ウマ娘 〜childhood friend〜 作:山本ショートピース
大変申し訳ございません。
「うーん……集中力が切れた」
肩を叩き、首を回しながら僕は呟いた。
トレーナー寮の共有スペースの窓を見ると、太陽はまだまだ眩しいくらい主張をしていた。
今日はトレーニング休養日。ブエナビスタもずっとトレーニングばかりでいると、疲労が抜けずに怪我のリスクが高まるし、そもそものトレーニングの質も下がってしまう。俗に言うオーバーワークってやつだ。
そう言うこともあり、今日はお休みとして、僕は僕でトレーナーとしての仕事と、トレセン学園の正社員としての仕事を片付けていた。
トレーナーと言えど、一応は雇われ正社員。トレセン学園の運営課からバシバシ仕事が投げられてくるわけだが、今は新卒だが、仮にも前世は社会人。パパッと事務仕事は片付けることはできた。
同期との併走からは数日が経過しており、あの日の課題点を組み込んだ練習メニューを行うことで、ブエナはどんなふうに成長していくか、の予測を打ち込んでいたのだけど、ものの見事に力が無くなった。
まるで顔が濡れたパンのヒーローのように、力が出ない。
「ブエナは……休み楽しんでるかなぁ」
まぁトレーニングは休みとはいえ、彼女は学生でもある。この時間は勉学に勤しんでいる頃だろう。
そろそろ昼食の時間にもなるし、早めに食堂でも行って適当になにか腹に入れようかと考えている時、スマートフォンがメッセージを受信した音が流れる。
「ほいほい……ってブエナ?」
今頃は多分授業なはずのブエナビスタからメッセージだった。
授業中にスマホいじってるのか……? 意外と不良な一面もあるものだ。
メッセージ内容を確認すると、久しぶりにお話がてら一緒にお昼を食べない? という相談だった。
言われてみれば、僕がトレーナーになってからというもの、トレーニングだったり、ブエナビスタの育成計画指針の話はよくしていたけども、所謂プライベート的な他愛のない話と言うのはロクにしていなかったなぁ。
「うん、たまにはいいか」
特に断る理由もなかったので、僕はブエナビスタの相談に了承し、先に食堂で待っていることを伝えると、パソコンやら広げっぱなしの資料をそそくさと片付け、トレセン学園内の食堂に向かう。
トレセン学園内にある食堂はウマ娘はもちろんの事、トレーナーも利用可能出来る。しかもお弁当も持込可。
食堂、と言ったが雰囲気的にはカフェテリアに近いだろうか? 大体が日替わりにはなるが無料のビュッフェ形式の為、人間より食欲が旺盛なウマ娘達にとっては大人気の場所となる。
その為、授業が終わると我先に席を確保しようとするウマ娘もいる訳だが……トレセン学園内は静かに走ることが校則で決まっているため、走ると言うよりかは、人間が走る速度レベルで早歩きをするウマ娘が見られるのはちょっと面白い。
僕は適当な席に座り、ブエナビスタが来るまでは暇なので、過去の模擬レースの動画を見つつ、時間を潰すこと10分程。
「ごめんね! 遅くなっちゃった!」
「ん? 大丈夫だよ? 気にしない気にしない」
他の席が埋まっていき、ウマ娘達が談笑しつつ食事をとり始めた中、彼女がやってきた。
息が切れてる様子は無いけど、ブエナビスタも早歩きで来たのだろうか? 早歩きのブエナビスタ……ちょっと見たかった。ちょっとだけ。
「ふふ、ありがとう……ねぇ、トレーナーさんはもうご飯食べた?」
僕が首を横に振ると、ブエナビスタはホッとしたように胸を撫で下ろした後、僕と向かい合うように椅子に座る。
「そ、そしたら、これ。良かったら……」
ブエナビスタはおずおずと黄色い巾着袋を2つテーブルの上に置き、片方を渡してくる。
「どうしたの?」
「お、お弁当……お弁当作ってきたの!」
「え、本当!?」
若干頬を赤らめがらも頷くブエナビスタに僕はお礼を言いつつ、巾着袋を受け取り、弁当箱の中身を確認すると、白米や卵焼き。それに煮物などが綺麗に詰まっている。
「おぉ、レベルが高い。昔より腕上げた?」
「ほ、ほんと……? その、味は保証しない、よ?」
「いやぁ、不味くない訳ないでしょ。昔からブエナの料理は美味しいし」
僕は箸を取り出して、卵焼きから一口食べる。
ブエナビスタの家庭ではお決まりである砂糖が入った甘い卵焼き。前世ではしょっぱめの卵焼きが多かったが、この甘い味はなんだか身体に染み渡る感じがする。
「美味しいよ」
「よ、よかったぁ……」
僕の感想を聞いて心底安心した様子を見せるブエナビスタは、もう一つの巾着袋からお弁当を取り出して食べ始めた。
チラッと視線をブエナの弁当に移すと、おかずとかは一緒だが、なんとなく見栄えが悪いような気がする。
「トレーナーさんはどう? もう学園には慣れた?」
「ん? あぁ、そうだねぇ。学園内はまだちょっと迷ったりするけど……」
「広いもんね?」
「いやいや、広いってもんじゃないでしょ。新宿駅より迷う自信があるよ」
ふふ、と笑いながら煮物を口に運ぶ。
その後も他愛のない話をしながら、お弁当を食べていると、「ブエナちゃんじゃん!」という声が聞こえ、反射的に声の方向を向く。
ギャルがいた。
それはもう見事なギャル。
ウェーブのかかったふわふわしている鹿毛をツインテールにしたウマ娘。ネイルはなんかすっごい。
「ジョーダンさん! こんにちは」
「よっす! 2人して美味しそうなお弁当食べて……ん、じゃん……って、もしかして一緒に食べてるトレーナーって……」
ジョーダンさんとブエナビスタに呼ばれたウマ娘は交互に僕でブエナビスタのお弁当を見た後、「エ、エモ〜ッ!! え!? エモすぎんか、ブエナちゃん……!」とニヤニヤしながらブエナビスタの頭を撫でた。
「も、もう……やめてくださいよ、ジョーダンさん」
「いやいや、ガチでエモいって。アレでしょ!? トレーナーさん、噂のブエナちゃんの幼馴染ってやつっしょ?」
「僕? うん、そうだけど……噂?」
「いいな〜、私もブエナちゃんのお弁当食べたすぎるんだが? 羨ますぎるんだが〜!?」
今度は僕のことを肘でコツンとしつつ、ニヤニヤをやめないジョーダンさん。
「あ、トレーナーさん! えっと、トーセンジョーダンさん! ジョーダンさんは高等部で、中等部の私とはあんまり関わりはないけど……よくしてくれるの」
「え、そうなのか? それはそれは……いつもブエナがお世話になってます。仲良くしてくれてありがとうね」
僕は箸を置き、トーセンジョーダンに頭を下げる。
「これはトレーナーではなく幼馴染……! いやぁ幼馴染力ヤバすぎでしょ」
「お、幼馴染力とは?」
「細かいことは気にすんなって! じゃあ邪魔者は失礼しちゃうから! ブエナちゃん……ナイスお弁当」
グッとサムズアップを決めたトーセンジョーダンは、ちょっと離れた席に同じ雰囲気があるギャルウマ娘の友達がいるようでそっちに向かう。
すぐにその友達に「いやガチエモくね?」って話している声が聞こえた。
「ご、ごめんね? トレーナーさん」
「いやいや、元気があって良い子じゃない。それに彼女、いい脚をしているみたいだし」
うん。あんな雰囲気を出しているけれども、レースでは侮れない相手になりそうだ。既にデビューしているのだろうか? 後でレースの動画があるか、調べてみようかな……。
「……そうですね」
ブエナビスタは少し黙った後、何故か不機嫌になって弁当を口に運ぶ。
ん? なんだ? なんで機嫌が悪くなった……?
「なぁ、ブエナ?」
「……なんですか? トレーナーさん」
「なんで敬語なの?」
「なんででしょうね」
「……ちなみにエモい、ってなに?」
「ポケットに入ってるスマホは、光る板かなにかなんですか?」
「……調べます」
なんだかよく分からないけど、残りの昼休みの間はずっと敬語で話すブエナビスタに僕は頭を抱えた。
そうしてブエナビスタとトレセン学園での日々を過ごし、いよいよ仮契約の目標であるエキシビションの模擬レースの日……審判がやってくる。