ただ人でありたくて   作:メめ

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三十三話 遠き日の人。遠くの日より

 

 

 

 綺麗な場所やなぁ。

 

 気がつけばボクはそこに居た。

 

 目の前には枝の垂れた巨木があって花も葉もない。せやけど、発光する魔力が花のようにキラキラと瞬いとる。

 とても幻想的で、この世のものとは思えないほど美しい。

 

「こんなところにお客さんなんて、何年ぶりでしょうか」

「……キミは」

「ええ所でしょう? お気に入りなんですよ。ここ」

 

 ボク以外誰も居なかったこの場所で、彼女は突然現れて木の幹に触れた。

 

 何処となく見覚えのある姿やった。

 猫耳に二又になっとる猫の尻尾。白金色の毛に緋色の目。肌は透き通るように白い。特に露出した左腕の部分は血管の赤色が皮膚に浮き出るほど白く、不気味ながらもとても神秘的。儚い雰囲気を纏う。

 

「キミは誰なん? あと、此処はどこなん?」

「んふふ。さぁ、わからないわぁ。でもぉ、なんとなく分かってはいるんやないです?」

 

 わからんから聞いとんのやけど。でも、この感じやと、聞いた所で答えてくれそうもないなぁ。

 

「まあでも。ここは現やないですし。思考力も落ちる。なら、まあ。……ちょっとぐらい、教えたってもええですよね」

 

 女性が意味ありげに微笑みながらボクを見る。鋭いけど、とても優しい目をした人。

 

 ……ああ、その人。ゼータちゃんにちょっとだけ似とるんや。顔の造形に血縁を感じるほど似とる。

 

「北上して、死者の都を探しなさい。キミの求める場所はそこにあるから」

「何を言うとるん」

「知らなくてもええの。でも、知りたいなら過去を知る者から話を聞かなきゃならんね。……その道に、微かにでも灯りが在らんことを願っています」

 

 女性は言うだけで言うて居なくなった。

 

 ……なんやったんや。あの人。

 

 ──ヒツギ。交代だよ。ヒツギ。

 

 ……誰かがボクを呼んでんなぁ。でも、どっからや? 何処からボクは呼ばれとるんや? 

 

 ──ヒツギ。「──ヒツギ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。おはようさん、ゼータ」

「うん、おはよう。とは言っても、まだ夜だけどね」

 

 んー、よく寝たぁ。とは言っても、二時間も寝とらんけどね。あの寝かせてもらえん地獄みたいな睡眠矯正が役に立っててよかったわぁ。眠いぃ。

 

「んっー。ぁあ……。見張の交代やな。ゼータ、寝てええで」

 

 あ゙ー、身体が固まっとるー。身体解さないとなぁ。

 

 立って背伸びをして、体を動かす。身体固まっとると、いざという時に動けんからなぁ。

 ……ん? 

 

「どしたん。身ぃ寄せて」

「少し寒くてね」

 

 えらい珍し……くもないわ。結構ボクにくっつくこと多いわぁ。

 

 ボクの隣に座って身を寄せてくる。ボクは体温高い方やないし、ボクに触ってても暖かくはないやろうに。

 ここ最近、移動中以外ボクにべったりやし。人肌恋しかったりするんかね。まあ、ゼータちゃんまだ十五歳やしなぁ。ホームシックとかだったりするんやろうか。

 

「寒いだけなら、葬棺の中はいるか? あったかいと思うで」

 

 実証済みやからな。遮音性が高くて、暖かいから寒い時は中に入れば風も避けられる。

 

「葬棺の中には色々入ってるだろう。……だから、ヒツギが代わりに温めてくれると嬉しいな」

「はいよ。いつもの人間湯たんぽやればええんやな?」

 

 身体の中で魔力を巡らせると体温が上がていく。体温の上がったボクを、ゼータちゃんが抱きしめたまま寝る。横になった状態でされると、ボクは、ゼータちゃんが起きるまで身動きが取れんくなる。

 野外でやると命取りになるから、外だと身を寄せ合う形になって。

 

 ボクの正面に回って向かい合って抱き合いながら暖を取るようになった。

 

 この体勢はいい。いざとなったらゼータちゃんを抱き上げてそのまま逃げられる。それに、正面はボクで暖まるし、背面には焚き火がで暖まる。

 無い知恵を振り絞った結果。この形になった。

 

 ボクが体温を上げる前からゼータちゃんが正面に回り込んでボクの膝上に座る。そのまま体を預けられて、ボクが抱き止めた。

 

「ああ、暖かい」

「……そらぁよかったわ」

「うん。……暖かい」

 

 顔をボクの首筋に埋めるゼータちゃん。息が首に掛かってくすぐったい。あっ、こら。噛むんじゃありません。びっくりするやろ。

 

「ヒツギ」

「どした」

「………………なんでもないよ」

「そか」

 

 ゼータちゃんの抱きしめる力が強くなる。なんか不安なりなんなりあるんやろうか。

 まあ、今追いかけとる伝承ってゼータちゃんの先祖が死にかけた話やし。思うところがあるんかもしらんなぁ。

 

 ゼータちゃんの背に回した手で背を優しく撫でる。一定のリズムで。丁寧に。

 

「……子供じゃないんだけど」

「子供やろ。ボクもキミも」

「ヒツギの方が歳は下だけどね」

「ボクもキミも言うたやん。ボクがやりたくてやっとんのやから大人しくされとき」

「……あまり子供扱いしないで欲しいんだけど」

 

 諦めてくれ。どうしても前世の記憶がある分、キミもやけど他の七陰もみんな子供にしか見えん。

 十七歳、高校三年生の夏休みぐらいで終わった命やけど、キミらよりは中身の年齢だけは上なんよ。ゼータちゃんの今の年齢よりも二つは上やったからさ。

 そんなボクから見たら、まだまだ子供やで。

 

「なら、……そうやなぁ。身丈に合う淑女になればええで」

「ヒツギの方が歳下のくせに」

「ボクは紳士やからええの」

 

 主観やけどね。

 軽口叩き合うのは嫌いやない。嫌いやないけど、寝ないんやろか。

 

「早よう寝んと、寝る時間なくなるで」

「……もう少し、話しがしたいんだけど。ダメ?」

「ボクがキミのお願い断ったことあるか?」

「なら、もう少し付き合ってほしいな」

 

 ボク。人に頼まれたりお願いされると、あんまり断れんのよね。もちろん、ボクの倫理に反すんのは流石に断るけど。ゼータちゃんは、そんな酷い頼みして来んからなぁ。

 

 それから、ボクとゼータちゃんで話をし始めた。

 

 明日の動きの予定とか。この近辺にいる獣人族の集落の話。獣人族の種族特性の話。

 そして、金豹族の集落の話。

 

 金豹族には二つ都があった。

 

 一つは叙事詩に登場する都。金豹族以外にも他の獣人族や人族も暮らしていたが、今では無惨に焼き払われて煤と灰の亡都となっている。

 そして、後一つがゼータちゃんの居た都。

 そこでは金豹族たちが狩りや農作をしながら生活していた。しかし、教団により壊滅。生き残りはゼータちゃんのみ。

 

 亡都へ行くなら金豹族の都の跡地の近くを通るみたいやし、立ち寄れるなら立ち寄りたいなぁ。

 亡骸が残って。まあ、二年は経つやろうから。野晒しで大半は白骨化しとるやろうけど。ちゃんと弔ってやりたいよなぁ。無縁仏は悲しいしな。

 

「獣人の領域は力こそ全てって価値観が強いから。変に巻き込まれれば武力衝突になることが多い。あまり目立たない様に立ち回りたいなら、あまり首を突っ込むのは避けた方が良いだろう」

「えらい野生的やな。でもまあ、わかりやすくてええかもなぁ」

 

 力こそ全て。大変わかりやすくてええけど、ボクはあまり好かん価値観やな。

 力で支配すれば。力が一極化しすぎると帰って危険になることもある。

 強さで全てを決めると、それを超える力への対抗策がないまま破滅を辿ることもある。

 集落の生存を考えるなら、闘争で生き残りやすいのは力かもしれないが。知恵もなければ繁栄は望み薄。それも制御できる知性がないと反乱が起きて衰退。

 

 んー、難しいところやね。

 

「ヒツギよりも強い奴はいないと思うけど、用心するに越したことはない。とだけ言っておこうかな」

「りょーかい。まあ、ボクに勝てるなら教団もけちらせるやろうし、その集落は安泰やね」

 

 ボクに勝てる言うことは、七陰全員を単独で蹴散らせる実力はあるっちゅうことやし。下手な教団員の集団よりは絶対的に強いわけやからなぁ。幹部と戦ったことないから、教団の強さはよく解っとらんけど。シドに一太刀も当てられんならボクの相手にはならん。

 そんなボクに勝てるっちゅうなら、教団なんて取るに足らんやろう。

 

「食糧集めとかで交易って出来るかね?」

「それぐらいなら出来ると思うけど」

「ならええ。交易が出来るならある程度話も通じるんやろし。レートとかってわかったりする?」

「多少はね。今のレートはよくわからないけど」

 

 よし。なら、問題あらへんな。

 

「頼りにしとるで、ゼータ」

「……うん」

 

 頭を撫でて優しく抱擁した。

 

 結局、かなり話し込んでしもうた。

 しばらく話してるうちに、ゼータちゃんは寝ていた。

 

 寝息が耳をくすぐって少し心が落ち着かない。

 いや、この状態が嫌なわけではない。嫌なわけやないけど、……うん。落ち着かん。邪念が湧いてくる。

 

「……どっかで激し目の運動しますかね」

 

 そろそろあの時期やしな。

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