ただ人でありたくて   作:メめ

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二十八話 血は争えないし、外れない

 

 

 

 どっちや。どっち側や。

 

 目の前に座る超大物。ミドガル三公爵が一人、レイブン・ミネルヴァ。

【賢人】の異名を持つ彼は、王国内でトップクラスの知識人であり。王の助言者。

 

 優雅に目の前で紅茶を飲むその男の腹の中が全く探れん。そもそも、政治貴族なんやから腹芸は得意やろうし。専門家やないボクにはかなりハードルが高い。

 

「……父と知り合いなんですか」

「ああ。君の父、ヨアシュ・カソウは私の学友でね。ミドガル魔剣士学園ではよくヤンチャをしたものだ」

 

 そないに懐かしむように言われてもわからん。ボク、パパンのこと本当によく知らんのよ。……親心、子知らず。知らなさ過ぎて殺したんがボクなんよ。

 

「彼の訃報を聞いたのは最近でね。二ヶ月もの時が過ぎてしまった。惜しい者を亡くした」

「……そうですね。父はとても不器用な人でしたが。優しい人でした」

「そうか」

 

 パパンは不器用な人やった。殺しに来たボクを責めることなんてなかった。自分の罪の中で、自分の犯したものを見続けながら死んだ。

 贖罪のつもりやったんやろうか。……許すななんて無理よ。許せるわけないやんか。あのクソ親父。

 

「生き残りは君だけだと聞いている。今はカゲノー男爵家で預かりになっているようだね」

「はい。カゲノー男爵様には大変お世話になっております」

 

 ホンマにカゲノー男爵にはお世話になっとるわぁ。ゆるーく自由にやらせてもらっとるし。かなり気遣い上手な人や。家族内ヒエラルキーはえらい下やけど。

 

「クレア・カゲノーと婚約関係だったとか」

「父の死と共に解消されてしまいましたが、それでも。オトン・カゲノー男爵様にはお世話になっておりますよ」

「そうか。オトン・カゲノー氏がね。彼は良くも悪くも典型的な貴族だ。地位はなくとも、優秀な魔剣士だからね。学ぶことも多いだろう」

 

 あの人が剣握ってんの滅多に見んから。実力はよくわかっとらんけどな。

 

「そうですね。父もカゲノー男爵様は腕の立つ魔剣士だと言っていました。あまり男爵様が剣を持つ姿を拝見することはありませんが、ミネルヴァ公爵様が言うのですから。実際、腕のある人なんでしょう」

「今度、機会があれば剣を打ち合ってみるといい。何か学びがあるかもしれない」

 

 まあ、ブシン流使いやないから。学ぶことがるのかわからんけどね。

 

 

 

 それからもあたりを警戒しながら雑談をし、その雑談の中で父との関係を探っていく。

 でも、いくら探ってもなんもない。

 今んとこ、パパンの学友で、一緒にやんちゃしてたぐらいしか情報が落ちてこん。

 

「君とは一度話してみたかったんだ。この機会に感謝しなければいけないね」

「私としても、公爵様と談話出来たこと。光栄に思います」

 

 一度話してみたかったねぇ。

 それは仲の良かった学友の子だからか。それとも、ボクの兄さんらと姉さんと話したことがあるからなんか。

 

「そうか。……さて、お互い腹の探り合いはここまでにして。腹を割って話そうか」

 

 鋭い目が細められてボクを見る。

 猛獣が目の前にいる。ないはずやのに、首に刃を突きつけられている気分や。

 

「ヒツギ・カソウ。私は君の父が何者なのかを理解しているつもりだ。……気持ちは痛いほどわかるがね。そこで私は強く知りたいことがある。君は何者なのかを」

「……私が何者か、ですか」

「ああ」

 

 ……これは正直に言ったほうがええのか。それとも、ある程度隠したほうがええのか。

 

「それは、教団についてでしょうか」

「……ああ。そうだ」

 

 やはりこの人は教団の存在を知っている。そして、それをボクに対してあまり隠す気がない。

 

「あまり嘘はつかないほうがいい。私の情報網は広い。教団のことでも多少は耳に入る」

「だから、嘘は無駄であると」

 

 ああ、厄介や。心理戦は出来ても、腹芸は得意やない。

 情報戦をするには情報が足りなさすぎる。

 変に隠せんならゲロってまおう。これでカゲノー男爵に迷惑行ったらすまんけど、下手に嘘ついてバレた時のほうがヤバイ。

 

「……では、はっきりとここで申しましょう。私は、教団の手のものではありません。そして、……父。ヨアシュ・カソウを殺したのは私です」

「……」

「ヨアシュ・カソウは。私の父でした。不器用で、言葉も足りない。そんな人でした」

 

 パパンはディアボロス教団の悪いやつやった。せやから、ボクはパパンを殺した。

 なんのために堕ちたのかなんて知ろうともせんで、パパンを殺した。

 

「ああ、知っているとも。ヨアシュはそう言うやつだ。不器用で、言葉足らず。本当に伝えなければならないことは、伝えなければならない者へ伝えずに去っていく。昔から変わらないようだな」

「……公爵様もご経験が?」

「もう十三年は前になる。ある日手紙が届いてね。読んで驚いたとも。〝もう会えない。会うつもりもない。〟そう書かれていた」

 

 ミネルヴァ公爵が懐から一枚の手紙を取り出してボクの前に差し出す。

 その手紙には、〝末の子が産まれた。もう会えない。会うつもりもない。〟と書かれとる。不自然な文章やな。

 

「おかしな文章だと思った私は、色々調べていたんだ。その結果。ヨアシュが教団に出入りしていることがわかった。入団理由が、妻イアリスの悪魔憑きを治すためと言うのもね」

 

「ああ。だから末の子なのか。そう納得してしまったよ」。ミネルヴァ公爵はそう言って力無く笑う。

 便箋の中には一枚の写真が入っている。

 白金色の髪に緋色の目をした赤子。写真の裏には、こう書かれている。

 

 ──ヒツギ・カソウ。

 

 ボクの写真やった。

 

「本来なら、私がどうにかしたかったのだが。彼らは思ったよりも人類史に深く根付く組織のようでね。表舞台にいる私ではどうすることもできなかった」

「……それは懺悔ですか」

「いや。ただの無力な大人の泣き言だとも」

 

 ミネルヴァ公爵は紅茶を飲む。ボクも自分の紅茶に口をつける。話し過ぎたせいか冷えとって、飲みやすい。

 

「ヨアシュの件は残念に思うが。特に何もなくやられたと言うことは、彼も君に思い残すこともなかったと言うことだろう。私は何も聞かなかったことにしよう」

「……ありがとうございます」

「構わないとも。もとより、裏の者を表の世界では裁けない。優秀な我が子に殺されるなど、ある意味名誉のようなモノだ。悔いなく死んだだろうさ」

 

 コンコンコンッ。

 

 ミネルヴァ公爵と話をしていると、扉が開かれる。助けや。天の助けが来おった。重くて空気が死にそうな世界に来た助けや。

 扉が開かれて入ってきたのは、ワインレッドの髪色をした少女。そして顔は真っ赤。湯だったタコみたいに真っ赤な顔の最近よく知る少女でもある。

 

「しししししちゅれいしましゅ!」

 

 緊張のあまり挨拶はカミカミで、アガッているせいで声も上擦っとるし目ぇ回しとる。……大丈夫やろか。

 

「……知っていると思うが、改めて紹介させて欲しい。我が娘のテレジアだ」

「よよろしくお願いしまアッ!」

 

 着ているスカートの裾を持ち上げて一礼しとるけどさぁ。キミ、今噛んだよな? プルプル震えとるで。大丈夫かいな。

 

「大丈夫ですか」

「ア、アッ」

「……大丈夫じゃなさそうですね」

 

 涙目でボクのこと見んといてや。ボクには何もしてやれんで。

 

「ヒツギくん。君も自己紹介を」

「ああ、はい。改めてまして自己紹介を。私はヒツギ・カソウ。医療貴族カソウの末裔です」

「はははははい! よろしクッ」

 

 ああ緊張のしすぎでまた。さらに顔が赤くなっとりますよう。茹で上がって気絶せんか? 大丈夫? あんまり無理せんでもええのよ? 

 

「少々人見知りなところもあるが仲良くしてやって欲しい」

 

 少々なんか? これ、少々人見知りって表してええ範囲か? だいぶ人見知りやない? と言うか、帰ってきてから酷くなっとらんか? 

 

「あまり緊張しなくても……」

「は、はひぃ」

「あぁ、逆効果」

 

 誰やテレジアちゃん連れてきたんわ! シリアスやなくなったけど、こんなん収集つかへんぞ! 

 

 とりあえず、今にも大暴走してまいそうなテレジアちゃんをなんとかせな。

 

 一言「少し失礼します」と言ってテレジアちゃんに歩み寄って手を握る。彼女の金色の瞳と視線を合わせて、ゆっくり落ち着けてこう。

 

「大丈夫。あまり恥ずかしがらないで。ゆっくり息を吸って……吐いて……」

「ミィッ! キュウウゥゥゥ……」

「あっ」

「……倒れてしまったようだね」

 

 恥ずかしさがオーバーフローしたんか、それともなんか別の原因があるんか……。どっちかはわからんけど、ぶっ倒れた。

 崩れ落ちる時に咄嗟に受け止めたけどさぁ……。どないしようか。

 

「……ミネルヴァ公爵様」

「何かね」

「一先ず、テレジアさんを寝かせに行きませんか?」

「ああ、そうしよう。ミューゼ、テレジアの部屋へ案内して差し上げなさい」

「かしこまりました」

 

 ああ、恐ろしい。声音がえらい冷たいやないですかぁ。顔見れん。

 

 ……そういや、ゼータちゃんが子煩悩言うてたなぁ。

 

「ヒツギくん。あとで、別用で話があるんだ。良いかね」

「……はい」

 

 ボク死んだかもしれん。早いとこ逃げんと死ぬかもしれん。

 

 目から光が消えた子バカの公爵に殺される。

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