ウマ娘 〜childhood friend〜   作:山本ショートピース

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4話 幼馴染と併走

 突然だが、トレセン学園はとにかく広い。

 学園のトレーナーには大きく分けて2つあり、1つは1人のウマ娘を1人のトレーナーが契約し、育成する専属トレーナー。もう一つは、複数のウマ娘を1人のトレーナーが部活のような扱いで育成する、チームトレーナー。

 僕の場合は、前者に分類される。

 そして専属トレーナーには6畳ほどのトレーナー室が割り当てられ、チームトレーナーには12畳ほどの部室が割り当てられる。

 まぁ……僕は仮契約だから部屋が割り当てられてないんだけどね。

 

 更に更に。生徒であるウマ娘は全寮制だが、同時に学園のトレーナーも寮がある。

 聡明な方々は、ここでこの学園がいかに広いかが分かると思う。

 トレーナー何人いると思ってんだよ。広すぎだろ。

 大企業でもこんな広い社内ではないと思う。多分近い将来、トレセン学園にはトレーナー専用の動く歩道が整備されるはずだ。

 

 

 それはさておき。ブエナビスタとの初トレーニングから早くも3週間が経過し、例の模擬レースまでは後5週間になった。

 

「そういえば風の噂で聞いたけどさ、お前契約したんだって?」

「え? あ、うん。知ってたの? あと契約じゃなくて、仮だけどね」

「え、なにそれ? 仮?」

「うん。仮」

 

 まだトレーナー室がない僕は、末脚の強化とスタミナの強化を目標として定めた育成計画を含め、ブエナビスタに協力してもらう事でまとめた資料をトレーナー寮の共有スペースで精査し、パソコンに入力していると、同期のトレーナーが話しかけてきた。

 彼は既にウマ娘とトレーナー契約をし、近々デビュー戦を控えているそうなので、その子経由で聞いたのだろう。

 

「ふーん、仮かぁ」

「そうそう。まずは僕自身の価値を証明しなきゃ、と思ってね」

「だからこうして資料作りしてるって訳かぁ」

「まぁ、個人的に分かりやすくまとめてるだけだよ」

 

 同期は共有スペースに置かれた自販機で缶コーヒーを買い、それを飲みながら一瞬僕のパソコンを覗き込む。

 本当は覗いてほしくはないけれど、共有スペースで精査している僕が悪いから何も言わない。だって部屋だと多分まとめずに寝てしまうから。

 

「うぇ!? お前なんだよそれ……」

「え? データだけど」

「いや、そりゃあ見れば分かるけどよ、詳細過ぎないか?」

 

 同期に言われ、首を傾げながらパソコンに視線を移す。

 パソコンにはブエナビスタの筋肉の着き具合をデータ化しまとめている画面が映し出されていた。

 正確には脚まわり、腕の長さ、身長体重、1ハロンを何秒で走るか、諸々。とにかくまとめられるものは全てまとめ、どう変わっていくかをチェックしている。勿論トレーニングをした時の結果、どういう風に変化していくのかの予測もデータにしている。

 これをブエナビスタに頼んだ時は、それはもう頬を赤らめて苦笑しつつも、なんとか了承していただいた。

 断られたら靴でも舐めようと思っていたが……しなくて良かったのは本当に助かった。

 

「数字は嘘つかないからね。こう変わっていた、っていう証明にもなるから自信にも繋がるだろうし」

「なるほどなぁ……俺もまとめてみるかなぁ……」

 

 僕のデータを見て、感心した様子を見せる。

 そこでふと、僕は思いついた。

 彼は既に契約しているトレーナーでトレーニングも行っているが、デビュー戦はまだ出走していない。

 

「あのさ、君の担当してる子ってどの距離を走るの?」

「ん? 短距離とマイルだな。もう少しスタミナがつけば、中距離もいけると思ってる」

「なるほどなるほどなるほど。あの〜……ちなみに一個ご提案がございまして……あ、報酬は缶コーヒーを一箱分とかなら、出せるかと思うのですが」

「提案?」

 

 

 

 

 

「と、いうわけでブエナ。今日はトレーニングではなくて、併走をお願いします」

「うん、昨日メッセージアプリで言ってたやつだね」

 

 次の日。授業が終わったブエナビスタは既にいつものジャージに着替えており、両手ガッツポーズを胸元で可愛く作る。やる気充分って感じで大変素晴らしいぞい。

 

 昨日の共有スペースの件。

 僕は缶コーヒーを一箱分という報酬の元、この同期が契約しているウマ娘とブエナビスタが並走する約束をとりつけた。

 同期のウマ娘がどのレベルか。今の僕の育成が間違っていないかどうか。それが缶コーヒーの一箱分で分かるのなら、安いものだ。

 

「内容は芝で1200mと1600mの計2回。マイルに関してはブエナの主戦場だけど短距離に関しては……」

「向こうの土俵、だよね?」

 

 僕は頷く。ブエナビスタの脚質から短距離に関しては厳しいと思う。

 短距離はスピードと瞬発力。それとスタートダッシュから速い流れに乗れる能力が全てだ。追込だとタイミングを間違えれば最後の直線で抜けずに距離も詰められず終わり。っていうパターン。

 

「正直、最後の直線で抜けるかは、うーん……厳しいだろうね。負けるとしたら、2割くらいの確率?」

「……え? 2割、なの?」

 

 ブエナビスタは目をパチクリとさせて僕を見る。

 

「ブエナの末脚はすっごいから。負けるとしたら、そうだなぁ……短距離だから最終直線でタイミング間違えて……みたいな感じかな」

「ふふ、信じてくれてるんだね? 幼馴染だから?」

「幼馴染だし、トレーナーだからね」

「……もう」

 

 僕はブエナビスタの肩を叩き、準備運動をするように促す。

 既に同期のウマ娘、ジュエルトパーズは既に屈伸などの準備運動を始めていた。

 そうして僕と同期が軽く走って調子を見たりして大体20〜30分。

 

 2人はスタートラインに並んだ。

 あくまで今回は並走の為、ゲートを使った出走をするわけでもない。いわゆる、位置についてよーいドン! の形になる。

 

 僕がスタート、同期はゴールという所定の位置につくと、2人は前傾姿勢を取り、いつスタートしても大丈夫と言う雰囲気を出す。

 

「それじゃあ最初は芝の1200m、行くよ〜っ! よーい……スタート!」

 

 出せうる限りの声を出してスタートを合図すると、2人は殆ど同時に走りだした。……ように見えるけど、若干ブエナビスタが遅れたと思う。

 

 ただやっぱりブエナビスタはすごいな。

 

 僕はブエナビスタがスタートしてからの最初の一歩の足跡を見る。

 靴底の蹄鉄が地面を抉った跡。同期のジュエルトパーズより跡が大きいように見える。

 

 この並走結果にもよるけど、筋力は問題ないとしたら、次は瞬発力が課題、かな……。

 

 視線を走っている2人に戻す。

 多分ジュエルトパーズは先行を選択しただろうが、ブエナビスタは追込だから今の距離感だと逃げみたいなものだ。

 1200mは最初の直線からコーナーを曲がれば、またゴールまで一直線のコース。

 現状、最初のコーナーまでの直線は付かず離れずを保ちつつ、6バ身か7バ身くらいの差が開いている。

 コーナーを曲がってから、ブエナビスタはスパートをかけた。

 いい走りだ……けど、タイミングが微妙……か? いやブエナビスタの末脚なら充分捲ることができるレベルだと思う。

 

 ぐんぐんと加速していくブエナビスタは距離を縮めていく。

 4……3……2と完全に射程圏内にまで捉えているが……ゴールを通過。

 

 

 ……ハナ差かクビ差、かな。

 やっぱり瞬発力が課題になるだろう。

 

 

 僕はいつものようにタオルと水を持ってゴール付近で息を整えているブエナビスタに話しかける。

 

「お疲れ様、脚はどう? もう一本は大丈夫?」

「トレーナーさん……うん、大丈夫だけど……」

「瞬発力が課題だね。明日からのメニューに瞬発力強化を組み込んどくよ」

「うん、……ごめんね?」

「いや今回は相手の主戦場だからね。流石にまだ殴り込みに行くのは早かった、僕の判断ミスだよ」

 

 タオルと水を手渡し、頬を掻く。

 

「休憩を挟んだら、今度はこっちの戦場だ。かましていこう」

 

 僕は手をグーにして突き出すと、ブエナビスタも同じように拳をつくり、グータッチをする。

 

「いやぁ、はえぇな……ウチのトパーズも本気で走ってたし、下手したら負けてたよ」

「速いでしょ? 才能あるからね」

「次もこっちが勝たせてもらうわ。じゃあまた休憩後に」

 

 同期はジュエルトパーズの方に歩いていく。

 

 

 

 休憩が終わり、先程と同じように2人はスタートラインに並ぶ。

 今回は1600m。さっきよりちょっとだけ長いが、昨日の同期は担当しているジュエルトパーズは短距離とマイルが走れると言っていた。

 今回はこっちも向こうも適正距離。条件は同じだ。

 

「2人とも疲れはとれたかな? じゃあ次は1600m! よーい……スタート!」

 

 同時に地面を蹴り、飛び出す。

 見た感じ今回は出遅れることなく、スタートしたブエナビスタ。追込の位置につき、殆どさっきと変わらないようなレース運び。

 だが、向こうさんはコーナーを曲がる時にほんの少しだけ外側に膨らんだように見え、対してブエナビスタは綺麗に曲がれていたので、差が縮まる。圏内だ。

 

 最終直線に差し掛かったタイミングで、ブエナビスタは地面を蹴りつけ、一気に加速し、2人の距離はどんどん縮まっていく。

 

 よし、よし! いいぞ! このままなら勝ちを拾える。

 

 残り100mくらいになってから完全にブエナビスタは抜け出し、そのまま1バ身ほどの差をつけ、ブエナビスタがゴールした。

 

 それを見て僕は大きくガッツポーズをする。

 トレーニングの成果が出ていると言うのが、とにかく嬉しい。それに尽きる。

 

「トレーナーさん!」

「ブエナ!」

 

 僕らはハイタッチをする。

 本番のレースではない。ただの併走だけど。

 今日の出来事は僕らの結束をより強めたのではないだろうか? と思ってみたりするのだった。

 

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