ウマ娘 〜childhood friend〜   作:山本ショートピース

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初めて小説を書くのですが、なんか色々難しくて泣きそうです。


1話 幼馴染のトレーナー

 東京都府中市に所在する日本ウマ娘トレーニングセンター学園。

 通称トレセン学園と呼ばれるこの場所は、上は北海道から下は沖縄と全国から有望なウマ娘が集まる日本最高峰レベルの育成機関である。

 中高一貫校でもある為か、生徒数は驚異の2000人弱。設備もさすが日本最高峰というだけあってビックリするくらいに充実している。

 

 そんな学園に僕は立っていた。

 

 まだ着慣れていないスーツの襟には、この学園に所属するトレーナーの証であるバッヂが真新しく輝きを放っている。

 

「やっと。ここまで来たのか……」

 

 そう小さく呟いたが、すぐに頭を横に振って頬を叩く。

 確かに道のりは長かったけれど、ここからなんだ。

 

 ポケットからお手製のお守りを取り出し、握りしめる。

 ゆっくりと歩みを進め、トレセン学園の門をくぐった僕は大きく深呼吸をしてから、待ち合わせ場所まで走る。

 

 

 

 

 

 

 突然だが、僕は前世の記憶を持ってこの世に爆誕した。

 前世の僕がどういった死に方をしたのか、そういった部分は全く思い出せないが多分30代くらいまで生きた記憶は残ったまま、僕は赤ん坊として目が覚めた。

 

 赤ん坊の時は1日のほとんどを抗えない睡眠欲に負け、時折食事やらなんやらをする毎日だった。正直、精神年齢的には意味もなく泣いてしまったり、トイレにも行けずに垂れ流すというのは中々にくるものがあったけれど、まぁなんとか日々を送っていた。

 

 そしてある程度の歳月が過ぎた。

 毎日が眠すぎて意識を保つのも難しく、我慢ができなかった赤ん坊から、拙いながらも言葉を喋り、辺りを縦横無尽に歩き回れるようになり、そこそこ思考を巡らせることも出来る少年へとレベルアップした僕に、この世界が前世とは少し違う世界なのだと確信する出来事が起きた。

 

 前世の年齢を含めると年下になる父の書斎。書斎というか趣味部屋みたいなもので、漫画や小説など暇つぶしに最適なものが揃っているその部屋で一冊の本が転がっているのを見つけ、手に取る。

 

 月刊トゥインクル。

 

 よくあるホビー情報誌のような雰囲気があるその雑誌を、僕は前世でも知らない雑誌だなぁ、とパラパラとページを捲っていて、思わず噴き出した。

 

 頭に動物の耳みたいなのが生え、お尻、いわゆる臀部には尻尾が生えた女の子が泣きながら何らかのトロフィーを持っている写真。

 

(よく分かんないけど、父さんにそういう趣味が……いやまあ、人それぞれだからね。母さん頑張れ)

 

 そっと月刊トゥインクルなる雑誌を閉じ、ふと、今まであんまり見てこなかったテレビでもボーっと見ようとリビングに向かう。母さんは僕を視界に入れつつ、リビングの掃除をしていて、テレビを見るといった僕にリモコンを渡してくれた。

 

 僕はお礼を言った後にソファに座り、リモコンをぽちぽちと押して番組を変え、ある番組で僕は顎を外した。

 

『一気にカスタネットリズムが大外から上がってくる!! カスタネットリズムなんて末脚だ!! カスタネットリズム!! このまま大外から先頭争いに加わります!!』

 

 月刊トゥインクルに写っていた女の子のように、耳と尻尾が生えた女の子達が全速力で走っていた。それを見て実況の男性が興奮を含んだように叫ぶ。

 

『カスタネットリズムまだ出ない!! 出るか! 出るか! 出た! カスタネットリズムが出た! そのまま一着でゴールイン!!』

 

 カスタネットリズムという子がゴールをしてから大歓声がテレビ越しに伝わる。まさに熱狂。実況もさることながら、テレビに映し出された光景は前世でたま〜にニュースで流れる競馬を彷彿とさせた。

 

「あら、勝ったのねぇ、今年のダービー路線は凄いわね」

 

 母さんはにこやかにそう言ってから、うんうんと一緒にテレビを眺め始めた。

 

 え、なにこれ? ダービーって言った? え、あれって父さんの趣味の雑誌の写真に映って……いや耳とか尻尾に合成してる感じが見えないんだけど。

 

 口をあんぐり開けながら僕も一緒にテレビを見る。いつしか先程の一着でゴールした子が歌い始めた。え、なんで?

 

 なにこれ?

 

テレビ越しではあるけども僕とウマ娘という存在の初邂逅と、今生初めて救急車に乗ったタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 この世界に馬は存在しない。

 代わりと言っていいのかは分からないけど、あの美少女らウマ娘が存在しているようだ。一瞬見た感じなんかのアニメとか漫画の世界のフィクションみたいに思えるけど、実際に彼女達は存在している。つまりノンフィクションだ。

 

 ウマ娘ってなんだよ。ウマの娘だよ。

 

 ウマ娘達の身体能力は人間よりすこぶる高いようで、走った速度が40キロを普通に超える。この世界に爆誕して初めてのお出かけの時に目の前を走り抜けた時は子供ながらに腰を抜かしたものだ。

 そして理解した。彼女たちは人間じゃない。いやまぁ人間ではなくて、ウマ娘なんだけど。

 そんなウマ娘らが走るレースというのは、この世界における大人気コンテンツとして、昨日も今日も、誰かを魅了しているそうだ。ちなみに僕が初邂逅時に見てたあれもレース。なんたら記念とかなんたら賞とか、そういう名前のやつだ。

 

 生憎ながら、前世では競馬や競走馬については全く知らない。両親も友人も馬には興味がなかった為、関わる機会がなかったのだ。

 だからまぁ、ウマ娘の存在みたいな多少の違いはあれど、対して知らなかった僕にとっては、前世と大きくは変わらない普通の、凡人の第二の人生になるだろうと思っていた。

 

 けれど僕が小学生になり、ふと思った。前世の知識や記憶があればほとんどの授業を無双しできるのでは?と。

 実際その通りで、知識量は成人男性である僕は他の追随を許さない、いわゆる天才児のような扱いを受ける毎日を送り、小学校の卒業が近づいてきたある日。大きな転換点がやってきた。

 

 父さんの転勤により、僕ら家族は引っ越すことになったのだ。

 引っ越しが決まってからは時間が経つのが早かった。荷物をまとめ、家具はトラックに積み込み、衣類が入った段ボールと共に僕は父さんが運転する車に揺られ、いざゆかん新天地。

 

 

 

 

 

 

「ほら挨拶しましょ」

 

 彼女は母親の影に隠れ、こちらを観察するように見てきた。

 多分人見知りな子なんだろう。僕は彼女ににっこりと笑いかけ、手を差し出した。年上の余裕ってやつだ。

 

「今日からよろしくね、ブエナちゃん」

「おにーちゃん……? あのね、ぶぅちゃんだよ。……よろしく、ね」

 

 差し出された手を彼女、ブエナビスタは恐る恐るといった具合に握る。

 

「よし、今日から友達だね」

 

 僕のその言葉にブエナビスタの尻尾はぱたぱたと揺れているのを見て、僕の家族を含めた皆に笑みが溢れる。

 

 こうして僕は、ブエナビスタというウマ娘と出会った。

 

 家も隣同士、家族同士の仲も悪くなく、しかもまだ幼いブエナビスタも僕に懐いていた事もあり、ブエナビスタとは毎日のように一緒に過ごすことが多くなっていた。

 

 そして僕はというと、中学生になり、ある一つの壁にあたっていた。

 

 勉学において、他の人たちに負けることが多くなった。

 まぁ考えれば当たり前で、所詮はカンニングみたいなものだ。別に僕は天才でもない。いつかはこうなるだろうな、と思っていたが、まさか中学で起きるとは思わなかった。

 

 ブエナと遊ぶ日々を送りつつ、年上の僕が年下に負けるという焦燥感にも似た何かに駆られ、勉強した。とにかく勉強した。分からないところは率先して先生に聞き、勉強に励んだ。いつしか目が悪くなり、前世は無縁だったメガネをかけることにもなったが、勉強した。

 

 こっちの世界にあるのかは分からないけれど、前世で好きだった漫画がある。そこであの人は言っていた。

 

 努力した者が全て報われるとは限らない。しかし成功した者はすべからく努力していると。

 

 僕は前世では特に何も感じなかったが、今世ではそれを信じ、勉強を続けた。

 

 

 

 

 ある日。一種の狂気に取り憑かれたような僕を見て、両親はある場所へと連れ出した。

 

 車を走らせること30分。

 目的地はブエナビスタのような幼いウマ娘が走りを学ぶクラブチームの練習場。

 気分転換も兼ねて、ブエナビスタの出場する模擬レースに見にきて欲しい。それはブエナビスタの家族、そしてブエナビスタ本人からのお願いだった。

 

 ……そういえば、ウマ娘のレースをまともに見るのは、なんやかんやあの日のテレビ以来で、少し楽しみにしている自分がいて。

 

 そして僕は見事に圧倒されることになる。

 

 幼いウマ娘の模擬レースとはいえ、保護者達以外にも見にきていた観客が声を出し、呼応するようにウマ娘たちは脚に力を入れてターフを駆ける。

 

 その中で僕が初めて目にする、ブエナビスタの本気の走りは一際輝いて見えた。

 いつも僕の後ろをついてきていた彼女が。

 あんなにも強く胸を打つような走りをするなんて。

 あの時のテレビでは感じられなかった現地の熱。ウマ娘たちの疾走。

 

 その熱に当てられたのか、気づけば僕は涙を流しながら、ブエナビスタを喉を壊さんばかりの声を出して応援していた。

 

 

 この日の出来事は、僕は死ぬまで忘れないだろう。

 

 

 そしてこの日から僕は決めた。

 彼女ーーーブエナビスタを支えることが出来るようになりたい。と。

 

 そこからの行動は早かった。

 どうすればウマ娘を支えることが出来るのか? どうすればブエナビスタがもっと速く、楽しく走れるようになるのか?

 

 父さんと母さんに相談すると笑顔で一緒に調べてくれて、そして見つけた。

 

「ウマ娘の……トレーナー」

 

 前世の競馬だと馬とそれを操る騎手が存在していた。

 だがウマ娘は馬であり騎手でもある。だけどそのウマ娘にトレーニング方法を授け、支えることの出来る唯一の職業。

 

 父さんや母さんが言うには、トレーナーになるには中々に難しいそうだ。そもそもやるべき事が普通のサラリーマンより多岐に渡る。スカウトから育成。更にはレースに出走するための申請や準備。怪我をした時のスポーツ医学。後はグッズが販売するのが決まった際のやり取りなど、挙げたらキリがないレベル。

 言ってしまえば企業の色々な部署を1人で担う感じだろうか?

 

 当たり前だが、ウマ娘の人生を預かる以上、トレーナーになるには免許も取得しなければならない。しかも地方と中央の2つがあり、車のマニュアルとオートマくらいの違いであればいいのだけれど、取得するための難しさも、取得後の待遇も全然違うという具合だ。

 中央の試験の難しさは、人によっては何年も受け続け、やっと取得できる難易度。日本最難関の大学入試のように例えられることもあるらしい。

 

 その分中央は盛り上がりもウマ娘のレベルも規模も何もかも違う。中央はウマ娘の憧れであり、エリートが集まるような場所だ。多分ブエナビスタも憧れるのではないだろうか?

 

「何年もかけてられない……一発でとれるように勉強しかない」

 

 僕は自分に言い聞かせるように呟いた。

 まだブエナビスタが中央のトレセン学園に行くかは分からないけれど、とにかく勉強に励むしかない。 

 

 

 目標は決まった。

 僕は、この人生はトレーナーになる。それがこの世界に転生した理由なんだと信じて。

 

 

 

 

 

 

「えっ、お兄ちゃん、進路、トレーナー養成学校にするの!? しかも中央の……?」

 

 ブエナビスタが驚くように言葉を反芻した。

 アレからまた年月が過ぎ、僕は進路を決める時期になった。やはりというべきか、ブエナビスタはトレセン学園を受験することに決めたらしい。

 

 そんなブエナビスタも見た目が驚くほど成長した。え? 本当に小学生? って雰囲気だが、どうやらウマ娘はこういうものだそうだ。本格化ともいうらしい。これがウマ娘の神秘だ。

 

「うん。実はずっと前から考えてたんだ。初めてブエナの走りを見たあの日からずっと。僕は君の担当トレーナーになりたいから」

「ずるいよ……私が泣き虫なの、知ってるでしょ」

 

 ブエナビスタの目が潤んでいくのがわかり、ふふ、と僕は笑い、頭を撫でる。

 昔から泣き虫ではあったが、身体が成長してもこういうところは変わらない。

 

 そうして僕は猛勉強をして無事にトレーナー養成学校に入学。

 その数年後にはブエナビスタも無事にトレセン学園の入学が決まった。

 

 

 ブエナビスタには先に待っていてくれ。と伝えて、僕は育成のイロハや、関連法律。スポーツ医学や栄養学も学び、実地研修も行うことで経験値を増やした。

 

 やれることはなんでもやる。僕は天才ではないのだから。

 

 

 

 合格率が低い中央のライセンスだったが、なんとか。本当になんとか一回の試験で取得に成功し、トレセン学園所属のトレーナーとして就職が決まった。

 両親の喜びようといえば、前世でもこんなに喜んでくれた事はないくらいで、ブエナビスタの家族と一緒になって胴上げされたのを覚えてる。

 前世も含めて人生初の胴上げは最初は恐怖しかなかったが、受かった事実を再確認した僕は涙を流した。

 

 

 

 

 

 さて、現在に戻る。

 

 

 待ち合わせ場所に近づくと、黒鹿毛のミディアムボブのウマ娘の後ろ姿が視界に入る。僕の走る足音が聞こえたのか、黄色の耳当てをつけた耳がぴくりと動き、振り向いた。

 トレセン学園の制服を着て、黒と黄色の市松模様カチューシャを身につけた幼馴染、ブエナビスタ。

 僕の顔を見るなり、ちょっとだけ目が潤んでいるようにも見えたその表情は、懐かしささえ感じる。

 

「……待ってたよ」

「お待たせ。……ブエナ、少し身長伸びた?」

「え、そうかな? あんまり分からないけど……お兄ちゃん……ううん、トレーナーさんも伸びたんじゃないかな?」

「僕は育ち盛りだからね。目は悪くなったけど」

 

 ふふっ、とお互い笑い合う。

 

 

「それじゃあ、改めて。……聞かせてもらってもいい?」

「あぁ」

 

 僕は手に握ったお守りをより一層力強く握りしめる。

 ブエナビスタがトレセン学園に入学してからのある秋のこと。僕の資格試験勉強の息抜きと勉強も兼ねて、ブエナビスタと共にジャパンカップを観に行ったあの日。

 ブエナビスタが僕が試験合格のために手作りしてくれたお守り。

 スペシャルウィークが凱旋門賞のウマ娘を破りジャパンカップを勝利した、ウマ娘史に残るような一戦。あの時の熱、興奮、歓声を僕らは互いに語り合って、決めた。

 

 ーーーいつか必ず、こんな絶景に辿り着こう。と。

 

 僕たちはやっと、ここからスタートラインだ。

 

「それじゃあブエナ、僕と……『仮契約』してくれるかな?」

「は、………え?」

 

 僕は10年来の付き合いだが、ブエナビスタがこんな表情をするのは初めて見たのだった。

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