異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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11冒険者たちの日常

 

 廃神社の調査から一週間ほどが経ったある日、鈴木凪は軽快にもパソコンを打ち鳴らしていた。そこへ、佐倉ハルコがやってくる。どうやら、彼女は手にした書類を誰かと分担したいようだ。

 

「鈴木さん、こちらの資料をまとめるのを手伝ってもらってもいいですか?」

「ええ、いいですよ」

 

 佐倉ハルコより手渡された資料を一別した鈴木凪は、すぐさま作業へ取り掛かる。

 やがて、小一時間ほどで資料はまとめ終わり、鈴木凪は彼女にデータを送信した。

 

「終わりましたよ」

「もう終わったんですか……?」

 

 鈴木凪は、彼女の表情や声色から、困惑、疑心、そして僅かながらの嫉妬心を感じ取った。そのため、彼はいつも通りにユーモアを織り混ぜた発言をしたのだ。

 

「私は天才かつ秀才ですので」

「そ、そうですか」

「佐倉さんも秀才ですよ」

「天才ではないのかなあ?」

 

 やはり、頭は回る。しかし、相も変わらず短気でプライドが高く、典型的なお嬢様タイプであることに変わりは無し、と。「佐倉ハルコ」は〝D〟ですね。

 鈴木凪はそう彼女を分析した。なお、これは彼の明晰なる頭脳が叩き出した人間観察の過程である。

 

「佐倉さんは随分と人を頼るようになりました。私としては嬉しい限りですよ」

「ふん、お前のことだから効率が良くなったとか思ってるんだろ?」

「当たり前じゃないですか。現在の日本は効率化、合理化、最適化が最も進んだ先進国なのですから。国家公務員に無能など必要ありませんよ」

 

 鈴木凪は天才かつ秀才だが、それ故というべきなのか、思想が強かった。彼が追い求める日本国とは、全てが論理的に証明できる、完璧で幸福なる世界だったのだ。

 その時、不快感を隠しもせずに、佐倉ハルコが口を開いた。

 

「おい、私は変わったぞ。お前、私に一言ぐらい寄越したらどうなんだ?」

「ああ、褒めて欲しいんですか」

「ちげーよ馬鹿! 謝罪だよ謝罪!」

「あなた、性格悪いですね……」

「お前にだけは言われたくない! 絶対にッ‼」

 

 ため息をついた鈴木凪は、隣のデスクで業務を進める佐倉ハルコに体を向けて、ほんの少しだけ頭を下げた。そして、謝罪の言葉を紡ぐ。

 

「少々、あなたのことを馬鹿にしていましたね。ですが、もうそんな真似をしないと誓いましょう。本当に申し訳ございませんでした」

「ふん! それでいいんだよ」

「どうして、謝罪をしたのに態度が変わらないんです? 普段は猫を被ってにゃんにゃんと鳴いてるじゃないですか?」

「誓いを破んのがはえーんだよッ⁉」

 

 すぐにいきり立つ〝D〟に鈴木凪はやれやれと首を振ると、もはや相容れない存在だなと見切りをつけた。しかし、彼は佐倉ハルコを嫌っている訳ではないのだ。ただ単純に、見下しているのである。

 

 

 

 ⚔

 

 

 

 崩壊都市内にある〝第一都市〟へ、グレイたちはやってきていた。彼らは第一都市の北地区に用があり、今現在向かっている最中だ。

 誰もいないバイパス道路を走るグレイたち。彼らは暖かくも麗らかな日差しと、ランクルが走行することによって生まれる走行風のおかげで、気分が爽快であった。

 

「はあ、自動車に慣れちゃうと、馬車なんて乗りたくなくなるわね」

「どうにかして、アースガルドで実現できないものか……」

「魔石を使えばいけるんだろうけど、魔石そのものが希少だし、今となってはエルフ大陸からしか供給されないからねぇ」

「それもありますが、魔力を効率的に活用しなければ、既存の馬車の代替とはならないでしょうね。魔石は高価ですから、かなりの生産コストが掛かるはずです。それに見合う性能を引き出せなければ、顧客は見向きもしないでしょう」

 

 真面目に考察をするシズは、続けてこう言った。

 

「まずはショックアブソーバーやサスペンションといった足回りについて研究をするべきかも知れません。あとは、タイヤの開発でしょうか。馬車の最大の欠点は乗り心地の悪さですから、それさえ改善をすれば、顧客の満足度はかなり高くなると思います」

「シズ、お前はエジソンかよ……」

「私はシズですが」

 

 かの発明王を存じ上げないシズにグレイは驚愕するが、それはともかくとして、現代チート無双は可能なのかも知れないと思った。しかし、他にも転生者がいるだろうと思われるのに、自動車が実現していないのは何かしら理由があるのかも知れない。

 グレイは、科学知識、金属加工技術、大量生産が可能な設備や人員、そして、多額の資金が必要なのかと考えた。

 

「何はともあれ、まずは教育水準の向上が先決だな!」

「グレイに同意です。残念ながら、アースガルドに車を供給されたところで誰も満足に扱えません。人々は学びを止めてしまい、そこで人として死ぬのが関の山です」

「アルベルト・アインシュタインさん⁉」

「誰ですか、それ」

「そんな……そん……⁉」

 

 二十世紀最大の天才かつ、数々の名言を残した、偉大なる現代物理学の父をシズは存じ上げなかった。グレイは横転した。

 

 

 

 第一都市の北地区は、言うなれば植物たちの楽園であった。辛うじてビルの骨組みなどが残っているが、天を衝く巨木が大森林を形成しており、かつて存在したと思わせる人々の痕跡などが消し去られている。

 いつの日か訪れる未来を暗示させるような景色にグレイは思いを馳せるが、ちらりと見えた瑞々しい果実たちに一瞬で気を取られた。

 

「おっ、実ってんじゃ〜ん! やっぱ春は野苺を貪り食うのが定番だよな〜!」

「グレイは昔からそうよね」

 

 ふと幼少期を思い出すような話をレアと交わしていると、ランクルが停車をした。どうやら、これ以上車で進むのは厳しいようだ。

 大地に降り立ったグレイたちの眼前には、見上げるほどに高く、両腕で抱えられないほどに太い幹をした大木たちが犇めいていた。また、思わず上を見上げてしまうところではあるが、地面にも数多くの植物が繁茂をしており、その中でも立派な果実を実らせた野苺が、最も多く群生をしているようだった。

 

「私たちの目的は、この森の奥に生息をするアルラウネたちを間引くことですね。彼らの花期は夏頃ですので、それまでに数を減らしておけば処理が楽になるという判断なのでしょう」

「あいつらは強靭!無敵!最強!だからな。放ったらかすと森の生態系を変えてしまうのが難点だ。しかし、よくもこんな玄人染みた考えを思いつく。日本人はまだダンジョン一年目だろ?」

〔アースガルドからの転生者の皆様から、知恵をお借りしてるんですよ。そのおかげで、多少なりとも我々は知識を持っています〕

「なるほど、筋が通ってるぜ」

 

 野苺をつまむグレイは、鈴木凪へ納得するように頷いた。

 

 

 

 グレイたちが大木の犇めく森の中を歩いていると、やがて蔓性植物が目につくようになってきた。それらは太く強靭であり、大木ならまだしも、小さな幼木や若木に纏わりついてはへし折るほどに、侵略的であった。

 

「コワモテ野郎のお出ましだぜ……」

「結構根が伸びてるわね。これは間引く判断をして正解だと思うわ」

「行こう、ここもじきに腐海に沈む」

「それはどういう意味なのよ」

 

 レアに飽きられるグレイだったが、彼は放射状に伸びた地下茎を辿り、今年開花しそうなアルラウネを探し始めた。

 

 しばらく探索をしていたグレイたちは、アルラウネの群生地を発見した。そこには大木を覆い尽くすほどに蔓性植物が生い茂っており、視界全てがアルラウネと言っても過言ではなかった。

 その圧巻の光景にグレイはすげーなと感想を抱くが、それ以上に危機感を抱く。

 

「前から思ってたが、崩壊都市は他のダンジョンと比べても活性が強いな。それは利点でもあるんだが、今回ばかりは欠点となってる。正直、これは異常事態だぞ」

「自然系の魔物たちにとっては、ここは理想郷なんでしょうね」

「生命力溢れる森は素敵だけど、このままじゃ生物多様性が死んじゃうよ。早急に対処をしよう」

「どうしましょうか。私の魔法で処理をしてもいいんですが、アルラウネ諸共周りの木々が死んでしまいます」

 

 グレイは鈴木凪の意見を聞いてみた。すると、彼は小型爆弾で地面ごとアルラウネを吹き飛ばすしかないと言い、背負っていたケースと手に持っていた擲弾発射器を指差す。

 

〔ここは木々の影響でドローンを要請できませんし、アルラウネは地下茎を伸ばして繁殖をする植物ですので、もはや手段を選んでいられません。彼らはまとめて爆破処理をする予定となっています〕

「うーむ、それだったらシズに頼むか……?」

〔正直なところ、私もシズさんにお願いしたいですね。あまり、爆発物を使って自然を破壊したくないので〕

 

 少し協議をした結果、シズの魔法でアルラウネを間引くこととなった。その余波で、残ったアルラウネたちはすくすくと成長するだろうが、それは致し方ないことだと割り切る。

 

「では、普段唱えることの出来ない第五位階魔法でも唱えますか」

「な、なにィッ⁉ あの魔法位階が最高位に達する第五位階魔法だって⁉ まさか、シズはサウスクロウの冒険者においても百人程度しか唱えられない第五位階魔法を唱えられるのか〜〜ッ⁉」

「なんでグレイが驚いてんのよ」

「やけに説明口調だねぇ。あと、すごく早口だ」

 

 呆れるレアとのほほんとするルークを尻目に、シズが一歩前へ出た。そして、前方に右手を掲げると、第五位階魔法を唱えたのだ。

 

「〈サークル・オブ・デス〉」

 

 その瞬間、巨大なエントロピーの力を秘めた円環がアルラウネたちの中心で広がり、彼らを包み込んだ。それは半径九メートルはあろうかという巨大さを誇り、最高位階(さいこういかい)魔法に恥じない規模感だ。

 

〔一体何が始まるんです?〕

「むっ! ここはボケたいところだが、真面目に答えようか……見てれば分かる!」

「ボケてるじゃないのよ」

 

 やがて、円環が事を為した。なんと、範囲内にいた全てのアルラウネたちを、自然界の法則に則って無に()したのだ。

 その円環は皆等しく死を与えており、アルラウネたちの添え木となっていた大木も、土壌に潜んでいた生物たちも例外なく死滅させ、塵と化させる。

 シズの唱えた、第五位階魔法。それこそが、最高位階に達する死霊術魔法、『死の円環』であった。

 

 

 

 グレイたちの前方に存在していた森の一画は更地と化しており、まるでぽっかりと穴が空いているかのように空虚だ。しかし、そこには麗らかな陽光が差し込んできており、どこか絵になるような光景でもあった。

 

「──必要な犠牲であったと、言うつもりはない。だが、これが最善だった……! お前たちの生きる意思は、俺たちが引き継ごうッ‼」

「何綺麗事言ってんのよ。シズが殺した、ただそれだけじゃない」

「レアまでボケてどうするんですか⁉」

「?」

 

 レアとシズが漫才をする中、鈴木凪が驚いた様子で呟いた。

 

〔これが、魔法ですか。いやはや、たった一人の人間がこれほどまでの力を秘めているとは。私の想定を上回りますね〕

「シズは上澄みだけどな。だが、アースガルドにおいて魔法詠唱者の割合は多いぞ。なんたって、彼らが一番武力を有していて、何よりも戦争の花形だからな。俺みたいな魔法を扱えない雑兵なんざ、軽く範囲魔法で一掃されるのがオチだぜ」

〔なるほど、魔法は抑止力としても働いているのですか。中々に興味深い話です〕

 

 その後、グレイたちはアルラウネの生息数や周辺の調査などを済ますと、次の目的地へと向かった。

 

 

 

 ⚔

 

 

 

 崩壊都市内に存在する〝第三都市〟にて、エルウィンは相方のシルヴィと、二人の世話役である田中紫苑と共に優雅なる調査に出向いていた。

 彼らがいるのは大きな湖のほとりであり、そこにはゴムボートがぷかぷかと浮いている。エルウィンたちはこのナイスなボートに乗り込み、通称〝第三都市湖〟という身も蓋もない湖の調査をする予定であった。

 

「おいおい紫苑くん、君が操縦するのかい? 不安だなぁ」

「だ、大丈夫ですよぅ。私、こう見えて一級小型船舶操縦士なんですから!」

「ほお、そいつは驚いた。非礼を詫びるよ、ミス紫苑」

 

 鷹揚な態度は改めずに、エルウィンは田中紫苑に頭を下げた。すると、彼女はあわあわと右往左往をした後、とりあえず乗ってください!と大声を上げる。

 ゴムボートに乗船をしたエルウィンたちは、アースガルドでは見慣れない素材に気づき、興味を抱いた。

 

「へえ〜、この世界のボートって柔らかいんだね」

「ゴム素材が大半だけど、底面が硬いようだね。もしかして、複合艇って奴なのかな?」

「えっと、こちらの船底には高分子系複合材料という素材を使ってまして」

「おっと、それ以上は結構。聞いても分からないし、そこまで興味がある訳じゃないからね。紫苑くんは操縦士らしく、舵を握っていてくれ」

「は、はいぃ!」

 

 小柄な女性である田中紫苑は、ヘルメットやサイバネティクスギアといった装備を身に付けていないため、彼女の小動物然とした幼い顔立ちや雰囲気が顕著となっていた。また、短く切り揃えられた黒髪がそよ風に吹かれてはもみくちゃとなっており、常に周囲を伺うような仕草も相まって、彼女にはどこか子供染みた印象があった。

 何はともあれ、エルウィンたちの乗り込むボートは無事に出港をし、沖合の方へと進んでいったのだ。

 

 湖の周囲には建築物や道路といった人工物が犇めき合い、それらが湖へ吸い込まれるようにして沈下している。そのため、この第三都市湖は都市の中心部が陥没して出来たような、不可思議な情景をなしていた。

 

「自然と融合した都市! これぞ、私たちエルフが追い求める理想郷だよ〜!」

「それはそうなんだけど、ちょっとだけ人類がいない印象が強すぎないかな?」

 

 モーター音を響かせて、湖面を切り裂き進んでいくボート。その上でエルウィンたちは雑談に興じていた。しかし、このボートには最新の魚群探知機やソナーなどが搭載をされているため、既に魚類調査及びに湖沼調査は始まっているのだ。

 

 しばらくの間は平穏そのものだったが、突如として田中紫苑が声を上げた。

 

「むむむ! かなり大きな魚影を確認です! すごく大きいです!」

「へえ、どのくらい大きいのかな?」

「おおよそ全長十メートル! こちらへ急速接近中です!」

「それを早く言おうかぁ⁉」

 

 きりっとした表情を浮かべる田中紫苑に、思わず優雅でない回答をしたエルウィンは、ボートの真下から巨大な気配が迫ってくることに気づいた。

 彼は瞬時に判断を下すと、魔法を唱える。

 

「〈マス・フライ〉」

 

 エルウィンの唱えた魔法とは、『集団飛行付与』であった。それによって、彼を含めた面々は自在に空を飛ぶことが可能となる。なお、エルウィンとシルヴィは協力をして、田中紫苑を空へと持ち上げていた。

 

「す、すごい……! 私、空を飛んでますよぉ!」

「そんなことより、あれを見なよ」

 

 彼女へ声を掛けるエルウィンが指を指した先には、細長い首を湖面から突き出し、ボートを見つめる巨大な爬虫類がいた。

 薄っすらと見える、湖に沈んだ胴体は巨大であり、四つもの筋肉質で分厚い鰭が確認できる。加えて、その胴体と細長い首の組み合わせは実に奇妙に映るため、エルウィンはこんな魔物がアースガルドに存在するのかと目を疑った。

 

「へえ〜、地球にはあんな魔物がいるんだね!」

「ふおおおお‼ 水生爬虫類、それも首長竜類でかつ、淡水生に進化を遂げた種ですかああああ⁉」

「相変わらず君の情緒は激しいな」

 

 大興奮をする田中紫苑を他所に、エルウィンは首長竜とやらを観察した。

 胴体に似合わず小さな口や、そこに生え揃った歯を見る限り、魚食性の可能性が高いだろう。また、長く伸びた首は一見すると無駄に思えるが、恐らくは素早く首を振り、獲物を捉えるために進化をした結果だと思われる。

 エルウィンはふむふむと頷きながら、かの首長竜の特徴や、そこから導き出される生態について考えを巡らせた。

 

「恐竜か。確か、遥か昔の地球に存在していたんだよね」

「エルウィンさん‼ 首長竜は恐竜ではありませんよ! 確かに恐竜と同じ双弓類ではありますが、そもそもとして恐竜の定義とは『直立歩行に適した骨格を持った爬虫類』ですし、首長竜と恐竜はペルム紀で分岐をしたグループなので、両者は全くの別物なんです‼」

「ああ、うん。なんかごめんね」

「はい! 今後は気をつけてください‼」

「うん、分かったよ」

 

 ふんふん!と鼻息の荒い田中紫苑に軽く謝罪をしたエルウィンは、湖の奥深くへと潜っていった首長竜を見送った。

 その後、彼らはボートへ舞い戻ると、湖の調査を再開したのだ。

 




 アインシュタインの名言
『空想は知識より重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。』
『学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるかを思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる。』
『人間性について絶望してはいけません。なぜなら、私たちは人間なのですから。』

 知らないことは罪じゃない、知ろうとしないことが罪なんだ。
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