異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

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25森の影

 

 迷える竹林と名付けられた領域(フィールド)で、異人二課所属であるエルウィンは相方のシルヴィ、付き人の田中紫苑と共に探索をしていた。彼らがいるのは小道から逸れた竹林の中であり、そこには青々とした竹が太陽に手を伸ばすかのように、高く高く伸びている。絨毯のように敷き積もった笹の葉を踏みしめて先へ進むエルウィンは、周囲を観察しながらも、自然を愛でていた。

 

「ひーっ! 蚊が沢山いますよーっ!」田中紫苑が、虫除けスプレーを噴射しまくった。「わたし、すっごい蚊に好かれるんです! ただ人より体温が高くて、汗っかきで、おしゃべりが好きなだけなのにーっ!」

「うーん、それが原因だね!」

 シルヴィが我が意を得たり、と言わんばかりのキメ顔で、そう言った。

 

 エルウィンが苦笑いを浮かべていると、田中紫苑が「エルウィンさんたちは、蚊に刺されないんですか?」と聞いてきた。答えようとするエルウィンだったが、それよりも早く、シルヴィが口を開く。

 

「私たちも刺されるよ。でも、虫が苦手な植物を精油して、体とか防具に塗布してるからね。そうそう刺されないんだ!」

 誇らしげに胸を張ったシルヴィに、エルウィンは肩をすくめる。そして、「シルヴィに答えられちゃったね」と、呟いた。

 

「だから、お二人からは良い香りがするんですね! エルフ族の体臭って良い匂いなんだと思ってました!」

 失礼にも鼻を近づけて、田中紫苑がくんくんと匂いを嗅ぐ。エルウィンは手で押しのけた。

「あっ、手はレモンの香り!」と、田中紫苑ははしゃぎ、次にシルヴィの髪の匂いを嗅ぎ始めると、「あっ、オレンジの香り!」とはしゃぐ。流石に落ち着きがなさ過ぎるので、「もう少し、静かに」とエルウィンは小言を言った。

 

「しゅ、しゅみません……」

「反省してるならいいのさ」

 

 前髪を掻き上げ、寛大な心を見せたエルウィンは、視界の端に映った朱色の人工物を指差した。

 

「あれは……鳥居かな?」

「むっ! 本当ですね!」首から下げていた眼鏡、それを掛けた田中紫苑が言った。「窪んだ地形が続いているようなので詳しくは分かりませんが、社殿(しゃでん)と思われる屋根が見えます!」

「竹林の中にも、何かしらがあるんだね〜」

 

 シルヴィの言葉に同意をしたエルウィンは、早速向かうことにした。

 

 

 

 立派な鳥居の先は下り坂になっており、窪んだ地形が広がっていた。竹林の中にポッカリと空いた空間は異質ささえ覚え、それを助長するかのように、平らに均された地面には枯れ葉一つ落ちておらず、綺麗な石畳が見受けられる。

 エルウィンの視界には、拝殿が映っていた。随分と年季を感じさせる美麗な曲線を描く屋根は、緑青(ろくしょう)に覆われた銅板で構成をされているようで、青々とした竹と混ざるように、鮮やかな青緑色を発していた。建物自体はこじんまりとしているが、その造りに妥協などは一切感じられず、細部に至るまで抜かりなく手が入っているように思えた。

 

「ふむ、きっと魔物がいるだろうね」

「私が偵察してこようか?」

 シルヴィが、腰に差していた二振りの刺突剣──慈悲の短剣(スティレット)に手を添えながら、言ってきた。エルウィンは少し考えた後、シルヴィの案に乗ることにした。

 

「〈健脚(ロングストライダー)〉。間違っても、戦闘にならないように」

「へへ、了解だよ!」

 

 緑色のチュニックに付いていたフードを被ったシルヴィが、音も無く拝殿に向かっていき、やがて視界から煙のように消えた。シルヴィは優秀な斥候役であり、相手の目を欺くことなど容易い。そう簡単には見つからないことだろう。

 

「さて、僕たちは朗報を待つとしようか」

「そうですね!」

 

 水筒を傾けてがぶがぶと水分補給を始める田中紫苑を他所に、エルウィンは手鏡を取り出すと、己の美しさに酔いしれ始めた。

 

 しばらくして、シルヴィが帰ってきた。特段戦闘になることはなかったようで、しっかりと仕事をこなしてきたようだ。

 

「建物は二つ連なっていて、魔物は一体だけだね」

「拝殿と本殿ですね!」と、田中紫苑が補足をした。

 エルウィンが「どんな魔物だい?」と問うと、シルヴィは「白と赤の服装をした、のっぺらぼう。手には豪華な刀を持ってたよ」と答えた。

「巫女服に、奉納刀かも知れません!」再び、田中紫苑が補足をする。

 エルウィンはいくら魔物と言えど、神に仕える巫女を殺害するのは不味いのでは?と考えを巡らせ、唸った。

 

「巫女に手を掛けるのは、流石に不味くないかい?」

「……シルヴィさん! 拝殿や本殿の中に何かありました?」

 思い出す素振りを見せたシルヴィが、口を開く。

「何かしらを飾る祭壇とかはあったけど、特に何も無かったよ?」

 それを聞いた田中紫苑は、事も無げに言った。

「あれは神社モドキです! 魔物を倒してしまっても、何も問題はありません!」

「思い切りがいいね。でもまぁ、そうかな? そうかも……」

 

 少し引っかかりを覚えつつも、エルウィンは魔物を倒すことに決めた。シルヴィと作戦について話し合うと、エルウィンは境内へと足を踏み入れた。

 

 

 

 長靴(ブーツ)でもって、石畳の上を歩く。コツコツと軽快な音を立てるエルウィンの側には、田中紫苑がついている。シルヴィは別行動の最中だ。

 拝殿の前までやってきたエルウィンは、「誰かいるかい?」と声を掛けた。すると、拝殿の格子戸が開き、のっぺらぼうが姿を現す。シルヴィの情報通り、白衣に緋袴(ひばかな)と、巫女然とした姿であった。手には豪奢な拵えが目を惹く刀が握られており、今まさに、刀が引き抜かれた。

 周囲に竹林がない故に陽が燦々と降り注ぎ、ゆっくりと階段を降りてきたのっぺらぼうと刀を照らし出す。眩いほどに鮮やかな装束と、優美な曲線を描く刀は存在感を際立たせ、精神的な重圧を放っていた。のっぺらぼう自身も堂々とした足取りであるために、自ずと緊張感が高まっていく。

 

「随分と強そうだ。僕も、気合を入れないとね?」

 エルウィンは身に着けていたローブを翻し、腰に差していた短剣(ダガー)を引き抜いた。そして、のっぺらぼうと同様に堂々とした立ち姿で構える。

 両者の間に、攻守の駆け引きがあった。その刹那──拝殿の屋根上から影が落ち、そのままのっぺらぼうに襲い掛かったのだ。慈悲の短剣(スティレット)が肩の上部に深々と突き刺さり、のっぺらぼうが姿勢を崩した時には、もう一方の慈悲の短剣(スティレット)が左胸を貫く。致命傷を与えられたのっぺらぼうは石畳に引き倒されるが、その頃には既に絶命をしていた。

 下手人であるシルヴィは慈悲の短剣(スティレット)を慣れた手付きでくるりと回すと、納刀をする。そして、エルウィンに手を振ってきた。

 

「終わったよー」

ヤンマー二(いいね)、とても素晴らしい動きだったよ。流石はシルヴィだね」

「へへっ! 当然だよ!」

 

 褒められて満更でもないシルヴィは、照れ臭そうに鼻の下をこする。随分とわんぱくな印象を受けるが、そこが彼女の魅力でもある。エルウィンは自分だけは良さに気付いてるぜ、とでも言いたげに小さな笑みを浮かべた。

 

 その後、拝殿や本殿を探索したエルウィンたちは、特段目ぼしい物は見つけられなかった。天井や床まで気を配ったが、何も隠されている様子はなかったのだ。

 肩透かしを食らったエルウィンたちは、再び竹林の探索へ出向こうとした。しかし、彼らは気付いた。のっぺらぼうが、豪奢な奉納刀を落と(ドロップ)していたことを。

 

「むむむっ! くぉれは凄いですよーっ!」

 

 ダッ、と駆け出した田中紫苑が刀を拾い上げた。エルウィンとシルヴィも、紫苑の後を追う。

 

「ドロップ品! 初めて見ました!」

 ワクワクした様子の田中紫苑が、手に持った刀を観察し始める。そこへエルウィンたちも加わり、感嘆の声を上げた。

「おおー! 今まで見てきた武器より、外観が凝ってるよ!」

 黒と金の鞘を見つめるシルヴィが、声を上げた。

柄巻(つかまき)下緒(さげお)の赤が、刀を際立たせてますね!」

 キラキラとした瞳の田中紫苑が、食い入るように刀を見つめていた。

 エルウィンが紫苑に刀を引き抜いてみるように伝えると、恐る恐るといった様子で刀が引き抜かれた。美しい刀身が姿を現す。刀身の幅──身幅は広く、刀身の厚さ──重ねは薄い。浅めの反りや、威風堂々たる大切先がとても目を惹く一刀であった。

 

「ほお、この文様が凄くいいね」

 

 エルウィンが見つめるのは刀身にある刃文であり、切先から下がるにつれて大きな乱れを描いていた。また、刃文と(しのぎ)の間には、何度も鋼を織り込んだ特徴である地金(じがね)が垣間見え、板目のような模様が見て取れる。武器としても、美術品としても価値の高い刀に、エルウィン一行は釘付けだった。

 

「そういえば──」田中紫苑が口を開く。「ドロップ品ってことは、この刀は魔化武器(マジックウェポン)ってことですよね?」

「ああ、そうだよ」

 紫苑に同意をしたエルウィンは、軽く説明を始めた。

魔化武器(マジックウェポン)ってのは人間の手でも作れるけど、あくまでダンジョン産の武器のことを指すのさ。その名の通り魔法が込められていて、いつまで経っても切れ味が鋭いとか、曲がりはするけど折れはしないとか、属性が付与されてるとかがあるね。ちなみに、野営地(キャンプ)で会ったグレイ君が身に着けていたのは、魔化防具(マジックアーマー)だ。彼曰く、サイズ調整を魔法がしてくれるらしいよ」

 

「おおーっ!」と、田中紫苑が歓喜の声を上げた。

 

「じゃあこの刀にも、何かしらの魔法が込められてるんですね⁉」

「そうさ。ただ、どんな魔法が込められてるかは僕たちには判別できないから、一度扱ってみるしかないかな」

「ではシルヴィさん! お願いします!」

「ええっ、私?」

 

 いきなり刀を差し出されたシルヴィは当惑していたが、意外と気になっていたのか、素直に受け取った。

 

「まあ、いいよ? 地球産の魔化武器(マジックウェポン)とか、初めてだし? 見たことない武器だから、振ってみるのもありだし?」

「シルヴィ、笑顔が隠しきれてないよ」

 

 少しベルトを緩めて、刀を腰に差すシルヴィにエルウィンは苦笑した。シルヴィは刀を使い気満々である。

 やがて、エルウィン一行は出発をすると、再び竹林の中へと入っていった。

 

 

 

 竹林に囲まれた小道、その先は行き止まりであった。しかし、行き止まりには人丈ほどの小さな殿舎──(ほこら)があったのだ。近寄ろうとしたエルウィンたちだったが、ここでシルヴィが待ったをかける。

「裏に何かいる」と、シルヴィが言った。その瞬間、祠の影からのっぺらぼうが姿を現したのだ。どこに隠し持っていたのか手には大太刀が握られており、背中には鞘が吊るされていた。

 武者袴を靡かせ、すり足でこちらへやってくるのっぺらぼうは、既に戦闘態勢をとっていた。エルウィンは直ちに檄を飛ばし、シルヴィを前方に、田中紫苑を後方へ移動させた。

 

「〈衰弱光線(レイ・オブ・インフィーブルメント)〉」

 

 エルウィンの右手より不気味な光線を放たれ、のっぺらぼうに直撃する。避けようとしたのっぺらぼうだったが、エルウィンの方が上手であった。

 〈衰弱光線(レイ・オブ・インフィーブルメント)〉の効果は、対象の肉体を弱体化させ、鈍化させるというものだ。主な使い方としては、筋肉こそ全てである前衛職を衰弱させ、十全に活躍させないというもの。

 〝精神集中〟を必要とするため、魔法の制限を受けるといった一面あるが、今回は相手が一体だけである。そのため、なんの過不足もなかった。

 

「刀の使い方は()()()()()()()よ」シルヴィが刀を引き抜き、正眼に構えた。「ここは行かせてもらうね!」

「決して、無理はしないように」

 エルウィンは不安な心を押し隠して、しかとシルヴィに伝えた。

 

 早速とばかりに、シルヴィとのっぺらぼうが打ち合いを始めた。大太刀が弧を描くように後ろへ振り上げられては、上段からの斬り下ろしが繰り出される。対する刀は車輪のように回っては大太刀を弾き、澄んだ音を響かせながら、回転の力をそのままに相手を斬りつけた。

 のっぺらぼうによる攻撃の尽くを、カウンターで有利に持っていくシルヴィは只者ではない。だが、シルヴィの反撃を凌ぐのっぺらぼうもまた、只者ではなかった。

 幾度となく剣戟の嵐が吹き荒び、互いに距離を詰め、詰められを繰り返しては、どちらともが有利な盤面へ持っていこうと疾風怒濤の攻めを展開する。エルヴィンは、予想以上に激しい戦闘に手を出すことができなかった。

 

「シルヴィ、君は一体……⁉」

 

 なんなら、シルヴィの実力に驚いていた。シルヴィは運動能力は高いが、触れたこともない武器を瞬時に扱えるほど、天性の剣才は持ち得なかったはずだ。しかし、今目の前で行われている激しい剣戟の嵐は、素人目からしても非常に高度な技術と駆け引きが見て取れる。エルウィンは、困惑しっぱなしであった。

 

 互いに一息をつくためか、暫しの静寂が訪れる。深く呼吸を刻むシルヴィの邪魔をしたくはなかったが、エルウィンは堪らず質問をした。

 

「シルヴィ、凄い腕じゃないか!」

 シルヴィはのっぺらぼうから視線を逸らすことなく、背中で語った。

「この刀にはね、所有者にある程度の剣才を授けてくれる力があるみたい。それに、見えるんだ……〝未来〟が」

「どどど、どういうことだいっ……⁉」

 

 『美しく生きられないのなら、死んでいるのと大して違いはない』

 これはエルウィンの信条であり、詳細は省くが、常日頃から優雅たれを心掛けているのがエルウィンだ。そんな彼にとって、心を乱すことなど言語道断。だが、エルウィンは盛大に身も心も乱していた。

 

「おおよそ三秒! 未来が視えるッ‼」

 

 シルヴィが再び、のっぺらぼうと激しい攻防を繰り広げ始めた。エルウィンは開いた口が塞がらない。

 剣才を与えるだけに留まらず、三秒先の未来さえも所有者に与える。これは最上級の魔化武器(マジックウェポン)だぞ、とエルウィンは混乱した頭で考えた。

 

「なるほどなるほど〜。どうやら、あの刀には()()()があるようですね!」

 眼鏡を掛けた田中紫苑が、意味深にも告げた。エルウィンはすかさず問いかける。

「あの力、とはなんだい⁉」

「──《神通力》。私が今考えました!」

「おーーーい‼」

 

 いつも通りの田中紫苑だったが、エルウィンはまんまと騙されてしまった。悪態をつくすんでのところで、踏み(とど)まる。その時、竹林を吹き抜ける風が、奇妙な叫び声を運んできた。瞬時に状況を把握しようとエルウィンは頭を回すが、それよりも早く、シルヴィと相対していたのっぺらぼうが行動を起こしたのだ。

 突如として反転し、竹林の中へと駆け出す。それを仮称《神通力》で視ていたシルヴィもまた、後を追おうと駆け出した。

 

「──シルヴィ、道を開けるんだ」

「ッ! うん!」

 

 横っ飛ぶシルヴィを横目に、エルウィンは〈衰弱光線〉で、とっくに動きの鈍いのっぺらぼう目掛けて魔法を唱えた。

 

「〈電撃(ライトニング・ボルト)〉」

 

 エルウィンの右手より放たれた閃光は眩い白光を世界に刻み込み、のっぺらぼうを貫いた。大気を劈く爆音が鳴り響き、空気を震わす振動が世界に打ち付けられる。

 一秒にも満たない僅かな時間で静寂が訪れるが、その頃には既にのっぺらぼうは絶命していた。

 

 第三位階魔法である〈電撃(ライトニング・ボルト)〉を唱えたエルウィンは、全身に稲妻が迸っていた。近くにいた田中紫苑が慌てて避難をする中、エルウィンは嵐を操り、空を駆ける。

 

「何かしらの事態が発生していると見た。シルヴィは紫苑君を連れて後を追ってくるんだ」

「りょーかい!」

 

 風が運んできた叫び声、のっぺらぼうの不可解な行動。確証などないが、何かが起こった。これは自身の知り得ない情報と状況が物語っている。エルウィンは己の直感を頼りに竹林の中を自在に飛び回り、稲妻の如き速さで宙を駆けた。

 

 

 

 いくつかの小道を越えた先に、異人四課のメンバーがいた。敵の数は十。それに対して異人四課は五だ。エルウィンは地上へ降り立つと、即座に魔法を唱える。

 

 ──〈電撃(ライトニング・ボルト)〉。

 

 こちらの存在に気付いていなかった、否、例え気付いていても不可避である閃光が、三体ののっぺらぼうを貫き、一瞬で絶命させた。エルウィンは一息挟むと、髪を掻き上げ、威風堂々たる姿で小道へ踏み出す。

 

 「ヤンマー二(いいね)、実に良いタイミングじゃないか。そうは思わないかい、グレイ君?」

 

 当世具足を纏った、金髪の大男──グレイがこちらに気付き、驚きの表情を浮かべた。だが、すぐさま笑顔に変わった。

 

「おいおい、助かったぜ。エルウィン!」

「フッ、全てお見通しなのさ……」

 

 美しくあることは絶対条件として、エルウィンは彼らの戦闘に加わった。

 槍を持ったのっぺらぼうが襲い掛かってくる。しかし、エルウィンは焦ることも恐れることもなく、冷静に対処をする。

 

「〈雷鳴波(サンダーウェーブ)〉」

 

 第一位階魔法である、〈雷鳴波(サンダーウェーブ)〉。位階が低いこともあり、そのまま唱えては破壊力も魔法力も低く、相手に抵抗(レジスト)されてしまうのも無理はない。しかし、そこで活躍をするのが〝位階上昇(アップキャスト)〟と呼ばれる魔法技術だ。

 〝位階上昇(アップキャスト)〟とは、それ相応の魔力を消費することで魔法の位階を上昇させ、魔法の効果を上げるというもの。〈火球(ファイア・ボール)〉ならば破壊力と魔法力を、〈水の生成(クリエイト・ウォーター)〉ならば効果範囲を、といった感じだ。そして、今回エルウィンは第一位階魔法である〈雷鳴波(サンダーウェーブ)〉を第三位階へと上昇させた。変わるのは破壊力と魔法力であり、相手は抵抗(レジスト)が難しくなり、より威力の増した魔法を食らいやすくなる。その結果とは──。

 

 空間を歪め、破砕する雷鳴が波となってのっぺらぼうに襲い掛かった。肢体を粉砕するに留まらず、遥か遠くまで吹き飛ばす。のっぺらぼうは辛うじて生きてはいたが、全身が血みどろであり、再び戦線に加わることは不可能だろうと思われた。

 

「なんて僕は賢く、美しいんだい。毎度ながらに惚れ惚れしてしまうよ」

 

 グレイの波打つ細剣(フランベルク)が閃き、レアの鎚矛(メイス)が勇ましく振るわれ、ルークの長弓(ロングボウ)から矢が射られ、シズの〈火球(ファイア・ボール)〉が炸裂し、鈴木凪の白星が瞬く。激しい戦闘の最中、エルウィンは唯我独尊を貫き、自分らしく振る舞った。二体目ののっぺらぼうが襲い掛かってくるが、右手より放った〈電撃(ライトニング・ボルト)〉によって、瞬時に絶命させる。

 やがて、戦場となった小道は酷く荒れ果て、多数の血で汚れたが、のっぺらぼうは一体残らず駆逐されたのだ。

 

 

 

 シルヴィと田中紫苑が合流し、異人二課と四課のメンバーが揃うこととなった。のっぺらぼうの不可解な行動について、情報交換と意見交換を交わしたエルウィンたちは、行動を共にすることに決める。

 その後、探索は順調に進み、いくつかの祠や(やしろ)を発見できた。幾度となくのっぺらぼうに襲われたが、異人二課と四課の敵ではなく、難なく撃滅をしたのだ。

 

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