異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
動物の森の最深部は、杉や
大地を踏みしめ、グレイは進む。ここを越えれば、開けた山間部に出れるというのだ。しかし、この動物の森の最深部には、恐ろしい獣が住んでいると教えられていた。群れをなし、数で圧倒し、縄張りへの侵入者を決して許さない。そんな獣だ。
当世具足が音を鳴らすが、それとはまた別の音が鳴っていた。グレイの左腰、そこにはサーベル拵え──ではなく、直径二十五センチほどの
「待て」グレイが手を上げる。「前方に敵影を発見した」
グレイの前方。そこには、灰色の毛色をした人型生物が身を潜ませ、こちらを観察していた。長く尖った鼻先、三角形をした耳、鋭い目付き。そして、全身を包み込む体毛と、逞しい体付き。その正体とは、人食い獣人、ウェアウルフと呼ばれる魔物であった。
ウェアウルフは一体だけのようだが、おそらく監視のために配置をされていたのだろう。そして、無事に仕事を全うしたというわけだ。
雄々しい遠吠えが森中に響き渡り、一瞬にして世界は静寂に包まれる。小鳥たちの囀りや、木々のさざめきが鳴りを潜め、森の王たるウェアウルフに平伏をするかのように存在を消した。
グレイたちが陣形を取り、警戒をする中、森の奥より疾風の如き影がやってきた。草木を踏みつけ、倒木を飛び越えてやってくるのは、十を超えるウェアウルフたちだ。皆等しく戦意を滾らせており、こちらを害さんとばかりに唸り声を上げている。
「はてさて、どう攻略したもんか」
グレイの呟きに対して、シズが返答をした。
「毎度ながら、私が分断いたしましょう。『精神混乱』でよろしいですか?」
人の良さそうな笑みを浮かべるシズは、まるで演劇を演じているかのように恭しい態度だ。魔法を使いたいがために、わざわざ下手に出ているのだろう。
グレイはシズの意思を汲み取り、大きく胸を張って、鷹揚に頷いた。
「うむ、任せたぞ。シズたそ!」
「ええ、このシズたそにお任せください!」
普段ならばツッコミを入れられるところだが、シズは特に反応を示すことなく、魔法を唱えた。
「〈
散開をしようとしたウェアウルフたちに、シズの魔法が降り掛かる。一瞬にして彼らを包み込んだ青い霧はすぐに霧散をしたが、怪物たちの半数近くが、抵抗虚しく魔法に掛かっていた。呆然とする者、フラフラと歩き出す者、味方を攻撃し始める者。まさしく、精神に混乱を
グレイたちがこの隙を逃すはずもなく、容赦なく追撃を始めた。ルークの強弓より矢が放たれ、魔法の抵抗に成功した
戦列の乱れたウェアウルフたちは、各々が自由に動き出していた。素面の怪物たちが、真っ先にグレイとレアに襲い掛かってくる。
グレイは吊り下げていた
激しい金属音が鳴り響く。グレイは間を置かずに、
瞬時に
もがき苦しむ怪物を蹴り飛ばし、次から次へとやってくるウェアウルフたちを相手に、グレイは大立ち回りをする。
決して派手さはない。しかし、堅実に。
細やかな体捌きで次々と怪物の骸を量産し、息つく暇もなくやってくるウェアウルフたちをグレイは屠り続けた。やがて、荒波は落ち着きを見せ、いつの間にやら凪いでいたのだ。
森の中に、再び活気のある声が渡り始めた。涼やかな風が吹き、小鳥たちの囀りが、木々のさざめきが鼓膜を震わし始める。しかし、鼻を犯す血生臭い香りだけは、消えなかった。
死屍累々となった森の中で、グレイは一息ついた。全身に浴びた鮮血や、武具の汚れを落としたい欲が湧き上がる。だが、それは後にして、仲間たちの様子を伺い、問題がないかの確認を始めた。
「レア、無事か」グレイの問いに対し、レアは「問題ないわ」と答えた。
「ルークはどうだ」続けてルークに問うと、「無問題だね」と、肩をすくめながら返された。
「シズは?」次にシズに問えば、「支障はありません」と、余裕そうな態度で言われた。
最後に鈴木凪に問うたグレイは、「ええ、ご心配には及びませんよ」と、頼もしい言葉を貰ったのだ。
「よし、ならば小休憩を挟んだ後に、移動しよう」
ウェアウルフたちの死体と、辺りに飛び散っていた鮮血が真っ黒に染まりながらも、霧散する。それを横目に、グレイは慣れた手付きで
拳を突き出すように
眼前のウェアウルフが痺れを切らしたのか、
悲鳴を上げたウェアウルフが嫌がるように顔を引くが、既にグレイは
順当に行けば、グレイの右手が無事では済まないだろう。いくら
手甲鉤は
グレイの周囲には、数体の骸が転がっている。どれもこれもが致命傷を負い、倒れていた。しかし、グレイは無傷だ。
──この程度じゃ満足できないな。もっと強い奴が欲しい。
己の価値を高めるためには、ウェアウルフでは役者不足。グレイは己の糧となったウェアウルフたちに感謝を捧げながらも、多少の不満を抱いた。やはり、相手には理性がなければ、とグレイは思ったのだ。
オークやリザードマンに思いを馳せていたグレイの隣に、レアがやってきた。
「どうしたのよ?」目敏いレアがグレイの不満に気づき、理由を尋ねてきた。
グレイは
「俺は……強過ぎる」
「何イキってんのよ」
「敗北を知りたい」
「何イキってんのよ」
盛大にため息をついたレアが、額に
「あんたは確かに強いわ。だけれど、私たちは剣術家でもなければ
「
「私は神聖魔法を唱えられる。四肢欠損だろうと治せるし、死んでも生き返らせられるわ。でも、戦場でそんなことをしていたら共倒れよ。一人で死ぬ分にはいいけれど、他者を巻き込むのは勘弁願いたいわね」
「は、はい」
「冒険者パーティーは一蓮托生なの。あんたのわがままに付き合って死ぬほど、私もルークもシズも馬鹿じゃないわ。もしあんたが馬鹿をやって死んだら誰も助けないわよ」
「……はい」
「〝馬鹿は死ななきゃ治らない〟しっかりと肝に銘じておきなさい」
「はいぃぃぃ‼」
レアの正論パンチにボコボコにされ、グレイは撃沈した。
──俺は調子に乗っていたようだ。やはり、持つべきものはレアだな。
グレイはしおしおに干からびながらも、そう思った。
あれから何度か戦闘をこなしたグレイたちは、動物の森を越えるまであと少しとなった。しかし、またもやウェアウルフたちが襲い掛かってきたのだ。
雑木林に潜む影は十を超えている。怪物たちの影は一際大きく、これまでの個体よりも強大なことが、ひしひしと感じ取れた。
グレイは
「〈
シズの魔法がウェアウルフたちに降り掛かる。これまで通りならば、半数以上の怪物たちが魔法に掛かるはずだ。しかし、今回ばかりは半数にも満たなかった。このことから察せられるのは、怪物たちがこれまでの相手よりも格上ということだ。
ルークとシズが次々と
強弓より放たれる矢、宙を滑る火球、耳を劈く破裂音と共に射出される鉛玉。それらが混乱した様子の怪物たちを屠り去っていき、瞬く間に森が拓けていく。
──相変わらず、いい働きをする。
グレイは頼もしい仲間たちに小さく笑みを浮かべると、猛然と走り寄ってきたウェアウルフと激しくぶつかり合った。
大きく薙ぎ払われた剛腕が、グレイへと迫る。まともに食らおうものなら、頭など軽く千切れ飛ぶことだろう。
グレイは冷静にも後ろへ足を刻み、ほんの僅かな動作で致命的な一打を躱した。そして、
肋骨の隙間を縫い、臓器系に多大なる外傷を与えた。グレイは情け容赦なく
たったの一撃。されど、致命の一撃。ウェアウルフは、その命を散らした。
骸を飛び越えて、新たなウェアウルフが襲い掛かってきた。両腕を広げ、こちらを抱き殺さんとしてきている。
グレイもまた
ウェアウルフは只者ではなく、指を潰してやろうと考えていたグレイの考えを読んだかのように、一瞬で両腕を引き、頭突きを繰り出してきた。グレイは堪らず衝撃に耐えるように踏ん張るが、ウェアウルフの頭突きに耐えられず、大きく吹き飛ばされてしまった。
大地に強く背を打ち付ける。グレイは一瞬顔を歪めるが、その瞳は決して怪物から離さなかった。
ウェアウルフが飛び掛かってきた。状況としては最悪だ。何としてでも体を起こさなければ、嬲り殺しにされるのがオチだろう。
グレイはウェアウルフの顎を両足で蹴り飛ばすと、持ち前の筋肉を活かして跳ね起きた。当世具足を纏っているにも関わらずだ。しかし、さしものグレイであっても無理強いをしたため、「ちと痛ぇな……」と独りごちた。
仕切り直しとばかりに睨み合いを始めたグレイだったが、相手は一体だけではないのだ。即断即決、グレイは姿勢を低くしながら突貫をした。
怪物が手甲鉤を突き出してくる。しかし、
怪物が反対側の手甲鉤を振り下ろしてくる。しかし、
怪物がこちらを噛み砕かんと
「レア、『傷治療』を」
「〈
体力が回復し、グレイは顔を綻ばせる。レアに「助かった」と、手短に感謝を述べた。
「あとはシズたちに任せましょう」
「ああ、そうだな」
怪物たちの数は瞬く間に減っていき、やがて全滅をした。死体が霧散するのを見守る中、グレイは当世具足についていた土汚れを払い落とし、肩を回す。戦闘の最中に無理に跳ね起きたせいで体を痛めたが、レアのおかげで完治をしているようだった。グレイは改めてレアに感謝を告げると、大活躍をした仲間たちを労った。
再び森の中を進み始めたグレイたちは、多少の疲労はあるが、まだまだ戦意に満ち溢れていた。己の力で道を切り拓き、開拓をする。自身の行動がそのまま成果へと繋がる。冒険者の醍醐味である、〝壁を乗り越える〟実感を得られれば、自ずとやる気が出るというものだ。
冒険者たるグレイたちは、自らの道を探し求めるように、地に足をつけて進んでいった。
ブロードソードとバックラー。これは渋い。冴えないおっさん冒険者(有能)に使って欲しいところ。