ウマ娘 〜childhood friend〜 作:山本ショートピース
大変申し訳ございません。
「か、仮契約……っていうのは?」
ブエナビスタが聞き返してくる。
ちょっと泣きそうな表情になっているので、昔みたいに頭を撫でようかと思ったけど、僕はそれを堪えて説明する。
「勝手でごめん。でもこう……僕なりのケジメ、いやなんて言えばいいのかな……僕を判断して欲しいんだ」
「判断っていうと……私がおに、トレーナーさんを?」
コクリと頷き、僕はブエナビスタに説明始めた。
正直なところ、この仮契約についてはライセンスを取得できた日から僕は決めていた。
恥ずかしい話、試験を無事に合格したと知った僕は両親たちに胴上げされる前に、トレーナーになれたんだ、とブエナビスタに一番最初に伝えるため、トレセン学園に来た。
勿論合格したといえど、現時点では部外者も部外者。トレセン学園の門でどこからともなく現れて僕の背後をとった理事長秘書の駿川さんに止められたが、事情を説明すると、駿川さんは「うーん……内緒ですよ?」と少しだけ考えた後に人差し指を唇に当てる仕草をして、そそくさとブエナビスタの元へ連れて行ってくれた。
そこはグラウンド。ターフが整備され、これから鎬を削るような戦いの練習場でブエナビスタは走っていた。
中団からやや後方に位置する彼女は最終直線に差し掛かるタイミングで強く地面を蹴り、外から抜きに掛かる。デビュー前にも関わらず、その末脚はメイクデビュー戦にも通じるのではないかと思えるほどの加速。
……凄い。言葉が出ない。
ブエナビスタは、凄いんだ。
前世ではどんな馬だったのかを今では知る由もないが、この光景を見ただけで、その事実を再確認した僕は強く唇を噛み締め、踵を返す。
「声、かけなくていいんですか? 彼女も喜ぶと思いますよ?」
「内緒だったのにすみません、駿川さん。でも大丈夫です。まだ僕は外なので」
僕は更に気持ちを引き締め、駿川さんに頭を下げる。
「そうですか……まぁいいでしょう! 春からよろしくお願いしますね、トレーナーさん」
駿川さんの笑顔に見送られ、僕は決めた。
僕が僕自身の。
ブエナビスタの為になれるようにするには。
まずは価値を証明しなければならない。
この才能ある高嶺の花に。
「再来月末に開催されるエキシビションの模擬レースで一着を取る……」
立ち話もなんだからと、近くのベンチに移動した僕らは仮契約中の行動指針を決めた。
このエキシビションの模擬レースには、いつもの模擬レースとはちょっと違い、既にメイクデビュー戦にて勝利し、トゥインクルシリーズで戦うウマ娘達も出場する。簡単にいえば、デビュー前のみんなにも本番のレースさながらの熱を感じてもらう。と言った具合だろうか。
「うん。ブエナも僕も目指すところは同じだよね? でも目指すにあたって、僕の提示するトレーニング方法がブエナにマッチするか、そこが全てだと思うんだ」
まだ見ぬ絶景を目指して。
僕らがあの日のジャパンカップで決めた約束。
トレーナーはウマ娘の杖になるべき存在だ。
どんな道があるかを示す行動が彼女たちウマ娘にとって賢者の杖になるのか、はたまた愚者の杖になるのか。
それをブエナビスタに見極めてもらう。だから仮契約。
勿論、僕は愚者になるつもりなんて毛頭ないけれど、彼女の判断を尊重する。
「本当は、模擬レース後の種目別競技大会でもいいかなって思ってはいたんだけど……ブエナはそれまで仮契約、耐えれる?」
「うーん、あはは……」
少し考えた後に困ったように笑うブエナビスタ。まぁ彼女達もなるべくなら早く契約をしてレースに出たいだろうしね。時間は無限ではないのだから。
「よし! そしたらブエナ! 明日からよろしくな!」
勢いよくベンチから立ち、僕はブエナビスタに手を差し出す。
思い出すのはブエナビスタと初めて会ったあの日。
あの時のブエナビスタはおばさんの後ろに隠れるようにしてこちらを伺っていた。
「うん、うん! よろしくね、トレーナーさん!」
あの時に負けず劣らずの笑顔を見せ、僕らは握手をする。
こうして無事に僕らはあの日の約束を叶える為のスタートラインに立てたのだった。