ただ人でありたくて   作:メめ

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九話 そうそう、この子仲間に加えたってや

 

 

 

 ボク、アンダーテイカーのアジト。という名の納骨堂。

 

 ただ今回は可愛い可愛いお客がいる。

 そのお客様のために突貫で増築した。具体的には、洞窟の横壁を崩落させないように注意しながら掘削して簡素な部屋を作った。ベッドとかは元々置いてないから、実家の倉庫から非常用の布団やら毛布を拝借してきた。いつか返せたら返そうと思う。ボクの部屋に置いといた奴やしええやろ。多分。

 

 いつもなら、お昼頃にアルファちゃんがボクの様子見に来たりするし。そん時にこの子の処遇について決めようと思っとる。

 

「…………ん。くっ」

 

 声が聞こえた。顔を向けると、少女が体を起こして背を伸ばし──ボクを見て一瞬で距離をとった。判断が早いわぁ。

 

「誰!」

「誰って……まあ、夜やし。相当疲れてはったみたいやからあんま覚えとらんか」

 

 少女はあまり夜のことを覚えていなさそうだ。

 まあ、それはそうだ。かなり疲れているみたいだったし、正直もう体力を回復させて起きるなんて思っとらんかったもん。

 

「……まさか」

「お? 思い出したか?」

 

 猫耳の少女がボクの襟首を掴んで詰め寄る。青紫の瞳が澄んでいて綺麗やなぁ。……って、そんなこと考えとる場合やないな。

 

「弟は、弟はどうなった」

「……」

 

 弟。……この子が大事そうに背負てた子か。

 

「……ごめんなぁ。ボクが手を尽くす前に逝ってもうたんよ」

「……! …………そう、か」

 

 少女が力無く崩れて手を離した。……傲慢かもしれんけど、不憫な子や。

 こんな悲劇なんてこの世界じゃありふれとる。せやのに、ボクは彼女に同情している。

 

「……お嬢さん。弟くんはもう亡骸やけど、一応まだ送っとらんから綺麗に保管してある。……挨拶してやってくれ。キミの弟くんも、その方がきっと嬉しいやろうから」

「……死んでいるのにか」

「ああ、死んでいてもや。……お別れも言えん。言ってもらえんなんて、そんなの悲しいやんか」

 

 せっかく遺体があるんやから、遺族が「さよなら」と。「いってらっしゃい」と言ってくれた方が送られる側も嬉しいに決まっとる。……だって、彼らも元は懸命に生きた命なんやから。

 

「……わからないな」

「わからなくたってええ。ただ、亡くなった人のために送る気持ちは大切やとボクは思うで」

 

 見た感じだと、彼女とボクの歳はそう変わらない。

 ボクだって十歳ぐらいの時には意味なんてわからんかった。でも、確かに。

 確かにその行いに。弔うという行為にボクは優しさを感じたんや。

 せやから、きっと。仏さん達も迷わずに逝ってくれる。ボクはそう信じている。

 

「……挨拶、させてくれるかい」

「勿論ええで。でも、これだけは護っとくれ。そこに命はないかもしれん。ないかもしれんけど、彼らは懸命に生きた者の残滓なんや。敬意を忘れずにな」

 

 ボクは少女を納骨堂の方へ案内した。

 

 

 

 

 

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 納骨堂はいつでも骨壷が置かれ、骨壷には似顔絵と名前が分かる者は名前も書いて、どの地域に住んどるかがわかれば夜な夜な走って遺灰を届けに行く。

 そのための準備を行なわれる場所。その中心にスライム棺桶があり、少年はその棺桶の中で静かに目を閉じて眠るように横たわっておる。

 

「……本当に、死んだんだね」

「ああ。ボクがキミを助ける頃にはもう……な」

「……そうか」

 

 握り込む手が痛々しくて、とても苦しそうだった。

 

 だからやろうか。ボクを中心にスライムスーツを広げて天幕のようにして少女と弟くん、ボクだけの空間にする。

 気が強かったり、プライドが高いやつは誰かがいると泣けんから。

 

 さて、ボクは先に出てくかね

 

「少し、弟くんと二人きりに、っと。……どうしたんや」

「……」

 

 ボクの胸に顔を埋めて、服の裾を掴む。……離してくれそうにないな。

 

 ボクは置いてった側やから、置いてかれた側の気持ちなんてわからん。せやけど、人肌が欲しくて。慰めが欲しいんなら。優しく抱きしめて、落ちつくまで背中なり頭なりを撫でてるとええんやろか。……わからんなぁ。

 でも、多分そうした方がええよなぁ。

 

 少しすると嗚咽が聞こえてきた。……今はいっぱい泣くとええ。

 涙は痛みも悲しみも苦しみも溶かして外に吐き出してくれるもんなんやから。

 

「……今は、気にせずいっぱい泣くとええで」

 

 ボクは少女が泣き疲れて眠るまであやし続けた。服はびちょびちょになった。

 

 

 

 

 

 

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 泣き疲れて眠った少女を布団に寝かしつけて、魔力で高熱を発生させて服を乾かし。ボクのとこに来たアルファちゃんに事情を説明した。

 

「なるほど。アンダーテイカー。貴方が彼女を治したと」

「まあ、たまたまうまくいっただけやけどな」

「充分よ。だって、感覚だけでやったのなんてシャドウと貴方だけなのだから」

「せやけどなぁ。多分、本当に運が良かっただけなんよね」

 

 布団で眠る猫耳の少女は本当に運が良かっただけに思える。だって、ボクはそんなに精密操作は得意やないから。

 

「それに、ボクは葬儀屋。キミたち的には死神みたいなことしとるからさ。是非、ガーデンの方で面倒見て欲しいのよね」

「私は別に構わないのだけど、彼女はどうかしら」

 

 アルファちゃんが静かに眠る彼女に視線をやる。

 

「断言できるんやけどな。彼女はどうやっても復讐に手を染めると思うんよ」

「それはどうして?」

「肉親が殺されて、自分も死にかけたんやで。普通の感性もっとる奴なら、復讐したい思うんは当然やろ?」

 

 自分から当たり前の日々を、そこにあった幸せを奪われたら報復したくもなるのが生き物の性。

 ならば、彼女が復讐の道を選ぶのは当然と言えば当然の道。

 せやから、ボクは先に話を通しておこうと思った。

 

「……ん。……私は」

「お目覚めかしら」

「……君は」

「私はアルファ。魔人ディアボロス復活を阻止する組織、シャドウガーデンのアルファよ」

「シャドウガーデン……」

 

 さて、アルファちゃんが話ている間に、ボクは火葬の準備でもしましょかねー。

 

 スライム棺桶を持って外へ行き、魔力探知で生体反応を探す。……特に僕ら以外にはなさそうやな。

 でも、火葬はもうちょっと待つか。

 

 

 

 しばらくすると、アルファちゃんと猫耳ちゃんが出てきた。

 

「猫耳ちゃん。一応、キミの弟くんをこれから送ろう思うけど……どうする。見届けてくか?」

「……ああ。ちゃんと、見送らせてもらうよ」

「りょーかい。……ほな、焼くで」

 

 魔力を放出。からの一気に手元に圧縮して再度発散、すると、超高熱の魔力波が生まれて遺体に超高温の火をつけて燃え始める。

 

 それをボクらは静かに見守っていた、

 

「……よう生きたな。もう苦しまずに、天へ昇ってき」

 

 煙と共に、どうか。キミの死後が安らかであることを願ってるで。

 

 

 

 

 

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 それからしばらく経って、猫耳ちゃんがボクのアジトに姿を見せた。

 

「アンダーテイカー。久しぶりだね」

「ああ、久しいなぁ。名前、もらったんやろ」

 

 猫耳ちゃんは、スライムスーツに身を包みボクの納骨堂へ足を踏み入れる。

 アルファちゃんの時は凄まじい嫌悪感を感じたんやけど、猫耳ちゃんか入っても嫌悪感はそこまでない。一体何の違いがあるんやろうか。

 

「ゼータ。シャドウから、そう名前をもらったよ」

「左様か。なら、リリムって名前は卒業か?」

 

 リリム。猫耳ちゃんの本名で、しばらく前。シドんとこに行く前に聞いた彼女の名前。

 

「うん。しばらくは使わないかな。少なくとも、この報復が終わるまでは」

 

 ……やっぱり復讐の道を行くか。まあ、それもケジメの付け方やし。ボクがアレコレ言う資格はあらへんけど。

 

「ってことは、ガーデンに入ったんやな。……これからよろしゅうな、ゼータちゃん」

「こちらこそ頼りにしてるよ。アンダーテイカー」

 

 猫耳ちゃん。ゼータちゃんは初めて会った時の印象など消えて、とても紳士然とした振る舞いでボクに手を差し出した。

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