米花町には犯罪者が多すぎるって話。   作:ひつまぶし太郎

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世紀末の魔術師編です。
一部の犯人をスパイダーマンにヴィラン化すると聞いて、両方に詳しい人はすぐに想像したであろう誰かの登場です。
ちなみにスーツはマイルズのスーツの黒いところを白にして、模様の赤を黒に、最後にグウェン風のフードをつけでもらったらだいたいイメージ通りです。


6/世紀末に蠍と円舞曲を・上

 

初夏の大阪に夜空を彩る大輪が咲く。

 

「はぁ…」

 

ド派手で景気のいい光景。

眼下では何も知らない街の人達が花火にはしゃいでいるが、大阪城の天守閣の屋根の上という特等席で合図を待っている少年は特に見向きもせずに項垂れていた。

 

屋根の上というか、鯱の上。

もっと言うのなら鯱の尾の先に逆さまに体育座りするという離れ業*1を誰に披露するでもなく無意識に行う少年はため息をつく。

 

せっかく大阪に来たのに準備に追われてたこ焼きもお好み焼きも食べてないし、食い倒れ人形もカニ道楽も観光できてないな、とか。

どうせ花火を見るなら一人じゃなくて可愛い女の子と見たかったな、とか。

なんでそもそも僕は自分仕掛けた花火を見物しなきゃいけないんだよ、とか。

あ、あそこ配置間違えたからドラえもんの顔がぐちゃぐちゃになってる…とか。

 

夜空に大輪が咲く度に、他愛もない…どちらかと言えば普通に後ろ向きな感想が浮かんでは消えていく。

 

「………何やってんだろうなぁ僕…」

 

少年は白い姿を隠すために纏っていた黒いレインコートを脱ぎ捨てながら立ち上がり、疲れたようにもう一度ため息をついた。

 

肩と首が痛い。

それに連動してか、なんだかうっすら頭も痛い気がする。

まるで社会人のような疲労感を覚えていることにツッコミが入るかもしれないが、慣れない仕事で肩が凝るのは、スーパーパワーを持つ少年でも変わらないということなのだろう。

 

慣れないこと、というか。

花火を仕掛けたり、爆弾を仕掛ける手伝いをしていたり、人助けのためとはいえ普通に犯罪の片棒を担いでしまったのだけど。

 

少年は、普通に罪悪感で死にそうだった。

 

「スゥ───」

 

気持ちを切り替えるように鯱の上に逆立ちして、呼吸を整える。

 

…ここから先、少年がするのはただのマッチポンプだ。

とてもではないけれど感謝は受け取れない。

だが、罪悪感で足を止めてしまっては、それこそとんでもないことになる。

 

やるしかないのだ、と少年が気合いを入れるのと時を同じくして、発電所が爆発し、浪速の街が暗闇に落ちた。

 

合図だ。

そう理解している少年はくるり、と天守閣から身を投げる。

 

上下があべこべになり、臓腑の浮き上がる浮遊感は、大人になりたい少年が未だに克服できていない物の一つ。

それでも。

その恐怖と仲良くする方法なら知っていた。

 

「僕はスパイダーマン。…なら、楽勝だろ?」

 

───花火が咲き乱れる大阪の街を白い蜘蛛が走りだした。

 

突如停電し信号が消えたことで飛び出したトラックを受け止めることで停車させ、事故を既のところで回避する。

 

停電したことに気づかず道路へと踏み出した泥酔状態の男性は安全な位置へ。

 

パニックになりブレーキではなくアクセルを踏んでしまった車に糸を貼り付けて玉突き事故を未然に防いで、すぐに糸を切って次。

 

「自分で撒いた種、自分で撒いた種…!頑張れスパイダーマン、負けるなスパイダーマン…!お前の尻はお前が拭え!」

 

自責の念で押しつぶされそうになりながら爆走する少年は、ほぼ反射と変わらない速度で片っ端から人助けを行っていく。

これも普段の行いの賜物だな!と、喜ぶ暇もない。

 

混乱に乗じて宝石店の窓を破ろうとする強盗を通りすがりに捕縛して、落ちた吸い殻を踏みつぶして火事を防ぎ、踏切は一旦糸で通れないように封鎖。

 

正直まだ後ろ髪引かれる思いはあるものの、少年は上空を通過していく自分よりも白いその影を追いかけるようにしてビル街を抜け、そして。

 

 

「───来ると思ってたわ、スパイダーマン」

 

 

怪盗キッドを撃ち殺そうとするその女に向かって本気の拳を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

少年が本気で振り下ろした拳がコンクリートを砕き、ビルの屋上にわずかにヒビが入る。

 

「…やぁ、スコーピオン。いい夜だね」

「ええ本当。まさか真面目な坊やが怪盗キッドと組んでまで私を招待してくれるなんて思ってもいなかった」

 

不意打ちを躱されたことに舌打ちしたいのをこらえて、苦々しげに立ち上がる少年に向かってその女は嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

───怪盗スコーピオン。

 

元々その女は、ただロマノフ王朝の宝をつけ狙う怪盗だった。

執拗に右目を狙うこと以外は特別なにか他の犯罪者と違いがあるわけでもない、そんな程度の存在。

 

そんな物騒な怪盗というか、強盗が米花町に来たのがちょうど1年前。

少年は、顔を隠したその女を通りすがりに確保した。

米花町ではよくある、ありふれた犯罪者と同じような末路だったと言えるだろう。

 

問題はここからだ。

その女は、警察官の拳銃を奪い取り、殺害。

行方も不明、顔も不明。

性別が女であるということ以外は不明のままスコーピオンは米花町で消息を絶ってしまったのだ。

 

そして、次の邂逅で少年は手も足も出ずに完封され、死にかけた。

 

「ああ…思い出すわね。私が生まれ変わって初めての熱い夜」

「忘れたことはないよ、僕だってね」

 

少年は、背後から振り下ろされた鋭い一撃を見ずに回避して、スコーピオンを睨みつける。

 

毒針が仕込まれた鋼鉄の尻尾。

音もなく動き、黒くて視認性も低い。

そんなサソリの名前に違わない、凶悪な武器をスコーピオンは自分のもとに引き寄せた。

そして、怪しい手つきで見せつけるように撫で回した。

 

「ふふ…懲りない坊や。もう一度毒で犯して…前でも後ろでも遊んであげようかしら」

 

少年は、その悪意にまみれた瞳に全身を舐め回すように見つめられ、何故かぞわりと熱くなる身体を抑え込むように走り出す。

 

「前回は初めてを貰ったし、今度は美術館に展示してあげる。私専用のね!」

「子どもの剥製趣味とは恐れ入ったよ。もうお宝と死体の区別もつかないくらい目が腐っちゃった?───おばさん」

 

拳銃から銃弾が放たれる。

それをすり抜け、足を払えば尻尾を第三の足のようにして身体を持ち上げたスコーピオンに回避され、踏みつけられる。

ヒールの先が少年の呼吸を阻害し、しかし続けざまに振り下ろされた毒の尾は少年の左腕が引き寄せた廃材に弾かれた。

 

「やっぱなんか僕も武器欲しいかもなぁ!」

「ぐぅ───!!」

 

弾いた勢いのまま、少年は躊躇なく顔の上半分を隠した女の顔面に廃材を叩きつけ、緩んだ拘束から抜け出し、尻尾に手をかける。

 

「だからそれ頂戴!」

「あら、欲しがりなのね」

 

引き千切るために力を込めるよりも早く尾がバラけ、少年の手が虚空を彷徨う。

それに驚愕しながら、少年は咄嗟の判断で思いっきり地面を転がった。

 

だが、間に合わない。

 

「ぐえ!ちょ…撃ちすぎだっての!ピアッサーでピアスするタイプ?病院行ったほうがいいよそう言うの!素人がするとろくなことにならない…からぁ!」

 

右足、太もも、肩、お腹。

焼けるような痛みが少年の心を竦ませ、白いスーツが赤く染まる。

ひっくり返った世界で、バラバラになったはずの尾が組み上がる音がして、少年の第六感がかつてないほどの警告を発してくるがもう遅い。

 

「さぁ、お仕置きの時間よ坊や」

 

動きの鈍った少年を蠍の尻尾が打ちのめし、叩きつけ、足を捕まれ壁にめり込まされた。

剥き出しになった配電盤からの漏電で少年の身体は自由を手放し無様に踊り、しかし感電を恐れてスコーピオンが尻尾から離した隙に錆びついた身体を無理矢理繋ぎ止めて走り出す。

 

上からの叩きつけを躱し、糸で尾を拘束。

糸が引き千切られる音を聞きながら前へ飛び出した少年は、そのままスコーピオンの顔を殴りつける。

 

「───!!」

 

今度はスコーピオンが壁に叩きつけられ、それに追い打ちをかけるように二本の糸で加速した少年の飛び蹴りが彼女を打ちのめす。

 

回避はもう少年の選択肢にはない。

選ばないのではなく選べない。

少年の命はまさに風前の灯だった。

 

「づぁ゛ぁ゛ぁ゛…!」

 

再連結した尻尾に腹部を抉られ、たたらを踏む。

負けじと糸で引き寄せた鉄骨を思いっきり振り下ろすことで尻尾の関節を一つ破壊し、距離を取ろうとするスコーピオンに容赦なく蹴りを放った少年は、そこでついに息切れを起こして崩れ落ちた。

 

「……はぁ、ふぅ゙…ほら立てスパイダーマン…こんなの…ハ…慣れっこ…っ゙…だろ?」

 

銃弾と電流と殴打、そして尻尾の先端から滴る毒。

容赦ない攻撃に曝され、ついに動けなくなった少年の足を嫐るように尻尾で突き刺して持ち上げ、トドメとばかりにスコーピオンはその腹部に注射器の先端を押し付けた。

 

「………げほ、ごほっ……自切も…できるとか……ずるくない?」

「あなたをびっくりさせたかったの。デートのためにサプライズを用意する女は嫌い?」

「涙出そうなくらい嬉しい。……とりあえず…優しくしてくれると、嬉しい…かな、とか言ってみたり」

「ふふっ、だめよ…だって、私、あなたのこと殺したいんだから」

 

神経を犯す毒薬が少年の身体を侵し、痺れ、思考に霧がかかる。

 

だが、少年は覚束ない意識をギリギリで繋ぎ止めてあらかじめ決めていたとおりに口のなかに仕込んでいた薬を噛み砕───「しっかり味わいなさい」こうとして、それすらも奪われた。

 

女の舌が、口元のマスクだけを捲られた少年の口内を蹂躙する。

弱々しく抵抗しようとする少年の舌を組み伏せ、奪われた解毒薬の代わりに女の唾液を流し込まれ、少年は前後が不覚になる。

 

 

───蠍による死の口づけで意識が暗転する直前。

 

 

フラッシュバンの閃光と、必死な誰かに抱きしめられたことだけが少年の知覚できた全てだった。

 

 

*1
スパイダーマンの能力は壁に張り付くこと。そこに指だけとかの制限は実はなかったりする




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
作者の癖丸出しな一話でしたが、一応必要な流れではあったんですという言い訳をしておきます。
感想や評価いただけるととても嬉しいです。

■スコーピオン
元々は私立探偵だったが、色々あって人体改造され蠍の力を得るかわりに心が邪悪になってしまった。
スパイダーマンではかなり有名なヴィランであり、何度もスパイダーマンを倒していたりする。
あと実はスコーピアとかいう女性版の蠍もいる。
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