ただ人でありたくて   作:メめ

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三十一話 龍と寝る白猫。逆鱗を噛んだ金猫

 

 

 

「また遊びに来てくださいね」

「はい。お世話になりました」

「気にせずここを尋ねると良い。我々ミネルヴァ家はカソウ家である君をいつでも歓迎する」

 

 それはありがたい限りなんやけどねぇ。ボクには重い権力や。そんなに権力なんていらんて。あっても持て余す自信しかない。

 

「またいつかお邪魔させてもらいますね」

 

 愛想笑いで返して公爵家から出る。しばらくは尾行があるやろうしなぁ。さってと。

 フードを深く被り直して、歩いて門の外に出て。王都内を歩き回る。

 

 魔力痕をわざと残しながら都内を散策する。

 本屋に入ったり、喫茶店を外から観察したり。特に行き場はなく歩いていると、

 

 ──来た。

 

「痕を残してくれて助かるよ」

「待っとったで、ゼータ」

「待ち合わせで彷徨くのは良くないね」

「一箇所にとどまるんもリスクやから、しゃあなしと思ってくれ」

 

 一箇所にとどまり続けても変に疑われるだけやしね。アルファちゃん宛に出した手紙は、ちゃんと読んでもらえていたらしい。っちゅうか、ゼータちゃんが手隙で助かったわぁ。

 キミ、最近えらい忙しいらしいやん。

 

「元気にしとったか?」

「うん。そこそこにはね」

「そか。んじゃ、外に移動しよか」

 

 さぁってと王都の外へ移動しましょかね。変に話聞かれても困るしなぁ。

 

「いや。少し見て回るようにアルファに言われたんだ。少し付き合ってくれない」

「なんや。王都でなんかあるんか?」

「いや。ガンマが陰の叡智を使って商売を始めるらしくてね。土地を見てまわって欲しいらしいんだ」

「なーるほどね」

 

 陰の叡智を使って商売ねぇ。まあええんやない? 何を売りにしてやるんかは分からんけど。ガンマちゃん頭ええし、七陰の子らみんなでやるんやろ? いけるいける。

 

「今は小規模の露店販売だけど。王都に店を出して、活動の仮拠点にしたいんだってさ」

「仮拠点?」

「あれ、言ってなかったっけ? シャドウガーデンの人員が増えてから拠点を構えたんだ。アレクサンドリアって場所なんだけど」

「アレクサンドリアね。……ああ、霧の御伽話のやつやな」

 

 アレクサンドリア。かなり古い御伽話に出てくる霧に包まれた神秘の都。

 どこにあるかはもう解らないはずなんやけど。……見つけたんか。

 

「そう。そこに拠点構えてるから、今度おいでよ」

「場所がわからんから無理や」

「じゃあ、今度案内するよ。それとも、今から向かう? アンダーの足なら、休憩を挟みながらでも日が落ちる頃には着くんじゃないかな」

 

 結構遠いやんけ。それ、ボクの足っちゅうけど。全力で走ってるボクの足での話やろ? やだよ。向かう理由も急ぐ理由ないんやから行くなら無理せずゆっくり行きたいわ。

 

 それに

 

「王都の散策はどうする気なん。アルファちゃんからまたお小言いわれんで」

「おっとそうだった。……そうだ」

 

 ゼータちゃんと視線が交わった。綺麗な紫の瞳がボクの顔を覗き込むように見る。

 

「私、お腹すいちゃったからさ。ご飯連れてってよ」

「あんまり土地も店も詳しくないけどええか?」

「うん。アンダーと。ヒツギと一緒に行けるならどこでも良いよ」

 

 ボクと一緒ならどこでもね。……〝何処でも〟とか、〝何でも〟って、決めんの大変なのよな。

 

「行きたい場所とかないんか?」

「ヒツギが行きたいところでいいよ」

「ボクが行きたい場所ねぇ」

 

 ボクが行きたい場所ねぇ。

 正直、ボクはキミが楽しそうな場所なら何処でもええんやけど。

 

「ボクが行きたい場所言われてもねぇ」

 

 特別なんかあるわけやないしなぁ。

 ……ああ、でも。

 

「なぁ、ゼータ」

「行く場所決まった?」

「おん。ちょっと行きたい場所を思いついてな」

 

 ボクが行きたい場所。

 出来れば、ゼータちゃんも一緒に来て欲しい。

 

 排気の匂いと人の動きの多いここだと酔いそうになるけど。

 まだ安心して居られる場所。

 

 でもその前に、出店で物買ってくか。

 

「でも、その前になんか買ってから行くか」

「そこで食べるの?」

「ご名答。はなまるあげるで〜」

 

 この匂い的に、肉屋でカツサンドが出来た感じやな。

 買いに行ってくるか。

 

「さあ、行こか。はぐれんよう、手も繋いでな」

「じゃあ、エスコートはお願いしてもいいかな?」

「任せとき。探知は得意や」

 

 ゼータちゃんに差し出した手が握られ、ゼータちゃんの手を軽く引いて肉屋へ行く。

 

 そこでカツサンドを二つ買って、紙袋に入れてもらう。それを葬棺にしまってから向かおう。

 

「ゼータ」

「なにかな」

「高いとこって安心せぇへん?」

 

 人目から隠れた場所で魔力を使いながら跳躍した。

 もちろん、ゼータちゃんは抱き抱えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都にある時計塔の上。

 その縁に隣り合って座りながらカツサンドを食べる。んー、上手い。まあ、カツサンドっちゅうよりは衣つけて雑に揚げられた肉をパンで挟んだだけのやつやけど、ちゃんと上手い。

 

「見晴らしがいいね」

「せやろ。割とお気に入りや」

 

 人酔いすることもないし、見晴らしがええ。公爵家の外を一人で歩く時は、大体ここにきた。

 

「人を見下ろす趣味でもできたの?」

「いんや。……なんとなく、安心するんよ」

 

 ほんの少しだけ安心する。

 最近は特にそうだ。葬棺の中で寝るとぐっすり眠れるし、高いとこにいればほんのちょっとだけ安心する。

 何年も前から一応高い場所は嫌いやないし、暗くて狭い場所も嫌いやない。どれも好きな方やけど、最近。……自分の家族殺した後からは結構好きになった。

 

 かなり複雑な気分やけどな。

 

「なぁゼータ。今回呼び出した理由なんやけどさ。ちょいと聞きたいことがあってな。金豹族に炎とか、噴火とかの厄災があったっちゅう伝承とか、歴史かなんかってあったりせぇへん?」

「うーん。聞いた覚えがある様な気はするんだけど……ごめん。内容教えてくれない?」

「長いから端折るけどええ?」

「いいよ」

 

 マージで長いから簡単に端折りながら内容を伝える。

 龍と白い金豹族の話。

 話の終盤に、怒りに燃えた龍が金豹族の街を焼き払った話。

 

 伝える度になんだか顔色が悪くなってくゼータちゃん。

 

「……やっぱなんか知っとる?」

「まあ、うん。……一族がというか。一部の獣人と人族が滅びかけたってやつだね。文献を読んだことがあるから、昔実際にあったことなんだと思う」

「ほーん」

「でも、殆ど失伝してるし。読んだのはかなり前だから内容も曖昧なんだ。だから、その歴史を追おうとするとかなり大変だと思うよ」

 

 そら大変そうやな。

 

「それに、この歴史を追って教団の手がかりが得られるとも限らない。となると、徒労になる可能性が高い」

「んー、そうかぁ」

 

 まあ、その叙事詩を追ったところで教団には、なかなか繋がらなさそうよなぁ。

 

「それにだよ。その龍と会ってどうしたいのさ」

「? ボクは龍に会うなんて一言も言うとらんで」

 

 ボクは龍に会いたいわけやない。単純に、この叙事詩が歴史の一部なのか知りたかっただけ。

 あと、場所がわかっとって。余裕があるんなら、ついでにその龍の現状を見てみたいなー。と思っとるだけ。

 

「龍に会いに行きたいんじゃないの?」

「おん」

「じゃあ、なんでこの叙事詩を調べたいの?」

「ゼータならなんか知っとるかなーって」

 

 どした。そないな顔して。

 

「あとは、白い金豹族がおるかもしれんっちゅう期待やな」

「なんで白い金豹族を探しているのさ」

「自分が最後の種や。生き残りや思うとなんか心細くならん?」

 

 ボクは割と心細いで。

 ボクが親戚やなくて、カゲノー男爵がボクを引き取ったっちゅうのはつまりはそう言うことなんやろう。

 

 本家どころか、分家もみんな潰れとる。せやから、ボクは。カソウはボクが最後で、クレアさんとの婚約破棄も、カソウ家がなくなるからってことやろ。

 

 自分が最後の一人。そう考えると寂しい気分になる。

 

 それと同じように、ゼータちゃんは最後の金豹族。ボクも心細く思うんやから、きっとゼータちゃんも心細く思ったりする筈。

 せやから、ゼータちゃんと同じ金豹族の子が居れば少しは気が楽になるかなと。

 

「ガーデンにその子らが来んでも。一人やないと思ったら少し気が楽にならん?」

「ヒツギは、その叙事詩に出てくる龍よりも、金豹族が目当てってことでいい?」

「そうやな」

 

 えらい強い龍の相手なんてしてしたぁないで。ワンチャン死にますやん。ボクはまだやりたいことあるんやから、そんなリスクは取りたぁない。

 

「だけど、叙事詩だとその白い金豹の巫女の娘は人里におりた。だから、その滅びた都にはいないんじゃないかな」

「ああ。でも、ボク的にはあの最後の何処は嘘も混じっとるんやないかと考えとってな? 金豹族と人族が交わってもどっちかにしかならん。どっちもは遺伝的にあり得ん。ハーフっちゅう可能性もある。でも、ハーフなら人族でも迫害対象になる。迫害を恐れずって美談にはなるんやろうけど、それなら教団が見過ごさん。となると、滅びた都。その付近を生活圏内にしとるんやないか。っちゅうのがボクの考察」

 

 都から出てるにせよ。わざわざ遠くへ離れる必要は無いやろし、近くを活動拠点に置いとる筈。可能なら接触。無理なら無理に近づかずに、交流を深めていきたいところやな。

 

「なるほど。確かに筋は通っている。戦力増強も狙えるかもしれないし、交易相手にもなるかもしれない。シャドウガーデンにも損はない」

「そう。キミらの新しい拠点がどんな場所かは知らんけど、採れる農作物も獣も地域差がある。交易の相手として、探してみても損はないんやない?」

 

 まあ、ボクが行きたい理由は単純な好奇心だけやけどね。

 

「でも、アルファに一度相談かな。かなり探索しなきゃいけないだろうし」

「了解。っちゅうか、一緒に来てくれるん?」

 

 てっきり一人旅かと思ったで。

 

「詳しく知ってるのは私だけだし、内容が複雑だからね。土地勘もある程度ある私が適任だろうから、許可は降りると思うけど」

 

 まあ確かに。ボク一人よりもゼータちゃんが一緒にいる方がええよなぁ。

 

「返事来るまでボクどないする?」

「いや。手紙で報告するぐらいで良いかな」

「ええんか? 怒られるで」

「元々、ヒツギの所に来る時に、伝承を調べるならって長期任務としてこっちに来てるから、報告は手紙で良いでしょ」

 

 適当やなぁ。ええんかそれで。

 

「普段は変に怪しまれても大変だし、手紙の横取りがされる場合もあるからそもそも手紙出さないし。今回みたいに最初の報告するだけ、良いと思うけどね」

「普段から手紙は出してやんなさい。アルファちゃんの胃に穴開くで」

 

 この自由人はホンマに……今度、アルファちゃんに労いの言葉でもかけておこう。久しぶりにマフィンを焼くのもええかもしれん。

 

「じゃあ、もう少し王都を回ってから行こうか」

「はいよ」

「今度は何処に連れて行ってくれるのかな」

「ここ以外におすすめの場所ないんやけど……。まあ、適当にぶらついてよか」

 

 さて、時計塔から降りますかね。

 

「……そろそろ尻尾を解いてくれん? くすぐったいで」

「はーい」

 

 手に巻き付く尻尾を解いてもらった。ホンマに好きよなぁ。ボクの腕に尻尾巻き付けんの。

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