ただ人でありたくて   作:メめ

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二十五話 陰のような陽。弁明としては事故です

 

 

 

 お風呂を上がって早々に着替えて部屋で地図を見る。……だんだんと魔力反応が近くなってくるなぁ。数は一つ。

 アルファちゃんのやつやな。他にはないし、単独でこっちにきとるんかね。それとも、近くにはおるけど別行動しとるのか。

 

「た、ただいま戻りました……」

「おかえりなさい。ゆっくり休めましたか?」

「はい……」

 

 ……ボクは何も聞かんし、何も言わんぞ。せやからそんなもじもじせんといてや。

 

「テレジアさん。あなたが私の性別を勘違いしていたのは全然構いません。そして、同室だからと言って、私はあなたに何かをする気はありません」

「……知ってますよ」

「なら、気にすることもないでしょう。これまでの様に特に変わらず、あなたが眠り。私も眠る。それだけのことです」

 

 特に何も変わらないし、変えるつもりはない。テレジアちゃんは、ただ成り行きで家まで送り届けることになっただけの貴族令嬢。

 そして、ボクはたまたま通りかかって。たまたまテレジアちゃんを助けただけの通りすがり。それ以上の存在ではない。

 

「それと、もう少しすれば食事の時間ですし。私は先に降りますね」

「あ、あのっ」

「? どうかしましたか?」

 

 何か用があるんやろか? アルファちゃん下の階にいるから会いに行きたいんやけど。

 

「わ、私とお話しませんか」

「お話ですか?」

 

 一体何の話をするというのか。

 

「はい! なんか、ヒツギさんとは距離を感じるんです!」

 

 それはそうだ。テレジアちゃんはかなりええところのお嬢様。本来底辺の医療貴族とは関係のない身分。

 ボクは別に気にしないけど、こっちに情を持たれて色々詮索されると面倒やし。同情されるんは苦手やからな。

 この子は優しすぎる。はっきり言える。この子は優しすぎて身を滅ぼすタイプの子。

 優しさとそれを行うほどの実力が伴っていない。目のまでにいる人を全力で救おうとするタイプの善人。

 

 この子のことは、理解できても相容れん。

 

「……まあ、はい。とってますからね。距離」

「きっと会話が足りないからなんです! ……私がおしゃべりするのが苦手なのもあると思うんですけど」

 

 あら、自覚があるタイプのコミュ症なんやね。キミ。

 

「でも、私。がんばります! な、なので私とお話してください!」

「そんなに声を出さなくてもちゃんと聞こえますから。……そうですね。食事が終わった後で良ければ、ですね」

「はいっ!」

 

 元気な子やねぇ。慣れたらある程度自分から話せる様になるのかね。

 

「私は先に降りてるので「一緒におりましょう!」……」

「バラバラに降りるよりも一緒に降りた方が仲良くなれると思うんです!」

 

 …………あー、これは。……あれか。陰キャ特有の距離感バグか。仲良くなろうとして距離を頑張って詰めようとしてるやつや。でも、距離の詰め方がわからんくて色々理屈つけてくるやつや。

 これの返答ミスると関係壊れるレベルのダメージを相手が負うからなぁ。でも、肯定しすぎると依存されるし……。

 一緒に降りる自体は別にええんよなぁ。断る理由も特にないし。

 

「わかりました。一緒におりましょうか」

「はい!」

 

 あー、嬉しそうな顔しとるなぁ。笑顔が輝いとる。純粋な子やなぁ。……はよ、家に帰してやらな。ボクと一緒におるんは教育によろしくないやろ。

 

「あっ」

「おっと。大丈夫です?」

「は、……はひぃ」

「……」

 

 ボクを追いかけようとして足を踏み出して何もないところで転ぶ。

 咄嗟に人が転ぶのを支えるんは、ガンマで慣れとるしな。

 

 目が合った。

 金色の瞳が揺れていて。昼頃に見た意志の強さなんて見る影もない。ただの弱い少女の様な目。

 

「足元はお気をつけて」

「は、はいぃ」

 

 テレジアちゃんを立たせて部屋の戸を開ける。……やっぱり、先に下の方いるよな。アルファちゃん。

 

「行きますよ」

 

 ボクは先に部屋を出る。テレジアちゃんは直ぐに出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下の階に降りて席に着く。

 当たり前の様にボクの隣に座るテレジアちゃん。

 そして、机を指先で叩いて話しかけてくる黒い装いの旅人風の金髪の少女。

 

「向かいの席いいかしら」

「ええ。私は構いませんよ。テレジアさんはどうですか?」

「え、アッ。…………ハイ。ダイジョブデス」

 

 あ、ガッチガチになった。元々内気なんか。それとも、マジで箱の中に入れられて生きてきたんかね。……まあ、どっちでもええわ。

 

「お久しぶり、と言いましょうか。アルファさん」

「ええ久しぶりね。ヒツギ」

「えっ、お知り合いですか?」

 

 目の前に座るエルフの少女。アルファちゃん。旅人っぽい服装やな。まあ、わざわざ目立たんように着替えたんやろうなぁ。

 

「ええ。三年前からの知り合いです」

「そうね。よくお世話になっているわ」

「ソ、ソーナンデスネ……」

 

 ああ、もっとガッチガチに。

 

「お邪魔だったかしら」

「……私と初対面の時は割と何とかなったので、初対面はいけると思ったのですが」

「ダ、ダイジョブ。デス」

「ダメそうです。すいません」

「いいの。急ぎの様というわけではないから。近くに来たから顔を見せに来ただけだし」

「ああ、そういう。……ということは、他の子達も」

「ええ。この町にいるわけではないけど、近くにいるわ」

 

 ほーん。七陰の子達も近くに来とるんか。ちゅっことはゼータちゃんもいるんやね。

 

「あなたはお仕事?」

「いや、成り行きで助けたので」

「……また猫を拾う様に人を拾うのね」

「またとは何ですか」

 

 またとは何や、またとは。

 今んところゼータちゃんとイータちゃんぐらいしか拾っとらん。

 それに、イータちゃん治したんはシドやろ。ボクは見つけただけで拾っとらん。

 

「あまり長く話をしたら、その子に悪いわね」

「いえ、そんなこと……」

「また会いましょ。ヒツギ」

「はい。また、会いましょう」

 

 アルファちゃんはそう言ってボクの横を通り過ぎて出ていく。ボクのポッケに何やらメモを入れて。

 

「……ヒツギさん」

「何でしょうか」

「……あのエルフさんは」

 

 ? アルファちゃんのことが気になるんかね。

 

「あのエルフさんは、ヒツギさんのご友人なんですか?」

「はい。そうですね」

 

 そうやね。アルファちゃんはこの世界である意味初めての友人やな。

 

「こ、恋人とかではなく……」

「何をどう見て彼女と私が恋人と勘違いをしたのかはわかりませんが、違いますよ」

「そ、そうですか…………よかった」

 

 ……一体何が良かったのか。ボクにはサッパリや。

 想像は付くけどわかりたくない。

 

「お夕食。お夕食をとりに行きませんか!」

「はい。わかりました。では、行きましょうか」

 

 立ち上がって受付の方へ行くテレジアちゃん。顔が赤くなっているし、人見知りが発動したんやろうか。同性相手にも人見知りするんなら、やっぱり人間関係が限られていたんやろうかね。

 

 ……。見られてんなぁ。数が四。何が目的やろうか。好奇的な目だけではなさそうやな。

 

 あまりテレジアちゃんからは離れられんなぁ。狙いがボクなら瞬殺出来る。多分、テレジアちゃんも実力的にはその辺のチンピラ程度なら負けんやろうけど、優しすぎて逆に危険。

 あまり目を離せんなぁ。

 

 まあボクが無知やっただけで、テレジアちゃん大物の娘やからな。人攫いとかに狙われてもしゃあないか。

 護衛とかをやってるつもりなんてさらさらないけど、守っとかなあかんなぁ。家に送り届けるって約束したし、ボクの感知できる範囲で変なことされんでくれや。目覚め悪いから。

 

 テレジアちゃんの後に続く様に席を立って食事をもらう。

 今日の食事は、パンとスープと少しのサラダか。まあ、それなりに安い宿やししゃあなしか。……なんか、メニュー表っぽいの渡されたし、物足りなかったらこっから頼んで金払って感じかね? 

 

「美味しそうですね」

「そうですね。何か追加で頼みますか?」

「いえ、そこまでしてもらうわけには……」

「では、足りなければ追加で頼みましょう。私もこの量で足りるとは思いませんから」

 

 これでも成長期男子。パン一つとスープとサラダ程度で腹は膨れないのだ。

 

「あ、では。……私はあまり食べないので、私のパン。半分食べますか?」

「いえ、それはテレジアさんのですのでお構いなく」

「いえいえ。ヒツギさんが食べてください」

 

 渡されても困るけど、受け取らんともっと面倒そうやなぁ。

 

「……では、お言葉に甘えて」

「はい!」

 

 ああ、笑顔が眩しい。

 

 ボクはテレジアちゃんからパンの半分を分けてもらった。

 ……追加でなんか頼んで、シェアして食べようかね。どうせ食事量足りんやろし。

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