異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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12廃ホテル

 

 崩壊都市のとある場所に、グレイたちの目的地である廃ホテルはあった。そこは険しい山道を幾度となく乗り越え、途中途中で魔物たちと一悶着ありながらもようやく辿り着けるような、辺鄙な場所に建っていた。

 グレイたちの眼前に広がるのは多くの針葉樹に囲まれた廃ホテルであり、地上七階建てにも達する。

 外壁には罅割れこそないものの、雨だれ汚れによって黒く変色をした部分が目立っており、そのおかげで廃ホテルには不気味な雰囲気が漂っていた。

 

「ほお、雰囲気あるじゃねえの。すげー青空の下だけど」

「最近は雨続きだったから、晴天だと嬉しいわよね」

 

 恵みの季節ということもあり、最近の日本は雨続きであった。それはグレイたちの調査活動にも影響を及ぼし、冒険者は基本雨天時を休息日とするため、雨の日のグレイたちは細々とした調査しか実施をしていない。しかし、活動を自粛するのは魔物たちも同様なので、よほどの問題が起きない限り、雨天時の崩壊都市は平穏なのだった。

 

 作動をしなくなった自動ドアを潜り、グレイたちは廃ホテルに潜入をした。

 彼らの眼前に広がるのはエントランスロビーのようで、全体的に寂れているが、赤い絨毯や一人掛けのソファなどが彼らを出迎えてくれる。

 

「私たちの目的は、この廃ホテルを住処としているジャイアントラットを調査し、必要ならば駆除をすることです」

「彼らは夜行性だから、昼間は休息を取っていることが多いよ。ここは物音を立てないように、慎重に動こう」

 

 グレイはシズとルークの言葉に頷くと、彼らを伴って廃ホテルの奥へと進んだ。

 

 一階部分はエントランスロビー、フロントデスク、カフェラウンジとあり、グレイたちがそこを探索してもジャイアントラットは見つけられなかった。しかし、部屋の隅々が黒く変色をしていたり、乾燥したフンが落ちていたりと、彼らの生活痕、いわゆるラットサインを見つけることができたのだ。

 

 非常階段を上って二階にやってきたグレイたちは、非常に長い廊下に立っていた。彼らがいる場所から行き当たりに至るまでの過程には扉が等間隔に並んでおり、それらは何者かによって齧られた痕跡が散見される。

 

「とりあえず、部屋を回ってみようか」

「ええ、了解よ」

 

 グレイたちは一つ一つ、部屋を回ることにした。

 

 一部屋目。荒れ果てた室内には、バネの飛び出たソファ、見るも無残なベッド、破壊されたデジタルテレビなどがあった。特にジャイアントラットの痕跡が残っている様子はなさそうだ。

 

 二部屋目。酷い悪臭を放つ室内には、何者かの血痕がベッドに染み付いており、さながら殺人現場のようだった。また、クローゼットにも血が付着をしており、かなり派手に殺り合ったことが見て取れる。

 

 三部屋目。一部屋目と同じ様子。特におかしな点はない。

 

 四部屋目。ここも変わらず。

 

 五部屋目。二部屋目と同様に血の臭いが漂っており、床とクローゼットに血が染み付いていた。なお、補足をし忘れていたことだが、血は黒く変色をしている。

 

 六部屋目。特になし。

 

 七、八、九部屋目。特になし。

 

 十部屋目。ここも争った形跡があった。床に落ちていたデジタルテレビとテーブルボードに、血が染み付いていたのだ。

 

「ふむ、ジャイアントラットは見当たらないな」

「おかしいわね。事前情報が正しければ、かなり増えていたはずなのに」

 

 疑問を抱きながらも、グレイたちは二階の探索を続けると、やがて三階へと上がった。

 

 三階の廊下は二階よりも荒れ果てており、赤いカーペットにさえ黒く変色をした血だまりが残っていた。加えて、圧倒的な力で引き裂かれた扉がいくつかあるようで、何者かがジャイアントラットを襲ったのは確実であった。

 

「犯人は一体誰なんだろうねぇ」

「私の予想では、上の階に行けば行くほど悲惨な状態ですね」

 

 グレイたちは一階と同様に、部屋を一つ一つ回り始めた。

 

 一部屋目。ラットサインはあるが、特になし。

 

 二部屋目。ユニットバスルームに大量の血痕が残っていた。また、離れた場所にあるクローゼットにも血が染み付いていた。

 

 三部屋目。ベッドが大きく切り裂かれ、半壊をしていた。しかし、争った形跡はあれど、部屋に血が流れた様子はない。獲物を取り逃がした捕食者によるものだろうか。

 

 四部屋目。特になし。

 

 五部屋目。タンス周りが血まみれとなっていた。また、逃げ出したと思われるジャイアントラットの赤黒い足跡が続いているが、それは入り口付近で途切れている。ここで不可解なことは、捕食者の足跡が見当たらないことだ。

 

 六部屋目。血痕と争った形跡があり、それらはベッド、クローゼット、床に刻まれていた。

 

 七部屋目。特になし。

 

 八、九、十部屋目。特になし。

 

「ここでもジャイアントラットは見当たらないか」

「不思議なのは、彼らの死体が一つも残ってないところよね」

 

 うんうんと頭を悩ますグレイたちは、三階の探索を終わらせると、次は四階へと上がった。

 

 四階の廊下は三階と同程度には荒れ果てていた。破壊された扉や、赤いカーペットに付着をした血痕などが散見される。どうやら、この階でもジャイアントラットたちは襲われたようだ。

 

「ここにも彼らの死体がなかったら、僕は複数犯を疑うよ」

「答え合わせが楽しみです」

 

 グレイたちは慎重に部屋を回り始めた。

 

 一部屋目。ラットサインはあるが、特になし。

 

 二部屋目。特になし。

 

 三部屋目。デジタルテレビが真っ二つに引き裂かれ、床に落ちていた。また、テーブルボードには大量の血が付着をしており、血が床に垂れた形跡があった。

 

 四部屋目。ここにも血痕が残っていた。床とタンスに、ベッタリと染み付いている。

 

 五部屋目。争った形跡があり、ユニットバスルームが破壊の限りを尽くされていた。

 

 六部屋目。特に争った形跡はなかったが、何故かクローゼットが破壊をされて細切れとなっていた。

 

 七部屋目。血まみれのベッドの上に、謎の木片が散らばっている。色味から判断をするとタンスだが、タンスは普通に置いてある。別の家具なのかも知れない。

 

 八部屋目。特になし

 

 九部屋目。切り裂かれたベッドに血痕が付着をしていた。他には、床やテーブルボードなどが血で汚れていた。

 

 十部屋目。床のカーペットが切り裂かれており、そこには乾いた血溜まりが残っていた。部屋中に広がる血の香りが、鼻につく。

 

「ジャイアントラットたちは、ここ最近襲撃をされた感じだな」

「そうね、血の乾き具合が均一だわ」

 

 ふむふむと頷くグレイたちは、四階の探索を続けた後、五階へと上がった。

 

 五階の廊下は三、四階よりもさらに酷い状態で、既に血の臭いが充満をしていた。また、行き当たりに近づけば近づくほど血痕が増えているようで、まるで獲物が追い込まれたかのような印象があった。

 

「ここまで犯人の痕跡が見つかってないよね。足跡も、抜け毛も、臭いさえも残ってないよ」

「きっと犯人は獣系の魔物ではないのでしょう」

 

 グレイたちは警戒をしながらも、部屋を回り始めた。

 

 一部屋目。酷い悪臭を放つ室内には、大量の血痕が残っていた。それらは床は勿論のこと、ベッド、クローゼット、デジタルテレビ、そしてテーブルボードにまで及んでいる。

 

 二部屋目。ここもかなり酷かった。沢山のジャイアントラットが惨殺されたのではないかと思わせるような室内をしていた。

 

 三部屋目。荒らされた形跡はあるが、血痕はなし。

 

 四部屋目。破壊されたクローゼットが、ベッドの上に散らばっていた。

 

 五部屋目。血にまみれたベッドとタンスが目を引く。やはりと言うべきか、犯人の痕跡は見当たらない。

 

 六部屋目。血飛沫が付いた床には切り刻まれた痕跡があり、床に落ちたデジタルテレビと、赤黒く染まったテーブルボードが印象的であった。

 

 七部屋目。荒らされたユニットバスルーム内に、半壊したタンスが捨てられている。少し不自然にも思える。

 

 八部屋目。血痕が付着をした床とクローゼットがあった。

 

 九部屋目。かなり酷い室内であり、全体的に血が飛び散っていて、あらゆる家具が破壊をされていた。

 

 十部屋目。特になし。

 

「なるほどな〜。六階は雑に回って、すぐ七階へ上がろうか」

「ええ、分かったわ」

 

 はてさてどうしようかなと悩むグレイは、仲間たちを連れ立って六階へと上がる。その後、軽く部屋を見回ると、すぐに七階へと上がった。

 

 七階の廊下は全てが血にまみれていた。赤いカーペット、薄汚れた白い壁、破壊の限りを尽くされた扉。それら全てが赤黒く変色をしており、まるで血の川が流れたかのような惨状であった。

 

「ジャイアントラットたちはこの階へ追い込まれた後、一網打尽にされちゃったのかな?」

「おそらくそうでしょう。犯人は間違いなく複数犯ですし、それもかなりの大群でしょうね」

 

 グレイたちは気を引き締めて、部屋を回り始めた。

 

 

 

 やがて、行き当たりにある最後の部屋へと辿り着いたグレイたちは、戦闘準備を整えていた。

 グレイは魔法のリュックよりロングソードを取り出すと、軽く素振りをする。巨大な両手剣であるグレートソードは、室内ではろくに扱えないと判断したためである。その時、ずっと黙っていた鈴木凪が口を開いた。

 

〔グレイさん方は、もうこの事態の全貌を把握しているのですか?〕

「ああ、把握してるぞ。今から掃討戦を始めるところだ」

〔……正直に申し上げますと、私は未だに事態を把握できていません。ご説明をいただければ、幸いです〕

 

 頭を下げる鈴木凪に、グレイはそう気遣わないでくれと声を掛けると、これら一因についての説明を始めた。

 

「まず前提として、ジャイアントラットたちはこの廃ホテルを住処としていて数が増えていた。だが、彼らは捕食者に見つかり、狩り尽くされた。ここまではいいよな?」

〔ええ、勿論です。事前情報では、ジャイアントラットたちの急増が問題視されていました。ですが、ここへ至るまでに彼らの死体は一切なく、争った形跡が残るのみです〕

「それで誰が彼らを襲ったのかだが、俺たちが部屋を見回る過程で集めた情報は、犯人は獣系ではないこと、集団であること、隠れ潜む能力を持っていること、相手を切り刻む特徴があること、そして、確かな知性を持っていることだ。まあ、魔物はある程度の知性を持ってるものだが」

「ええ、そうですね……」

 

 顎に手を添えて考え込む鈴木凪だが、おそらく彼は此度の犯人の正体を知らないだろう。彼らの正体とは、狡猾で凶悪な森の狩人たちだ。

 

「答え合わせの前に言っておくと、ジャイアントラットが殺された部屋にはある特徴があった。それはクローゼット、テーブルボード、タンスに必ず血が付いていたことだ」

「ええ、確かにそう記憶しています」

「にも関わらず、家具の木片などが部屋や廊下に散らばっていた。もしくは、家具そのものが破壊をされていた。あと七階には、クローゼットが二台も並んだ部屋があったよな。あれは流石に笑ったぜ」

〔確かに、ありましたね。なんとも不思議に思いましたが〕

「まあそういう訳で、答え合わせと行こうぜ」

「行くって、どこにです?」

「廊下だよ」

 

 未だに疑問を解消できない鈴木凪を伴って、グレイたちは廊下へと出向いた。

 

 血の川が流れたかのような、長く伸びた廊下。その行き当たりにいたグレイたちの前方には、赤いカーペットが敷かれている。

 彼らがここへ至るまでに障害物などはなかったはずだ。しかし、彼らの眼前には──血にまみれたクローゼット、テーブルボード、タンスが、廊下を埋め尽くすかのように犇めいていたのだ。

 

「部屋を丁寧に回った甲斐があったな。こりゃ大量だぞ」

〔こ、これは、どういうことですか……?〕

「あれは家具じゃない、家具に擬態をした魔物なんだ。愛称はミミック。昆虫系の魔物が擬態をしてるんだが、特定の種がいる訳じゃなく、擬態をする奴ら全般をミミックと呼称してる」

「グレイ、どうしましょうか。私が『火の壁』でも唱えますか?」

「ああ、そうしてくれ。残った奴らは俺とレアで片付けよう」

 

 廊下を埋め尽くす大量の家具を前にして、グレイの隣にシズがやってきた。そして、彼女は第四位階魔法である、『火の壁』を唱えたのだ。

 

「〈ウォール・オブ・ファイア〉」

 

 その瞬間、真っ直ぐに伸びた廊下を貫くようにして火の壁が立ち上り、グレイたちの眼前に犇めいていた家具たちを、猛炎でもってして包み込んだ。

 とてつもない熱量を放つ『火の壁』は、轟々と燃え盛る音と熱風を撒き散らし、グレイたちへ叩きつけてくる。そして、家具に擬態をしていた魔物たちから不協和音とも言える断末魔を上げさせると、彼らの尽くを燃やし尽くしたのだ。

 煌々と輝く炎に魔物の影が映るが、やがて塵となり、無残にも散っていく。グレイはその儚い様に、諸行無常を感じ取った。

 

「今日も、生涯の一日なり。冒険者をやってると、生の喜びを強く実感できる。これがたまらねえんだ〜〜‼」

「ほんと、グレイってよく分からないわね。昔っから不思議なのよ」

「まあ、グレイだし。命を奪うことに興奮を覚える人種なんじゃないかな?」

「それだと、ただの危険人物になるんですが……」

 

 仲間たちから好き勝手を言われるグレイだったが、立ち上る火の壁から、魔物が飛び出してくることを察した。

 奇声とも言える絶叫を上げながら、火達磨となったミミックが火の壁を突き破り、こちらへ猛然と走ってくる。それは体高二メートルはあろうかという巨大さを誇る、カマキリのような魔物であった。

 

 四つもの脚を忙しなく動かし、鎌状となった前脚を大きく振り上げたミミック。その鎌は獲物を捉えることも、引き裂くことも容易であろう。しかし、もはや死にかけだった。

 グレイは前へ飛び出ると、振り下ろされた鎌目掛けて、ロングソードを斬り上げる。その結果、鎌状の前脚は空を飛び、切断面から体液を撒き散らした。

 次に、火達磨となった身体でこちらを押し潰そうとしてきたミミックに、グレイが反撃を試みようとしたが、その時。ラウンドシールドを構えたレアが、グレイたちの間に割り込んできたのだ。

 

「あんたは被弾前提の立ち回りなんだから、こんな雑魚相手に真面目に戦っちゃ駄目じゃないのよッ!」

「あー⁉ 俺の生の喜びが〜⁉」

 

 ラウンドシールドでミミックを吹き飛ばしたレアがメイスを振り上げると、そのままミミックの頭部を粉砕した。

 神経節が通っている脚がビクビクと動き続けるが、やがて業火によって焼き尽くされていく。

 

「あんたが怪我をしたら、誰が治すのよ」

「レアです!」

「なら、少しは私の苦労を考えなさい」

「はい!」

 

 適当に返事を返したグレイは、早くミミックさん来ないかな〜と彼らを心待ちにする。しかし、第四位階魔法である『火の壁』に耐えられるミミックなど、存在しなかったのだ。

 その後、シズが〝精神集中〟を終わらせて『火の壁』を解除するが、グレイたちの眼前には、全てを燃やし尽くされた跡しか残っていなかった。

 

 グレイは悲しみに暮れながら、廃ホテルを後にした。ランクルの荷台より見上げる廃ホテルには、行きの時と同じように不気味な雰囲気が漂っている。しかし、この場所では再び、食物連鎖が繰り広げられるのだろう。

 

 自分の意思とは関係なく、世界は回り続ける。だが、自分の人生は、自分の意思で決めたいものだな。グレイはそう独白した。

 

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