ただ人でありたくて   作:メめ

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十七話 悪いことしたらどうなるって? 鬼が来るんやで

 

 

 

 いつもの納骨堂のある洞窟。なんの変哲もないアジト。

 

 アジトに造られた石製の机を挟んで、ボクはメバチさんと対面する。

 

「こちらが新しいリストになります」

「ありがとうございます」

 

 …………一月で行方不明者が結構増えとんなぁ。

 

「……治安が悪化していたりするんですかね」

「自警団の発足があるほどの全体的な治安悪化はしておりません。ただ、この時期ですと魔剣士学園の生徒を狙った誘拐も多くなりますゆえ。全体的に増えるのでしょう。幸い、カソウ領地でそのようなことは起きていない様子。カソウ領地はヒツギ様の見回りもあって盗賊による治安悪化はかなり防がれているようです」

「それは良かった」

 

 いつもと変わらない。特になんてことことのない応答。

 

「ヒツギ様」

「どうしかしましたか?」

「失礼ながら、ご指摘させてもよろしいでしょうか?」

「え゙っ、何か不味いことしてました?」

 

 え゙っ! 資料の目の通し方とか、座り方が何か不味かったんか。こら少しはお小言が飛んでくるかねぇ。

 

「はい。ですので、ご指摘させていただきます。まず一つ、ヒツギ様は癖を治しましょう。隠し事がバレます」

「隠し事?」

 

 なんのことや? まあ、隠し事なんて今更──「ヒツギ様は緊張しますと持ち方が少々変わります」。

 

 ……。

 

「資料を手に取り、持ち上げるとき。普段のヒツギ様であれば、手を伸ばす際に手だけではなく。体の重心を少々前へ傾けて取ります。しかし、今回は重心が変わっておりません」

「そんな気分だったんやろ」

 

 ボクだってそう言う取り方をすることもある……多分。

 

「二つめ。視線を向けすぎないよう注意するのは良いでしょう。不用意に怪しまれることはなくなります。しかし、魔力探知で警戒するのは悪手と言えるでしょう。手練れ相手には気づかれやすくなってしまいます」

「最近虫の湧く時期やしね。虫を警戒しとるんですよ。虫除けの香も焚いてますしね」

 

 暖かくなると、適度な湿気を求めた虫が納骨堂で悪さをして困る。ボク、あんまり虫得意やないし。ここの世界の虫は結構デカイねん。

 

「そして三つめ。これはわたくしに対してかなり。いえ、よく見られる癖なのですが」

「なんや?」

「ヒツギ様は、図星をつかれたり。意表を突かれると不思議な訛り混じりの言葉をお話になります」

「そんなわけ──「その訛りです。わたくしの知識にも、そのような訛りは古今東西どこを探せどないでしょう」……ワーオ」

 

 コレやったか? ボクやらかした? 

 

「親しみの意味もある無意識に行われる癖であるのだろうとは思いますが、治した方が良い悪癖でもあります。言語の教育のやり直しも良い改善の手となるでしょう」

 

 不味いなぁ。ボクの癖のせいで計画が破綻するやも……アレ? 

 体温の上昇も、魔力による身体強化もない。心音も安定しとる。何かに安心てるみたいに。

 

「嘘を吐くのが下手なヒツギ様が今行ったように、自分を欺きながら誘導尋問や拘束を考えると言うのは、裏向けの才でございます。伸ばせば良い諜報員、工作員となれるでしょう。優しく、誠実なヒツギ様には向かない職ではございますが」

 

 ……全部バレとるやん。どこや。どっからバレた。

 

 思考を巡らせる。何処からバレたのかわからない。いや、この言い方的にここに来た段階からバレていた可能性はある。

 なら、知っててなぜなんの策もなく足を踏み入れた? まさか、策があって入り込んだんか? だとするなら次の動きに警戒を──「わたくしは逃げも隠れも致しません。知っていること、言えることであれば全てお話しいたします」──は? 

 

「……は? それを信じろと言うんか?」

「信じなくとも良いでしょう。ならば、拷問でもなんでもしてください。わたくしに敵意がなく、戦う気もない事はヒツギ様がよくお知りでしょう」

 

 ……まあそうなんやけど。

 体温の上昇もないから動く気もない。抵抗する意思もない。それはわかっとる。

 

「……メバチ・キラービー。あんた、何者なんや」

 

 ボクの質問に、メバチ・キラービーがホールドアップした状態で口を開いた。

 

「わたくしは、今は亡き元聖教の執行者。そして、ディアボロス教団団員。アサ・シネイト。言い換えれば、国家公認の殺し屋。と言っても差し支えないでしょう」

 

 なんでもないように言うメバチ・キラービー。もとい、アサ・シネイトから思ったよりもヤバい経歴が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 メバチ・キラービー。アサ・シネイトは自分の経歴を語ってくれた。

 

 元は聖教の上層部の人間。シネイト家に生まれる。

 生まれ持った剣の才。いや、人を欺き殺すことに長けた才能を活かして聖教の裏方。国が認める公認の暗殺者として活動をしていた。

 

 しかし、そんな生活にも転換点が訪れた。

 

 それが、ディアボロス教団との接触。

 聖教の執行者。今では異端審問官とも呼ばれる組織は、ディアボロス教団の傘下ではあるがそれを知らず。ディアボロス教団の教えを異端としている。

 

 それもあって若かりし頃のアサ・シネイトは摘発した教団のアジトへ乗り込み殺戮。

 しかし、幹部と遭遇して敗北した。

 

 敗北して、教団へ入団させられ。執行者側のスパイをさせられていたという。

 

 それから暫くして、執行者組織が解体され。今の異端審問が発足。

 異端審問になったことにより組織化され、教団が御し易くなったためアサ・シネイトは執行者を辞めて教団の監視のもと、人の生活に溶け込むように潜伏。敵対する者を殺害。あるいは、権力者や有能な研究員を脅して教団に所属させてまわっていた。

 

 しかし、それもある転換点が来る。

 

 取り込もうと思っていた者。ボクの祖父にあたる人物、腕のいい医者であるメッチャ・カソウを教団に協力させようとした際。脅しに屈せず、実力行使をしようとした結果。敗北。

 

 行く当てがないなら内で従者をやらないか。との誘いに乗り。一時的に教団を離れ、生まれたばかりのヨアシュ・カソウの教育係兼専属の従者として雇われた。

 そして雇われた際に、名前をメバチ・キラービーへ変えさせられたのだと言う。

 

「雇われてからは多少の荒事はございましたが、なかなかに平穏な日々でした。そんな日々に毒気を抜かれてしまうほどに」

 

 長い時を過ごし、気がつけばカソウ家の人間に情を持っていた。

 

 ヨアシュ・カソウに仕え、その妻であるイアリスの子。エレク、クレール、サンジ、テリーナの面倒を見て。学問を説き、剣の振り方を教えた。

 もう闇を見ずに死ねると思っていた。

 

 しかし、運命というのは非情なもの。

 

 ヨアシュ・カソウの妻。イアリス・カソウが悪魔憑きを発症した。

 

 ボクが胎の中にいる時。産む決断をする前日から発症。

 ボクを産んでからは急速に進行した。

 

 ヨアシュ・カソウとメバチ・キラービーは悩んだ。

 

 悪魔憑きは治らない。進行を抑えることもできない。

 研究は聖教により厳重に取り締まられ。悪魔憑きを発症した者は聖教へ引き渡さなければならない。

 その結末。悪魔憑きの末路をよく知るメバチ・キラービーは主人を連れて闇に戻ることにした。

 その希望が闇に呑まれることを知りながら。それでもと希望へ。闇に揺蕩う光へ手を伸ばすために。少しでも良い未来へ手を伸ばすために教団へ入団した。その良い未来が欺瞞であるとしても、縋らずにはいられなかった。

 

「……っちゅうことは、オマエが家族を教団に引き込んだんやな?」

「はい」

「……全て事実だって言うんか」

「はい」

 

 ……信じたくはない。メバチさんが今回の黒幕だなんて聞きたくない。

 でも、知った上で動かなあかん。

 

「ガーデンのことも知っとるやろ」

「ええ。知識として、存じております」

「……なら、教団にメンバーの情報を流したんか?」

 

 ボクもやけど、シャドウガーデンの構成員の素性がバレればかなり不味い。シドにも危険が及んで最悪みんな死ぬ。……アイツが殺される姿なんて想像出来んけども。

 それに、『ディアボロス教団に身バレした。命の危機や』言うても多分信じんやろなぁ。シドはとんでもないバカやけど、自分が馬鹿げたことをやっている自覚はある。真面目に聞いているような姿勢を見せながら、余裕こいてる姿が目に浮かぶ。

 

「わたくしは、耄碌し、牙を抜かれた飼い犬。もうまともに〝もってこい〟すらこなせない駄犬ですゆえ」

「……」

 

 〝もってこい〟すらこなせない、ね。……メンバーの情報は漏らしとらんらしいけど、信用しきれん。

 

 メバチさんは。アサ・シネイトはボクらの敵やから。

 

 ………………。

 

「ゼータちゃん。コイツをガーデンへの移送お願いしてもええ?」

「私は良いけど。アンダーは行かないのか?」

 

 アサ・シネイトの背後。その影から現れるゼータちゃんにアサ・シネイトは驚愕しつつ、何処か安堵の表情をしていた。

 

「ボクはリストの照会もせなあかんし。敵の特定はやった。……後は、キミらシャドウガーデンの仕事や。ボクは一旦手を引くで」

「いつ動くように言う?」

「もちろん今夜。すぐにでも強襲して拠点化した貴族を潰す。急やけど、頼めるか?」

「アルファの事だからいつでも動けるように備えては居るだろうし、直ぐにでも行けると思うよ」

 

 ゼータちゃんはそう言いながらアサ・シネイトをスライムで拘束し、ボクのスライム棺桶に積めて持ち上げる。

 

「重ないか? 大丈夫か?」

「問題ない。……じゃあ、行ってくるよ」

「おん。気ぃつけてな」

 

 アサ・シネイトの入った棺桶を持って消える様にいなくなるゼータちゃん。……うん。遠ざかってるな。

 

 ……さて、ボクもやるとしまっか。

 

 スライムスーツでいつもの服装に着替えて、葬棺を手に持つ。

 

「ごめんな。ゼータちゃん。これは教団以前に家族の問題やねん。キミらガーデンは巻き込めんのよ」

 

 七陰の子らは、組織である以前にまだみんな子供で。みんなボクの友達。

 そんな友達に自分の親を殺させたかぁない。

 それに、シドがシャドウとして出張れば、流石に強い違和感を抱くやろう。シドはバカやし、どうしようもないアホや。

 でも、何も知らぬまま友人の親を殺しに行くことがおかしいことぐらいわかるやろう。

 だからこそ、ガーデンには任せられん。

 

 シャドウガーデンっちゅう一つの組織を。七陰の子らの希望とも言える場所を壊さないためにも。これはボク一人で処理せんとあかん。

 

 家族がディアボロス教団の手に堕ち。そして悪を成すなら処理しなければならない。

 

 ボクの善のために。ボクの独善のために家族を殺戮しよう。

 それが倫理的に悪であることぐらいわかっとる。でも、ボクの信じる善であることに変わりはない。

 

 外に出れば日が落ち始めている。

 移送と簡単な取り調べが済めば、ガーデンの子らはすぐにでもカソウ家を強襲してくるやろう。

 それまでにボクが片を付ける。

 

 制限時間は夜まで。時間にして約一時間以内に全てを終わらせなあかん。

 

 沈み始めた日が、闇を作り始める。

 

 逢魔刻。それは、夜よりも暗い闇の時刻。ボクの暗躍にはピッタリやな。

 

「暗くなるから家へ帰りや。鬼が行くでぇ」

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