯が切れてた。
すぺしゃるべりーべりーさんくす
◎希望光(御影玲くんの親?)
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■お借り先
・『構わないで!上原さん』https://syosetu.org/novel/298695/
・『にじよん ~さいどえむ~』https://syosetu.org/novel/306446/
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