異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
崩壊都市内にある〝第五都市〟へ、グレイたちはやってきていた。彼らがいるのはショッピングモールの入り口前であり、彼らの他に、公安機動制圧隊第一分隊の面々が揃っている。
グレイたちの目的とは、第一分隊と協力をし、このショッピングモール内の調査をすることであった。
グレイは第一分隊の分隊長である榊と対面をしていた。
すらりとした体型が印象的な彼は、ガンスリングを胴体に回し、胸元に短機関銃を吊り下げている。加えて、腰のベルトには複数のポーチを装備しており、太ももに巻かれたベルトには細長い弾倉を差していた。
グレイは朗らかな笑みを浮かべると、バイザーを掻き上げ、素顔を晒した榊と言葉を交わす。
「俺は『黄金の剣』のグレイだ。今日はよろしく頼む」
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします。本日の作戦に変更はなく、異人四課の皆様には我々の援護という形で参加をしていただきます。作戦の完遂は勿論のことですが、人命を最優先にして行動いたしましょう」
「勿論だ。こんなところで倒れてたら、先が思いやられちまう」
大げさに肩をすくめたグレイに、榊は小さく笑っていた。
軽く打ち合わせをした後、第一分隊を先頭にして、グレイたちはショッピングモール内に潜入をした。
グレイたちの視界には、延々と続く広い通路が広がる。どうやら、この通路は吹き抜け構造のようで、天井にある露光窓から光が差し込み、エスカレーター、二階部分の通路、二階の通路を繋ぐ橋などが照らし出されていた。
荒れ果てた店内には、数多くのテナントが見て取れる。それらは様々な店で埋まっているが、どれもこれもが朽ち果てていたり、寂れていたりと酷い有様だ。しかし、内装自体はしっかりと創り込まれており、様々な商品が残っていた。
かなり死角が多い。魔物が潜んでいても、気づくことは難しいだろう。グレイはそう考えると、レアに目配せをし、頭上にも気をつけるようにと注意を促した。
しばらくの間は平穏そのものであり、グレイたちの発する物音だけが、モール内に木霊する。
サイボーグ兵たちによる硬質な足音、グレイとレアによる鎧の摩擦音、そして、両者から僅かに発せられる衣擦れの音。
風も吹かず、木々のざわめきもないモール内の空気は淀んでおり、そこへ響く物音はやたらと目立つ。まるで、時が止まってしまった世界を歩くような感覚さえ、抱くほどだ。
その時、第一分隊の面々が即座に陣形を取った。彼らは分隊長である榊を中心として前後にチームを分けているのだが、分隊長と前方のチームが正面を警戒し始め、後方のチームが左右のテナントと二階の通路部分を警戒し始めたのだ。
グレイたちはその後方にて周囲を見回す。特に生物の気配はなく、不気味なほどの静寂に包まれている。しかし、はるか前方から、ぞろぞろと雑多な足音が聞こえてきた。
ぎこちない動きでこちらへやってきたのは、体の節々に関節を持ったマネキンたちだ。彼らは無貌であり、つるりとした身体には、各々が自由に衣服を身に着けている。しかし、彼らの体は勿論のこと、身に着けた衣服さえも随分と古びているため、欠損や損壊が当たり前のように見受けられた。
〔敵はFRP製ゴーレム! アルファチーム、射撃開始! ベータチーム、警戒態勢を維持しろ!〕
モール内に響き渡った榊の声を開戦の狼煙として、アルファチームと思われる第一分隊の面々が射撃を開始した。
耳を劈く射撃音が、薄暗いモール内を断続的に照らし出す閃光と共に放たれ、突如としてなだれ込んできたゴーレムたちを次々と粉砕する。
悲鳴など上げず、恐怖さえ感じる様子もなく、ゴーレムたちはただプログラムされた動きをなぞるかのようにこちらへと迫り、グレイたちを害そうとしてくる。
たとえ仲間が倒れようとも意にも介さず踏み鳴らすその様は、グレイたちに畏怖を抱かせるほど、狂気に満ちていた。
やがて、大半のゴーレムたちは粉砕され、残るは辛うじて動ける、損壊の激しい個体ばかりとなった。そんな彼らはアルファチームによって破壊処理を施され、稼働不可へと追い込まれる。
数分後、ゴーレムたちの殲滅を確認し終えた榊がアルファチームを労うと、前進を開始する旨を伝えてきた。
奥へ進めば進むほどモール内は薄暗くなっていき、より荒れ果てた内装へと変わっていく。そして、グレイたちが歩き始めてしばらく経った頃。彼らの前方に、蠢く巨壁が現れたのだ。
〔当初の作戦通り、対処をお願いします!〕
「おう、一発かましてやるぜ! シズがな!」
「〈ウォール・オブ・ファイア〉」
右手でもってして、シズが前方の通路を横になぞった。その瞬間、膨大な熱量を放つ猛炎が床より吹き出しては、火の壁を形成する。それは一瞬にしてモール内を
轟々と音を立てる火の壁は力の奔流そのものであり、もしも触れようものなら、その身の全てが焼き尽くされることだろう。しかし、蠢く巨壁はためらう様子もなく、火の壁に突っ込んできたのだ。
飛んで火にいる夏の虫。その言葉を体現するが如く、蠢く巨壁──巨大ゴキブリたちは愚かにも火の壁に飛び込み、尽くが焼き尽くされていった。僅かなゴキブリたちが、幅三メートル近い火の壁を乗り越えてやってくるが、炎に彩られた体を維持できる訳もなく、瞬く間に消し炭となっていく。
眼前にて猛火に包まれ、数千、数万の命が潰える中、両腕を広げた榊が感嘆をするように呟いた。
〔おお、素晴らしい! なんという個の強さ。これこそが、我々の理想とする人間兵器ですよ‼〕
「そいつは良かった! これで晴れて、シズも人間兵器に仲間入りだな!」
「普通に嫌なんですけど……」
火の壁に魅入っている榊を見て、シズがなんとも言えない表情を浮かべていた。しかし、シズの魔法を見て心を動かされた者は、榊だけではないのだ。
第一分隊である他の面々。彼らもまた感嘆の声を上げており、ある者は力の奔流を全身で感じ取るように体を大きく広げ、ある者はバイザー越しではあるがシズのことをじっと見つめていた。もしかしたら、シズに畏敬の念を抱いているのかも知れない。
何はともあれ、第一分隊が対処に困っていた巨大ゴキブリたちは、シズの唱えた魔法一つで解決をし、それは五分も掛からないほどであった。おかげで、グレイたちを含む第一分隊の面々は、最高効率で先へ進むことができたのだ。
もはや廃墟同然となったモール内には、至るところに蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
そこには多くの巨大ゴキブリたちが捕らえられている。彼らは必死に藻掻いているが、蜘蛛の糸は太く、強靭であり、決して逃れ得ない様子だった。おそらく、魔物に分類されるクモ類が、この場所に生息をしているのだろう。
グレイは周囲を見回すと、なんとなしに呟いた。
「ここはかなり怪しいよな。まるで、何かを守ってるみたいだ」
グレイの隣にいたレアが、賛同を示すように頷く。
「ええ、そうね。もしかしたら、この先にはダンジョンコアがあるのかも知れないわよ」
レアの話したダンジョンコア。それは、ダンジョンの維持に欠かせないエネルギーを供給する、半永久的な魔力炉である。
外に運び出すことは叶わないが、膨大な魔力を生み出す源泉であり、ダンジョン内へ魔力を循環させる役割を担っている。つまりは、ダンジョンコアとは一つの世界を構成する重要部品であり、心臓なのだ。
アースガルドには数多くのダンジョンが存在し、それらは人類とは切っても切れない関係だ。ダンジョンに光と影の要素があることは、紛れもない事実であろう。しかし、適切な管理をすれば、人類に繁栄を齎すことには疑いようがないのだ。
それ故に、ダンジョンの要であるダンジョンコアを確保し、管理しなければならない。いたずらに破壊されようものならその損失は計り知れず、もしもダンジョンを基盤とした生活圏があるのなら、大打撃を受けてしまうからだ。
グレイたち迷宮対策課の主目標こそが、ダンジョンコアの確保である。そのために邁進しているのが、現状のグレイたちだ。
そして、今現在。これ以上先へは進ませないとばかりに湧いてきた大蜘蛛たちが、グレイたちに立ちはだかってきた。
どこから湧いてきたのか、グレイたちの前後は勿論のこと、二階の通路部分や、露光窓の付いた天井を塗り潰すように、大蜘蛛たちが覆い尽くしていく。その様はまるで、夜が訪れたかのようであり、一体どれだけの数が犇めいているかも想像がつかないほどであった。
久方ぶりの死地にぶるりと体を震わせたグレイは、にやりと笑みを浮かべた。彼は根っからの冒険者であり、ちょっとした哲学者気取りであるからだ。
生きることに価値を見出し、己で実践をする。それをするためには、冒険者であることは都合が良い。グレイにとって命の奪い合いとは、自らの論理を証明する手段に過ぎないのだ。
勢い良くグレートソードを引き抜いたグレイは、声を張り上げる。
「さあ、やったろうぜぇ! 俺たちの命の輝きを、見したろうぜぇ‼」
「グレイがいつも通りで安心したわ」
「今回ばかりは、余裕が無さそうだよ」
「冒険者とは、常に不利な状況を想定して動かなくてはなりません。相手が有利な盤面を押し付けてくることは必然であり、それを覆すことこそが、私たち冒険者に求められる事柄です」
苦笑をしたシズは、続けてこう言った。
「というのは建前で、私もグレイと同様に滾っていますよ……。なにせ、こんなにも魔法を試せる相手がいるんですから!」
クラウドキル。そう声を上げたシズの前方に、緑色をした淀んだ雲が出現した。
おどろおどろしい雰囲気のある雲は第一分隊の後方にて展開をされ、通路全てが分厚い雲で覆われる。その中からは、さながら合唱のように大蜘蛛たちの金切り声が響き渡るが、彼らの姿は重く淀んだ雲によって遮られているため、状況が把握できなかった。
しかし、グレイたち『黄金の剣』の面々は知っている。シズの唱えた魔法によって行われているのは、一方的な虐殺であることを。
それもそのはずで、シズの唱えた魔法とは、第五位階に分類される死霊術魔法、『殺戮の雲』であったからだ。
戦端が開かれたことによって、大蜘蛛たちがグレイたちになだれ込んできた。しかし、後方はシズの魔法によって防がれているため、正面と左右に気をつければ良いだけの話だ。
「〈ライトニング・アロー〉」
弓に矢を番えたルークが、『電撃の矢』を唱え、放った。その瞬間、稲妻の如き閃光と共に矢が宙を駆け抜け、数多の大蜘蛛たちを貫く。
「〈ガーディアン・オブ・フェイス〉」
次に、レアが『信仰の守護者』を唱えた。
大蜘蛛たちの中心に巨大な鎧が召喚されては、右手に握りしめた大剣でもってして、大蜘蛛たちをバラバラに引き裂いていく。
魔法の制約上、守護者はその場から移動することができない。しかし、こちらへなだれ込んでくる大蜘蛛たちのど真ん中にいるのだ。活躍には事欠かないことだろう。
グレイは頼もしい限りの仲間たちに笑みを浮かべると、自身もまた力を振るった。
鉄の塊であるグレートソードを薙ぎ払えば、大蜘蛛たちは一瞬でミンチ肉と化し、グレートソードを大上段に構えて振り下ろせば、いとも容易く彼らの命を奪い去る。
──ああ、生きている。俺は今、生きている。
グレイは恍惚とした表情を浮かべながら、大蜘蛛たちを殺し続けた。彼にとって、冒険者とは人生そのものであり、己の存在証明に他ならない。
いずれ、グレイも死ぬだろう。それが事故か病気か老衰かは分からないが、彼は確かに生きていたと自信を持って答えられるほどに、己の存在を証明したいのだ。
彼がそこまでして生きることに執着をする理由とは、自身が無価値でないことを認めたいが故だ。そのために、グレイは命を奪い続ける。己の命が尽きる、その日まで。