異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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10異人三課

 

 迷宮対策課本部にある自室にて、グレイは朝の身支度を整えていた。

 彼が諸々の準備を済ませていると、来客を知らせるノックが部屋に響く。そのため、グレイが代表として扉を開けた。

 

「ハロー、グレイさん。どうもハルコです」

「ん? ああ、佐倉さんか、おはよう」

 

 腰に手を当てて楽な姿勢をとる佐倉ハルコは、スタイルの良さも相まって随分と様になっていた。また、彼女の身につけている公安のスーツが、厳格な性格である佐倉ハルコの魅力を引き立てており、グレイは毎度ながらに美人やなぁと心中にて呟く。

 

「朝食、一緒にどうですか?」

「ああ、いいぞ。それにしても、ちょっとキャラ変わったな。前よりとっつきやすい印象がある」

「……おかしいですかね?」

「いや? 前の佐倉さんも良かったが、今の佐倉さんは前と同じかそれ以上に魅力的だぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 その後、グレイはレアたちを呼び寄せると、佐倉ハルコと共に食堂へと向かった。

 

 

 

 わさび茶漬けを三杯も堪能したグレイは、満足気にお腹をさすった。続けて、お冷をぐびぐびと飲んでいると、佐倉ハルコが話しかけてくる。

 

「グレイさん、他の冒険者に会いたいとかあります?」

「他の冒険者か、そりゃ勿論。俺たち冒険者は荒くれ者だが、ある程度の礼儀がないと上には行けないからな。面倒くさいが、挨拶回りってのをしなきゃならないもんなのよ」

「分かりました。では、異人三課の方々と顔合わせでもしましょうか」

「頼むぜ、ハルコちゃん」

「流石にハルコちゃんは恥ずかしいので止めてください」

「オッケイ! ズドン‼」

 

 グレイが銃を撃つ物真似をすると、佐倉ハルコが大袈裟に驚いた姿勢をとっていた。そのことにグレイは感動を覚え、満面の笑みを浮かべて彼女にサムズアップを送ったのだ。

 

 

 

 空室だった会議室にて、グレイはパーティーメンバーであるレアたちと待機をしていた。

 彼を含めた『黄金の剣』の面々は席に座ることはせず、一塊となって雑談に花を咲かす。

 

「相手は異人三課らしい、種族はデミヒューマンだとか。あとルーク、くれぐれも目線には気をつけろよ。下手したらシズに目をつけられるぞ」

「ああ、分かったよ。グレイもくれぐれも気をつけてね、レアに嫉妬心を抱かせてしまうかも知れないから」

「ああ、気をつけるよ……!」

「あんたら、よく本人の前でフザケられるわね?」

「ルーク、あんまりフザケてると意地悪しますよ」

 

 眉間にシワを寄せるレアと不服そうな表情を浮かべるシズではあるが、グレイとルークは知っているのだ。デミヒューマンと呼ばれる種族の者たちは皆、露出度の高い衣装を好んで着用をしており、エキゾチックな魅力に満ち溢れているということを。

 そんな考えはおくびにも出さず、グレイたちが覚悟を決めて待っていると、その時。会議室の扉がガチャリと開け放たれ、異人三課の面々が入室をしてきた。

 

 先頭を進むのは、プラチナブロンドの髪をたなびかせる女性のようだった。彼女はやや幼げな顔立ちだというのに、そこから下の肉体はそんじょそこらの冒険者とは比較にならないほどに鍛え抜かれており、陰影がつくほどには筋肉が盛り上がっていた。

 だが、それほどまでに体を絞っておいて、彼女の胸と臀部はこれでもかと柔らかさを主張してくるのだ。そのため、グレイとルークは思わず目を見開き、むむっ!と興味を示す反応をしてしまった。

 

 次にやってきたのは、陰気な雰囲気を漂わせる中肉中背の青年だ。彼は一見すると線の細い印象を受けるが、それは誤りであることにすぐに気づけることだろう。

 余計な脂肪のついていない鍛え抜かれた鋼の肉体、こちらを見定める冷徹な瞳、そして、決して緊張感を手放さない、猛獣の如き洗練された気配。

 彼は間違いなく捕食者側の人間であり、なおかつ、かなりの強者であることが見て取れた。

 

 その次に顔を見せたのは、こちらを不思議そうな表情で見つめてくる少女だ。彼女は前者の二人とは違い戦士といった雰囲気ではないが、心なしか自然の香りを全身に纏っているような気がした。また、額より生えたデミヒューマン特有の角が赤く染まっており、大半が黒色の角を持つのも相まって、彼女にはどこか神秘的な気配があったのだ。

 

 最後にやってきたのは、公安のスーツを身に纏った金髪の女性である。彼女はかなり長身でかつスタイルが良く、何よりも笑顔がよく似合っていた。加えて、彼女の耳には高級そうなピアスが飾られており、それはまるで彼女を彩るかのように煌めいている。

 彼女は鈴木凪や佐倉ハルコとは雰囲気が異なり、よく言えば親しみやすい、悪く言えば軽そうな印象であった。

 

 彼らと対面をしたグレイは、代表として前へ出る。すると、先頭を歩んでいたプラチナブロンドの女性が、グレイと同様に前へ出てきた。

 

「俺は『黄金の剣』のリーダーを務めてるグレイだ。こっちは仲間たちのレア、ルーク、シズ。本来なら、俺たちはヒューマン大陸のサウスクロウって国で冒険者をしてるところなんだが、見ての通り世界を渡ってきてね。できるだけ早く、アースガルドへ帰ろうと足掻いてるところだ。なんたって、専属契約を交わしたおかげで手に入った屋敷を追われそうだからな。そういう訳で、よろしくぅ……!」

「フフ、丁寧な自己紹介痛み入る。私はゾネ、『炎の槍』のリーダーだ。そして後ろにいるのが、私の大切な仲間であるランサとイオ。私たちも置き手紙もなしに遠出をしてしまってね、早く知り合いに顔を出したいと思ってるところだ。こちらこそ、よろしく」

 

 お互いにジョークを交えながら自己紹介を済ませると、グレイとゾネは固い握手を交わした。

 なお、二人が握手を交わした際に、水着を思わせる防具を身に着けていたゾネの胸元がぷるんっ!と揺れ、グレイは即座に念仏を唱える。無論、脳内で。

 その後、十五分ほどのインターバルがあったため両者は交流をすることとなり、彼らのいる会議室がにわかに騒がしくなっていった。

 

 それぞれが好きに交流をする中、グレイは同じ転生者であるランサと話をしていた。

 

「ランサは西暦2260年生まれなんだな。なるほどなるほど……」

「グレイさんは2000年生まれってマジ? 古代人じゃん」

「さん付けはしなくていいぞ。あと、それを言ったらシズもランサも俺からしたら未来人だからな?」

「た、確かに……」

 

 最初は警戒心を抱いていたランサだったが、グレイが転生者だと分かると、ほんの少しだけ気を緩めていた。しかし、未だに懐を開く様子はなく、グレイはかなり慎重な性格なんだなと思案する。だが、ランサのそれは冒険者として相応しい姿とも言えた。

 

「ランサはここで他の冒険者と会ったことはあるか?」

「ないよ、一応存在は知ってるけどね。確か、異人一課がドワーフの二人組、異人二課がエルフの二人組だよ。アースガルドでの噂が確かなら、両者は仲が悪いだろうね」

「ああ、エルフとドワーフは致命的なまでに仲が悪いっていう、あの……」

「魂に刻まれてるらしいじゃん。実際、エルフとドワーフの大陸間は近いにも関わらず、互いに砦を築き合ってるらしいし」

 

 ランサが話した噂については、グレイもよく知っていた。曰く、エルフはワインを好み、ドワーフはビールを好む。曰く、エルフは大空を愛し、ドワーフは大地を愛する。曰く、エルフはドワーフを醜いと嘲笑し、ドワーフはエルフを醜いと嘲笑する。

 両者が対立する噂は枚挙にいとまがなく、それほどまでにエルフとドワーフは仲が悪いのだとグレイは認識していた。

 

「ああ、だから俺たちがあまり顔合わせをしないように配慮されてたのか」

「多分そうだよ。きっと先輩方がやらかしたんでしょ」

「うーむ、火のない所に煙は立たぬと言うし、彼らも仲が悪いのか……?」

 

 実際に会ってみなければ分からないことではあるが、グレイたちの中では既に、両者は仲が悪いという印象がついていた。

 

 

 

 異人三課である『炎の槍』の面々と別れたグレイたちは、今日も今日とてランクルの荷台に乗り込み、崩壊都市内を走り回っていた。なお、彼らの目的地は深い森の中に存在する、廃神社である。

 

 鬱蒼と生い茂った大自然が周囲に広がっており、そこには深い霧が立ち込めていた。辛うじて数メートル先の道路は視認できる状態だが、これは明らかに異常事態だ。

 

「ふむ、なんだろうか。霧に関係する魔物か?」

「これほどまでに大規模な霧を生み出すとなると、原因は何なのかしらね。まだ全体像が掴めないわ」

 

 グレイたちの目的とは、この深い森に突如として発生した霧の原因を究明することである。また、彼らが目指している廃神社は当初は発見されておらず、まるで幻かのようにはたと姿を現したというのだ。

 この現象はダンジョンの変化によるものなのか、それとも魔物による仕業なのか。何はともあれ、グレイたちは調査を行い、真実を突き止めなければならなかった。

 

 

 

 もはや自身の手足さえ満足に見えなくなったため、グレイたちは一度停車をすると、道路に降り立った。

 

「なんだか、前世で見た映画を思い出すな。邦題はなんだったか……」

「笑っちゃうほど何も見えないわね」

「シズ、『強風』で吹き飛ばしてみたら?」

「ええ、試してみます。〈ガスト・オブ・ウィンド〉」

 

 グレイが物思いに耽る中、シズが『強風』を唱えたことによって、前方の霧が吹き飛んだ。

 その先には、寂れたアスファルトの道が続いている。しかし、瞬く間に霧に覆われてしまい、すぐさま視認ができなくなってしまった。

 

「この霧は明らかに魔法の類ですね。ですが、これは誰によるものなんでしょうか?」

「とりあえず、進むしかなさそうよね」

「思い出したぞ! 『俺たちの〝ミスト〟』だ!」

 

 グレイがそう叫んだ瞬間、辺り一帯から悍ましい叫び声が木霊した。グレイたちは瞬時に戦闘態勢をとる。

 やがて、周囲から大きな羽音が聞こえてきたかと思えば、二十センチはあろうかという巨大な昆虫が、群れとなってグレイたちに襲い掛かってきた。

 

「キッショー⁉」

 

 グレイは喉元へ食らいつこうとしてくる昆虫を手で掴むが、強靭な顎と六本もの脚を忙しなく動かされては、ブブブと不快な羽音を鳴らされ続ける。そのため、彼は腰から大型ナイフを抜き放つと、その昆虫を滅多刺しにした。

 

「〈スピリット・ガーディアンズ〉!」

 

 その時、レアが『護りの霊』を唱えた。それは術者の周囲に四柱もの精霊を召喚し、彼らに守護をしてもらうという魔法だ。

 光輝(こうき)なる力を秘めた精霊たちがレアの周囲をくるくると舞い踊り、彼女へ牙を剥く昆虫たちを聖なる炎で焼き尽くしていく。

 『護りの霊』の素晴らしい点は、味方に害がないところである。そのおかげで、鈴木凪を含めた『黄金の剣』の面々はレアの近くにいるだけで安全だ。しかし、『護りの霊』は〝精神集中〟を必要とする上に、効果時間が一分しかない。したがって、グレイたちは早急に次の一手を考える必要があった。

 

「もしかしなくとも、俺の言葉が発端か?」

「かも知れないねぇ。それに、これはおそらく幻術の類だ。もしかしたら、僕たちの思考が読まれてるのかも」

「なら、他のことを考えてみるか」

 

 ルークと相談をしたグレイは、自身が嫌悪感や不快感を示すものを頭に思い浮かべてみた。すると、巨大な昆虫たちははたと姿を消し、今度は呻き声を上げる人型生物たちがこちらへやってきたのだ。

 全身から腐敗臭を漂わせ、右手には刃こぼれした直剣を持ち、左手にはピーマンを握り締めた謎の男。それらが群れとなって、グレイたちに襲い掛かってくる。

 

「ウワァー⁉ 手入れを怠った剣と苦いピーマンを持った浮浪者たちが襲ってくるぞー⁉」

「どうしてそうなるのよ……」

〔とりあえず、これなら楽に進めそうですね。今のうちに先を急ぎましょう〕

 

 白星を連射し、次々と浮浪者たちを撃ち倒す鈴木凪の後を追って、グレイたちは寂れた道路を進んだ。

 

 

 

 深い霧は姿を消し、今では薄っすらとした霧が漂う程度だ。

 そんな中をグレイたちが歩いていると、彼らは森の中に石造りの灯籠が鎮座していることに気づく。それは苔生した石畳の両脇に置かれており、その奥へと続くように、等間隔に並んでいた。

 

「ここが目的地の廃神社のようですね。特に地形がおかしいといったこともなさそうです」

 

 ホログラム投影機を持ったシズが、そう言った。

 

「ふむ、ならばこん先へ征くとしよう。ほんに妖の仕業ならば、我らが滅せば一件落着よ!」

 

 そして、グレイは気合を入れると、仲間たちを引き連れて廃神社へと足を踏み入れたのだ。

 

 太く立派な杉からなる森の中は異様なほど静かであり、グレイたちの石畳を踏みしめる音と、鎧や武器が擦れる小さな物音が木霊する。

 やがて、しばらく歩き続けたグレイたちの前方には、古びた鳥居と拝殿が広がった。

 石造りの鳥居は長い年月に晒されたのか苔に覆われており、その奥にある拝殿に至っては倒壊をしている。その見るも無残な姿にグレイはそっと手を合わせると、居るかも分からない神に敬意を表した。

 

「さて、見たところ魔物はいなさそうだな」

「でも、不自然よね。元々この場所は存在してなかったんでしょう?」

「気づいてなかった可能性もあるんじゃないかな」

〔否定はできませんが、どうなんでしょうか。シズさん、この廃神社自体が幻という可能性はありますか?〕

「いえ、流石にないと思います。……これは可能性の一つとして聞いて欲しいんですが、もしかしたら、この廃神社は何者かによって隠されていたのかも知れませんね」

 

 ふむ、なるほど。流石は頭脳派ウーマンだ。グレイはそうシズを褒め称えると、次の疑問について考える。それは、ならば何故この廃神社は姿を現したのか、だ。

 

「シズ、どう思う⁉」

「うーん、流石に情報が不足していますね。魔物でしたら縄張り争いでしょうし、もしもダンジョンの変化でしたらそれまででしょうし……」

「と、いうわけだ。閉廷、解散!」

「このおバカ、いいから調査をするわよ」

 

 レアに発破を掛けられたグレイは、廃神社の周囲を探索してみることにした。

 

 しばらくして、集まった情報を精査すると、魔物と思われる抜け毛や生活痕が発見された。また、それらは二種類の魔物に分けられると考えられ、これらの一因は魔物同士の縄張り争いではないかと結論づける。しかし、相も変わらず魔物の姿が見当たらないため、グレイたちはその唱えた主張に確証を得られなかった。

 

「鈴木さん、どうする? 正直、これらを調査するにはかなりの時間と労力が掛かるぞ。ドローンとやらで観測はできないのか?」

〔ええ、そうするのが丸いでしょうね。これは改善の余地ありです。報告書にまとめなければ……〕

 

 グレイたちは一度調査を中断し、他の目的地へ向かうこととなった。なお、森を離れる際には深い霧なんてものは立ち込めておらず、至って平穏な森が広がっていたのだ。

 そのことについてグレイは考えを巡らせると、心地の良い風が吹くランクルの上で、小さく呟いた。

 

『お前たちの家を荒らして悪かったな。次は菓子折りでも持ってくぜ』

 

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