ただ人でありたくて   作:メめ

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三十二話 とんでもない誤解や。どないしてくれんのこれ

 

 

 

 カソウ男爵領。

 田舎の底辺貴族と思っとったけど、医療貴族であるため王国側の配慮で辺境の地を任されとっただけのカソウ男爵家が管理する領地。

 山や洞窟が多く、薬草栽培や病気の研究。元開拓地であるために、医療、医術の普及のため。分家を王都において本家が自ら志願して辺境にやってきたという変わり者貴族。

 優秀な魔剣士と医者を輩出しており、戦場医術の開祖でもあるんやとか。まあ、全部ミネルヴァ公爵から聞いた話やし、実際のところどうなんかは知らん。

 実家のこと、あんま興味ないしな。なんなら継ぎたくない。

 

 相乗りの馬車にゼータちゃんと揺られながら久しぶりに到着した。あ゙ー、田舎の空気最高。人が少ないって素晴らしいね。気配が少ないおかげで大規模索敵を常に出来て安心するわぁ。

 

「アジトに骨壷置くって言っても、もう置く場所ないんじゃなかったっけ?」

「ないで。でも、これ持って行くわけにもいかんやろ」

 

 ここに来た理由は荷物の整理のため。骨壷が荷物を圧迫しとったからひとまず置きに来た。

 相変わらず納骨堂候補は見つからんけど、遺骨を持ち歩くと葬棺を使えんくて敵わん。結局、ボクのクレイモアはテレジアちゃんにあげちゃったし。

 まあ、めちゃくちゃ嬉しそうにしとったからええんやけどさ。アジトに行けば予備置いてあるし。

 

「こっからなら、アレクサンドリアに寄れるとおもうけど。そこに置くのじゃダメなの?」

「そこはシャドウガーデンの場所やろ。ええわけあるかい」

 

 そこはキミらガーデンの場所。そんな場所に異文化過ぎる納骨堂を置きたかぁない。

 そもそも、場所が手狭になって納骨堂探すぐらいならシドんとこの廃村を使っとる。

 

「でも、この間イータがヒツギ用の休憩室作ろうとしてたよ」

「作ってどうする気なんや」

「アンダーが頭痛持ちだから、薬品開発のための治験室って言ってたかな?」

「そこホンマにボクの私室?」

 

 それはただの治験室やないか。

 一応、今はだいぶ楽になっとるで。イータから貰ったんがよう効いとる。パパンとかサンジ兄の処方してくれるやつ以外。特に市販のやつだと効かんのよね。なんでやろか。

 

「まあええわ。私室を作ってくれとったとしても、ボクがその私室を納骨堂にするこたぁない。人骨が入った壺が大量に保管されとったら嫌やろ」

「まあうん。あまり気分は良くないね」

「やろ? せやから、あんまりキミらの近く置いときたくないのよなぁ」

 

 ボクも隣の部屋とかに大量に骨壷が置かれてたりしたら嫌やしな。自分の部屋にある分にはええんやけどさ。

 

 雑に駄弁りながらゼータちゃんとアジトに向かう。……? 

 

「なぁ、ゼータ」

「どうかしたの?」

「ガーデンかなんかの指示でアジト周りに警備とか配置してたりする?」

 

 なんか、知らん反応が三つあるんやけど。

 

「どうだろう。私は聞き覚えがないかな」

「……ほーん」

 

 聴力を強化してっと。

 

『にしても、不気味なところ。なんでこんな場所の警備を』『そんなこと言わないでよ。見回りの訓練も兼ねてるって教官も言ってたんだから』『って言われてもさぁ〜。ここ、穏やかな場所だよねぇ〜』

 

 教官? どっかの訓練兵かなんかかいな。

 だとしても、なんで来ないな場所の。ボクのアジト周辺の警備を? 

 

「警備とか。見回り訓練言うてますけど」

「うーん。とりあえず、不意打ちだけ気をつけて確認しに行く?」

「確認しに行くもなんも。ボクのアジトのすぐそこやし、そのうちぶち当たるで」

 

 位置関係的に、本当にすぐそこなんよなぁ。

 

「と言うか。ここからの距離でもわかるようになったんだ……」

「そうやなぁ。キャンプはいつでも死と隣り合わせやからなぁ。野宿の時はずっとやっとったしなぁ」

 

 夜に野盗に襲われたり。野獣と遭遇したり。……意外とうまかったよなぁ。熊鍋。テレジアちゃんが青い顔して解体見とったけど。

 

「私の知るキャンプはもっと穏やかなモノなんだけど」

「まあ、しゃあないわなぁ。だって夜も焚き火しとるし」

 

 夜に焚き火してるなんてこの世界やとわりと非常識みたいやしなぁ。野盗さんらに世間知らずが居ますよーってアピールにしかならん。テレジアちゃんからも苦言を呈されたわぁ。

 

『誰か近づいてきてるみたいだよぉ〜』『仕事の時間ね』『作戦はいつも通りで行こうか』

 

「あちらさん、ボクらに気がついたようやで」

「みたいだね。……どうする?」

「どうする言われてもなぁ。あちらさんの出方次第やな」

 

 始めっから武力警告してくるんなら、取り敢えず拘束して情報吐いてもらうし。警告だけなら事情説明して、ダメそうなら押し通る。

 ……でも、ボク加減苦手やから葬棺は使えんし。もちろんスライムソードも使えん。強かったら苦戦するかもなぁ。

 

「一番ええんは、大人しく通してくれることやけど。知り合いやったら言うてな。あんまりにも弱かったら、誤って殺してまうかもしれん」

「もちろん、その時は言うよ」

 

 高さ的には木の上。そこへ視線を向ければ黒いローブを身に纏う三つの影。

 

「止まれ、そこの二人」

「ここより先に何か用かな〜」

 

 木の上から降り立って立ち塞がる。ローブのせいで体型がわからんし、間合いも微妙。武器の有無もわからん。

 

「ここから先は──ん? ……ゼータさん!」

「知り合いか?」

「うん。七陰の〝天賦〟のゼータさんだよ」

「あの人なんだ〜。初めて見たかも〜」

 

 ……ゼータちゃんの知り合いか? ってか、天賦? 

 

「ゼータちゃん、知り合い?」

「うーんと。ごめん、顔が見えないからなんとも」

「わたしです。045番です」

「045番。ああ、確か私のところに配属される予定の子か。と言うことは、そっちの二人が046番と050番かな」

「はーい。050番でーす」

「お初にお目にかかります。上官、046番です」

 

 なんや。ゼータちゃんの知り合いか。配属がどうってことは、ガーデンの新入りの子やろか。

 

 別れて約三ヶ月。かなりデカくなっとんのやね。感動やわぁ。つか、三ヶ月足らずでここまで人集まんのにドン引きや。流石は治安世紀末の悪の権化の被害者組織。大規模やねぇ。

 そんだけの苦しんどる人が見つかるんやから、やっぱ教団はでかいなぁ。おっかないなぁ。

 ……細心の注意を払って、やっぱボクも擬態って必要なんかね。でもなぁ、演技得意やないのよねぇ。

 

 でも、ボクの見た目って結構目立つし。髪を染めるとか、カラコンするぐらいはした方がええんかなぁ。

 それか、アンダーテイカーとして動く時は仮面付けるとかした方が身バレ対策になるかねぇ? スライムスーツで、顔は見えんようにしとるけど、万が一があるし。やっぱり髪は染めた方がええんかね? 

 

「──アンダーテイカーさん?」

「ん? なんでしょうか」

 

 話しかけてきたんは045番ちゃんか。フードのせいで顔は見えんから他の子との違いは声ぐらいしかないし。間違えたらごめんやで。

 

「〝番外次席〟のアンダーテイカーさんであってますよね?」

 

 〝番外次席〟、誰やそれ。もしかしてボクのこと? ボクはそんな大層な肩書きなんて要らんのやけど。

 

「番外次席かは分かりませんが、はい。私はシャドウガーデンの主人、シャドウの盟友。アンダーテイカーと申します」

 

 とりあえず、新人の子達の前では一旦猫かぶっとこか。

 

「主人様からお話は聞いてます。この先にある納骨堂? とか言う場所の主人なんですよね。なんでも、遺体を集めるのが趣味だとか」

 

 誰やそんなことを新入りに吹き込んだアホは。えらい誤解されとりますやん。

 

「ほぉう。で、誰から聞いたんですか?」

「主人シャドウ様から聞いております。『我が盟友。番外次席であるアンダーテイカーは、遺体を集めて不浄を焼き清める者だ。敬意を忘れずにいれば、個人としても良き助けとなるだろう』と。とても慈悲深いお方であると聞いています」

「ゼータ」

「……たしか、そんな感じのこと言ってた気がする」

 

 よし、犯人はあのアホやな。今度会ったらキツめにどつきまわしたろ。

 

「まさか、お話を聞いて直ぐにお会いできるなんて光栄です」

「そうですかー」

「あっ。こちらへ来たということは、お荷物の回収ですか? それとも、何かお忘れ物が?」

「得物が壊れてしまったので、換えのものをと思いまして」

 

 あー、早く出発したい。

 

「急ぎなので、通してもらえますか?」

「はい、どうぞお通りください。旅足を止めさせてしまい申し訳ありませんでした」

「良いんですよ。ゼータ、少し早足で行きましょう」

 

 頭が痛い。頭痛の種を増やさんといてや。これ後でこの話聞いた子みんなに弁解して回らなあかんのやろ? 面倒なんやけど。

 

「はーい」

「では、失礼」

 

 ゼータちゃんを伴って早足でアジトまで向かう。もうやだ。ここに居たくない。早よ立ち去って現実逃避せな心が持たん。ついでに頭も持たん。

 

 

 

 

 そんままアジトに骨壷置いて、換えのクレイモアを回収してから立ち去った。

 

 もう、今は何も考えたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れる前に山頂にはついた。せやけど、視界の悪い状態で下山するんは転落の危険がある。

 っちゅうことで、ボクとゼータちゃんは山頂付近で野営することにした。

 

 山頂付近には運良く廃村らしきものがあった。そこに拠点を作って夜を明かす。

 

 森で事前に拾っていた木の枝やら樹皮を組んで火をつける。

 パチパチと燃え始める木の枝に、火の灯り。

 スライムスーツのおかげであまり寒くはないけど、ぴっちりとしたスライムスーツで身を包むゼータちゃんが見ていて寒そうなのでローブを貸した。

 

「……冷えるね」

「まあ、山の上やしな。標高が少し高い分。風も強いし肌寒くなるなぁ」

 

 火の近くに座って暖を取る。別にボクは暑くも寒くもないし、ゼータちゃんが使っといてや。女の子があまり身体冷やすもんやないで。

 

 辺りは暗い。鍋を吊るして水を温め、香草でスープを作る。今日は、干し魚とパンと香草スープや。あまり作る気力が湧かなくて簡単なもんやけどごめんやで。

 

「……今日ぐらいだっけ。ヒツギと初めて出会ったのは」

 

 ボクのローブに包まりながらそんなことを言い始めるゼータちゃん。

 ……まあ、確かに。こんぐらいの時期ではあった。

 そして、この辺で初めて出会った。

 

「そうやなぁ。まだ二年か。時が経つんは遅いわぁ」

 

 中々濃い二年だ。ボクがガーデンにちゃんと関わり始めたのなんてゼータちゃんを頼んでからやし。そっからもう濃い。

 

 ガンマちゃんが現代建築作り始めたり。デルタちゃんが大量に狩ったせいで保存食作りに奔走したり。アルファちゃんと古文書解読したり。イータちゃんが爆発物作ったり。イプシロンちゃんと音楽奏でたり。ベータちゃんにいまだに覚えてる本の内容を話したり。ゼータちゃんは……ゼータちゃんとは何してたっけ。

 

 おかしいなぁ。なんだかんだ七陰の中では一番関わっとるはずなのにポンっと出て来んなぁ。

 色々やりすぎてわからへん。

 

「早くないの?」

「おん。色々やっとるからなぁ。濃い二年やった」

 

 楽しかったなぁ。……本当に、楽しかったなぁ。所々血生臭いけど、楽しかったんや。

 

「……なあ、ゼータ」

 

 ────なのにボクは、なんで。こんなにも虚しいんやろうか。

 

「──……なんでもあらへんよ」

 

 楽しかった。そして、今も十分に楽しんどる。

 せやのに、ボクはなんで虚しいんやろうか。

 

「早いとこ寝るか。食べ終わったらはよう寝よか」

 

 あんまり暗い気分でいたかぁないし。暗い気分で食べる飯は美味くないからなぁ。

 

「ヒツギ、何か悩みでもあるの?」

「なんもないで。……焚き火見てちょっと感傷に浸っとるだけや」

 

 焚き火を見てんのは楽しいし、好きやけど。……今の精神には良くなさそうやな。

 

「……ヒツギ。私はヒツギに助けられたんだ。何かあれば相談して欲しい」

「おん。頼りにしとるで」

「なら良いんだけどさ」

 

 そっから寝るまで会話は無かった。

 

 その日は不思議な夢を見た。

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