ただ人でありたくて   作:メめ

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三話 得意なこと? 逃げ回ることやね。逃げ切ったことないけど

 

 

 

 木剣を構えさせられて地べたに転がされること数回。

 

「ほら、立ちなさい!」

「いっ……たぁ」

 

 クレア・カゲノー。もとい、ボクの淑女風だった許嫁は強かった。早速化けの皮が剥がれとりますけども。多分、これが素なんやろなぁ。強い女は嫌いやないけど、暴力的なんは得意やないでボク。

 あ゙ー痛い。

 

 パパンでももう少し緩く動くで。ホンマに、打ち合う前に突然解説されたクレアさんの才能。〝剣の天才〟。〝カゲノー期待のホープ〟と言われるほどの実力は確かにあるんやなぁ。

 

「あんたそれでも男なの? シドよりダメダメじゃない」

「剣は、そこまで得意じゃないんですよ……」

 

 あ゙ー痛い。木剣で打たれた場所が全部痛い。これ、どっかしら折れとらん? 大丈夫? と言うか、歳下ですよ、ボク。

 

「剣が出来なくてならなんなら出来るのよ」

「わかりません」

「……ふん!」

 

 あー機嫌損ねちゃった。まあ、わからん言うたけど嘘や。避けて逃げ回るのなら得意やで。

 

 でもしゃあないやん。ブシン流って合わんのよね。あの動きというか、構えというか。型と言うか。全部がしっくりこなくてうまく動けない。もっとこう……ボクが動きやすい形があるんよ。多分。

 

 木剣を肩に担いで、……軽いなぁ。ダメダメ。こんなんじゃダメやて。……はぁ。

 

 クレア・カゲノー。もとい、許嫁によるシバキは終わった。機嫌は良くないし、なんかすごい怒ってるし。

 ……ボクが帰るころには機嫌よくなってるとええなぁ。

 

 あーあ。ヤダヤダ。家で魔力操作とひたすら本読んでたいわぁ。

 

「お疲れ様でございます」

「ありがとうございます。メバチさん」

「いえいえ。これも従者の務め」

 

 メバチさんが持って来てくれた濡れタオルで顔を拭く。あー痛い。治したいけど、劇的に治したりしたら年相応じゃないよなぁ。エレク兄さまが十三歳で習得して早いって褒められてたし。今のボクが出来たらまずいよなぁ。……じわじわゆっくり治してくかぁ。

 

 身体機能を活性化させてゆっくり息を吐く。

 

 深呼吸は精神統一とリラックス効果がある。それに合わせて浅く。微々たる量の魔力で体を徐々に修復させていく。大人たちにバレない程度に、魔力を全身に巡らせて傷の治りを少しだけ良くする。

 

 体の中の体温がじんわりと温かくなってくー。……とりあえずこんなもんか。……ん? 

 

「……?」

「?」

 

 シドくんから視線を感じたんだけど……気のせいやろうか? まあ、気のせいか。

 

「やはり、ブシン流はお身体に会いませんか」

「そうですね。なんか、こう……動きは理解できるんですが、体が追いつかなくて」

 

 メバチさんの言葉を笑って誤魔化しながら返した。

 

 正直、ブシン流と言うか。剣を持ったパパンやら兄さま、姉さま達から逃げる。剣から逃げたり避ける事はできる。ただ、キレられて剣が筋が鋭くなっていって大変やから、剣の稽古の時は避けずにブシン流の受け技に徹している……つもりなんやが、ほんっとうに出来ん。

 

「ヒツギ様。やはり、当主様に進言いたしましょうか? ヒツギ様は体を動かすのはお得意です。きっと、自分に会う良い流派があるやもしれません」

「いいです。大丈夫ですよメバチさん。家がそうあれ、できなければ落ちこぼれだ。とルールがあるなら、多少の可能性がつぶれるのも致し方がないのとなのです」

 

 いやー、内心クソみたいな家のしきたりではあるとは思うんやけどね。

 おかげで落ちこぼれ扱いですよ、ボク。サンジ兄さまとテリーナ姉さま。メバチさんぐらいしかボクの相手まともにしてくれんもん。

 まあ、そのおかげで魔力使って遊んだり。ただ棒を振って遊べてるんやけどね。そこだけ感謝わや。

 

「……左様ですか」

 

 なんや。えらく残念そうやん。

 

「残念そうですね」

「……ヒツギ様は、ある意味可能性に満ちておられます。その可能性がなくなるというのは、わたくしはあまり良く思えないのです」

「そうでしたか。……しかし、これもルールですから。致し方がないのですよ」

 

 ホンマに優しい人やなぁ。メバチさん。

 

「お疲れ様だね。ヒツギくん、メバチ殿。予定では、数刻後に帰ると聞いている。時間があるなら我が家で食事でもどうだい?」

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

 メバチさんの目が光る。……まずい、何かやらかしたかもしれない。

 

「ふふ、本当に賢い子だ」

「ええ。わたくしの遣えるお方ですから」

 

 メバチさんがそう微笑んでいた。……怖いわぁ。恐ろしいわぁ。

 あの笑顔でマナーぶち込んでくるのやで? 静かにキレてくるから怖いんよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 カラカラと夜道を走る馬車。

 暗い山の中を行く。本来、こんな夜なら盗賊や山賊に襲われてまう。

 せやけど、メバチさんはそないな奴らを一人で蹴散らせるほど強いらしい。だから、そうなると基本的に瞬殺やからボクは安全ではあるらしい。

 

 ガシャンッ! ガダッッ!! 

 

「のわぁ!」

「ぬん!!」

 

 馬車が激しく揺れて横に横転した。

 

 ぃったぁ。痛ぇ。受け身はとったから怪我はないやろうけど、馬車運転してたメバチさんは投げ出されたみたいやな。

 

 様子を確認した方がええんかなぁ。それとも、大人しくしといた方が──「死ね! 老耄!」。

 

 魔力散らして探知! あ、六人もおるやんけ、手助けに行かな不味いかもな。ボクにできるんは治療ぐらいやけど。足手纏いにならない程度に避けて気を引くんは出来る。

 

 馬車の戸から飛び出して即座に周囲を確認。……マジかい。メバチさん、囲まれとるじゃないですか。

 

「ヒツギ様!」

「アレが目標だ。排除しろ!」

 

 あ、これ出て来たらまずかったやつやな。

 でも、ボクが逃げれば多少は追ってくるやろ。

 

 魔力を巡らせて、肉体強化。足を重点的に強化して。夜の山の中へ飛び込んだ。

 

「逃げたぞ、追え!」

「逃すな!」

 

 三人は来たか……。本当はあと一人ぐらいついて来て欲しかったけど、しゃあないか。

 

「簡単に、追いつける思うなやぁ!」

 

 木へ飛び移り、魔力で体を保護しながら夜の山中。木の上を跳んで伝うよに走った。上手い事撒ければメバチさんの治療に行けるやろか。

 今黒系の服着ててよかったわ。闇に紛れられると──あっぶな! 鉛玉飛んできたんやけど! てか、まだ避けれる程度の弾速でよかったわ。撃たれてからでもギリ避けれる。

 剣は致命的に出来んけど、こう言う反射神経と身体能力だけはありがたいわぁ。

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