ただ人でありたくて 作:メめ
襲撃に遭った五日後。ボクは目を覚ました。半日前と思っとったけど、五日も経ってたんか……驚きやね。
起きたらハゲたおっさゲフンゲフン。カゲノー男爵の顔があって驚いたのを覚えている。
なんでも、メバチさんがボクを背負って夜の闇の中を走り。カゲノー男爵に助けを求めに訪ね、緊急で保護してもらっているのだとか。
それからメバチさんは騎士の取り調べを受けて、貴族暗殺を企てる輩からの襲撃であると推測。
今戻っても、パパンは居ないし。護衛できるほどの人もいない。ボクを守り切れるか怪しいということで。しばらくの間カゲノー男爵家にお世話になることになった。
「メバチさん。お怪我は大丈夫ですか」
「はい。なんとか、ヒツギ様のおかげで命は繋がせてもらいました」
メバチさんは利き手を失ってしまった。戦闘中に切り落とされてしまったそうで、ボクも身体欠損は治せない。そのためか、メバチさんの利き手。左腕は二の腕の半ばから無くなった。
「ヒツギ様。申し訳ありません。誠に勝手ながら、全て戦果はわたくしが行ったこととなりまして」
「あはは……まあ、仕方がありませんよ。ボクのためを思ってそうしたのでしょう? ならボクからは何も言いませんよ」
「……左様にございますか」
手下人六人のうち三人は逃走し、残り三人はメバチさんが殺したことになったらしい。噛み跡からバレるのではないか、と考えたが。それを隠すために、わざわざ逃げる前に下手人の遺体は処理したという。
放置していてもどうせ獣に食われるのだが、猛獣が寄ってきては馬車の邪魔になる。
なので、出来るだけ遠くに放り投げてきたとのこと。……屍転がしたままにしちゃったかぁ。……襲ってきた奴らやけど、なんか可哀想やな。
「……何か憂い事でも」
「いえ。……ただ、可哀想だな。と」
「可哀想、とは」
「だって、誰にも送られず。ただ野に捨てられるのは、可哀想だなと」
「? 一体どこが」
「……いえ。気にしないでください」
……まあ、こんな殺伐とした世界ならそうよな。
この世界にも葬儀という概念はあるが、野盗はそんなことしてもらえない。社会の底辺、犯罪者たちにそんな尊厳はない。
ただ送られることなく、骸はゴミ同然に投げ捨てられる。
ボクは、それが悲しいことだ思った。
でも、実際に見たことがないから。現実離れしている話だとも思っていた。
ただ、メバチさんはそれをなんとも思うことなく放り投げることの出来る人なんだと思うと。……なんだか、寂しい気分になる。
「貴方はお優しい方ですから。そう思うのかもしれません。しかし、現実は甘くないのです。葬儀にはかなりの費用がかかります。ですので、野盗にかける慈悲などないのですよ」
そんなことはわかっている。……わかってはいるやが、やるせない。
「ヒツギ様はまだお疲れなのでしょう。もう少しお休みください。わたくしは、カゲノー男爵様の使用人達の手伝いがございます故。これにて失礼させていただきます」
そう言ってメバチさんは出て行った。
自室よりも広い部屋で一人。傷は全て回復しているから特に動きにくいとかはない。左手だって、痕があるが問題なく動く。
……やることがなくてとても暇だ。
ベッドに寝転がり目を閉じた。
今度目を覚ますのは、メバチさんが起こしにしてからかね。
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深夜。
暗い部屋にベッドの上。
「……あかんわ。昼間寝過ぎたせいで全然眠くあらへん」
昼間に寝過ぎたせいで全く眠くない。
あまりにも暇なので、微量の魔力を発散して探知をしながら自分に流れる魔力を制御する練習をしていた。
手下人との戦いで痛感したんやが、ボク。無駄な魔力ロスが多すぎる。
消費が思ったより激しいし、過剰に魔力を回していたせいか逆に身体に負担をかけていた。これは良くない。
ということで、魔力を操作して慌てても大丈夫な様にやりましょう。どうやってやるかって? わからん。わからんから思いついたらやる。それか、メバチさんに教えてもらおう。
……本でもあればなぁ。読んで暇潰すんやけど。
コンコンコン。
家にいる時みたいにこっそり外に。……いや、他人の家に迷惑かけるわけにもいかんからなぁ。
コンコンコン。
あーあ。実家なら色々試し用があるんやけどなぁ。
コンコンコン!
……うっさいなぁ。夜中やで。ホンマに、外で何して──
それは窓の外に居た。
窓に張り付き、窓ガラスをコンコンと叩く少年。
黒い髪に黒い目。最近の見た覚えのある身体特徴を持つ少年。
「あーけーてー」
「……」
シド・カゲノーだった。……いや、こんな夜中に何しとるん! しかもここ二階やで。
慌てて扉を開けてシドくんを中に入れる。
「いやーありがとう。このまま無視されるのかと思ったよ」
「無視できるわけないじゃないですか。心臓に悪い」
本当に、夜に赤い目が浮いてて心臓飛び出るかと思ったで。
中に招き入れたシドくんは、ボクのベッドの上に座りあははと笑う。
「それにしても君、強かったね」
「……なんの話です?」
「そんな敬語なんてやめて、あの時みたいに関西弁? 大阪弁で話してもいいんだよ?」
「……なら、お言葉に甘えて──」
──コイツ、今なんつった?
「なぁ、キミ。今なんつった?」
「? あの時に関西弁で話してたから「それや」話は最後まで聞こうよ」
話を最後まで聞いてなんかられない。
本来ならこの世界で聞くはずのないワードが当たり前の様に飛び出してきたんやから。
「関西弁言うたな。日本知っとるんけ、キミ」
「うん。君も転生者なんでしょ?」
シドくんはそう楽しそうに言った。
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「まさか、お前だったんか。ミノル」
「まさか、日継だったとはね。お互い知り合いで良かった良かった」
「全く良くないが? ボクら死んでることになるやんけ」
朗報。シド・カゲノー。前世はボクのお友達だった。
…………いや、悲報なんよな。
「何やって死んでん」
「いや、僕って魔力とかチャクラとかを獲得する修行してたじゃん?」
「いや、じゃん? って言われても」
してたのは知ってるし、それをちょこっと手伝っては居たけども。
「それで、修行中に魔力を見つけたと思ったらトラックのヘッドライトで」
「おん……。待て、お前まさか」
「トラックに突っ込んで死んだ」
「アホなんか。なぁ、バカなんか」
悲報。友人はトラックに自ら突っ込んで死んだらしい。……いや、ボクはなんで死んだかもわからんのやけどさ。
「お前、死ぬ時まで人様に迷惑かけてどうすんねん」
「え、僕よりもトラックの方が心配?」
「当たり前やんけ。錯乱して自殺する馬鹿よりも巻き込まれたトラックの運ちゃんの方が心配に決まっとるやろ」
ほんまこのアホは……。呆れて草も生えんわ。
「まあ、結果的に魔力が得られたしいいじゃん」
「死んで転生しとるけどな。なんも良くないけどな」
このポジティブ思考は見習いたいところなんやけどなぁ。……他が見習えん。
「まあ、お互いに感動の再会も済んだところで」
「感動の再会言うんなら、せめてボクに泣かせてくれ」
「別に泣かなくたっていいじゃないか。僕たち幼馴染が、今世でも幼馴染でやっていけるんだから」
「何かの罰ゲームか?」
「酷くない?」
「前世での行いを思い返せ」
中学の不良先輩を背後から奇襲してボコボコ。その舎弟がボクがやったと言いがかりをつけて因縁付けられる。
チンピラに強襲仕掛けて、ボクになすりつける。
修行の成果を試したいとか言って、ボクに襲いかかる。
金がなくなればボクに集るし、一切遠慮なく飯を要求してくる。……あっれー? なんでこないな奴と友達やってたんやろ。不思議やな。
「前世のことは水に流して欲しい」
「そか。なら、歯ぁ食いしばれ。今なら五、六発で許してやる」
「えー。殴られるのは嫌だからさ」
ミノル。もとい、シドがベッドから降りてボクの前に立つ。
「僕の夢、忘れてないでしょ?」
「……まあな」
シドの前世からの夢。……まあ、変わってないだろうとは思う。そんなこと、予想してた。
「僕は陰の実力者になりたい。陰の実力者ムーブを、ロールプレイをして遊びたい!」
「……そか」
ああ、知ってる。
だって、その夢にずっと一途に走り続けてたんやもんな。
「また、僕の手伝いをしてくれないかい? ヒツギ」
そう言って手を差し出した。
…………。
……………………。
「……………………はぁ。どうせ、断っても勧誘してくるんやろ? しつこく」
「うん。せっかくならヒツギとやりたいからさ」
「……まあええよ。でも、色々教えてくれや。ボクも調べたとことか教えたるからさ」
「もちろんだとも」
……はぁ。結局、ボクは選んでしまうんやな。
まあ、いい。なんも知らん友達よりも、長く付き合いのある奴の方が気が楽でいいし。
「よし、じゃあ今から手始めに盗賊狩りをしようか」
「お前、倫理観とかまた落っことしてきた?」
「この世界は弱肉強食。なにより、殺しをしてる悪党なんだから殺されても文句は言えないよね!」
「ちょ、おま。──離せぇ!」
上機嫌に笑うシドに首根っこを掴まれて、ボクは夜の闇へ連れ攫われた。
どつきまわしてやる。
ボクは心の内で決めた。