ただ人でありたくて   作:メめ

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十九話 謝る気なんざない。でも、アンタは……

 

 

 

 階段を登り、部屋の前に来る。

 

 玄関の扉は壊れて、壁も床も所々ぶち抜いとるから風通しは物理的にようなっとるはずやのに、息を吸い込めばえらい鉄臭い。血の足跡が所々壁や天井にもある。

 

 この部屋に入るんは何回目やろうな。

 何度も訪れた。何度も来て、何度もお小言を言われた。カゲノー家に預けられることも多かったけど、思い出深い場所であることに変わりはない。

 

 正直顔も見たくない。……でも、見んと後悔する気もする。

 

 扉を蹴破っ──危な! 。

 

 扉から剣の先が生えた様にボクの腹向かって飛来したものを掴み取った。

 

「只者ではないことは、初めからわかっていた」

 

 扉越しに聞き慣れた声が聞こえてくる。

 淡々とした語り口調に少し圧の乗った渋い声。

 この魔力の起こりは──来る! 

 

 魔力を纏った存在が急速に接近して、扉をぶち破りながら突進して来た。

 それを横に飛んで回避して顔を向かい合わせる。

 

「避けるか。これでも、前はもっと早く突けたのだがな。私の剣も酷く鈍ったものだ」

 

 シドの方が早いし、デルタの方が不規則で避けれない。ただ、思ったより。魔力反応よりも射程が長い刺突攻撃。種も仕掛けも知っているが、見えない状態だと反応が一瞬遅れる。

 

「……オマエがヨアシュ・カソウやな」

「それを貴公が知ってどうする」

 

 ああ、知っとるさ。アンタはボクの父親なんや。聞かなくなってわかっとる。

 せやけど、聞かなアカンねん。

 

「……答えろや。オマエがヨアシュ・カソウであっとるな?」

「如何にも」

「そか。……今言っても遅いが、アンタをディアボロス教団関係者として処分することになっとる」

「ほう。その組織の名をどこで知ったかは知らないが、裏の人間とお見受けする」

「まあ、ボクは新参やけどね。……っちゅうことやから、──死んでくれんか」

 

 マジか、これ防がれるか。

 加速しながら葬棺で殴る。しかし、剣で逸らしながら後ろに飛んで回避。追撃にスライムソードで切りに行ったが寸での所で避けられた。

 

「その剣、水の様だが……。スライムか」

「……語ることなんて──ないで!」

 

 姿勢を低くしながら飛び掛かり、葬棺を振り回す。が、なんともやりにくい。

 やっぱり一撃が重い。色々改造して取り回しは楽にしたとはいえ、どれだけ気を使っても重心が持ってかれる。

 

 ヨアシュ・カソウの剣は、優れた動体視力による見切り。そこから差し込まれるカウンターの伸びる突き。

 伸びる原理は、通常の突きよりも姿勢を横にし、上半身を使った肩を入れた突き。体感よりも突きが長く伸びてくる様に見えると言うもの。

 

 いくら一撃が重くても、流されたり。うまいこと避けられてしまえば隙を晒してしまう。

 筋力と柔軟性と身体強化によって半ば無理やり攻撃されるほどの隙を消しているだけで、攻撃と攻撃に合間が開くせいで逃げられやすくもなる。

 

「どした。避けてばかりやと、ボクからは逃げれんで」

「手段を問わない者に対して迂闊に近づく愚か者が居るわけがないだろう」

 

 ヨアシュが剣を構えたまま、フードを被るボクの目を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 闇討ち。いや、殺戮に遭う我が家。

 しかし、それはある意味当然の報いとも言える。我々は罪を重ねすぎた。

 私は罪を重ねすぎた。

 

 しかし、どうだろうか。この目の前に現れた処刑人を見て、私は久方ぶりに心踊っている。この目の前にいる者は私を超えている。本来武器でもなんでもないものを担いで戦う。本来の得物ではない物で戦うお前の真の実力を、私は知りたくなってしまった。

 

 だからだろうか、柄にもないことを言ってしまった。

 

「お前に剣士の誇りがあるのなら、その武器とも言えない鈍器などではなく。己が剣で来るがいい!」

 

 こんなことを言ったところで今まで私達がお前にやって来たことが許されるわけではない。

 こんな父親ごっこをしたところで、お前に許してくれとは言わない。

 

 そして、私自身。この罪が許されるなど、到底思っていない。

 

「……」

 

 黒いローブに身を包むお前が棺桶を捨てて、スライムが一振りの剣を模す。

 黒く。ただ黒く。陽の当たらぬ闇を具現化した様な黒い大剣。形状的にクレイモアだろう。狭い廊下で扱うには決して向かない、取り回す事すら出来ない剣。

 

 地へ這いつくばる様。片膝立ちに手を添えてバランスを取っている様な姿の前傾姿勢。その姿勢でクレイモアを肩と背に乗せる様に構える。その姿には品性のカケラもない。まるで獣のような構え。

 

「ディアボロス教団。団員、ヨアシュ・カソウ。参る!」

「……アンダーテイカー。行くで」

 

 黒い籠手で地面を掴み、直線的に駆ける。

 どれだけ早くとも、直線であれば攻撃を合わせればいい。我々の血統ならそれが出来る。

 

 攻撃に合わせて剣を振るう。しかし、手応えはない。

 

「居ない──そこか!」

 

 剣を振るった先にもいない。視界端で影が動き、視線を向ける頃にはもう居ない。

 カソウの血の力を持ってしても反応できないほどの素早さ。

 

 おそらく、その種は手足を使った壁を伝う様に跳躍を繰り返す立体起動。そしてそれを補うスライムによる空中での姿勢補助。チラリと見た壁や床に強く踏み込んだ様な跡がいくつも出来ている。

 

「後ろか!」

 

 ガギィインッ! 

 

 後ろから迫る大剣の刃を剣で逸らしながら転がって威力を流す。

 

 腕が痺れて動かない。重量武器を受けた事による身体の痺れ。廊下のような狭い場所でなければ、もっと威力があっただろう。

 それこそ、防いだ剣を砕き。そのままの勢いで剣が直撃した筈だ。

 

「……いけた思ったんやけどなぁ」

 

 闇の中を溶け込むように、立っている。

 片手と両足による三つ足での変則的な機動と高度な魔力操作。そして、生まれながら恵まれた圧倒的な身体能力。

 それらが組み合わされた剣技とも呼べない。しかし、その動き一つ一つに確かな技術は見える。不思議な剣。

 

 確かに強くなっていた。お前は、父である私よりも。引退したとは言え、元は高位の魔剣士だった私よりも遥かに強くなっている。

 

 気がつけば息子の剣が目の前に迫る。それを転がって避けた。

 

 さっきまでいた場所に突き刺さるクレイモア。

 体を後ろにそらして叩きつける様に振り下ろされた剣が屋敷の床を叩き切り、突き刺さっている。

 

 低姿勢で重心がブレない。そして、その低姿勢で居続けるための筋力と体の柔軟性から繰り出される大振りの剣。だが、それを感じさせない足運びと身体操作の技術。それに隠れた動作に見合うほどの驚異的な破壊力。

 人間相手ではなく、魔物相手。知性の高い獣人を相手にしている気分だ。

 

「強いな、貴公は」

 

 強いな。息子よ。分たれた古い英雄の血を引き、性別故に半覚醒もしなかった私とは違い、男でありながら完全に覚醒させた者。

 

 なぜ本来の名前を名乗らないかなど予想はつく。アンダーテイカー。この名前が、最近ディアボロス教団に仇成す組織。シャドウガーデンに付随する者の名であることはメバチから聞いている。

 おそらく、メバチはもう処理したのだろう。エレクも、クレールも、サンジも殺された。あとは私を。ディアボロス教団の関係者である自らの父を殺しに来た。

 

 息子は一切喋らない。それもそうだ。悪の道へ進んだ父に口など聞きたくないだろうに。

 

 ガァアアン!! 

 

 重量のある武器を相手にしているせいで、うまく弾けない。いなすのがやっとだ。いなしても体幹が崩れそうになる。

 

 来ると考えて構えると来ない。来ないと思って構えると来る。完全に視界から外れても来るが、正面から捕捉されている時であろうと来る。

 しかもいつも構えていると来ないし、わざと隙を見せて誘っても来ない。

 

 攻めに転じられない。転じても当てられる気がしない。それほどまで素早く、先の読めない剣。そこまで至ったか。我が息子。

 

 ショルダータックルを仕掛ける様に剣を隠して下から逆袈裟で振るわれた大剣。本来ならそれを阻むはずの壁や床を容易く切り裂き、

 

 ゴウゥン!! と剣が鳴らすはずのない音を鳴らしながら振り抜かれ、魔力を動員して防ぐが私は担力に負けて吹き飛ばされた。

 

「カハっ!!」

 

 あぁ、痛い。受け身を取り損ねたか。剣は……受けたところから折れてしまった様だ。これではもう、私は戦えん。ディアボロスの雫は……使ったところで、勝てそうもないし、あれは劇薬だ。私の身が持たないだろう。

 

「降参だ」

「……そか」

 

 そう言って獣のような三つ足ではなく、二本足で立って。片手剣でも扱う様に、クレイモアを水平に構えた。

 

 息子に、問わなければ……、伝えなければ……。

 

「……執務机。秘密の鍵……。我が教団はお前達よりも遥か闇にある。そこまで潜るというのか」

「……そこに必要な弔いがあるんなら、ボクは潜らなアカン。深淵の底で仏さんが野晒しは気ぃ悪いからな」

「……そうか」

 

 覚悟を決めているんだな。子よ。

 

「……言い残すことはあるか?」

 

 言い残す事? 言い残す事はあるかだと? 

 

「ははっ、こんな者に慈悲をかけるか。愚か者め! やはり。……やはりお前は、優しい子だ。ヒツギ」

「!」

 

 なんだ、その驚き様は。気がつかないとでも思っていたか。バカ息子め。どれだけ剣を打ち合ったと思っている。生まれた頃から、その成長を見てきたのは誰だと思っている。

 お前だけは教団に関わらないように、どれだけ私が手を回し。お前を気にかけていた思っている。

 

 特別な血を覚醒させたお前を。イアリスとの最後の子であるお前を思わなかった日など、私にはないと言うのに。

 

「……不出来な父で。弱い父で悪かった」

「……それだけか?」

「お前に背負わせ過ぎては、母さんに顔向けできなくてな」

 

 バカ息子が二本足で立ち、一呼吸、一拍おいて剣が私の胸を貫く。

 

 すまない、息子よ。こんなにも弱く。情けない父で。お前に、苦しい選択をさせてしまって。

 

「……死んだ後の世で、ママンによろしく頼むで」

「お前は、お前の道をゆけ。それが、私の最後の願いだ」

 

 こんな弱い父の様にならない様に。

 こんな、家族を不幸に落とした愚かな父の様にならない様に。

 

 お前は、お前の信じる道をゆけ。

 

 お前が正しくあれるように。

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