ただ人でありたくて   作:メめ

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日刊載ってました。評価、お気に入り登録ありがとうございます。




十六話 誰がための義。ボクは……ボクは

 

 

 

 ゼータちゃんにはパパンの執務室に向かってもらった。

 一応、幹部クラスの人間を倒したわけやし。教団員なら教団員でなんらかの動きがあるはず。っちゅうわけで、ゼータちゃんにはこの家で一番偉いであろうパパンの監視を頼んだ。

 

 ボクは、とりあえず家の中を聴力を強化しながら散策することにする。

 人の多いところでやっていれば聞こえる音も拾える情報も増える。はずなんやけど、聞こえてくる音は基本的にない。

 これまで家の中で聴力強化をしたり、探知をしてこなかったから気づかんかったけど。カソウ男爵の屋敷は結構遮音性と防音性に優れた建物をらしい。廊下にいる人とか物の音はよく聞こえてくるけど、部屋の中になると聞こえにくい。

 部屋に近づくに連れて聞こえやすくはなってくるけど、音の発信元で盗み聞きたてるもんやないし。屋敷内を彷徨くしかない。

 そのせいで断片的な情報しか入ってこん。

 

 そして、そこそこ広い屋敷を歩いていれば、使用人以外の人ともすれ違う。

 

「帰っていたのか。ヒツギ」

「クレール兄さま。はい、ただいま帰りました」

 

 茶髪の美男子。知的そうな見た目通り、頭が良く。最近だと、医療学科に提出した論文が良い評価を得たのだとか。

 

「お前はカゲノーへ行く者なんだ。婿入り先と仲良くなる為、まだ許嫁の家にい続けた方がよかったんじゃないのか?」

「いえいえ。あまりお邪魔しすぎるのはカゲノー様も負担でしょう。もともと、今回は長居をする予定はありませんでしたし。クレアさんのことがなければ昨日で帰ってくる予定でしたからね」

「ふん。……あまり屋敷内をうろつくなよ。仕事の邪魔になる」

 

 仕事ね。……悪どいことでも計画してたりするんやろうか。

 

 クレール兄さまはそう言って去っていく。向かう先は……おそらく、書庫。何か調べ物だろうか。

 

「何か調べ物ですか?」

「父上の書庫で過去の資料が欲しくてな。お前には関係のないことだ。気にするな」

「資料探し程度なら私も手伝えますよ」

「出来損ないの手はいらん。暇なら剣でも振っていろ」

 

 足を止めることもなく、遠ざかっていく背中。

 その背中になんの感情も見えない。……でも、何かを知っている。いつもより一瞬だけ呼吸が乱れた。そして、心音もわずかに変わった。

 何かあるのはわかっとるけど、何があるかはまだわからん。ディアボロス教団にあった論文のこともあるし、近いうちにクレール兄さまの部屋を調べてみんとなぁ。

 

 ……メバチさんところに行くか。紅茶入れてもらお。ついでに誘導尋問してこよか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 あれから二週間。

 夜間の使用人達の尾行やら、人間関係の詮索。家族の素行調査をほとんど眠らずにやり続けた結果、結構なことがわかった。

 

 ボクのアジトである納骨堂でまとめられた資料の束。

 これら全てボクの家で分かった情報をまとめたもので、アルファちゃんたちに共有するための報告書のようなものでもある。

 

 そして読めば……と言うか、読まなくてもわかる。

 ここまで資料が束になってそこにあれば、白じゃないことは明白で……

 

「……真っ黒やんなぁ」

「真っ黒だね」

 

 擁護のしようがないほどの黒。グレーではない。ブラックや。

 なんと容疑者は四名どころか、使用人は一部を除き、全員が教団関係者やった。

 

 まず容疑者クレール・カソウ。

 数度に分けて部屋をガサ入れしてみると出るわ出るわ研究資料の山。そして、被験者の薬剤反応と経過の様子。ディアボロス細胞の様子を細かく記した資料がぎょうさん出てきた。

 おそらく、研究員として教団に入っているのだと考えられる。

 

 そして、次。容疑者ヨアシュ・カソウ。

 こちらも弁明の余地がないほどの黒。

 部屋をガサ入れしても特に情報はなかった。なので、外出の後をつけて回った結果。教団関係者と密会。地下ルートを使って頻繁に会っとったことがわかった。

 薬品庫をゼータちゃんと二人で調べ、前回教団アジトを襲撃した際に発見した研究資料の一部。クレール・カソウが書いたであろう論文や研究文章と照らし合わせると、教団で使われたであろう薬品が多く保管されていた。

 そして、違法指定されている薬物も多く保管されとった。教団に関係なくとも、普通に違法。騎士団に突き出されて逮捕からの連行される案件。

 

 せやけど、違法薬物に関してはヨアシュ・カソウは医者であり、薬師。

 薬品開発の研究で使うと言う名目があれば、お許しがもらえるやろうから。それに関しては言い訳ができる。が、そんな言い訳はガーデンに通用しない。この辺りの中心に位置する研究者であるならシャドウガーデンの刃はそれを逃したりしないやろう。

 

 次、エレク・カソウ。

 こちらはまだかなりむずいけど弁明のしようがあるかもしれない人物候補。

 エレク・カソウは、ヨシュア・カソウとクレール・カソウの二人の護衛のような役割りをしとった。それだけならまだ擁護は簡単なんや。

 でも、エレク・カソウのやつ。わりととんでもないことをやってる。

 

 権力の欲しさか、詳しくはわからんが人攫いや盗賊団の統領をしている。しかも、その盗賊団はディアボロス教団の下請け組織の長だ。

 家計簿をヨシュア・カソウの自室で見つけた時には、用途不明金が大量に存在していた。実家の金の横領もありそう。

 もともと女遊びの激しい野心家的な側面の強い人やけど、これはやりすぎやと思う。会うたび違う女の人の香水の匂いがするし、夜の街で遊んどったんやろうか。

 シャドウガーデンが許してもボクが許さん。領民らの血税を横領たぁ許せん。

 

 その他使用人、二十六中二十名が教団関係者。

 おそらく、見張り、警護要員と思われる。

 

「……よくこんな中でなんも知らずに生きてけたな。ボク」

「本当は教団関係者だったりする?」

「縁起でもない事言わんといてや」

 

 もしそうだとしたらボクは自分を許せんくて腹を切らないかん。アルファちゃん達に迷惑はかけられん。そして、ボクはガーデンの子らに刃を向けたぁない。

 首を差し出すから介錯を願うまである。

 

「……真っ白なんが六人の使用人と。ボク、サンジ兄さんに、テリーナ姉さまだけなんは不味いよなぁ」

「敵地というよりも、悪の巣窟。もはやアジトだよ」

「……ホンマに、ボクの実家やばない?」

 

 なぜボクは気づかなかったんだ。ボクって、自覚ないだけでかなり鈍感なんかなぁ。

 

「この中でグレーなのはメバチ・キラービーただ一人。あの人は本当に隙がなくてね。私じゃかなり遠くから尾行が精一杯だったよ」

 

「かなり手強い」まあ、なんか立ち振る舞いから普通の人って感じがせんからなぁ。あの人。

 

 過去の経歴を漁ろうにも、経歴も不明やからなぁ。パパンにもそれっぽく聞いたけど、「職に困ってたところを前当主が拾ってきたらしい」としか言わんからなぁ。

 

 言い方と匂い、音的に本当にパパンも良くわからんのやろなぁ。嘘っぽさはなかった。まあ、自分すら騙して嘘ついとったんなら見抜けんけどね。別に心読めるわけやないし。

 そもそもボク、パパンとあんまり話さんし。話したとして基本的に「何故普通に剣が振れん!」と剣のダメ出しとか、「帰ってきたのか。部屋に戻れ」ぐらいしか話さへんからなぁ。

 兄さま、姉さまもボクからあんまり関わりにいかんしなぁ。関わりに行っても、エレク兄さまもクレール兄さまもダメ出ししかして来ん。

 サンジ兄さまとテリーナ姉さまぐらいやからな。ボクにまだ優しいの。あの二人もかなり辛辣になる時あるけど。

 

 ……ボクって、あんまり自分の家族と関わってないんやな。あの人らのこと、思っとったよりも知らんわぁ。

 

「メバチ・キラービーはどうする? 今の私でも勝てる程度の実力差はあると思うけど」

「まあ、せやろなぁ」

 

 メバチさん。強いらしいんやけど、どれだけ強く見積もってもボクらより弱いからなぁ。……強さ的には、騎士団の中堅ぐらいか? この前戦った教団員三名分ぐらいの強さやね。

 本来なら、それ以上に強いんやろうけど。老いで動きにくい言っとったしなぁ。……全力戦闘は、隠れてボクの修練付き合ってくれとるときに確認してる。せやから、ボク目線ならゼータの方が全然強い。

 

「正面から襲撃して、抵抗したら捕まえて拷問する?」

「……まあ、黒よりのグレーな時点でかける慈悲はないんやろうけど。……気が進まんなぁ」

 

 家で数少ないボクに優しい人。五年前。シドと初めて会った日の夜から、何かとボクの面倒を見てくれるようになった半分ぐらい専属の従者。

 グレーだろうとなんだろうと、そないな人を拷問するんは流石のボクでも気が引ける。

 

「……アンダー。嫌ならアンダーはやらなくていい」

「は?」

 

 おいおい、何言うとるんや。キミ。

 

「ディアボロス教団を滅ぼすのは我々シャドウガーデンのすること。アンダーはそれを知ってて協力しているだけの協力者なんだ。だから──「バカ言うなよ」。なら、やるんだね?」

 

 バカを言うな。そんなことは許さへん。許されん。

 

 一人だけ手を汚さずに。やりたいことなんてやらずに逃げるなんてボクが許さへん。

 

「この道を行くと決めたんはボクや。……気が進まんだけで、怖気付いたわけやないで」

「……」

 

 多分、これはゼータちゃんなりの善意なんだろう。わざわざ手を汚す必要はないと言う優しさ。

 

 でも、ボクの手はとっくの昔からシドに汚されてる。キミらが知るずっと前から。具体的には前世からボクの手は血の赤色や。

 今更手がどれだけ汚れようと変わらん。

 

「ボクはアンダーテイカー(葬儀者)や。仏さんと向き合って、死と向き合うのがボクの役目。どれだけ殺してきたと思っとる。今更身内を殺そうが殺さなかろうがボクは汚れた手のまま生き続けるんや」

 

 ボクは、今の生き方を決めた。

 ガーデンの作り出す屍を弔うと決めた。せやから、ボクは進むしかない。

 

 ボクの生きたい生き方は、そこにあるから。

 

 優しい弔いのために。死者に尊厳のないこの世界で、死者に尊厳を与えるために、ボクは〝ただ人でありたい〟。〝ただ善くありたい〟。

 

「せやらか、ボクを除け者にしようとか考えんなよ?」

「わかった。じゃあ、明日の昼。ここに呼び出して容疑者メバチ・キラービーの確保をしよう」

「わかった」

 

 ああ、震えそうだ。

 でも、前から生き方は決めとる。決めたなら突き通さなあかん。

 

 爺さんがそうだったように。

 

「それにしても気がかりだね。テリーナ・カソウの失踪は」

「せやな。……教団関係やないことを祈るしかないな」

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