ただ人でありたくて   作:メめ

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二十四話 世間知らずの子には旅をさせよう。失敗しとるけどな

 

 

 

「やあ!」

 

 朝から元気な野盗さんら目掛けてテレジアちゃんが剣を振るう。

 市販のそこそこ安物のクレイモア。しかし、それでも野盗三人を当たり前のように倒し。扱えるだけの筋力が足りないのか、引きずるような下段の構えではあるもののそれを振るうための基礎素養となる剣術と、それを応用できるだけの応用力もある。

 

 この子、思ったより強いのかもしれない。

 

「よそ見してて良いのかよ!」

「はい。なんの問題もありませんとも」

「ぐはっ」

「あなた達程度、よそ見しながらでも問題ありませんから」

 

 ボクのクレイモアはテレジアちゃんに貸したので、ボクは素手で野盗さんらを制圧。

 基本的にいつでも纏っているスライムのガントレットで野盗の剣を叩き弾いて素手で殴打。魔力で身体能力を強化しつつ、頚椎の破壊や顔面粉砕で殴殺。

 

 基本的にこの世界は武道。素手での近接格闘、マーシャルアーツ系統が発展していない。まあ、基本的に武器形態を国家が推奨しているほどやし。

 町から外は基本的に何処ぞのモヒカンらもびっくりな世紀末してる。

 

 そのせいか、武器のない状態での近接格闘術。インファイト文化があまり発展していない。剣を使った相手の方が強いっちゃ強いし、魔剣士の剣は普通の剣士の剣じゃ受けれないのがこの世界の常識。そして、生血の人間相手なら、銃が通用するから態々お互いに丸腰で戦う必要もないってのもある。

 しかし、生物の動きには全て起こりがある。そして、その動作の起こりを封じれば人間何も出来なくなる。

 

 例えば、椅子から立ち上がる時。額を抑えられるとバランスや重心の移動ができなくて人は立ち上がれなくなる。体の構造上そう動けなくなっている。

 

 ならば話は簡単。全ての動作の起こりを片っ端から潰して殴打。起こりを潰せなかったものは避けてカウンター。

 

 これで大体の敵はなんとかなる。もちろんボクに出来るいうことは、シドにも出来る。アイツがやってんの見たことないけど。

 

「急所は避けました。大人しく投降してください!」

 

 おー、三人制圧しとるわぁ。……ボクは頭世紀末になってしもうたからぶっ殺したけど。嫌な癖やわぁ。自分でもやになる。

 

「投降するなら街まで連行して、治療を受けさせます!」

「……」

「わかった。わかった投降する」

「……」

 

 ああ、ボクの軍資金が治療費に……。まあ、ええんやけどさ。あんま使い道ないし。

 殺した野盗さんは、棺桶に突っ込んで。

 

「ヒツギさん、あのー火葬は……」

「? 何か問題が?」

「イエ……。でも、せっかくこれからこの人たちを移送するんですから。聖教の司教に……」

「……」

 

 あー、ボクの軍資金がぁ。

 でも、正規の弔いってそうなのよなぁ。

 

「お、お金がかかりますし……。やっぱり、やめておいても……」

 

 やめておいてもええ言うなら、そんな目をせんでくれ。

 やめろ。その目はボクに効く。

 

 上目遣いで、ボクを見上げる潤んだ目。……まあ、この子世間知らずやし。ここで要求つっぱねて目の前で火葬してもええんやけどさ。

 

 それはボクの良心が許してくれん。

 

「……わかりました。なら、仏さ……遺体も運んでいきましょう」

「ありがとうございます。でも、ごめんなさい。わがままばかり言って」

「良いですよ……聞き入れているのは私ですから」

 

 甘いなぁ、ボク。ただでさえイータにも甘いせいでゼータとかアルファに怒られとんのに。また二人に怒れるわぁ。

 

 スライム棺桶を放り投げて納棺。初めは驚かれたけど、そう言うアーティファクトって誤魔化したらなんかいけた。

 拘束移送用の縄で一人一人拘束して歩く。

 変な気を起こされても困るので、縄だけテレジアちゃんに握らせてボクは棺を引きずる。葬棺に詰められれば楽なんやけどなぁ。葬棺は遺灰が入っとるから仏さんは入れられんのよねぇ。

 

「最寄りの町は、先ほど寄った湖畔の街ですかね」

「たしか……お水が美味しかった場所ですね!」

「水が綺麗で、飲み物が美味しいことが売りみたいですね」

 

 観光の売りとしては弱いけどな。水は綺麗で、お酒やら飲み物が美味しいらしい。らしいんやけど、ボクにはあまり違いがわからんかった。

 上流階級で良いもんがわかるテレジアちゃんだからこその感覚なんやろうかねぇ。

 

「今から向かえば夕暮れですか。となると、せっかくなので一泊して行きますか」

「アッ。デモ、お金……」

「大丈夫です。そこそこ蓄えはありますから」

 

 まあ、その蓄え。軍資金も尽きかけやけどね。また吟遊詩人の真似事でもするかね。

 ──おっと、一人が魔力使ったな。

 

 瞬間加速。からの後ろに回り込んでスライムソード短剣形状で突きつける。

 

「変な気は起こさないでください。殺すしかなくなってしまいます」

 

 脅すために首に少し食い込ませるぐらいの力加減で短剣を突きつける。

 

「ヒツギさん!」

 

 テレジアちゃんが肉眼で簡単に追える程度に加速してボクの手を掴む。焦っているような顔やな。

 

「その人を殺してはダメです」

「なぜです?」

「人だからです」

 

 いつもの弱そうな顔はない。怯えはあっても、ボクを必死の形相で睨む目には強い意志を感じる。

 ……よく知っている目や。

 理想のために走る奴の目をしとる。そして、その理想の遠さを知ってる奴の目。シド。ミノルの奴がたまにしていた目や。

 怖くても現実に立ち向かう奴の目。

 

「テレジアさん。あなたのその優しさは美徳でしょう。しかし、その優しさは他人を守るかもしれませんが自分は守ってくれません。最悪死にます」

「わかっています。それでも、私は優しくありたいんです」

 

 短い付き合い。大体四日ほどの関わりでもわかったことがある。

 この子はアホの子やし、常識も微妙にない。優しすぎるし、素直すぎる。そして、話題もないとまともに話せんぐらいの陰キャ。

 

 せやけど、頑固な子。決めた意志は絶対に曲げない。妥協したりしない。

 何がこの子をそうさせとんのかはわからん。せやけど、理想のために突っ走り続けられるタイプの。シドと同系統の人間の匂いがする。

 

「……左様ですか。よかったですね。ですが、次はありません。有無を言わさずに殺します。よろしいですね?」

「わ、悪かった……」

「ならよろしい。……テレジアさん。向かいますよ」

「はい!」

 

 ……本当に、不思議な子やなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 野盗の引き渡しをした謝礼に一人につき500ゼニー受け取り、二人分の遺体を教会に任せた。葬儀依頼料一人1500ゼニー。うーん。高い。流石は葬儀拝金主義者達やな。〝聖〟教が聞いて呆れるわぁ。欲だらけやないか。

 

 その後は、少し町をふらっと観光してそこそこの高い宿に入る。

 安い宿や、魔力の流れや空気の流れが明らかにおかしい宿は、盗みや強姦。犯罪の温床になっとるか、裏社会と繋がりのある危険な場所やったりする。と、ゼータちゃんから聞いたんで、そこそこお値段はするけど風呂も食事もある宿を選んだ。

 正直ボクだけならやっすい犯罪の温床になりかけのボロ宿でも、野宿でもええけど。ええとこのお嬢様はたまには宿に泊まりたいやろうし、ボクの雑に作ったご飯よりもちゃんとお値段通りの美味いもん食べたいやろうしな。

 

「……気持ちがええなぁ」

 

 水が綺麗な町を売りにしとるだけあって、風呂もそこそこ広くて時間指定で使えるんは嬉しいなぁ。

 共用風呂でいつでも誰でも使える場所は、ボクの見た目は驚かれるからなぁ。

 

 溜まる湯の水面に映るボクの顔。

 肩まで伸びて、そろそろ背中につきそうな白金色の髪。緋色の瞳。歳を重ねるごとに男らしさっちゅうか、女顔っぽくなってくる。

 体の線も太ない。細く、柔軟性に富んだしなやかな身体。筋肉もつけてるから腹筋も割れとるし、筋肉の筋も見える。ただ、それでも細い。

 

 男らしい部分と聞かれると股間に生えるエクスカリバーぐらい。そこそこ大きい方やとは思う。平均よりちょいでかいぐらいやろうけど。

 

 ボクは体の線が細いのと、顔が女顔のせいでついさっきまでテレジアちゃんには女の子と思われとったらしい。……まあ、声も別に低くないしな。ボク。

 まあ、女の子やと思われとったせいで同室になっとるし。お風呂も一緒に入ろうしてたからなぁ。びっくりしたわ。

 

 ──ガラガラ。

 ……マジかいな。

 

 開かれた扉の方は見ず、生体探知のみ使う。

 

「お、おおお。おせにゃかを。おお、お背中をナガッ!」

 

 あ、舌噛んだな。悶絶しとりますわ。

 

「……大丈夫です?」

「ひゃ、ひゃい……」

「本当に大丈夫ですか」

 

 主にキミの頭とか、舌とか。……治したるか。

 

「ちょっとこっちに来れますか?」

「ひゃい!」

 

 体温の上昇。恥ずかしいんかね。

 嫁入り前の女の子やし、目を閉じたまま振り返ってテレジアちゃんの頬に手を当てて魔力を込める。痛みを直ぐ取るってのは出来んけど、舌噛んで舌でも怪我してたら痛いやろし。治しとく。

 

「あ、あの……今なにを」

「舌を噛んで怪我をしたでしょう。痛みを直ぐ直ぐ取ることはできませんが、怪我は治したので痛みが長引くことはないでしょう」

 

 立ち上がって脱衣所の方へ行く。

 なんか、立ち上がった時に「これが殿方の……」とか聞こえた気がせんでもないけど気にしない。

 

「え、えっと。背中を……」

「大丈夫です。私は長風呂は苦手でして、もう上がるので、テレジアさんはごゆっくり疲れをお取りください」

 

 静止の声が聞こえない気がしなくもない。

 でも、背中をながさせても面倒なので早々に撤退しよう。夕食まで時間もあるし、部屋で地図でも広げて────ああ、近くきてんのやな。なら、こっちもアピールしとくか。

 

 魔力を一瞬だけ放出してモールス信号のように返す。会うなら深夜か。夕食の時に声をかけられるかやな。

 

 二週間? いや、一月半近くぶりかね。

 

 元気にしとるやろうか、アルファちゃん。

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