残り火の軌跡と、天秤を支える者たち   作:弾暴

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第六章:反響(エコー)する憎悪と、泥を被る覚悟

ゴォォンッ!!

像の足元から、出久がヴィランに殴り据えられ、血を吐く鈍い音が響き渡る。

「てめェら……ふざけんなァッ!!」

爆豪勝己の理性の糸が、限界を超えて千切れた。

掌に凄まじい爆発の火花を宿し、自らの命を人質にする市民のバリケードごと突破しようと地を蹴った、その時だった。

「動くなよ、雄英生」

突如、バリケードの死角から二つの灰色の影が飛び出し、爆豪と、彼に続こうとした轟焦凍の眼前に立ちはだかった。

裁定者の両腕を担う幹部。無良縁(むら えにし)と、灰燼炉(かいじん いろり)だ。

「少しでも妙な真似をすれば、後ろの市民たちが一斉に己の首を掻っ切るか、火ダルマになるぞ」

無良が冷酷に言い放つ。隣では灰燼が、指先からドロドロとした黒い煤を零しながら、轟に向かって三日月のように口を歪めて嗤っていた。

「お前のようなエリートの相手は、底辺のゴミクズである俺がしてやるよ、最高傑作」

分かりきった挑発。彼らは人質の命を盾にしながら、A組の主力である二人を広場の端へと強引に分断した。

「どけッ! 俺はあそこのクソ野郎どもをぶっ飛ばさなきゃならねェんだよ!」

爆豪は苛立ちと共に、牽制の爆破を無良へ向けて放った。

しかし無良はそれを躱そうともせず、真正面から手のひらで受け止めた。その瞬間、無良の腕の筋肉が異常に膨張し、血管が赤黒い光を帯びて脈打つ。

「……そっくり倍にして返してやるよ、『優等生』」

無良が拳を突き出すと、爆豪が放った爆発が、熱量も衝撃も倍増した凶悪な衝撃波となって跳ね返ってきた。

ドガァァァンッ!!

「がッ……!?」

自身の爆発を上回る理不尽な衝撃を至近距離で浴び、爆豪の体が冷たいアスファルトを激しく転がる。受けたダメージを蓄積し、増幅して撃ち返す個性『衝撃反射(ペイバック)』。

「……知っているぞ、爆豪勝己。俺は、お前のような奴を痛いほどよく知っている」

無良は、怒りと憎悪で血走った目を剥き出しにして、黒煙の中から立ち上がる爆豪を睨みつけた。

「恵まれた才能と強大な個性を持ち、他者を見下し、無個性や弱者をゴミのように踏み躙ってきた『いじめっ子』の目だ。俺の弟は、お前のような『優秀なヒーロー志望』に尊厳を壊された。最後は屋上から飛び降りて、一生歩けない体になった」

無良の言葉が、冬の突き刺すような空気よりも冷たく、爆豪の鼓膜と胸の奥を抉る。

「だが、学校も警察も、あいつを裁かなかった! 『将来有望なヒーロー候補生』の経歴に、傷をつけるわけにはいかないからだ! あいつは今でも、何食わぬ顔で正義の味方ヅラをしてテレビで笑っている!! そんなクズが、少し反省して立派なことを言えば、周りは『成長した』と持て囃す! ふざけるな!!」

無良の血を吐くような絶叫が、広場に木霊する。

「踏み躙られた側は、一生その呪いとハンデを背負って生きていくんだ! 謝罪なんてものはな、加害者が気持ちよく眠るためのただの自己満足だ! お前が今どれだけ立派なヒーローになろうと、過去に壊した心は元には戻らない! 『更生』という便利な言葉で過去をチャラにして、光の道を歩こうとするな! 許されると思うなよ、偽善者が!!」

それは、社会が都合よく目を逸らしがちな、加害者の「更生」に対する絶対的な拒絶。

かつて無個性の出久を虐げ、才能に驕っていた爆豪にとって、それは決して耳を塞ぐことのできない『過去の罪』そのものだった。

だが。

爆豪は、顔を伏せなかった。

口の端から流れる血を乱暴に手の甲で拭い、ひどく冷えた、しかし奥底でマグマのように燃え盛る鋭い紅い瞳で、無良を真っ直ぐに射抜いた。

「……あァ、その通りだ。俺は過去に、どうしようもねェ最低のクソ野郎だった」

言い訳も、自己弁護も一切しない。爆豪は自らの過去の『業』を、喉の奥から絞り出すように、真正面から肯定した。

「今更許してほしいなんて、これっぽっちも思ってねェよ! 過去の事実は消えねェ! 拭えねェ! 俺は自分が、勘違いで弱者を虐げた最低のクズだってことを、死ぬまで忘れるつもりはねェ!」

爆豪は掌から小さな火花を散らしながら、一歩、また一歩と、逃げることなく無良へ向かって踏み出す。

「だから俺は……一生その泥を被ったまま! 誰よりも勝って、誰よりも救けるヒーローになるしかねェんだよ!! てめェらのくだらねェ復讐劇のダシに、俺の背負った『業(モン)』を使うんじゃねェ!!」

「ほざけェェェッ!!」

激高した無良が、蓄積した爆発の衝撃を一気に右腕に集中させ、必殺の拳を爆豪の顔面へと振り下ろす。

しかし、爆豪はそれを新たな爆発で相殺しようとも、躱そうともしなかった。

「……ッ!!」

ドゴォッ!!

まともにその理不尽な衝撃を胸ぐらと顔面で受け止め、肋骨が軋む嫌な音を響かせながらも、爆豪は一切怯むことなく、無良の懐へと泥臭く踏み込んだ。

無良の個性が「物理的な攻撃の反射」である以上、こちらが力で攻撃しなければ、奴は反射のトリガーを引けない。

かつて、圧倒的な火力と才能だけで他者をねじ伏せていた驕慢な少年は、血まみれの両腕で無良の胴体をガシッと拘束し、己の肉体だけを頼りに、力技で地面へと強引にねじ伏せた。

「が、はァッ……! 放せ、クソガキ……!」

「だから、お前も……」

息も絶え絶えになりながら、爆豪は己の血で無良のローブを汚し、至近距離でその両目を睨みつける。

「過去に囚われて……てめェの弟の未来まで、壊してんじゃねェッ!!」

自分が過去に犯した罪の痛みを誰よりも知っているからこそ。

自らの体を代償にして、憎悪に狂う敵の暴走を力強く、泥臭く抱え込み、止めてみせたのだ。

冷たいコンクリートの上で、才能の申し子と呼ばれた少年の熱い血が、静かに天秤の狂気を押し留めていた。

 

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