二度目の転生も退屈しない   作:たい焼きたい抜き

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駄文注意です!


0話

【御三家】

呪術界において長い歴史と権力を持つ禪院家・五条家・加茂家の三つの家門の総称。

この御三家は代々強力な相伝の術式を受け継いでおり、基本的にその家で生を受けた人間は呪術師にならなければ正当な扱いはされないことが多い。

 

そしてそんな御三家を、ひいては呪術界を陰ながら支える家門が存在する。

 

天世家(あませけ)

かつては御三家に並ぶ実力と権力を持った家であり、その力は主に呪いを宿した武器─呪具と式神での戦闘を得意としており、天世がつくった呪具は現代の呪術師に高値で取引されている。

だが、そんな天世家は密かに力を求めていた。

それはかつての栄光を、名声を、権力を取り戻すため。

他所から多くの強い血を取り込んで子を成していった。

 

そしてついに、その野望を叶えられる力を持つ子が生まれた。

 

まるで世界が彼の誕生を祝福しているかのように、赤子は才能に恵まれていた。

いや、恵まれすぎていた。

いくら歴史のある呪術師の家であろうと、彼の生まれ持った才能はあの御三家の当主の座に就く人間ですら霞むほどの、その小さな身から溢れる膨大な呪力…。

 

生まれて間もない赤子は身体に染みつく体液を綺麗にふき取られ暖かいタオルに包まれていた。

すると、初めから膨大だった呪力がさらに数十倍ほど膨れ上がる。

 

「……う~ん、どうやら今回も無事生まれることが出来たらしい」

 

まだ生まれて間もない赤子が突然流暢に言葉を発した。

その場にいた誰もが声を発することが出来なかった。

それは生まれたての赤子が突然しゃべりだしたことへの驚愕もあるが、それ以上にその生まれたての赤子から放たれる重く冷たい重圧に似たナニカに当てられていた。

 

「…どうやら歴史の古い家のようだ。ただこの家に満ちている呪力の質が悪いね。周囲の人間も力が弱い…。男女の顔色を比較するにいつの時代も女は冷遇されるのか。…実にくだらない。生命を宿しこの世界に産み落とすのはいつだって女だというのに。まあ男がいないとその子すらできないのだけれど」

 

赤子はゆったりとその場に浮き始めると、クルクルと周囲を見渡し冷静に分析を始めた。

 

「当分は現代の知識を知るためにこの場を離れられないし…この家は一旦やり直した方が楽だね」

 

赤子は自身の溢れる呪力を自身の胸に一気に凝縮していく。

それはやがて形を成し、ドクンッとまるで心臓の様に大きく跳ねると鼓動を開始した。

 

「この家の男を皆殺しにしてもらってもいいかな、貴人(・・)

 

「……ほお?久しぶりに呼ばれたと思ったらそんな害虫駆除を命ずるとは……随分冷たいのぉ、天蒼(てんそう)?」

 

鼓動する膨大な呪力の塊が夥しく蠢くと、それは徐々に人の形を模倣していった。

綺麗な艶のある黒髪は小さな背中まで伸びており、血の様に真っ赤な瞳は楽しそうに細められていた。

見るからに質の良い着物に身を包む天女のように美しい少女は目の前に浮く赤子の額を軽く小突いた。

 

「まぁ儂はお前様の式神。お前様がやれと命じればそれに従う他ない。全く、今世も退屈せずに済みそうじゃな」

「さて、それではまず…お前様の術式を行使させてもらうぞ?」

 

「良いよ。存分に使ってくれ」

 

すると自身を式神と評する少女は小さく白いその手を掲げると、パチンッと指を鳴らした。

その瞬間、この場にいる数名の男、否、少女を中心とした半径1km範囲に存在する天世家の男全ての心臓の鼓動が静止した。

突然苦しみだす男どもに恐怖し絶叫する女中たち。

赤子を産み落とした実の母ですら、現当主であり自身の旦那である男が苦しみから床に転げ暴れている様子をただ眺めている事しかできないでいた。

いつも女性という、生まれた時から決められていた性別(もの)というだけで実の夫からも冷遇されていた母。

だが、そんな母も長年一緒に時を過ごしていれば情というものが湧いてきていたのだろう。

心優しい母は実の夫が命を散らそうとしている現状を何とか止めようと、今なお異質に空中に浮いている我が子に追いすがり、赤子から放たれた式神を止めるよう説得した。

 

「…貴方は僕を、文字通り命を懸けて産み落としてくた。そんな貴方の願いを叶えてあげたいとは思うが…悪いねね。こればっかりは決定事項なんだ。

僕は昔から女という儚くも美しい存在を軽視する存在や思想が気にくわなくてね。昔はそれこそ時代的に仕方ないということもあったし、血を繋ぐことが最も優先されていたから目を逸らしていたが、こと今の時代は人が多く存在している。人そのものを増やさなくてはいけなかった(平安)とは根本的に状況が違うんだ。

つまり何が言いたいかというと、今の時代は僕が我慢しなければいけない理由がないんだよ」

 

赤子がにこやかに微笑むと、その小さな両手を広げてペチッと打ち付け合った。

 

ズチャッ…

 

苦しみもがいていた当主の首が綺麗に床に転げ落ちた。

続いて勢いよく頭の無くなった当主の首から血が噴き出した。

生温かく噎せ返るような鉄臭い血が赤子の母を真っ赤に染めていく。

 

わずかな沈黙。そしてすぐに母の口元が歪み鼓膜が破れんばかりの叫び声が屋敷を包む。

目の焦点が合わず、自身の髪をぐしゃぐしゃに掴む母の表情は最早壊れかけの人形の様に崩れていた。

自分が希望を抱いて生んだ可愛い息子は人の皮を被った化物だった。

きっと母の心の声を聴くことが出来たら、到底生まれたての息子に向けられるような恐怖と懺悔の言葉を呪詛の様に吐き唱えているに違いない、と赤子は目の前で絶賛精神を壊している実の母を眺めてそう思った。

 

赤子は一度重く眼を瞑り、脳内で母が安らかに眠るような姿を思い浮かべた。

 

「術者の思い描く夢を現に塗り替え支配する。やはり無法じゃのぉ」

 

少女は先ほどまで醜く泣き叫んでいた赤子の母親が、先ほどまでのがまるで嘘だったかのように気持ちよさそうに眠っている光景を見て楽しそうに笑っていた。

 

「あの一瞬で母上の精神は完全に壊れてしまった。産後直後の疲労も合わさって脆くなっていたんだろう。最早正気に戻る未来はなかったし、これが最善だった」

 

「まあ彼女からしたら最高の死に方じゃろ。文字通り眠るように死ねたのじゃからな。なんの苦痛もなく死ねる人間なぞどの時代で考えても限りなく0に近いものじゃ」

 

「感覚がまだ昔の様にはいかないな。この術式とは長い付き合いなんだけどね」

 

「そういえば、お前様いつまでその赤ん坊の姿でいる気じゃ。良い加減、程よく肉体の成長を進めたらどうかのぉ?」

 

「そういえばまだ赤ん坊だったね。じゃあとりあえず君の容姿と同じくらいの…10歳ぐらいでどうかな」

 

赤ん坊はどこか抜けた雰囲気を纏いながら肉体に膨大な呪力を細胞一つひとつに染み込ませるように流しこむ。

人間の肉体から鳴ってはいけないような音がいくつも重なり響くも気にせず肉体を作り替えていき、みるみる赤ん坊は大きく成長していった。

 

白に近い金色の髪は周囲の光を反射してキラキラと輝いてた。そして宝石の様に光る紫色の瞳は明らかに異質の存在感を放っていた。

 

生まれたてということもあり、今すぐ成長させた肉体に合う服がないため、一旦先ほどまで自身を包んでいたタオルを腰に巻き付けた。

 

「やっぱ上質な正の呪力は消費が激しいな。少し成長させるだけで総量の半分を失った」

 

先ほどまでとは明らかに大きくなった手を握りながら思わず笑みを溢した。

 

「赤子の総量と考えれば納得じゃな。それより、これからどうする?」

 

「まず数年はこの時代について情報を収集しようかな。それと同時に生前と同等の呪力量にするように鍛錬もしよう」

 

「ならばお前様は情報収集に集中するがよい。儂は他の式神(もの)を目覚めさせよう。それでよいか、天蒼?」

 

貴人と呼ばれた少女の式神は上品に袖で口元を隠して笑いながら愉快そうに天蒼の周りをクルクル回っていた。

そんな上機嫌な彼女を見て、少し不機嫌そうに頬を膨らませる天蒼。

 

「それは助かるけど、その天蒼って呼ぶのやめなさいな。それは君を創る前の時代の名であり、それを呼んでいいのは一人だけと生前に言ったでしょ」

 

「そういえばそんなことも言っていたのぉ。ならば儂の主としての名である晴明(・・)…と呼べばいいかの?」

 

貴人は天蒼─もとい前世の名である晴明の背後に回るとその首に手を回し優しく包むように抱きしめた。

 

「晴明も昔の名だからね。今の時代には似つかわしくないし…そうだね、今世は(そう)と名乗ろうか。家名は後で家の者に聞こう」

 

「蒼か。なかなか愛らしい響きじゃなぁ。気に入ったぞ」

 

「それならよかったよ」

 

二人はお互いに見つめ合っては仲睦まじそうに微笑み合った。

 

「さて、愛しい愛しいお前様」

 

「ふふ、どうしたんだい?」

 

貴人は数十センチほどさらに浮遊すると、蒼の両頬を手で包みクイッと上に向けさせた。どこまでも緩やかに微笑む蒼の表情を、どこか妖艶さの混じった笑みを浮かべながら見下ろしていた。

そしてそのままゆっくりと顔を蒼に近づけると、その小さな舌を整った小ぶりな口から覗かせるや、突然蒼の美しい紫の右の眼球を粘質に舐めた。

 

「今世もまたお前に会えて儂は嬉しい。またお前様と共に狂乱の戦に身を投じられる。人も呪霊も関係ない、あの命あるもの全てが等しく塵の様に扱われる無常で悲惨で狂気に満ちた至上の極楽世界。あの世界にもう一度お前様と歩めるこの悦び、どう伝えようか」

 

気分を良くしたのか、徐々に頬を染め浅い息を吐く貴人は再度蒼の右眼を舐めるやそれだけでは飽き足らず、ついには舌を匠に使いその蒼の眼をくり抜き飴玉の様に口に含み、数度口の中でコロコロと転がし遊ばせてゴクッと飲み込んだ。

 

「相変わらずお前様は美味じゃのぉ!上質な呪力が込められておる。流石は全てを見通す魔眼じゃ」

 

「君も相変わらずだね。それと、そう簡単に眼を食べないでね。視界が半分だと綺麗な君の顔が見えないからね」

 

「ほお?昔は戦場に散らばる屍が見えないと言っていた気がするが、一体いつそんな口が上手くなったんじゃろうな。あの8人の嫁の内のどいつじゃ?儂に言うてみろ、ほれ」

 

「さあ?誰だったかなぁ」

 

蒼は失った右目から流れる血を軽く手で拭う。そしてゆっくり瞼を上げると、そこにはたった今失ったはずの紫色の瞳がまっすぐ貴人を見上げていた。

 

「まあでも、僕も君と同じだよ。また君達と一緒に戦場へ立てるのがなにより嬉しい。一体どれほどの強者がいるかは分からないけど、また昔の様に一緒に死ぬまで踊り明かそうか」

 

 

1987年 春

 

この日、この世界に一人の化け物が誕生した。

その化物の名は蒼。天世家に生まれた異質の存在。

呪術全盛の時代である平安の世で、その身を戦に捧げた最強の陰陽師。

名を安倍晴明。

 

彼は遥か昔─それこそ1000年は遡るその時代に自らが創り上げた儀式により輪廻転生を繰り返していた。

 

一度目はただ一人の友と離れて平安の世へ

 

そして二度目はそんな平安の世から今世へ

 

彼が何を求めて転生するかは誰一人としてわからない。

 

もしかしたら本人ですらも理解していないのかもしれない。

 

 

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