ただ人でありたくて 作:メめ
何も詳細を聞かされずに結成されていた組織。シャドウガーデンの盟友になって半年が経つぐらいの頃。
「観念しなさい、ディアボロス教団」
「だからなんなんだそれは!」
「とぼける気?」
……元気にやっとるなー。
今日も今日とて元気に盗賊ハントをしているシド。もとい、シャドウ率いるシャドウガーデンの方々。
そんな方々を横目にボクはいつも通り死体を回収し、仏さんになった盗賊さんらの似顔絵を描いてスライム製の棺桶にしまっていく。
シャドウが開発してくれたこのスライム棺桶。なんとなんと、火と熱は透過する癖に棺桶自体は焼き焦げないんです! しかも、スライムスーツと同化して何十個と持ち運びが可能と言う。なんと素晴らしい発明。見直したで、お前が発明王名乗ってもええと思うで!
そんなおだてをしたら金品を要求されました。まあ、ええんやけどさ。開発への対価やし。
そんな便利グッズを貰ったので、使い心地チェックがてら色々使い回してもらっとる。
いやー、火葬した時に木片とか全部入らん様にするの手間だったし、灰になったらそれ収めるんも大変やったからさぁ。コイツでまとめて壺に入れて取り出せばええだけになったから楽でええわ。それに、一体一体焼かな混じってまうのが困りごとやったのに、それも解決できてしもうて。もう、ボクはウッハウハですわ。
……まあ、そのおかげでアジトの納骨場所がかなり圧迫されとるんやけどね。メバチさんに手伝ってはもらっとるけど、あの人隻腕やからあまり動かせられんのよなぁ。アルファちゃんも手伝ってはくれようとするんやけどなぁ。
死体に対してそこまで敬意がないから、あんま任せたくないんよね。まあ、死体に敬意を払えってのもむずい話なんは知っとるけどさ。
「アンダーテイカー。終わったぞ」
「そかそか。んなら、撤収準備してこか」
シャドウがそう言いながらスライムソードから血を滴らせながらそう言う。
終わったんならさっさと撤収だ。ボクもシャドウも身内にバレるわけにはいかんし、迷惑もかけられん。
せやから、朝が来るまでには帰らんとどうなることか。
「アンダーテイカー様、お運びお手伝いしましょうか?」
スライム棺桶を全て展開してから、その中に仏さんらを収納しているとそう声をかけられた。
アルファちゃんと同じくエルフやけど、銀髪に青い目のベータちゃん。シャドウが拾ってきた子で文学が好きな子。あんまり関わりはない。
ちなみに、ベータちゃん以外にも、藍色の髪のエルフのガンマちゃん。犬系獣人のデルタちゃん。透き通った様な湖の様な髪色のエルフのイプシロンちゃん。計3名がシャドウガーデンに加入した。全員女の子。そして、みんなボクとはあんまり関わりはない。
まあ、それもそのはずで。
「大丈夫やで。今ここでちょろっと焼いて終わりやから」
「そうですか」
「そうやで」
ボクが手伝わせる気ないし、そんな気を使って手伝おうとされても困るから。
回収し終えた仏さん入りスライム棺桶を重ねて、高熱で一気に焼く。
立ち上る火を見てシャドウは去っていき、アルファちゃん達構成員はその炎とボクを見て理解できないものを見る様な目で見ている。
まあ、この世界は土葬が主流やし。火葬なんて文化は多分ないからしゃあないのやけどね。
そんな恐ろしい、理解できんモンを見る目のせいでボクは若干孤立気味。そもそもボクはガーデンの人間やないし、関わることもあまりないからな。
あんま仲良くないのはそらそうなのよね。
「シャドウはん。また連絡してな」
「ああ、我が盟友よ。お前を呼ばないなどあり得ないからな」
まあ、仏さんをほったらかしとなればボクがキレるからな。教えてくれんと困る。いくらシャドウがバカやと言っても、疫病の恐ろしさは知ってるはずやからな。
「さてと、焼け具合はどうかなー」
少女達から向けられる変なものを見る目に耐えながら、ボクは仏さんの焼け具合を見ていた。
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さて、焼き終わったし帰るか。
灰は……一旦そんままでええか。スライム棺桶で中身圧縮して、荷物袋にしまってと。
「シャドウはん達は先に帰った事やし、後片付けと生き残りのチェックでもしましょか」
魔力をあたりに発散させて、生き物の気配を探る。
これだけはシドにも負けんぐらい得意や。魔力を放出してからの生体探知。ボクの場合はシドよりも広範囲で、かなり正確に状態が把握できる。
生き残りがいるなら生かしたいし、死にかけなら死にかけで遺言とか聞いときたい。
「だーれーかーいるかなー? およ?」
少し離れた場所で生体探知に反応があった。……この反応は、魔力暴走か? となると、悪魔憑きの可能性があるなぁ。回収せな……でも、動いとる。近くに普通の生体反応が五つか……もしかして追われとるんか? となると──
「ディアボロス教団の……本物さんの方やな」
実物とエンカウントするのはおそらくボクが初めてになる可能性があるな。……となると、この情報は否が応でも持ち帰らなあかん。
走ればすぐやけど……荷物あると邪魔やな。でも、全部貴重品やしなぁ。……しゃあない。とりあえず全部持ってくか。
荷物袋を背負いながら目的地へ走る。魔力暴走の反応もこちらへ向かって逃げてきている様だ。
──ハァ、ハァ。
聴力を強化すれば、荒れた呼吸が聞こえる。
遠目に見れば、少女らしき人影が何かを背負って走ってきていた。
──助けて。そんな声が聞こえた気がした。
……なるほど、助けて、ね。
「女の子に助けを乞われちゃ。見捨ててどっか行くなんて出来んよなぁ」
荷物袋からクレイモアを取り出して肩に担ぐ。
前よりも気がついたら自分の身体へ最適化されたシドですらよくわからないと言った構え。
地を這うほど重心を低く、獣の様に見える前傾姿勢。そのバランスを取る様に肩と背中で支える様に担がれるクレイモア。
魔力で身体能力をフルで強化して、後ろから少女を追っとるディアボロス教団員らしい奴に向かって突っ込んだ。
──────────────────―
ただ走って逃げていた。
動かなくなった弟を背負って追っ手から逃げていた。
父から教えられた真実を背負って、私は走った。
でも、転んでしまって……私は疲れてしまった。
もう疲れて目を閉じようとした。
でもその時、不気味な風が吹いた。
暖かい夏風の様な。でも、その風はとても冷たい。西風の様な不思議な風。
次の瞬間には追っ手の断末魔が聞こえてきた。
「大丈夫か、お嬢さん」
月明かりで見える白金色の髪に、ぼんやりとゆらめく鋭い緋色の目。
どこか神秘的な姿をした私とそこまで歳が変わらないであろう少年は、燃える様な死の匂いを纏っていた。
──────────────────―
「大丈夫か、お嬢さん」
ディアボロス教団の奴らは呆気なかった。いや、勢いよく突っ込みすぎたのかもしれない。気がついたら全員死んでた。一人ぐらい生かして情報を持ち帰りたかったんやけどなぁ。
その辺の盗賊さんらの方が粘るで。
「あ、あのっ! ぐぅ」
「大丈夫かいな。……やっぱり、キミ、悪魔憑きか」
「っ!」
あっ、警戒された。
「安心しいや。ボクは取って喰うたりせんから」
「嘘だ。お前も私を」
……ダメや。こら信用されてへんな。……せや!
スライムソードで短剣を象り、少女に握らせてボクに向かって突き立てさせる。
「今は信じてくれへんか。ボクは敵やない。信用おけんなら、ボクにその短剣を突き刺せ」
「……」
「いや、ええわ。今は信じてくれへんくてもええ。せやけど、今だけでいい。大人しくしといてくれ」
悪魔憑きによる魔力暴走は、自分じゃ治せへんもんやと言う。せやから、シド見たく外から魔力へ干渉して調整してやらなアカン。
……初めてやけど、上手くいっとくれや。
魔力の波長を干渉して調律して──―。
「ぐっ、……あぁ!」
「痛いか。ごめんな、ボクが下手なせいで。もう少し、踏ん張ってくれ」
肩を掴まれて思い切り握られる。肩から若干ミシミシと音が鳴り始めて痛みを感じ始める。
痛い。痛いから。でも、治さんと辛いやろうから集中せなぁああ! 痛い、たんま! たんま!!
数分後。
少女の魔力暴走は治まり、まだ穏やかそうな顔になった。
かなり疲れているのか、力尽きて眠っている。
そしてボクの肩は砕けた……まあ、すぐ治るけどさぁ。
「……お疲れ様や。今は、ゆっくりお休み」
薄い金髪の猫耳の少女と、大切そうに背負って走っていた同じく薄い金髪に猫耳の少年の亡骸。……多分、家族なんやろう。
少年はもうかなり冷えている。死んでからそこそこ時間が経っているんやろうな。
「……家族に思われとったんやな。……キミの姉は、死んでもキミを抱えて走り続けた人や。……ある意味、ボクに会えてよかったな」
少年の亡骸を抱き抱える。……遺族が目の前にいるから、焼くわけにもいかんか。……たしか、シドが防腐効果もある言うてたな。少年の亡骸は、保管しとくか。
ボクは火葬しかできんから、他のがええって言うならそうする他ないけど。
ボクが引き受けるなら金は取らんし。ちゃんと送ってやれる。
「……ひとまず、ディアボロス教団の人たち火葬しとくか」
暫定教団員達の仏さんを集めて似顔絵を描く。……思ったより体の損傷が多いな。やっぱり力に振り回され気味やし、精進せないかんな。
治癒魔法的な奴が遺体にも通じて助かるで、ホンマ。
さて、仕事が増えたし。家に帰れんくなった。
……メバチさんに、朝早くからカゲノー男爵のとこに遊びにいったって伝えてもらおう。
カゲノー家に着くのが遅くなっても、どっかで道草食ってることにしといてくれるやろ。メバチさんなら。