ただ人でありたくて   作:メめ

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十五話 いつも通り過ごすんが一番。緊張は伝わるもんやからな

 

 

 

 クレアさん救出した翌日の昼。

 実家に帰る前にシドの自室でボクはシドとお茶を飲んでいる。

 いつも元気でボクを見かける度に剣の勝負を挑んでくるクレアさんは、医者の元へ行っていろいろ検査を受けとるからとても静かや。

 

 実際攫われとったしね。家の前に棺桶に入れて寝かせとはおったけど、いろいろ疑って検査をするんは当然やしな。

 

「ほんでな。身内に内通者がおることがはっきりした。目星もついとる。その内通者の身辺調査でゼータ借りるで。あと、ボクも調査に出るから緊急以外では呼ばんといてな」

「わかった」

 

 本当にわかってるんやろうか。……わかってないんやろうな。

 

 今目の前にいるのはシャドウではなく、シド。ガーデンの子ら的には一般人をしている状態のシャドウということになっている。

 まあ、ボクも家族の前だけなら擬態するし、猫被るからあんまり人のこと言えんけど。

 

「なあ、シドはん」

「どうかした? ああ、淹れてくれた紅茶は相変わらず美味しいよ」

「そらよかった。好みにあったみたいでよかったわ。でもなぁ、そないなことより先に言いたいことがあんねん」

「なに?」

 

 ボクが今のシドに言いたいこと。まあ、シドに対して言いたいことなんてたくさんある。

 たくさんあるけど、これは言っとかないかん。

 

「しくじったらごめんな」

「? 失敗したなら失敗したで構わないさ。でも、想像つかないな。ヒツギが失敗するなんて」

「買い被りすぎちゃう?」

「そんなことはない。ヒツギは僕が求める以上のことをいつもやってのけるんだから」

「嬉しいこと言うなぁ」

 

 多分、ボクが欲しい意味では言っていないんやろうけど。少し嬉しいわ。

 

「ま、そう言うことやから。じゃあな」

「うん。頑張って。期待してるよ」

 

 紅茶を飲み干して出ていくボクにシドが後ろから声をかける。

 期待してるね。……一体何を期待されとるのかはわからんけど、悪い方向に行かん様に気をつけないかんなぁ。

 

「ゼータちゃん。後で合流しよな」

「はーい。先に行って待ってるよ」

 

 昼間でまだ陽が高いのに闇に溶けるように消えるゼータちゃん。生体反応は物凄い勢いで移動しているし、向かう方向的にボクの実家の方。行動が早くて助かるわぁ。

 

 シドの部屋から出て、玄関の方まで行く。玄関外ではメバチさんが待機しとる。魔力探知と生体反応の確認は常に行っとるし、外から盗み聞きされたりはしてない。

 

「お待ちしておりました。ご帰宅のご用意は済んでおります」

「すみません。わがままを言ってしまって」

「それを可能な限り叶えるのも、従者の役目ですから」

 

 でも、あんさんは、……。ボクらの敵かもしれんのやろ。

 

「どうかなさいましたか?」

「……なんでもありません。少し考え事があるだけです」

「左様にございますか。どうぞ中へ。お悩み事、お考え事であれば、移動中でも出来ます。わたくしに協力できるものであれば、何なりとお申し付けください」

「はい。必要があれば頼らせていただきます」

 

 正直に話すと、メバチさんには聞きたいことが山ほどある。山ほどあるけど、直接聞くことはできん。

 

 馬車の中に入って、椅子に座る。

 少しすると、馬車は動き始めた。

 

 ……さぁ、行こうか。敵地へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何事もなく帰宅して、パパンに挨拶して自室に戻る。……よし、使用人らの生体反応はどこにもないな。

 

「……出てきてもええで、そこにおるんやろ。ゼータちゃん」

「……」

 

 天井裏にある生体反応。魔力で聴力を上げれば聞こえる微かな息遣いと心音。そして、ゼータちゃん特有の匂い。

 

「……おとなしく出てきてくれん?」

「やっぱり気がつくのが早いね」

「ボクの得意分野やで。索敵、偵察、隠密は」

 

 最近やっとらんかったけどね。やる必要も理由もないから。

 

「はぁ。これでも上達したと思ったんだけどね。シャドウとアンダーにはバレバレか」

「まあ、ボクとシャドウがおかしいだけな気もするけどな」

 

 ボクは自分の身体性能やけど、シドの奴は鍛えたとか言っとったからなぁ。それに魔力探知とかもあるし、バレるやろうなぁ。

 

「先に到着しとったみたいやけど、何かわかった?」

「なんにも。そこそこ警備が厳しくてね。医療器具とか、薬を取り扱ってる家系だからかな。盗まれたりしないように薬品庫とかは警備が厚い。あとは、単純に使用人の巡回ペースが多くてね。簡単に探索は出来なさそうだ」

「あんまし疑って見たことないからなんとも思わんけど、いざ容疑がかかってみると不自然な点は多いなぁ」

 

 使用人達の巡回頻度に、緊急逃走用と教えられた秘密の地下通路。家族の中でもパパンしか入れん薬品庫と、書庫。執務室はざっと見た感じ特におかしそうな本はなかった。まあ、ちゃんと詳しく調べてみたらおかしなもんが見つかったりするのかも知らんけど。

 

「昼間はある程度はボクが気ぃ引きながらゼータちゃんが潜入。夜は一緒に行動かね」

「じゃあ、今からでも動く?」

 

 今から動くこともできるんやろうけど、ボクが動きすぎると不審なんよな。基本的にボク、部屋で大人しく本読んどるか、ボトルシップ作っとるし。日によってはジグゾーパズルやっとるからな。

 家の外にいても、近くの森の中で瞑想してたり。日向ぼっこしてしまいやからなぁ。あぁ、それか領地内のテキトーな場所でキャンプやな。

 

「老後も安泰な趣味だね」

「ボクに老後なんてあるんかね」

 

 シドに絡まれて早死にしてそうやけどな。主にストレスで。

 

「ないの?」

「……あんまり自分の老後のことなんて考えられへんのよなぁ」

 

 ハゲてそうな気がするなぁ。シド関連のストレスで。

 

「……あまり長生きに執着がないの?」

「そんなことはあらへんで。食事にも栄養にも気を遣っとるからな。シドのせいでショートスリーパーになっとるけど、本来ボクはロングスリーパーやしな」

 

 二十二時から朝八時までぐっすり眠ってたんやで、もともと。

 そのせいで寿命削れてそうな気がせんでもないけど、きっと気のせいやろ。

 

「大変なんだね」

「まあな。骨壷の管理もあるし、仏さん火葬したり。骨壷配送したり。夜は何かとやること多いからなぁ」

 

 ……それも、メバチさんの手伝いありきなんよなぁ。メバチさんが行方不明者の情報集めたりしてくれるおかげで顔と名前の一致で骨壷配送してるからなぁ。

 

「……私が手伝えば、少しは楽になる?」

「まあ、手伝ってくれる言うのはありがたい話やけど。ゼータちゃんは、ガーデンの任務もあるやろ? 大変やろしええで」

「そっか」

 

 なんかしょぼくれとるなぁ。

 

「今は、これ手伝ってくれるんやろ? ちょっとお使い頼んでもええ?」

 

 ゼータちゃん。昼間はボクの代わりにちょっと頑張ってもらおか。

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