異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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21蜥蜴

 

 ススキ草原を越えた先にある、動物の森。そのさらに奥深くへ、グレイたちは進んでいた。ウェンディゴの生息域はとっくに過ぎており、今は谷間や森に囲まれた河川の上流部である、渓流に沿って移動をしている最中だ。ごつごつとした白い石。それらが転がる川辺を歩いていた。

 

 流れの早い清流が水飛沫を上げ、透明度の高いおかげで見える水底には、大きな魚影が見て取れる。岩魚(イワナ)か、山女魚(ヤマメ)か、(アユ)か。はたまた虹鱒(ニジマス)か。ここなら釣りを楽しむこともできるだろう。グレイは涼やかな風に吹かれながらも、そう思った。

 

 川辺に沿って進んでいると、前方に粗末さが拭えない集落が見えてきた。川辺に沿うように建てられた家屋は、どれもが(あば)ら屋然としており、随分と風通しが良さそうだ。

 

「ありがたい、あそこで休息を取ろう」グレイは嬉しそうに言った。「きっと俺たちをもてなしてくれるぞ」

 レアが肩をすくめながらも、言葉を返してくる。

「別の意味で、もてなされそうね」

 

 小さく笑みを浮かべたグレイは、一度集落の様子を伺うことにした。川辺から離れて、森の中へと進路を変える。鬱蒼と生い茂る森の中は、身を隠すにはもってこいであり、ちょうど風下なこともあって、偵察をするには都合が良さそうだ。グレイは当世具足から音を発さないように、慎重に歩を進めた。

 

 

 

 集落には、計六体もの魔物が住んでいた。新緑の鱗が特徴的な蜥蜴人(とかげびと)──リザードマンである。彼らは腹巻と呼ばれる防具を身に付けており、長巻拵えの野太刀、いわゆる長巻を肩に担いでいた。

 ギラリと陽を映す長巻の刀身は、(つか)と同程度の長さを誇っている。扱い方としては、薙刀に近いものがあるだろう。しかし、薙刀よりも間合いが狭く思われ、その分取り回しがいいのかも知れなかった。

 

 グレイは軽く打ち合わせをした後、仲間たちを引き連れて集落へと潜入した。集落の中心に四体のリザードマン、川辺に二体のリザードマンだ。まずは森側に近い四体のリザードマンを目指して、グレイたちは抜き足差し足で進むと、荒ら屋の影に身を隠した。

 

「シズ、『火球』で数を減らしてくれ」

「分かりました! 〈ファイア・ボール〉!」

 

 喜色満面の笑みを浮かべたシズが荒ら屋から身を乗り出し、〈火球(ファイア・ボール)〉を唱えた。シズの手のひらより猛火を内包したエネルギー球が生成され、それはそっと押し出されるように、リザードマンへと放たれる。

 火球は宙を滑るように飛んでいき、やがて焚き火を囲んでいたリザードマンたちの中心で爆発し、爆炎を撒き散らした。

 リザードマンたちを一瞬で包み込んだ爆炎は尽くを燃やし尽くし、面を食らったリザードマンたちの身体を焼き尽くすに至らず、命さえも灰と化させる。

 辛うじて二体のリザードマンが生き延びていたが、もはや死に体であった。目も鼻も口も焼け爛れ、痛みに喘ぎ、苦しんでいる。グレイはルークに追撃の合図を送ると、瞬く間にリザードマンたちは三途の川を渡っていった。

 

 川辺にいた二体のリザードマンが駆け足でやってきた。〈火球(ファイア・ボール)〉は性質上、大きな音を立ててしまうからだ。

 仲間の死体を見つけた彼らは雄叫びを上げ、恨みをはらさんとばかりにシズ目掛けて突貫をしてくる。戦意が全身から迸り、こちらを必ず殺してやるという強い意志がありありと見て取れる。グレイはシズとルークを下がらせると、レアと共に前へ出た。

 

一対一(サシ)でやろう。レア、いけそうか?」

「舐めないで欲しいわね。私は蜥蜴風情に遅れを取るほどヤワではないし──」相手を見下すように顎を上げていたレアが、丸盾(ラウンドシールド)鎚矛(メイス)を構えた。「対人戦闘は得意とするところなのよ」

「そいつは頼もしい。困った時は呼んでくれ」

「そっくりそのまま、お返しするわ」

 

 流石はレア。略して〝さすレア〟。そんなしょうもないことを考えていたグレイは意識を切り替えると、二環吊りにしていたサーベル拵えの柄を握り込み、勢い良く引き抜いた。

 煌めきを放つサーベルを水平に構え、前に突き出す。その際に手の甲は上にし、サーベルの柄頭を手首の裏で支える。そして、右手と右半身を前に出しては、腰後ろに添えた左手を左半身を後ろに下げ、切先をリザードマンの目線に合わせた。

 対するリザードマンは、戦意を高ぶらせながらもその場で立ち止まり、長巻を中段に構えた。左半身を前に出し、長巻の切先をこちらに向けたのだ。その構えは、薙刀と通ずるところがあった。

 

 両者が目線を交わし合い、ほんの僅かな静寂が訪れる。刹那、グレイが口火を切った。

 

「いざ尋常に──勝負ッ‼」

 

 大地を強く踏みつけ、グレイは自らを槍として強烈な突きを放った。相手は長巻であり、間合いの差で負けている。ならば、こちらが攻めに転じなければ不利。グレイはそう判断したのだ。

 真っ直ぐに飛んでくるサーベルを見切るのは非常に難しいことだ。しかし、リザードマンは冷静にも長巻をぐんっと横へ叩きつけ、サーベルを弾いた。そして、グレイの顔目掛けて薙ぎ払いを繰り出してきた。

 ──予想以上に技巧派。だが、何のこれしき。

 グレイは冷徹な瞳で、自らに迫る凶刃を見据えながら、長巻から逃げるように頭、体と捻ってはその場でしゃがみ込み、一度後退をするように足を刻んだ。

 ここぞとばかりに、リザードマンが追撃を仕掛けてくる。左半身を前にして、突きを放ってきたのだ。しかし、グレイは意表を突くように長巻の背中側──(むね)に沿ってサーベルを走らせて前進をすると、その勢いのまま天地を引き裂くように、真下から真上に向かって斬り上げた。

 鍔があるおかげで思うようにはいかなかったが、リザードマンの口先が縦に深々と裂け、大量の血が滴る。その隙を決して逃さぬようにと、グレイは畳み掛けた。

 サーベルを細やかに翻して放った袈裟斬りが防がれる。ならばと、グレイは自身の右手側から一文字斬りを繰り出した。

 リザードマンは自身の体に対して右側に長巻を構えている。言うなれば右構えだ。その状態で左から攻撃をされるのは不利に他ならない。そのため、持ち手を入れ替えて左構えにしなければならないが、その場合は胸の前で長巻を持ち替えながら、左足を後ろに下げ、斬り下ろすのが最良だ。だが、グレイはそんな隙など与えないよう、前進をしながら右に左にと追撃を繰り出し、リザードマンを翻弄したのだ。

 

 防戦一方のリザードマンは時に反撃に出るが、グレイのペースを乱すことはできず、やがて些細なミスを起こした。自らの口先から流れて出ていた血によって、長巻の柄が滑り、ほんの僅かな隙を生んでしまったのだ。

 グレイはこの隙を見逃さず、反撃されることも厭わずに大きく踏み込み、リザードマンの喉元目掛けて渾身の突きを放った。

 その結果、リザードマンの長巻がグレイの胴に突き刺さってしまう。しかし──サーベルがリザードマンの喉を貫いては、(うなじ)より切先を飛び出させたのだ。

 グレイは手首に捻りを加え、リザードマンに致命傷を与えながらもサーベルを勢い良く引き抜く。胴に刺さっていた長巻がカランと音を立て、大地に転がった。

 喉元に大穴を開けたリザードマンは、よろよろとふらついていた。だが、やがて膝をつき、最後の最後まで不屈の意思を抱えていたが──その命を散らした。

 リザードマンの最期を見届けたグレイは、ヒュンヒュンと軽快にサーベルの血振りを行い、流れるような動作で納刀をする。死合の余韻に浸るように、ゆっくりと刀身を滑らせ、鯉口(こいくち)(はばき)を納めた。

 ──お前の分まで生きよう。さらばだ、蜥蜴人よ。

 

 

 

 パチパチと焚き火から音が鳴る。燃料となった木材が、命を散らす音だ。

 リザードマンを片付けたグレイたちは、その集落にて小休憩を取っていた。焚き火を囲うようにして腰を下ろし、各々が楽な姿勢を取っている。

 焚き火には、清流で釣った川魚が添えられていた。体の側面に、小判状の斑紋模様。山女魚(ヤマメ)である。

 串に貫かれ、身体をくゆらせる山女魚は食欲をくすぐる脂を滴らせており、グレイはかれこれ三十分もの間、じっと山女魚の塩焼きを眺めていた。

 

「そろそろ良さそうかしら」レアが山女魚の焼き具合を確認しながら、呟いた。グレイは姿勢を正し、胡座をかいた膝の上に木板を乗せる。

「ええ、大丈夫そうです」山女魚を(つぶさ)に観察したシズが、そう告げた。グレイは無意識のうちに、前にのめった。

 やがて、山女魚の塩焼きは各々に配られた。油煙を漂わせる、木板に置かれた山女魚の塩焼き。グレイは早速とばかりに串を引き抜くと、頭からかぶりついた。

 遠火でじっくりと火を入れたからだろう。骨は多少の硬さがあったが、無理なく食べられる範囲であった。そして食べ進めていくと、胴体に差し掛かる。

 パリッとした皮には旨味が凝縮されており、身はホクホクと柔らかくも、脂の乗りが非常に良かった。さらに、内臓を掻き出してはいるが、腹側の身には僅かな苦味があり、これがまた良いアクセントになっている。

 ──文句無しの絶品。流石は渓流の女王よ。

 グレイは感嘆を抱くように唸り、身が冷めぬうちにと、一心不乱に口を動かした。食べ進めるほどに旨味が口内に広がり、グレイはその都度唸る。

「美味なり……」

 いつしか、グレイは二匹目に手を付けていた。

 

 

 

 腹を満たしたグレイは、魔法のリュックより、ある武器を取り出した。それは、全長二mを優に超える槍である。

 槍は槍だが、穂先にはS字を描く斧が設けられており、その反対側には鉤爪のような突起がある。柄は木製だが、金属補強がしっかりと施されていた。

 斧槍(ハルバード)。分類分けをするのなら、長柄武器(ポールウェポン)だ。

 グレイが斧槍(ハルバード)を取り出した理由は、単純にサーベルとリザードマンとの相性が悪かったから、より詳しく言えば、サーベルと長巻の相性が悪かったからである。

 振りが早く、小回りの利くサーベルは優秀ではあるが、間合いが狭い。相手と間合いが同等ならば十二分に勝算はあるが、相手が長柄武器(ポールウェポン)となれば、話は変わる。

 

「あら、斧槍(ハルバード)じゃない」川で洗い物をしていたレアが、こちらへ振り向き、そう言った。レアは片膝を立てて座る姿勢──立膝(たてひざ)の状態で、木板をタオルで拭いていた。

 グレイはレアから少し離れた川辺で、斧槍(ハルバード)を槍のように構える。

「長巻相手じゃ、サーベルはどうしてもな」そうレアに声を掛けたグレイは、右構えの状態から、右足を軸にして渾身の突きを放った。ずっしりとした重量感を感じさせる一撃が、重苦しい風切り音を鳴らす。

 ビュン、ビュンと何度も音を鳴らしたグレイは、今度は身体を大きく左に(ひね)り、溜めを作った。そして、気合の声を発しながら、斧槍(ハルバード)を薙ぎ払う。

 ──重い。鈍重だ。だが、破壊力は抜群と言えよう。

 グレイは振り終わった斧槍(ハルバード)の持ち手を瞬時に入れ替え、大きく上に振り上げては、今度は左足を軸にして、斬り下ろしを放った。右足で強く踏み出しながら、斧槍(ハルバード)を斧のように振り下ろす。

 ガツン、と川原(かわら)の石に斧槍(ハルバード)が叩きつけられる。だが、間もなくして鋭い突きが繰り出された。

 

「ふむ、問題なさそうだ」

 満足した様子のグレイは、斧槍(ハルバード)を肩に担ぐ。少し間隔が空いたが、以前と変わらぬように扱えそうであった。

 当世具足を身に纏い、腰にサーベル拵えを佩き、肩には斧槍(ハルバード)を担ぐ。明らかにミスマッチな風貌ではあるが、致し方なし。グレイは清流を眺めながら、「和洋折衷、いや和異折衷か?」と独りごちた。

 

 

 

 自然の織りなす絶景とは、かくも美しく、高さ一メートルほどの滝が水飛沫を激しく上げながらも、清冽(せいれつ)とした水を下流へと送っていた。大自然に囲まれた新緑の息吹に、引けを取らぬほどの存在感を放つその滝は、見る者に感慨を抱かせることは間違い無しだ。

 湿った土、苔、木々。様々な自然の香りが、冷たくも心地良い風と共にやってくる。そんな中、グレイは滝と清流を背景にして、自然に包まれた空間の中で、一体のリザードマンと相対していた。

 青みがかった鱗が特徴的なリザードマン。腹当てを身に付け、油断することなく長巻を構えている。対するグレイは、斧槍(ハルバード)を構えていた。

 両者は湿った土を踏みしめ、ゆっくりと円を描くように間合いを図る。そして、その刹那。両者は同時に動き出した。

 

 斧槍(ハルバード)が唸りを上げて突き出され、リザードマン目掛けて飛んでいく。だが、リザードマンは長巻を巧みに操り、斧槍(ハルバード)の横っ面を叩き、弾いた。

 グレイは咄嗟に後ろへ下がり、相手の様子を伺う。反撃はしてこない。その代わりに、こちらを見定めようとする、知的な瞳が覗いていた。

 ──随分と慎重派。こいつは注意が必要だな。

 グレイは些細なミスが命取りになるだろうと分析をすると、今一度突きを放った。狙いはリザードマンの左脇腹だ。

 ビュン、と重苦しい風切り音を鳴り響かせ、斧槍(ハルバード)が突き出される。対するリザードマンは、身体を右に運び、突きを回避をした。グレイはほくそ笑む。リザードマンが斧槍(ハルバード)の特徴、ひいては武器知識を持っていない様子だったからだ。

 グレイは手首を捻り、斧槍(ハルバード)の穂に設けられた突起でリザードマンを引き斬った。脇腹を浅く切り裂くに至るだけであったが、相手に傷を与えたことは事実である。

 リザードマンは瞬時に状況を理解すると、左構えからの突貫、からの一文字斬りを繰り出してきた。長巻の剣閃が走り、命を刈り取る凶刃がグレイへと迫る。だが、グレイは後ろへ飛び退りながらも、斧槍(ハルバード)を垂直に立て、柄で凶刃を受け止めたのだ。

 金属同士がぶつかり合う音が響いた。リザードマンがなおも追撃を繰り出そうと動き出すが、グレイの方が上手(うわて)であった。

 グレイは、斧槍(ハルバード)を大きく上に振り上げた姿勢をとっていたのだ。頭上に掲げた斧槍(ハルバード)の石突部分を相手に向け、即座に上から打突を繰り出せる、上段の構え、またの名を天の構えと呼ばれるものだ。

 リザードマンが間髪入れずに突きを放ってくる。しかし、それよりも早く、そして速く打突を繰り出し、グレイは容赦なくリザードマンの頭部を打ち据えた。なお、打ち据えるとは言っても、石突は鋭く尖った金属製であり、もはや槍と化している。

 長巻の切先が到達するよりも先に、グレイの斧槍(ハルバード)がリザードマンの頭部を穿ち、頭蓋を粉砕した。フッと力が抜けるように倒れ込んだリザードマンは、当然の如く即死をしており、骸となっていた。

 ──お前の敗因は、知恵はあったが、知識がなかったことだ。

 グレイは改めて、己を磨く必要性を感じた。学びを怠った者は、何事においても選択肢が狭い。広い知見、知識を得てこそ、より良い未来を選択できるというもの、そう感じたのだ。

 

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