ただ人でありたくて   作:メめ

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十一話 クレアが攫われた? えらい強いピーチ姫やな

 

 

 

 シャドウガーデン設立から三年ぐらい経った。

 ボクとシドが十三歳に。そしてクレアさんが十五歳になった。

 十三歳という年齢に特に意味はないけど、十五歳という年齢にはそれなりに意味がある。

 

 貴族は十五歳になると三年間ほど王都の学校に通うことになっとる。クレアさんはカゲノー男爵家期待のホープ。カゲノー夫人が張り切って送別会とかやり、クレアの婚約者ってこともあってその送別会にはボクも呼ばれた。

 かなり大きな宴会で。クレアさんと離れる前に模擬戦をやることになった。

 

 結果はボクの判定負け。

 

 ボクは結局ブシン流に馴染めず、思うがままに剣を振り回す我流の剣を使うようになった。

 基礎的な動きもない。剣術とも呼べないような剣。

 

 一応、アンダーテイカーの時みたくガッツリ三足歩行ではなく、腰を落として重心は低く保ちながら担ぐように剣を持つ。そんな独特な剣。空いている左手はそのままだらりと下げたまま。剣を体で隠しながら。持ち手をいつでも変えながら変則的な動きをする剣撃をするようにした。シド曰く、なんちゃって剣振り。らしい。

 

 まあ、そんな剣でも破壊力だけはあるので。持ち前の素早さでクレアさんの剣だけ攻撃していたら判定負けした。

 クレアさんには、「なんで体に打ち込まないの!」ってキレられたけど。んな嫁入り前の女の子に剣を打ち込むのは気が引けるわけで……

 まあ、そんなこと言ったってクレアさんは怒っとったけど。

 

 珍しくパパンこと、ボクの父様。当主のヨアシュ・カソウも顔を出して送別会に参加してとった。せやけど、パパンはやることがある言うて先に連れて帰ってもうた。

 やのに、相変わらずボクとメバチさんはカゲノー家にお預けされた。なんでも、家で大きな手術せないかんらしいから、パパン以外は出払うことになっとるんやと。

 

 いつものようにカゲノー家に世話になりつつ、ボクは夜を明かした。

 

 

 

 しかし、いざ王都に出立するその日になって、クレアさんは失踪した。

 ……で、現在カゲノー男爵家は大騒ぎだ。

 

「俺が部屋に入った時には既にこの有様だ」

 

 ダンディな声でカゲノー男爵が言う。

 

「争った痕跡はないが、窓が外からこじ開けられている。クレアも俺も気づけなかった、相当な手練れだな」

 

 ハゲてはいるが、カゲノー男爵も優秀な魔剣士。そして、そこそこ頭がよく状況判断も早い。パパンほどではないが、地元では二〜三番目ぐらいの強さだったと言う。

 声も良くて顔も悪くはない。…………これで髪さえあればなぁ。

 

「で?」

 

 カゲノー男爵に凍えるような声がかけられた。

 相手はそう、カゲノー夫人。

 

「相当な手練れだから仕方ない、そういうことかい?」

「そ、そういう訳じゃなくてね、ただ事実を述べたまでで……」

 

 頬に冷や汗を流しながら親父が答える。

 

 次の瞬間、

 

「このハゲェェェエエエ────!!!」

「ひぃ、す、すいません、すいません!!」

 

 ……カゲノー男爵家は女が強い。

 そして、なぜかみんな男爵に対して当たりが強い。

 

「カゲノー夫人。あまり男爵に怒りましても」

「ええぇ?」

「イヤ、アノッ。……なんでもないです。ハイ」

 

 そして、ボクに対しても遠慮なくキレるからおっかない。

 

 まあ、シドは知らんけど。昨晩はボクは夜の森とかを見回りしてたしなぁ。昨晩は猛獣に襲われた人がおったから、助けたついでに治療して家に送り届けたり。

 野営してた商人がチンピラに絡まれとったからチンピラ撃退したりしてたからなぁ。

 昨晩は仏さんが居ないええ日やったからなぁ。明け方は気分良くぐっすりやったで。……まあ、一時間も寝てんけど、もう慣れてもうた。

 成長ホルモンとか大丈夫なんやろうか。心配になってきたわ。

 

 クレアさんの件はどうせボクにはどうしようもできんし、シドに続いてさっさと部屋から出るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 貸し与えられてる客室に入ると良く知った匂いがする。……メバチさんはおらんし、出てきてもらっても問題ないな。

 

「居るんやろ、ゼータちゃん」

「気がつくのが早いね。流石はアンダー。主の理解者なだけある」

「理解者ってほどでもないんやがなぁ」

 

 あのアホの思考なんて一生わからんし、わかるとも思わん。

 ただ、あの色々考えてそうで結局単純な結果に行き着くから結果がわかるだけで、思考の過程なんぞ知らん。

 

「……どうせクレアはんのことやろ? やっぱり教団絡みか?」

 

 クレアさんは以前、魔力暴走を起こしかけていた。だが、その魔力暴走はただ体調不良とかやない。ガッツリ悪魔憑き特有の波長を持つもので、シドとボク、クレアさんの三人で仲良くストレッチしながら元の状態に整えたことがある。

 それをどっかから聞きつけて、教団がそれを把握。そっからクレアさんを攫いにきたんやないか。っちゅうのが、ボクの推測。

 

「正解だ。流石だね」

「思い当たるもんがあるからな」

 

 まあ、あっとるよな。

 ……しっかし、その情報はボクとシドぐらいしか知らんはずの情報。

 

「……警戒せんと不味いな」

「そうだね。本来なら、シャドウとキミ。あるいは近くにいた人しか知らない情報が教団へ持ち込まれた。と言うことは」

「ああ。ボクらのすぐ近くに奴らは潜んどる。……全く、面倒なやっちゃなぁ」

 

 かなり近くに潜伏していふ可能性が高い。しかし、シドとクレアさん、ボクの三人で剣の鍛錬なんて別に珍しいもんやない。あれからはクレアさんもストレッチをするようになってとる。

 

 あの時、ボクらを見ていたんはメバチさんとカゲノー家の使用人の数人。流石に顔は覚えとらんけど、メバチさん含めても四人も居たかどうかだ。

 

「すごく真剣そうだ。やっぱり、自分の婚約者が攫われたとなると、かなりイラついたりしてる?」

「いんや。見えん敵が近くにいる言うことは、後ろからボクらの喉元に短剣突きつけられとんのと変わらん」

 

 いつだって恐ろしいのは見えない敵だ。

 どこに潜んでいるかわからないから下手に動けない。

 下手に動けば喉元に突きつけられていた短剣がボクらの命を刈り取りに来る。そんな恐怖感に支配されれば疑心暗鬼になって人間関係は崩れてガーデンはお終い。運が悪ければ、ガーデンはディアボロス教団に触れることもなく内部分裂で壊れてお終い。

 

 シドのアホの陰の実力者の盟友ムーブをしなくても良くなって、余計な胃痛と頭痛の心配がなくなるんはボクにとっては好都合。

 せやけど、アルファちゃんを始めとして、ベータちゃん、ガンマちゃん、デルタちゃん、イプシロンちゃん、ゼータちゃんに五ヶ月前に入ったイータちゃん。みんなボクの手の届く範囲にいる大切な友達。

 

 そんな友達が争ってお互いに傷つけあうのをボクは見たくない。

 

「ガーデンが危険にさらされていれば、自ずとボクも危険になる。なんたって、ボクも教団を単独で強襲するのともあるしな。そんなやつ、教団が見逃すわけがないやん」

「必ず報復に来るだろうね」

「そ。なら、やるのとはわかっとるやろ? ゼータちゃん」

 

 やるのとはただ一つ。

 

「手伝ってくれるか?」

「アンダーの頼みだからね。勿論だ」

 

 さあ、身の回りの人らの情報を洗おうか。

 

「ゼータちゃんは、ボクの周り。ボクはガーデンの周りと、近隣住民の調査で行くか?」

「その心は?」

「身内を調べるとなると、贔屓があったりするかもしれんやん。身内だからこそわかることもあるかもしらんけど。身内だからわからないこともある。なら、第三者のゼータちゃんに頼みたい」

「アンダーは、シャドウガーデンの部外者だからこそ。シャドウガーデンを調べるし、この屋敷の近隣住民を調べる。そういうことか」

 

 話の理解が早くて助かるわ。

 

「そ。やっぱり、話の飲み込みが早くて助かるわぁ」

「お褒めに預かり光栄だ」

 

 今から……は、ボクが動けんしなぁ。

 どうせ、教団絡みならアルファちゃん当たりが早々に察して、今クレアさんの居場所を探し回っとることやろうし。

 ディアボロス教団との接触、接敵も時間の問題やな。

 

「でも、まずは決戦に備えよか」

「そうだね。アルファも主も動いている。アンダーの婚約者の特定も時間の問題だろうさ」

「そら頼もしいこって」

 

 シドが動くのかぁ……面倒ごとの予感しかせぇへんなぁ。

 

「婚約者が攫われるとはね。無事だといいね」

「まあな。死なれたら目覚め悪い」

 

 …………てかさぁ。

 

「なんか、さっきから言葉に棘がない?」

「気のせいじゃない?」

「……ほな、気のせいか」

 

 ホンマに気のせいなんやろか。

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