ただ人でありたくて   作:メめ

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二十話 雨は降り止まんのやろうか。傘の下でも濡れとるわぁ

 

 

 

 動かなくなったヨアシュ・カソウ。もう、死んで動かなくなってしまった。

 ……ボクが、殺した。心臓を剣で貫いて殺した。

 

「……」

 

 スライム棺桶に納棺され、顔が見えた。

 

 穏やかに、目を閉じて。家を地獄に突き落としたバカが安らかな顔で死んどる。

 

『ヒツギ。お前は本当に剣の才がないな』

『いくら勉学が出来ようと、力がなければ生き残れない。修練を怠るな』

『ヒツギ。よくやったな』

『……誕生日だったな。仕入れた本だ。持っていくといい』

『素晴らしい身体能力だ。……これに、剣の才があれば良かったんだがな』

 

 ヨアシュ・カソウ。

 不器用で、なんだかんだボクのことをよく見ていた父。

 ……この世界で、たった一人のボクの親父。

 

「ハッ。前世の世界じゃ、親より先に死んで。今世じゃ、親殺して。…………酷いやつよな、ボク」

 

 本当に、酷い親不孝者よな。

 自分で。自分から進んで親を殺したんやから。

 

「……そういや、机になんかある言うてたな」

 

 ……でも、もう時間ないしなぁ。

 ……一応、調べとくか。

 

 執務室の机の方へ行き、引き出しを開ける。

 引き出しには二枚の写真が入っとった。誰の写真やろか。

 

 写真に映るのは、一組の男女と三人の子供。そして、女性に抱き抱えられた赤子が居る。

 裏を見れば、何か書いてある。

 

 ――テリーナの誕生記念。

 

 ……テリーナ姉さまの誕生日を祝った写真か。っちゅっことは、あれか? この女性がボクのママンか? ホンマにボクとは似てなさそうやな。

 背の順的に、これがエレク兄で。こっちがクレール兄か。んで、これがサンジ兄。

 アサ・シネイトの話がホンマなら、この五年後。ボクが生まれてこの幸せそうな家族は崩壊することになる。

 

 幸せそうな家族が、ボクが生まれたことにより崩壊する。

 ……ダメやダメや。今センチになったらあかん。……ちゃんと、終わってから。全部終わってからセンチにならな。

 

 二枚目の写真は夫婦写真だろう。まだ若かりし頃のパパンとママンが写っとる。

 

 それを懐にしまって、さらに物色した。……ん? なんやこれ。……手紙みたいやけど、誰宛やろ。教団関係者宛やろうか? でも、こないな手紙。前調べた時はなかったで。

 

 手紙の封を切って開く。

 手紙の中身はこんな感じだ。

 

『拝啓 息子へ

 

 この手紙は、お前が来たので書き記す。雑に書いてしまうが、悪く思うな。

 

 この手紙を読んでいる。手にしていると言うことは、私はお前に殺されたんだろう。

 

 私は多くの過ちを犯した。

 その過ちからお前を守るために、みんなを犠牲の道を歩ませることになってしまった。

 

 エレクは、お前がもう教団の手の盗賊に襲われないために。クレールは、お前の血が利用されない様に。サンジは、教団がお前の生体情報を持ち出せない様に。

 テリーナは、お前に危害が及ばない様に。自ら教団を欺くように動き、実験に志願し、死んでしまった。

 

 みんなお前に当たりがキツかっただろう。

 

 私たちは、本心からお前を家から追い出したかった。

 お前だけでも、普通の道を歩めると信じていたんだ。

 

 お前には目に見える特別な才能はない。ないことにしてきた。

 

 目に見える特別さえなければ、お前は平穏な世界で病みを知らずに生きていけると信じていたんだ。

 

 だが、結局はこのザマだ。

 お前は闇の中を歩く決意をしていた。

 いつ、どんなきっかけでこの闇を歩くことを決意したのかなど、私にはわからない。

 

 進むと言うなら、同じ闇を歩く私達は争うしかなかった。だから、私はお前に殺されたことだろう。

 生かしておく必要などない。私は多くの過ちを犯したのだ。多くの犠牲を強いてきた。

 

 私を許さないでくれ。

 

 そして、お前はお前の道を行け。

 

 己が信じる義を。己が信念を貫け。

 

 お前はお人好しだから。

 闇の中で彷徨う迷い人に、手を差し伸べるだろう。その彷徨う人の悪意を見抜ける様に、お前は闇を知らなければいけなくなる。

 

 深淵を歩くことになるのだろう。それでも、己が信じる義を貫くのなら。それは誰もいない道だ。

 薔薇よりも過酷な道になるだろう。

 

 これぐらいしか私には言えない。

 

 ……どうか、私を許さないでくれ。

 

 ヨアシュ・カソウ』

 

 ……なんや。ボクの襲撃中に書いて、ボクが襲撃者やと気づいとったんかいな。

 ボクじゃなかったらどないする気やったんやろ。と言うか、テリーナ姉さまは死んでたんか。……手紙の裏になんか書いとるな。なになに……裏庭に眠る。……テリーナ姉さまは、裏庭に土葬されたんか。

 ……回収してきまっかね。

 

 ……そういや、ここの仏さんらも回収せな。教団員とは言え、みんな働いてくれた従者なんやから。

 

 ……みーんな。ボクが殺したんやから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家からかなり離れた場所。

 今ならボクの実家、カソウ家は大変なことになっとるやろなぁ。ボヤ騒ぎやもんなぁ。ボクが火ぃつけたもんなぁ。

 

 いつも通り、仏さんらを回収して火葬する。いつもはその場で火葬やし、遠くに持ってくん大変やから太陽が完全に落ちたころにやってきたアルファちゃんとイプシロンちゃん。ゼータちゃんに手伝ってもろて、ここまで運んできた。運良くシドには言わずにやってきてくれたらしく、シャドウは居なかった。まあ、居ても困るけどな。

 アルファちゃん達には今度お礼せんとなぁ。……ちょろまかしてきた金貨の一部使って、物資の供給潤したるかぁ。……まあ、デルタちゃんは一緒に狩りにでも行けばええやろし。

 

 ゴウゴウと燃える火に焼かれるボクを守ろうとした家族。その家族を監視、護衛し続けていた従者に扮した教団員達。

 ……教団の拠点で、ボクを守ろうと闇に足掻く人らを、ボクは殺した。

 

 何も知らなかった。ボクだけが、家族の闇を何一つ知らなかった。ただ虐げるように守られとった。

 不器用で優しい家族から、守るために除け者にされとった。

 そんな人らをボクは殺し尽くした。

 

 そして、特別ななにかをすることもなく。ただいつもと変わらずただの仏さんとして焼いとる。

 ……酷い話よな。ボクもシドに言えんぐらい人の心がないんかも知れん。

 

「不憫なことだね」

 

 後ろから声をかけられた。聞き馴染みのある落ち着いた声。

 

「……ああ、ゼータちゃんか。ホンマに、…………全くやで」

 

 悪いのは教団なんやろうけど、殺したんはボクで。その罪悪感を抱とんのもボク。……家族は、ボクを守るために人生棒に振ったのに、ボクはそれを知らずにカチコンで殺し尽くした。

 せやのに謝罪の言葉も湧いてこんし、涙一つ流してやれん。

 

「……ごめんね。なんて声かけたらいいかわからないや」

「……まあ、せやろな」

 

 こう言う人に対しての声の掛け方なんてボクだって知らん。当事者の気持ちを予想はできても本当のことなんて当事者にしかわからん。

 

「隣いい?」

「ええよ」

 

 ゼータちゃんがボクの隣に座って焼かれる遺体を眺めている。今日焼いている仏さんらは本当に臭いがきつい。今日のは目によく染みる。

 何気に初めて焼いた半悪魔憑き。サンジ兄のやつのせいかね。腕部分は黒髪ちびっ子エルフのイータちゃんに引き渡した。研究好きやし、何かわかるかもしれん。

 

 ……はぁ。あのアンポンタン共がよぉ。

 

 ……ゼータちゃん。ボクより、キミの方が困った顔してどうすんねん。ボク遺族やぞ。まあ、火葬担当の葬儀屋みたいなこともしとるけどさぁ。

 ……でも、そないな顔されとるの嫌やなぁ。

 

「……はっ。息子の知らんところで悪どいことして死におったわ。アホンダラ。草も生えんわ」

「……」

「はぁー。家督ってボクが継がんとあかんのかなぁ。それとも、貴族辞めさせられて、しがらみなんてもんから晴れて自由の身やろか? そんなら気楽なもんなんやけどなぁ」

 

 ……軽口言うてみたけど、ダメそうやな。効果がなさそうや。

 

「これで教団関係者はみんな居なくなった。スパイは今んとこ気にせんでもよくなって、胃痛の種が一つ減ってよかったわぁ」

「……」

 

 ……これもダメかぁ。

 なんか、余計に困った顔っちゅうか。これは対応に困っとるなぁ。

 今日はぎょうさん動いたし、ちょい疲れたなぁ。やっぱ強かったで、パパン。流石は元高位の魔剣士や。盗賊さんらとは比べものにならんぐらい強かった。……まあでも、七陰でも苦戦するかどうかって強さなんやけどな。パパンでも。

 そう考えると、ガーデンの戦力ってやばいよなぁ。

 

「んっ、……はぁ。そういや、今日は何処で過ごそうかね。家は、ボクが着火して燃やしちゃったしなぁ」

 

 アルファちゃんらが調べ終わった後。屋敷は燃やした。燃やして証拠もなんもかも処理せんとボクが仏さん達持ってったんバレるしな。

 住んでた我が家に火をつけた。我ながら今回のは考え無しが過ぎたとも思う。次があるんなら、もうちょっと大人しくやらなあかんな。

 

 ボクが背を伸ばして体の疲労感を取ろうとしてると、ゼータちゃんに手を掴まれて、そのまま抱き寄せられた。

 

 あぁ、臭いがついとるなぁ。ゼータちゃんからも、燃える感じの匂いがする。

 

「なんの真似や」

「……どうやら、一雨来そうだと思ってね」

「なんの話や。天気は崩れとらんで。……ああ、そういう」

 

 そう言うことか。

 

 雨が、降っておったんやな。全然気づかんかったわ。

 

 だって、ゼータちゃんに触れたらさ。濡れとるもんなぁ。

 

「……ああ、確かに。確かに雨やなぁ。顔も体も濡れてますわぁ」

「そうだね。……どうせここには私達しか来ないんだ。少しくらい吐き出してもいいんじゃないか」

 

 そうは言うけどさぁ。アルファちゃんとかなんかの気まぐれで来るかもしれんやん。

 人に泣かれるとこ見られんの、好きじゃないんよね。

 

「……いや。万が一もある。ここでは無理や」

「じゃあ、ベッドの上なら」

「もっと無理や」

 

 何故いける思ったんや。

 

「そっか。それは残念だ」

「……ああ、無理や」

「なら、アンダーほど上手く出来ないけど」

 

 天幕がかかったように少し暗くなる。何かに覆われとるんかな。これは……。

 

「これなら雨避けにいいと思うんだけど」

「……雨避けしたら、誤魔化しが効かんやないか」

 

 ……見せたくないんやけどなぁ。

 でも、ダメそうやなぁ。

 

 自覚したら、感情決壊しそうなっとるもん。

 

「……あのアホンダラ。ドブカスどもがぁ」

 

 あの家族め。ボクを守るために堕ちてどうすんねん。残された側がどんな気持ちかわかっとんのか。

 

 恩人らを、家族を殺さないあかん奴の感情考えろや。敵や思って恩人らを殺さんといかんくなったボクの気持ち考えたことあるんか、あんのアホンダラ共!

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、大雨が降った。

 

 でも、亡骸が全部焼き終わるまでには降り止んでいた。なので、ボクの尊厳は多分守られた。……守られとるとええなぁ。

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