一部の犯人をヴィラン化することで、推理で犯人を確定させるだけでは事件解決には足りないパターンが稀に発生するというハードモードに米花町は突入しました。
自分の携帯が震えるのを感じて懐から取り出せば『非通知』の文字が表示されてるのを見て、目暮は少しだけ重たいため息を吐き出した。
こういう時に非通知で電話をかけてくる人間は一人しか知らない。
そう。
数分前、爆弾魔から今度は東都環状線へと爆弾を仕掛けたという脅迫電話がもたらされ、慌ただしく本部に電話をかけていた…という危機的な状況で、警察よりも精力的に動く物好きなスーパーヒーロー。
「もしもし?」
『ぁあー…ん゛ん゛。こちらスパイダーコップ』
「やはり君か…」
スピーカーに切り替えれば、同じ部屋にいたコナンや昔の部下の毛利小五郎が何かを感じ取ったような顔をして近づいてきた。
「スパイダーコップ…?なんだ?水でも飲もうってのか?」
「警察って意味じゃないかな、おじさん…」
「毛利くん…」
「やーはは…ナハハハハ!…それで、何の用なんだよ子供警察が!」
誤魔化すように大声を出す小五郎に特に怯えることもなく、電話の向こうの子供はマイペースに話を進めていく。
『そう。見た目は蜘蛛男だが、ハートは警察官。鉄の男スパイダーコップ…時には水汲みだってする』
「子どものお遊びに付き合ってる暇はないんだがね?」
『えぇ!?…おほん。警部、線路の上に爆弾を確認した。こちらで解除解体してもいいがどうする?…市民の義務として一応通報しとくんだけど、警察がどうにかしてくれるなら嬉しいな〜って』
「なにっ!?…待て、君は今どこにいる!?」
『爆走する電車の下に張り付いてるけど…いい眺めだよ。女の子のスカートを下から見上げるときよりドキドキするかも。…待ってごめん今のなし。最低なジョークだった!ぶっちゃけ怖いんだよね!やっぱ蜘蛛だから、潰されそうな恐怖って弱いのかも!ああお客様!スリッパを振り下ろさないでください!蜘蛛は虫じゃないよ!』
なんてね、と気の抜けるような笑い声を聞きながら、コナンはその冗談めかしている声音に恐怖が紛れていることを聡く感じ取る。
マスクの下に隠したその人間性。
それを暴き立てるほどコナンは腐ってはないが、同時に高校生の自分よりも小さな子どもが命を張っているという世界観は、どこか受け入れにくい物があるのもまた確かだった。
『うーんこういう時のジョークってやっぱ難しいな…今度アメリカンジョーク集とか買おう』
「ジョークの勉強するスーパーヒーローってちょっと嫌かも」
『お、その声はさっきの夢のない自転車泥棒未遂くん!』
「やめてね」
『ところで爆弾見つけたはいいけど、警察の人はこれがどんな爆弾かもう突き止めてたりするの?それはもう顔が擦れるくらい近くで見てみたけどよくわからなくって!最悪ぶん殴って壊すよ!』
「さっきの爆弾の解除解体ってそういうこと!?」
文字通り顔が擦れるくらい近くで見たであろうスパイディの軽口に焦りはない。
爆弾が見つかったのだから、あとはもう大人が解除してくれるだろうという無条件な信頼が警察に向けられていた。
あと殴ればなんでもどうにかなるだろという、ちょっと出来の悪い頭から放たれる完璧な作戦のせいもあった。
そしてコナンはコナンで、爆弾の位置がわかったことでとある真実にたどり着く。
「線路の上?…日没…そうか!」
『え、なに?まさかほんとに謎解ける感じの探偵なの?君。サッカーボールで犯人ボコボコにするタイプかと思ってた!』
偏見がすごいな、と思いながらコナンは蝶ネクタイ型変声機を片手に博士の後ろに回り込む。
こうして、探偵とヒーローの協力により事件はあっという間に解決した。
物語のクライマックスはもうすぐそこに迫っている。
●
その部屋で、男は鏡と向き合っていた。
『どうやら、東都環状線の爆弾も無力化されたようだな…』
「くっ…」
『ハハハ、だから俺たちが直接やればよかったんだ!』
「そうだな…」
男のほかには、その部屋に誰もいない。
だがまるで、別の誰かと話すように…一人二役で鏡と会話するその男の目は落ち窪んでいるのに、瞳だけは爛々と輝いていた。
「ハハハ、そうだ…最初から自分の手でやればよかったんだ…」
口の端から涎がこぼれ落ちるのも厭わずに、男は懐から取り出した錠剤を数を確認せずに口に放り込んで噛み砕く。
『にしても、あの虫野郎…思った以上に目障りだ』
「念のためと手に入れていた流行りの薬のおかげであの場はしのげたが…」
『飛び跳ねる虫には、殺虫剤が必要だ』
「くくっ、それもとびっきりのな…!」
『ヒーローってやつは頭が悪い。最高のショーにしてやろう』
●
「くそっ!待て!」
「ハハハハ!!お遊びは終わりだ探偵ども!ここからはPARTYの時間だ!!!」
完全左右対称じゃないからという理由だけで火を放ち、火薬を盗み、爆弾を仕掛けるという狂気の犯人は森谷帝二だった。
それを推理で追い詰めたのはいい。
だが、確保する直前に大柄な警官2人を振り回し、手錠を引き裂く怪力を見せた森谷を確保することができなかった。
警官2人を気絶させた森谷は絵画の裏に隠していた仮面と鎧を着込み、さらには『グライダー』に飛び乗って、空へ逃亡。
今や米花シティビルは燃え盛る炎の中、上から爆弾を落としてくる森谷帝二改め『グリーンゴブリン』のせいで救助隊が近づけない難攻不落の監獄へと変貌した。
怪人の狂笑が夜の街に降り注ぎ、それを見上げるしかない人々は恐怖で顔を曇らせる。
───直後、街の住人が聞き慣れたクモ糸の音が爆発音を切り裂くように響き渡った。
「もう許さないぞグリーンゴブリン!!」
「HAHAHAHAHAHAHA!来たな虫けら!誘き寄せられてるとも知らずに!!」
「誘蛾灯にでもなったつもり?残念だけど蜘蛛に光に群がる習性はないよ!勉強…」
隙ありと言わんばかりに突入しようとした救助隊に向けてカボチャの爆弾が降り注ぎ、しかしクモの糸がそれを捕まえる。
「不足だったね!!」
そして、くるりと身を翻したスパイダーマンの動きに沿うように爆弾が飛び、グリーンゴブリンの顔へと叩き込まれた。
「舐めるな小僧!」
「そのダサいお面どこで売ってたの!?爆発に耐えれるなら僕も欲しいかも!この時期って爆発多いんだよね!春の風物詩ランキングがあれば花粉の次にランクインするくらいには!」
白い蜘蛛と緑の小鬼が空中で暴れまわる。
だが、爆弾は一つも地上へとは降り注がない。
「守るものが多いなヒーローは!」
「羨ましい?欲しくなったらいつでも言ってね、あげないけど!」
ビルにあらかじめ仕掛けられていた爆弾が爆発し、瓦礫が振り注ぐも、それに押し潰されそうな人間は少年が素早く回り込むことで救い出す。
だが、その度にもう一度空を自由に飛び回るグライダーに乗っているゴブリンへと追いつこうとすると、どうしてもロスが発生する。
爆弾、爆発、瓦礫、グライダーに取り付けられた槍による突撃。
障害物は多く、少年はどんどんと消耗させられていっていた。
「あーもうアクションゲームやってんじゃないんだよこっちは!」
「不自由だなぁ虫けらは!俺はどうだ!?この通り、自由で最強だ!」
「商品の誇張は犯罪───です!」
少年の放ったクモの糸が2機のドローンに吸い付く。
これは、ビルが低かったり、まばらな地域でも移動できるようにとある人物に開発してもらった丈夫なドローン。
ぐ、と思いっきり地面に向かって身体を落とし、その反動で少年は一気に空へと舞い上がった。
…その瞬間。
「特別製の殺虫剤だ!たんと味わいな!」
空中で無防備になった少年を包み込むように、ガスが広がり、少年の意識を暗闇へと引きずり落とした。
同時に、今日一番の爆発が起こる。
落ちる。
堕ちる。
オチテイク。
スパイダーマンが、悪党に負けて落ちていく。
瓦礫にまみれ、空中で溺れるように、無様に。
───人々がヒーロー以上に愛しているもの、それはヒーローが失敗し、転落する姿だ。
そんなグリーンゴブリンの声に、少年は心の中で同意した。
負けるその瞬間こそが、最も人々の興味を惹きつけることなどよく知っている。
そもそも少年はとある実験施設で生まれた出来損ないで、本物の力を真似るだけの偽物だ。
内に秘めたものを考えれば、なおさら愛されるスーパーヒーローにはほど遠い。
それでも。
───楽な状況なら誰だって勝てる。本当に大事なのは、苦しい時、もう無理だって時にどうするかだ
グリーンゴブリンの嘲笑を掻き消すように、託された思いが少年のなかで燃え上がる。
「…まだだ!」
視界が光を取り戻す。
地面はすぐそこ。
咄嗟の判断で瞬時に張り出した鉄骨へと糸を伸ばした少年は、自分と共に落ちる瓦礫を踏み台にして一気に駆け上がっていく。
すれ違いざまに瓦礫を糸で絡め取っていき、人々に危害が及ばないようにするのも忘れない。
「しぶとい奴め!!いい加減諦めろ!」
「それは無理だね!僕はスパイダーマン!悪党をぶちのめして、人を助ける!!それが使命なんだから!」
過去最高の速度で天へと駆け上った少年の拳はグリーンゴブリンの回避を許さない。
真っ直ぐ放たれた拳が、グリーンゴブリンの顎へと叩き込まれた。
●
仮面も鎧も奪い取られ、念入りにウェブで繭にされた森谷帝二が逆さまにされた状態で吊り下げられている。
彼を下に降ろすためにはしご車も警察官も準備万端で、この事件の収束は時間の問題だった。
そんな光景を、コナンは遠くから眺めている。
小さくなってしまったあの日の朝と同じように。
「───ケガは大丈夫なの?」
「平気だよ、慣れてるから」
「…そっか」
音もなく、自分の真上。
喧騒から少し距離を置くようにして、電灯の上へと現れたその人物にコナンは驚かない。
来ると思っていた。
スーパーヒーローが、コナンのような子どもが無茶したのを見て気にしないわけがないのだから。
「まさか君が爆弾を解除するなんてねー。本当にすごいよ。助かった。ありがとうね」
「…僕じゃなくて、蘭ねーちゃんと新一兄ちゃんのおかげだけど」
「ふぅん…ま、これで一件落着。君はよくやった。でもこれっきりにしとけよ?子どもがするには危ない仕事みたいだし、探偵って」
「それはお互い様でしょ」
「僕はいいんだよ。なんせスパイダーマン、だからね」
スパイダーマン。
その言葉が指すヒーローが消えて久しい。
ここ1年、新しいスーパーヒーローの登場に世間は沸いているが、そもそも
自転車泥棒やひったくり、暴漢の退治など、街の治安をささやかに守る、そんな小規模な自警団だったゆえに、警察に目をつけられることもなく街のご当地ヒーローとして親しまれていた彼。
そんな彼と同じような力を持ち、世間の注目を浴びるように精力的に犯罪者に立ち向かっていく新たなヒーロー。
区別するために“スパイダーキッズ”と呼ぶ人すらいる目の前の白い少年は一体何者なのか。
そんな疑問は、焦げ付いたスーツを見て消え去った。
あれほどの大怪我を慣れている、と言えてしまう子どもの覚悟は、ただ目の前の謎を解いてきただけのコナンには持ち得ない物だ。
なら、そんな中途半端な覚悟の人間が触れていいものじゃない。
「ねぇ」
「なに?」
何を言うべきか迷って、そういえばそもそも大事なことを伝えていなかったことを思い出す。
「みんなを助けてくれてありがとう」
「…どういたしまして!それじゃ、未来の名探偵との出会いを記念して!」
はいチーズ!と逆さまでカメラを構える不完全なスーパーヒーローと咄嗟のことで笑顔の途中のような表情になった小さくなった名探偵。
写真の出来にやいのやいのと言い合う二人は、どこか見た目相応で。
そんな二人を、青い満月が静かに見下ろしていた。
他の劇場版とか明美さんとかFBIとかコナンきっての悪女の灰原さんとか、露骨に繋がりを見せてる怪盗キッドとか。
やりたい話はあります。
書けるかはわかりません。
とりあえず、ここまでお付き合いくださってありがとうございました。
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