ただ人でありたくて   作:メめ

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三十四話 ここが獣人の領域かー。テンション上がるわぁ

 

 

 

 日が登ってから下山して移動すること四時間。

 

 ゼータちゃんとパンを食べながら獣人達が簡易的に整えられた馬車道を歩いている。

 地図内容が変わっていないなら、馬車道に沿って行けば犬系獣人の集落があるらしい。

 

「どんな場所なん?」

「川の近くでね。物々交換で交易してたり。一応お金も使える場所で、人間の行商人がいたりする場所だから。比較的に話が通じる奴も多いと思う」

「思うて。確証ないんか?」

「私が外に出てあれこれ買うのなんて、もともと住んでた街の中ぐらいだし。ここまでは出てこなかったから」

 

 まあ、ゼータちゃんは長の娘だったわけやしなぁ。箱入りまではいかんけど、街の中で育ったらしいしなぁ。付き合いがあっても、近隣の集落とかだったんかね。

 

 スライムスーツをローブみたいにして、フードを深々と被っとるし、身バレ防止やろうか。

 

「暑くない? 水飲む?」

「貰うよ。まさか、ここまで日差しが強いとはね」

「まあ、時期的に夏近いしなぁ。熱いのはしゃあない」

 

 時期的に初夏やしね。

 

「水の補充で寄っといた方が良さげやね」

「悪いね。先に飲みきっちゃって」

「ええのええの。ボクは元々暑いの慣れとるし、初めから水分は多めに持ってきとるしな」

 

 多めに持ってたのはテレジアちゃんに必要やから買ったやつ洗って使っとるだけやけどな。

 本人に言うたら、顔赤くしてぶっ倒れそうやな。ゼータちゃんは自分のとボクの。ボクはテレジアちゃんの使っとったやつ使っとるし。

 

 あの剣捌きなら、魔剣士学園の方に入学するんやろうか。あそこ全寮制やし、あんな箱入り全開な子が入って大丈夫なんやろうか。

 

「それでも水はちゃんと飲まなきゃ」

「ちゃんと飲んどるよ」

 

 ここまで暑いと、夜はどうなんやろ。

 

「寄るなら一泊してったほうが良さそうやな」

「暑い中行動し続けるのは危険だからね。……本当はあまり寄りたくないけど。あーあ、カソウ男爵領で準備しておくんだった」

「後悔先に立たずやな」

 

 まあ、ボクは地元にあまり寄りたくないけど。領主の末の子で、しかも一部の人らはボクを神童扱いしてくるし。好きじゃないんよね、あそこ。

 

 消毒とか、手洗いとかの有用性教えただけやのに。……まだ未発見やなんて思わないやんか。石鹸なんて古代メソポタミアからあるもんやぞ。

 いや、前世でも手洗いの有用性が説かれて普及したのって1870年ぐらいからやしなぁ。……アルコールの代わりに度数バカ高い酒で滅菌勧めたけど。衛生的には石鹸の普及の方がええんかね。

 材料と作り方をガンマちゃんなり、イータちゃんに教えて、ガーデンの衛生観念高めれば隠れながらでも病気対策出来るやろし。何より、この世界に石鹸が存在せんなら。医療者にも一般家庭にも売れるやろし、資金集めにも使えるやろ。

 あとで手紙だしとこ。

 

「全くだ。お、見えてきたよ」

「ほーん。あれがねぇ。……なんかあったんかね? それとも、獣人圏ってあんな感じの警備なん?」

 

 ゼータちゃんに言われて遠くを見る。……ちゃんと見えないので、一応探知も発動させる。

 

 探知に引っかかるのはかなりの数の生体反応。そして、遠目から見てもわかるほどの集落に入る人々の列、衛兵が検問を行っているんやろうか。

 

「いや。私のいた場所でもあれは有事の時ぐらだし、何かあったと見ていいと思うよ」

 

 なんかあった場所にボクら行くんですか。

 

「面倒事の匂いがすんなぁ」

「でも、近場で水が補給できるのはここぐらいだ。直接川で水を汲むにしても、変に警戒されるだけだと思うんだ」

「となると、そっちの方が面倒やな」

 

 水源に毒を撒かれたり。ちょっと汚染すれば住民全滅も可能やしなぁ。警戒も当然か。

 となれば、正規ルートで入って水をゲットした方が良さそうやな。

 

「……とりあえず、保険だけかけとくかね」

「何の保険?」

「いや、気にせんといてええよ。ボクの保険やし」

 

 あんまりやりたくないけど、獣人の領域で人の格好は目立つからなぁ。ちょっとだけ、スライムで外見弄るだけやで。

 スライムスーツに魔力を通して変形。フードの中であれこれ弄ってと。……こんなもんか? 鏡がないから何も言えんけど。

 

 これは確認してもらうか。

 

「ゼータ。こんな感じでええと思う?」

「? なに……が……」

 

 何で絶句すんのさ。そんな似合わん? なんか顔青くない? 大丈夫か? 

 

「……うん。違和感は特にないよ。違和感がないことに違和感を感じるよ」

「言葉がおかしいで。違和感がないならよかった」

 

 違和感がないならええんよ。

 魔力操作はシドほどやないにせよ。違和感なく動かす程度には出来るから、あとは動かすタイミングとか考えてやらんとなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 犬系獣人の商業街。

 水が豊富で地下に大きな水源があるらしく、大きな泉からは冷たい地下水が湧き上がりつづておる。せやから、夏になれば避暑目的でやってくる獣人たちも居ると言う。

 主な資源は川と大きな泉。そして、綺麗な水で作られる酒。

 

 季節は初夏。せやけど、人はかなり入ってきとる。人族もちょこちょこ見かけるけど、獣人ほど多くない。

 長槍を片手に検問をしとった検問所の獣人曰く、最近不審な人間が近隣を彷徨いとるから。人間の出入りは規制されとるんやと。

 

「いやー、入れてよかったなぁ」

「バレなくて良かったね」

 

 ボクは何とか誤魔化して入れた。

 

 魔力制御によりひょこひょこ動く大型の猫の耳に、長めの大型猫の尾。

 色は自分の毛色に合わせて白金色に調節した。

 

「本当よなぁ。におい嗅がれて終わった思ったけど、どうにかなったわ」

「……私の弟ってことにしたけど、ヒツギはそれで良かったの?」

「キミがええんなら、今はそれでええよ。……でも、複雑やない? キミの弟はただ一人やろ」

 

 検問所の獣人の兄さんは、ボクとゼータちゃんを弟と姉だと勘違いした。それをゼータちゃんが勘違いに乗っかる形で肯定。そのまま姉弟として中に入れてもらえた。

 

「思うところがないわけじゃない。でも、検問を超えるなら血縁ってことにしておいた方が色々楽な面はある。わかるだろう?」

「……せやなぁ。テレジアちゃん時は大変やったなぁ」

 

 あまりにも見た目も装いも違すぎて、検問にかかったら疑われて入るのが大変やったなぁ。テレジアちゃんはコミュ症発症するし、変に話させると自分から公爵家の者って言ってトラブル呼ぶからなぁ。

 

 ……でも、今は。ボクが猫耳と猫尻尾つけたら思ったよりゼータちゃんと似とった事かねぇ。世界にゃ、そっくりさんが三人は居る言うけど。こんな身近に居るとは思わなかった。

 

「それに。弟は、ヒツギが送ってくれたから。割り切れてるよ」

「……そか。なら、そのまま設定に乗らせてもらうかね。お姉ちゃん(ゼータ)

「……これはいいかもしれない」

「なにが?」

 

 何がええんか全くわからんのやが? あれか? ボクからお姉ちゃん呼びされたんがええんか? 

 ……やっぱ、女心はわからんね。

 

「とりあえず、宿探しからかな。あったら嬉しいオプションは?」

「風呂やな。汗流したいし」

「水浴びね。私は酒場が近いと嬉しいから、そこそこの値段で、水浴び付きとなると。ああ、そうだ。二人で手分けして探す? それとも、観光してから探す?」

 

 観光ねぇ。……特に見るもんもなさそうやけど。こっちでしか売っとらんものとかもあるんかね。

 あるならカゲノー男爵に土産として送ってもええかもしれん。

 

「んーっと。そろそろカゲノー男爵に手紙出す時期やし、なんかええ土産あったら送りたいなぁ」

「なら、先に市場にでも行く?」

 

 でも、市場ならゆっくり見て回りたいしなぁ。

 

「いや、宿から探そか。市場は後のこと考えて急いで回りたくないしな」

「なら、先に宿を探しに行こうか」

 

 人族の街はいくつか回ったことあるけど、獣人の街は初めてやし、楽しいやろなぁ。

 

 ゼータが差し出した手をボクが掴む。理由はわからない。せやけど、掴まないといけない気がした。

 

「不審な人間が目撃されとるみたいやし。あんまりはぐれんように動こか」

「だね。姉として、弟は守らないとね」

 

 ……姉か。……そうやね。今のゼータちゃんは、ボクのお姉ちゃん役やからな。

 

「頼りにしてるで、お姉ちゃん。でも、荒事なら任せときや」

 

 ボクの方が、腕っぷしは強いからな。

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