異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
これまたひと月ほどが経った頃。グレイたちはその間、ずっとゴブリン退治に精を出していた。時には一の扉に舞い戻ったり、休暇を楽しんだりと、精神面の疲労を回復させながら活動をした結果、異人四課によるゴブリンの討伐数は、軽く三桁を超えていた。
今では〝ゴブリンスレイヤー〟の称号を戴いても可笑しくないほどに、冒険者スコアを稼いでいる。もしもここがアースガルドであれば、社会貢献に寄与したとして、お偉いさんから何かしらの報奨を授与されたとしても、不思議ではないほどだ。
そのことを鈴木凪と佐倉ハルコにしれっと伝えたグレイは、阿部ヒロシ課長直々に、感謝状と報奨金を頂いた。
全ては物事を円滑に進めるため、とはグレイの建前であり、本音では「計画通り……‼」とほくそ笑んでいる。冒険者とは、ある程度の強かさがなければやってはいけないのだ。これは何事にも通ずる、考え方かも知れない。
段々と資材の減ってきた前線基地を出発し、グレイたちは霧の森へとやってきた。
以前までは異人四課だけで行動をするのが常であったが、最近の道中に関しては異なる。
グレイたちの乗るランクルの前方には、多くの資材を載せたトラックの車列が続き、それらの護衛として、甲高いモーター音を鳴り響かせる一輪バイクに跨ったサイボーグ兵たちが、追従をしていた。
彼らは霧の森を超えた先にある、ススキ草原にて前哨基地を建てる予定なのだ。そのために、多くの資材を運んでいるわけである。
前方から発砲音が聞こえてきた。ゴブリンたちとの戦闘が始まったようだ。
ランクルの荷台より、ロングソードを担いだグレイは顔を出す。
颯爽と木々を降りてくるゴブリンたち。しかし、彼らは地上へ辿り着く前に次々と撃ち落とされ、例え地上へ降りても即座に鉛玉の雨に晒されていた。
やがて、特に危険に晒されることもなくゴブリンたちの奇襲は幕を閉じ、彼らの死体だけが残った。
グレイたちは血溜まりに沈むゴブリンたちの死体を横目に、その先へと進んだ。
夏空の下に広がる、なだらかな草原。
波を打つように地形が隆起をしているその様は、まるで海を思わせ、激しくも爽快な風──
青々としたススキがサワサワと音を奏でては、グレイたちに眩いばかりの日差しが降り注ぐ。日本の季節は夏に差し掛かっており、外気温は徐々に高くなる一方であった。
「ア、アチィぜ……!」グレイは、鎧の下を伝う汗に不快感を覚えた。「日本の夏、ヤバイぜ……!」
「そうね、ちょっと不快だわ」
顔を顰めるレアが、ハンケチーフで額の汗を拭った。
「夏用の防具なんて持参してないし、対策を考えないといけないわね」
鎧を身に着けているグレイとレアは、比較的緯度の高いヒューマン大陸出身なため、日本の夏に体が慣れていなかった。
「確かに暑いねぇ。でも、サウスクロウじゃ味わえないし、見慣れない景色も本当に多いから、新鮮で楽しいよ」
「日本旅行もしたくなりますね」
ルークとシズは比較的軽装だ。おかげで、二人には余裕がありそうだった。
グレイを含めた『黄金の剣』の面々は、全員がサウスクロウ出身なわけだが、それぞれ生まれ故郷が異なる。グレイとレアは北部の農村出身、ルークは自然豊かな南部の町出身、シズは中部の首都出身だ。
彼らが今拠点としているのは南部にある〝フォレトス〟と呼ばれる大都市であり、普段は近場のダンジョンに潜って生計を立てている。
グレイたち『黄金の剣』は、五つの階級がある冒険者の中でも上から二番目である金級冒険者であり、フォレトスにおいても有名である。そんな彼らが、かれこれ三ヶ月以上も行方不明なのだ。グレイとしては一刻も早く帰還、ないしは連絡を入れて無事を知らせたいところであった。
さもなければ、不在中の問題がどんどんと膨らんでいってしまう。それだけは勘弁願いたいと、グレイは常々思っているのだ。
前哨基地組立班と別れたグレイたちは、ススキを踏み均し、轍を作りながら草原の中を走っていた。彼らの目的は、このススキ草原の中間あたりから増える、オークの共同体を減らすことだ。
しばらくすると、木製の見張り櫓が見えてきた。その周囲には粗末な柵が円を描くように設置をされており、内側には何体かの豚面の魔物──オークが見て取れる。
「思ったんだが、機関銃で薙ぎ払えばよくね?」
ぽつりと呟いた、グレイの疑問。それに対し、鈴木凪がリア窓越しに返答をしてきた。
〔まあそうなんですが、こちらにも事情がありまして。人件費や管理費などの資金の捻出、ダンジョン産の資源の研究及びに新技術の開発、そして空前の組織運営など、多面的な要因が重なりまして、人手も時間も物資も、何もかもが足りてない状態なんです。要するに、オークを蜂の巣にすることは可能なんですが、優先順位が限りなく低くなっているのが現状なんですね。グレイさん方には負担を掛けますが、冒険者の皆様は費用対効果が非常に高く、任意に動いてくれますので、我々としては大変助かっています〕
「説明、ご苦労さん。おかげで俺たちが活躍できるわけだし、悪いことは言えねえな」
一の扉の金銀財宝だけでは、資金の回収はできていないだろう。また、ダンジョンの素材を使って儲けを出さなければならないが、それもまだ実現できていないと見える。
──かなりの初期投資費用が掛かっているはずだが、元手は取れるのだろうか?
グレイはかなり大掛かりなダンジョン攻略に一抹の不安を覚えたが、まあなんとかなるやろ!と楽観視をした。グレイには組織運営など分からぬことなので、考えるだけ無駄だと判断をしたのだ。
ランクルから降りたグレイたちは、オークの共同体へと歩を進めていた。
敵の数は十。やや多いが、対処を間違えなければ問題の無い範囲と言える。
残り百メートルを切った辺りで、グレイたちは見張り櫓にいるオークに見つかった。
騒々しい鐘の音が風の乗って流れてくる。グレイは事前に用意をしていたヒーターシールドをしっかりと握り込むと、前進をした。
見張り櫓より殺気を感じたグレイは、瞬時にヒーターシールドを構える。その瞬間、激しい衝撃が
「このまま前進するぞ。魔法の射程に入ってから対処する」
仲間たちへそう声を掛けたグレイは、共同体の前で陣形をとるオークたちを見据えた。
そうして、彼我の距離が五十メートルを切った時。両者共が行動を起こしたのだ。
「〈
シズが心術系統の第四位階魔法、『精神混乱』を唱えた。それは陣形をとっていた九体ものオークたちに降り掛かると、彼らの幾人かが
「見たところ、魔法詠唱者はいなさそうだな」
「これなら、楽に片付けられそうね」
草原を疾走するグレイは、並走するレアに注意を促す。
「おそらく、見張り櫓にいた奴がリーダーだろう。今は姿が見えないが、陣羽織を羽織っていたと記憶してる。それに、奴は弓の扱いに長けていた」一度呼吸を整えてから、続きを話す。「まずは数を減らすぞ。雑魚から優先的に狩る。レアは俺の援護だ」
「了解よ」
レアの返事を聞いた時、グレイの側をヒュン!と矢が通り過ぎ、眼前にいたオークの眉間を貫いた。ルークによる、類まれなる狙撃だ。
グレイはオークを引き倒しながらもロングソードを引き抜くと、再び走り出した。
ブモブモと何事かを話すオークが、大太刀を大上段に構えて突貫をしてきた。そして、強く大地を踏み込み、神速の真向斬りを放ってきたのだ。
燦々と輝く陽光に照らされた刀身はギラつきを見せ、美しい
グレイは思考を巡らせながらも、その刹那、ヒーターシールドで大太刀を受け流した。まるで線香花火かのように、激しく火花が舞い散る。
「レア、〝スイッチ〟!」
「スイッチなんて初めて聞いたわよッ!」
レアがグレイの背後より飛び出した。その勢いのまま、体勢を崩していたオークの頭部にメイスをぶち込み、頭部を拉げさせる。
オークは即死だった。グレイは次の獲物へ狙いを定める。だが、見据えた先にいた三体ものオークたちは、シズより放たれた第三位階魔法、『
熱風が吹き荒び、グレイは思わず顔に手を翳した。その時、陣羽織を羽織った甲冑姿のオークが姿を現したのだ。
真っ赤な当世具足を身に纏い、その上から赤と黒の陣羽織を羽織り、黒黒とした鞘の美しい大太刀を背中に背負う。
そのような巨漢のオークは和弓と矢筒を投げ捨てると、大太刀を引き抜いた。そして、
「あいつは俺がやる。死んだら蘇生を頼んだ」
「はあ、分かったわよ……」
グレイは有無を言わせず前に出ると、気合を入れるように声を張り上げ、ロングソードでもってしてヒーターシールドを叩いた。
夏空の下、グレイはオークと睨み合う。彼我の距離は、約十メートルほど。
ちりちりとした張り詰めた空気が場を支配する中、グレイは覚悟を決めて走り出した。十メートル、九メートル、八メートル。徐々にオークとの距離が縮まっていき、やがて大太刀の間合いに到達する寸前となった。
その瞬間──オークが軽やかな足捌きで前に跳んだ。あまりにも流麗な身のこなし。それは残像を残すほどに洗練されていた。
声もなく、音もなく、殺気もなく。ただ凪のように穏やかに大太刀が振るわれ、グレイの脳天に下りてくる。
グレイは、その〝起こり〟が見えなかった。矢を放たれた時には殺気があった。先ほどまでの睨み合いでも殺気があった。だが、この一太刀には殺気がない。──否、分厚い理性の裏に、研ぎ澄まされた殺気があった。
──これぞ武士道。天晴なり。
グレイはヒーターシールドを構えようとしたが、時既に遅し。このままでは即死するであろう。だが、グレイは死線を愛しては、幾度となく乗り越えてきた冒険者なのだ。
グレイの下した選択とは、前進である。僅かに右へ逸れながらも前進し、ヒーターシールドを持った左腕を失おうとも気にせずに、オークへ体当たりを繰り出した。
大太刀を振り下ろしたオークが姿勢を崩す。この時、グレイは勝利を確信した。大太刀は両手武器である。今更手を離して反撃などできようはずもない。それよりも先に、己の繰り出す渾身の突きがオークの首元を貫くだろう。
その結果は、グレイの思い描いた通りであった。
オークは体を仰け反らせ、グレイより放たれた凶刃を回避しようとした。しかし、ロングソードはそれよりも早くオークの喉元へ突き刺さり、そのまま反対側から切先を突き出したのだ。
オークが決死の一文字斬りを放つ。
グレイはロングソードに固執することなく手を離し、素早い身のこなしで回避した。
オークが決死の真向斬りを放つ。
グレイは横へかっ飛び、地面を転がりながらも回避した。
オークが決死の逆袈裟斬りを放とうとする。だが、膝から崩れ落ち──そのまま命を散らした。
グレイは切断された左腕から大量の血を流しながらも、勝利を手にした事を喜び、右手を掲げた。声は出さない。出せない。もはや意識が朦朧とし、立っていることがやっとだからだ。だが、此度の死合の果てに勝利を手にしたのはグレイである。その結果があればいい。あれば、いい。グレイはそう反芻しながら……意識を失った。
こってりとレアにお叱りを受けたグレイは、
グレイは腕を切断されたが、レアの回復魔法により五体満足で大復活である。そのことに一頻り感謝をしたグレイは、目下の問題を努めて冷静に対処をしようと意気込んでいた。
グレイの目前にある、真っ赤な当世具足と陣羽織、そして、黒黒とした鞘の大太刀。
これはグレイの討ち取ったオークが
冒険者の間では討伐者の所有物ということになるが、ここは日本のダンジョンである。そのため、グレイは鈴木凪に胡麻をすっていた訳だ。
「へへへっ、鈴木の旦那! ここはあっしに譲ってくれやせんかっ?」
「それは構わないんですが、少しだけお貸しいただけませんか? 一応オーク初のドロップ品ですので、色々と調査をする必要があるんです」
「勿論でさあっ! ささ、早速本部へ持っていくとしやしょう!」
グレイは腰を低くし、恭しくも鈴木凪を先導する。その時、今まで黙っていたレアが、呆れながらも口を開いた。
「あんたは早く身に着けたいだけでしょ……」
「当たり前だろォン⁉」グレイは勢い良くレアに振り向く。「間違いなくレアドロップ品だぜ! そしてこれを持ってる奴は、世界中で俺だけ! 自尊心がこれでもかと満たされるだろォォン〜〜〜!」
「調子に乗ってるグレイって、ウザいわよね」
レアがルークとシズに目を向けた。
「まあ、良いじゃない。実際嬉しいわけだしさ?」
「羨ましい限りです。私もドロップ品欲しいなぁ〜」
完治した左腕を巧みに操り、グレイは仲間たちをランクルへ先導した。その際に、ドロップ品の回収は忘れない。
その後、一通りオークの共同体を壊滅させたグレイたちは、颯爽と迷対課本部へ帰還したのだった。
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迷対課本部の自室にて、グレイは姿鏡の前で様々なポージングを取っていた。
グレイが動く度に
「レア、こいつをどう思う?」グレイの問いに対して、レアは険しい表情でじっと見つめてきた後、唸るように「なかなかエキゾチックな魅力に溢れてるわね」と声を絞り出した。
グレイは知っている。レアもちょっと欲しいなと思っていることを。
「和装はやや軽装だが、夏はアリだな」
グレイはそう呟くと、ちらっちらっとレアを見つめた。すると、レアはため息をつき、言葉を紡ぐ。
「私はいいわよ。佐倉さんから色々と涼しい下着を貰ったんだから」レアは身につけていた、
「そうか……」
せっかくならレアの、なんならルークやシズの和装姿も見てみたいと思ったグレイは、また鈴木凪に無茶振り交渉をしようと企んだ。可能なら馬乗り袴や
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