異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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23バスタードソード・マン

 

 動物の森を越えた先。そこにある簡易的な野営地(キャンプ)で、数日の間、グレイたちは休息をとっていた。食料や日用品といった物資はドローンによって配給をされるため、不自由ではあるが、不便ではない。

 野営地(キャンプ)には他の人員もおり、大半はサイボーグ兵であったが、中には異人二課のエルウィンとシルヴィ、二人の付き人である田中紫苑がいた。グレイたちは彼らと親睦を深めながらも休日を満喫し、思う存分、心身を癒やした。

 

 翌日、グレイは野営地(キャンプ)の外にある開けた場所で、とある武器を片手に立っていた。片手剣(ブロードソード)よりも長く、両手剣(ツーハンデッドソード)よりも短い全長を誇り、両手持ちができるように(ヒルト)が長くとられた、両刃の剣。外観は騎士剣(ロングソード)に似ているが、アースガルドにおいての騎士剣(ロングソード)とは、直剣(アーミングソード)から派生した、片手で扱う剣である。要するに、地球における〝両手剣(ロングソード)〟と、アースガルドにおける〝騎士剣(ロングソード)〟は別物なのだ。この点は留意されたし。

 

 それはさておき、グレイは深呼吸を挟み、精神を統一させると、両刃の剣──片手半剣(バスタードソード)を両手で握り込み、構えをとった。

 

 身体を正眼に向けて、左足を前に出し、右足を下げる。そして、大きく胸を張り、片手半剣(バスタードソード)(キヨン)を右胸の前に持ってきては、切先を天に掲げた。

 ──屋根の構え(フォム・ダッハ)

 グレイは呼吸を整えると、強烈な袈裟斬り──怒りの攻撃(ツォルンハウ)を繰り出した。その際に、腕を伸ばし切らないように注意を払い、柄頭(パメル)に近い(ヒルト)を握った左手を、雑巾を絞るように捻る。そうすることで、片手剣(ブロードソード)並の細やかさで、片手半剣(バスタードソード)を振れるのだ。

 

 今度は左半身を前に出し、片手半剣(バスタードソード)の切先を正面に向けて、右頬の横で腕を交差させる構えをとった。(キヨン)は顔面を守るように前に出している。

 ──雄牛の構え(オクス)

 グレイは、そこから左から入る高めの水平斬り──斜めの攻撃(ツヴェルクハウ)を繰り出した。相手の頭部を仮想敵とし、右足を踏み出しながら、表刃(ロングエッジ)でもってして勢い良く斬りつける。なお、右から入る場合は裏刃(ショートエッジ)が基本だ。また、突き(シュテヒェン)を繰り出すことも可能で、その場合も利き足を前に出す。

 

 グレイは右からの斜めの攻撃(ツヴェルクハウ)も繰り出し終えると、次も左半身を前にして、片手半剣(バスタードソード)を正眼に、しかし腕を右腰あたりに添えた構えをとった。

 ──鋤の構え(プフルーク)

 グレイは突き(シュテヒェン)を繰り出す。そして、すぐさま右足を踏み出して左の鋤の構え(プフルーク)を構え、間髪を入れずに再び突き(シュテヒェン)を繰り出した。

 

 小さく息を吐いたグレイは、左足を下げた状態のまま切先を地面につけ、左手を柄頭(パメル)に乗せて、楽な姿勢をとった。一見すると休憩をしているように思われるだろうが、これもまた、構えである。

 ──愚者の構え(アルバー)

 グレイは右手で握った(ヒルト)を支点にして、左手で柄頭(パメル)を押し下げて、作用点である切先をぐんっと上へ持ち上げた。それと並行をして片手半剣(バスタードソード)を突き出し、仮想敵の下腹を貫く。狙いは臨機応変に変えればよく、下腹だけでなく、鳩尾や喉仏の下などを狙うのも戦術の一つだ。

 

 以上の四つが、サウスクロウ流剣術の基本の構えであるが、あと二つ、補助的な構えが存在する。

 グレイは片手半剣(バスタードソード)の切先を前に出し、剣身が地面と水平になるように構えた。この時、体の前に剣身がくるようにして、刃は天地を向くように、垂直に立てる。

 ──横木の構え(シュランクフート)

 右半身が前に出ている状態だったので、グレイは右足を下げて左半身を前にし、片手半剣(バスタードソード)の切先を真後ろに向けて、相手から刀身が見え辛くなるように構えた。相手からすれば、刀身がグレイの身体で隠れており、間合いが測り辛いことだろう。

 ──脇守りの構え(ネーベンフート)

 

 グレイは計六つの構えをとった。しかし、五つある師範攻撃のうち、怒りの攻撃(ツォルンハウ)斜めの攻撃(ツヴェルクハウ)しか繰り出せていない。あと、捻れの攻撃(クルンプハウ)斜視の攻撃(シールハウ)垂直の攻撃(シャイテルハウ)があるが、これらはまた今度で良いか、とグレイは判断を下した。

 

 サウスクロウ流剣術は流れが重要であり、構えから攻撃を繰り出し、また構えから攻撃を繰り出すといった、連続攻撃が大切である。それを踏まえて、グレイは稽古を始めた。

 

 屋根の構え(フォム・ダッハ)から怒りの攻撃(ツォルンハウ)を繰り出し、横木の構え(シュランクフート)へ。そして裏刃(ショートエッジ)を使って水平斬り(ミッテルハウ)を繰り出し、脇守りの構え(ネーベンフート)へ。そこから斬り上げ(ウンターハウ)を繰り出し、左の雄牛の構え(オクス)へ移行し、突き(シュテヒェン)を繰り出す。最後に右の鋤の構え(プフルーク)から再び突き(シュテヒェン)を繰り出し、屋根の構え(フォム・ダッハ)に戻る。

 当然ながら、戦場に同じ場面など存在しないため、その都度最適な攻撃と構えを選択する必要がある。だが、それを成すためには気が遠くなるような修練を積む必要があった。グレイも時折練習をしているのだが、未だにサウスクロウ流剣術の使い手とは、口が裂けても名乗れなかったのだ。

 

「あの騎士崩れのおっさん冒険者、やっぱり強ぇよな……」

 

 ボソリと呟いたグレイは、サウスクロウ流剣術を教えてくれた銅級冒険者──下から数えて二番目の階級(ランク)──のおっさんに、懐疑心を抱いた。普段から冒険者組合(ギルド)に併設された酒場で飲んだくれてるのだが、剣の腕は良いのだ。しかし、上昇志向がないため、いつまで経っても銀級に上がらない。本人曰く、「もう歳なんだ」とのことだが、グレイはおっさんの体幹の強さや、衰えた様子のない肉体から半信半疑であった。

 ──何はともあれ、練習あるのみ。

 少し休憩を挟んだグレイは、流麗な動きを魅せていたおっさん冒険者を目標に、もう一度片手半剣(バスタードソード)を振り始めた。

 

 

 

 野営地(キャンプ)を越えた先は、山と山の間に広がるなだらかな地域、いわゆる山間部が続いていた。そこには青々とした稲の絨毯が何処までも広がっており、古民家が疎らに点在をしている。

 目が痛いほどの太陽と、鮮やかな碧空(へきくう)と、真っ白な綿雲。季節は夏真っ盛りであり、青葉を揺らす涼風(すずかぜ)が、グレイたちの疲労を奪い去るように突き抜けていった。

 

 畦道(あぜみち)を歩くグレイたちは、水田のおかげで冷たい風が吹くことに、気分を良くしていた。グレイたちの住むサウスクロウはヒューマン大陸の最南端に位置する国家だが、夏の気温はそこまで高くなく、何よりも湿度が低い。それと比べれば日本の夏は快適とは言い難く、辛いものがある。しかし、情緒溢れる風景や、満ち満ちたる自然のおかげで、グレイたちは多少なりとも日本の夏を楽しんでいた。異国を漫遊する旅人の気分、とでも言えばいいだろうか。 

 

「冒険者ってのは良いモンだ──」グレイは手庇(てびさし)を作りながら、言った。「自由、それに尽きるぜ」

 レアが同意を示すように頷く。

「ええ、そうね。こうして旅のように冒険をするのも、悪くないわ」

 ルークとシズもまた、二人の会話に入ってきた。

「今までフォレトスで活動してたけど、ここは心機一転をして、街を回ってみるのもいいかも知れないね」

「外国へ行くのもありですし、なんなら大海原を越えて別の大陸へ行くのも面白そうですよ」

 

 大都市フォレトスで、コツコツと功績を挙げてきたグレイたちは、いつからか平凡を望むようになっていた……とは言わないまでも、保守的な考えになっていた。しかし、此度の運命のイタズラによって、様々な体験をしたのだ。好奇心を擽られたり、異世界にしか存在し得ない知識を得たり。

 普遍的な世界を望んでいたグレイたちは、異世界転移を通じて、いつしか特別な世界を見てみたくなった。きっと、心の奥底で現状に満足をしていたのだろう。だが、その(くびき)が解かれ、いつの日か忘れてしまった少年心のような、純粋な探求心が湧き上がってきたのだ。

 ──もっと多くのことを知りたい。もっと外の世界を見てみたい。

 そんな飽くなき探求心が、グレイたちの心中にて渦巻き、嵐となっていた。多くの苦労があるだろうが、それ以上の価値がある。グレイたちは、そんな気持ちを抱いていたのだ。

 

 

 

 畦道を塞ぐ、一体の魔物。丈の短い着物を身に纏い、頭にどす黒く変色をしたボロ頭巾を被っている。手には(かい)にも似た農耕具、(すき)を持っており、それは木製であった。

 グレイは仲間たちに周囲の警戒を促すと、剣帯(ソードベルト)から片手半剣(バスタードソード)を引き抜いた。そして肩に担ぎ、前に出る。

 

 相手の魔物──レッドキャップが、鋤を槍のように構えた。対するグレイは、屋根の構え(フォム・ダッハ)だ。

 真夏の太陽がじりじりと照りつける中、両者は睨み合いを続け、ゆっくりと間合いを詰めていった。やがて、張り詰めていた空気が最高潮に達した瞬間、レッドキャップが猛烈な突きを放ってきたのだ。

 グレイは即座に右前方へ飛びながら、片手半剣(バスタードソード)を右から左へ扇状に翻した。例えるのなら、自動車のワイパーだ。

 鋤がグレイの真横を通り過ぎる中、翻った片手半剣(バスタードソード)裏刃(ショートエッジ)が鋤を強かに打ち付け、レッドキャップの体勢を僅かに崩した。グレイは捻じれの攻撃(クルンプハウ)が決まったことを喜ぶのも束の間、左足を踏み出し、高めの水平斬り──斜めの攻撃(ツヴェルクハウ)を繰り出す。

 しかし、レッドキャップは表刃(ロングエッジ)にボロ頭巾を引っ掛けながらも、見事な体捌きで致命傷を免れたのだ。グレイは驚嘆しながらも右の雄牛の構え(オクス)をとると、突き(シュテヒェン)を繰り出した。

 容赦のない連続攻撃。生半可な相手なら倒れる頃合いだが、レッドキャップは違った。なんと、これさえも前方に、グレイの真横へ跳び、回避をしたのだ。

 

 グレイは一度仕切り直すように向き直り、レッドキャップと間合いを取った。先ほどとは立ち位置が入れ替わり、レッドキャップの背後に、こちらの死合を固唾を呑んで見守るレアたちが見える。グレイは下手に負けられんな、と気合を入れた。

 

 再び屋根の構え(フォム・ダッハ)をとっていたグレイは、レッドキャップに怒りの攻撃(ツォルンハウ)を繰り出そうと考えていた。しかし、相手は上段の構え、ひいては剣術について、ある程度の知識を有していることだろう。さもなければ、サウスクロウ流剣術の連撃に耐え凌ぐことなど、素人には無理からぬことだ。

 グレイは決心をすると、右足を強く踏み出し、怒りの攻撃(ツォルンハウ)を繰り出した。案の定、レッドキャップは察していたかのように鋤を薙ぎ払い、片手半剣(バスタードソード)を弾こうとしてくる。

 グレイはほくそ笑んだ。それと同時に、片手半剣(バスタードソード)の軌道を左に曲げて、宙を薙ぎ払ったのだ。鋤が勢い良く空振る。グレイは動揺した様子のレッドキャップを視界に収めながらも、片手半剣(バスタードソード)を翻し、左上段から裏刃(ショートエッジ)で斬り込んだ。

 レッドキャップの右肩から左胸に掛けて深い傷跡が刻まれ、大量の血が吹き出る。だが、グレイは油断することなく刀身をレッドキャップの首に押し当て、引き斬った。

 首が空を飛び、残った胴体がぐしゃりと頽れる。グレイは軽く血振りを行うと、金属リングの鞘に片手半剣(バスタードソード)を納めた。

 ──斜視の攻撃(シールハウ)。フェイントを織り交ぜた攻撃は、流石に知らなかったか。

 作戦が上手くいったことに満足をしたグレイは、仲間たちの方へと足を進めた。

 

 

 

 古民家まであと僅かとなったところで、十体のレッドキャップが立ちはだかってきた。鋤、鍬、草刈鎌。様々な農耕具で武装をした赤帽子たち。彼らが一斉に駆け出した。

 

「シズ、いつも通りに」

 グレイの期待に答えるように、シズが魔法を唱えた。

「〈火球(ファイア・ボール)〉」

 

 宙を滑る火球がレッドキャップたちの中心に飛んでいき、やがて爆炎を撒き散らす。二体のレッドキャップが消し炭となるが、思いの外損害が少ない。というのも、彼らは機動力が半端ではなく、〈火球(ファイア・ボール)〉を避ける者たちがいたのだ。しかし、ルークの放った矢によって、次々と倒れていった。その数は四だ。

 鈴木凪の援護もあり、最終的には残り二体となった。グレイはレアと共に前進をし、仇討(あだう)ちをしようと勢いづくレッドキャップたちと相対した。

 

 グレイの相手となったのは、鍬を持ったレッドキャップだ。レッドキャップは鍬を上段に構えながらも突貫をしてきており、下手に受ける行為は不利となるだろう。しかし、グレイは同じく突貫を選択した。

 両者は足を緩めることなく激突し、迫り合い(バインド)となった。この際に重要なのは、剣身の根本(ストロング)剣身の刃先(ウィーク)か、攻め(ハード)守り(ソフト)かだ。最も求められるのは剣身の根本(ストロング)かつ攻め(ハード)であり、こちらが剣身の刃先(ウィーク)であれば剣身の根本(ストロング)に持っていくか、守り(ソフト)の場合は相手の剣をいなすことが求められる。

 そして、今回はグレイが剣身の根本(ストロング)かつ攻め(ハード)であった。これは経験値の差が大きいだろう。

 初めは拮抗していた迫り合い(バインド)も、やがてグレイが優勢となり、グレイが片手半剣(バスタードソード)を左側に叩きつけたことによって、鍬が大きく弾かれた。

 体勢を崩したレッドキャップは瞬時に横っ飛び、グレイの追撃を躱そうと動き出す。しかし、それよりもは(はや)く、グレイの水平斬り(ミッテルハウ)がレッドキャップの頭部を切り裂き、致命傷を与えたのだ。

 大地に転がったレッドキャップに、グレイは容赦なく突き(シュテヒェン)を繰り出し、絶命させた。その頃にはレアも勝利を収めており、鎚矛(メイス)を肩に担いでいた。

 

 此度の勝敗の分かれ目は、装備の質と使い手の技量であろう。もしもレッドキャップが片手半剣(バスタードソード)両手剣(ツーハンデッドソード)を握っていれば、ある程度の善戦はできたかも知れない。しかし、それは〝たられば〟の話であり、勝者はグレイである。

 小さな努力を積み重ね、失敗から学び、どう勝てるかと思考する。勝者とは常に前進をする者であり、敗北も停滞も糧とする者である。勝者は、敗者とは心の在り方が違う。才能に(かま)けることはせず、ただ誠実であることを尊ぶ。物事に真剣に取り組み、継続と努力を惜しまず、前向きの心を持つ。それが勝者の絶対条件だ。

 与えられた力を十全に使いこなせてこそ、真の勝者というもの。物語の主人公とは、常に誠実であらねばならない。何故ならば、常勝無敗の勝者こそが、主人公であるからだ。

 




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