ウマ娘 〜childhood friend〜 作:山本ショートピース
仮契約という大イベントを終え、翌日になった。
僕はブエナビスタの授業が終わってこちらに合流するまでの間、トレーニングメニューを決める為にトレセン学園内でのブエナビスタのレース記録を調べる事にした。
ウマ娘といっても、人間と同じように得手不得手がある。長い距離を走ることが出来る子だったり、短い距離を走ることができる子だったり。
その為、レースは短距離・マイル・中距離・長距離という4つに分類される距離の中で、彼女たちの適性や能力を軸に最適な距離のレースに参加する必要がある。
更には走る際の戦法も距離と同じように大きく4つに分けられる。
スタートの合図と同時に先頭に立ち、そのままゴールまで一気に駆け抜ける逃げ。2番手以下を大きく引き離す大逃げなんてものもあるが、総じて逃げ、といって問題ないだろう。
前に誰もいない為、常に最善の通路で走る事が出来るが、空気抵抗を受けやすかったりとデメリットもある。
その逃げのすぐ後ろに位置してレースを進める先行。常に逃げを射程圏内に捉えるその戦法は最もレース中の不利を受けにくいが、最もウマ娘の実力が顕著に現れる。
スタートからはバ群の中団やそのやや後方に位置してレースを進め、第4コーナーを過ぎたあたりから前に出て抜き去る差し。反応が遅かったりするとそもそも前に出ることすら無くレースが終わってしまう場合もある為、高い瞬発力が必要となる。
スタートからほとんどを最後方で走り、最後の直線でトップスピードになり、他を一気に抜き去る追込。レース展開によっては有利不利も大きく、更にはレース場によっても左右されることもある。
ブエナビスタの記録を見ると、後方から機会を伺いつつ、最後一気に加速をして先頭を駆け抜ける試合展開が多い。彼女は差しまたは追込の展開を得意としているタイプだろう。
走る距離に関しては実際に計測してみたりとかで、最終的な判断はする予定だが、記録を踏まえるとマイルか中距離の適正がある。
得意な戦い方で得意な距離を走る。
それはウマ娘の力を十二分に発揮する為に最も重要な部分だ。勿論、それだけで勝てるほど甘くはない。マークをされて思い通りに走ることが出来ない時もあるし、天候にも左右される。
まぁ天候に関しては文句を言っても仕方がない。それでも勝てるようにするため、トレーナーがいるのだ。
僕はレース結果、更には今までブエナビスタがどんな自主トレーニングをしてきたかの記録を元に育成計画を組んでいく。
「うーん、もうちょい正確な情報も欲しいな……やっぱり今日のメニューを経てから考えるしかないよな……クッソ、なんだかもどかしいよ全く」
頭をポリポリと掻きながら、小さく呟く。
新人トレーナーである僕は、当たり前ながら育成のノウハウが無い。大体が行き当たりばったり。
勿論、育成学校である程度の事は習った。ただ結局は経験に勝るものはない。
まぁ考えつくことで最適なプランを作り上げよう。
努力だ努力。
「今日からよろしくお願いします、トレーナーさん……ふふ、なんだか照れるね?」
放課後になった。
既にトレセン学園のジャージに着替えた彼女とグラウンドで合流した僕は「おはよう、ブエナ」と声を掛ける。
「えっと、そしたら今日はどうすればいいのかな? 本格的なトレーニングを始めるんだよね?」
「うん、そうなんだけど。まずはブエナに聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
首を傾げるブエナビスタに僕は頷いてから口を開く。
「レース記録とか今までのトレーニングとか見させてもらったんだけど、僕の中でブエナはマイルか中距離。鍛え方次第で長距離もいけるかな? って感じで考えてるんだ。ブエナ自身はどうかなぁって」
「うん、長距離はあんまり走ったことがないけど、私も同じ考えかな」
「おっけ。そしたら今日は、まずはブエナのタイムも知りたいし、一度実際に走ってもらって貰おうと思ってる。本気だけど怪我しないように、距離は……とりあえず1600で。どうかな?」
ブエナビスタはやる気充分、といった感じで頷くと、準備運動を始める。
マイルの1600mだと、最初の2ハロン……400mは22秒くらいが大体の目安になるか? 今回は本番ではないし、1ハロン当たり12から13秒くらいであればいい具合って感じで大丈夫だろう。
「トレーナーさん、準備できたよ!」
「よし、じゃあ始めようか! 怪我しない程度の本気で、いつものレースを走ってるようによろしくね」
僕は所定の位置に付き、ポケットからストップウォッチを取り出す。
ブエナビスタの表情が変わったのを見て、さすがはウマ娘。と思いつつ僕は掛け声と共にストップウォッチのボタンを押すと同時に彼女は駆け出し、走り始める。
……かなり良いフォームで走れていると思う。
ちゃんとブエナビスタの中で、こう走るイメージみたいなものが形成されてるんだろう。走りに迷いがないようにも見える。
400を通過したあたりでストップウォッチに視線を落とすと、23.4秒だった。
全然良い。いや全然良いぞ?
このままデビュー戦でも一着が取れるのではないか? そんなふうに考える僕だったが、慢心はいけない。今後の方向性を見極める為、じっくりと走りを観察する。
最後の直線に入り、ブエナビスタは思いっきり地面を踏み締めて駆ける。……やっぱり1番の武器はあの末脚だ。最後の伸びが尋常じゃない。
アレを生かすことが出来ればブエナビスタはきっと。いや必ず絶景に辿り着く。そして僕も……その絶景に辿り着けるだろうか?
あのまま魅入ってしまったら正確な時間が計測できないので、僕は軽く頭を振って気持ちを切り替え、ゴールと同時にストップウォッチを止める。
表示されたタイムを見て、軽く笑みを浮かべた僕は、タオルと水を片手にブエナビスタに近づく。
あの末脚を鍛える為に、まずは筋力や心肺機能……瞬発力も必要か。
確かこの広大なトレセン学園内には、ウッドチップの練習場があった気がする。アレなら、ダートよりも地面のクッション性があるため、骨に負担はかからずに筋力強化が見込めるだろう。
1ハロン辺り、15秒から20秒のペースにして、最後は全力で……いや、それなら、遅いペースと早いペースの繰り返しの方がスタミナも強化もできるか……? そうすればより強い負荷を筋力にも与えることもできる。
あの練習場を使うのにあたっては何か申請とかいるのか? そういえば知らないな……後で調べなきゃ。
やる事がいっぱい過ぎるなぁ、こりゃ。