異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。 作:卍錆色アモン卍
全長二メートル。幅広の身幅に、分厚い重ね。そして、無骨な印象しかない
よく磨かれた
その場から立ち上がったグレイは、
「やっぱり、お前しかいねえよ……」
熱い視線を送っていたグレイは、そっと愛剣を抱き寄せようとして……声を掛けられた。
「何してんのよ」
「どわーっ⁉」
危うく地面に沈みかけたグレイは、気合で体勢を持ち直した。そして、「レア、驚かすな~‼」と、大口を開けて叫ぶ。
「うるさいわね。そんなことより、準備をなさい。今日から〝城下町〟に入るわよ」
「ほう? ついにこの時が来たか」
レアから齎された情報に、グレイはにやりと笑った。城下町とは、迷える竹林を越えた先にある平野部、そこに築かれた中規模の町のことである。数多の魔物が巣食っており、日夜、公安機動制圧隊と土地の奪い合いをしているのだ。やや公機制が有利ではあるが、戦力差というのは如何ともし難く、魔物は増える一方だが、サイボーグ兵は総数が少なく増える訳もなし。『長期戦は望むところではない』というのが、迷対課本部の意向であった。
徐々に日が高くなってきた頃、目の前に大きな河川が現れた。対岸とこちらとを引き裂くように地面が大きく割れ、その間を
河川には橋が架けられていた。土台が二つ川中に築かれ、その上に三本の橋が連なっている。橋は木造であり、山なりを描く様は感嘆さえ抱くほど、美麗であった。
橋を渡るために、グレイは足を踏み入れる。大きな曲線を描いているためか、初めは階段状になっていた。そして、中腹はなだらかな曲線を描いた床が続き、下りはまた階段状だ。それを都度三回繰り返すと、ついに城下町の入り口である関所に辿り着いた。
頑丈そうな土塁と木柵、そして威圧感のある
グレイは、大門の前で門番よろしく警備に当たっていたサイボーグ兵に近寄ると、
「へい旦那、こいつが通行手形でい!」
グレイが懐から取り出したのは、サウスクロウでの冒険者活動で使っている通行証である。羊皮紙製の巻物である通行証を広げると、手書きの公文書とフォルトス領主の蝋印が顕になった。
〔……通行手形は必要ありませんよ〕と、少し困惑した様子のサイボーグ兵が言った。〔連絡は受け取っています。どうぞ、お通りください〕
「あいよっ! ご苦労さんっ!」
「ごめんなさいね、この人馬鹿なの」
レアに小突かれたグレイは、ふんぞり返りながら関所を通り過ぎた。気分はさながら、都市貴族たる大商人である。
平らに均された、真っ直ぐ走る大通り。その両脇には、家屋が整列するように軒を連ね、はるか先に見える雄々しい天守閣が夏空を背景に鎮座していた。グレイは関所に近い町家造りの家屋へと近寄る。そこには、公機制のマークである旭日章と『制』の文字が組み合わさった旗が靡いていたのだ。
前に出た鈴木凪が開け放たれていた引き戸を潜り、家屋へと入っていった。グレイもまた、凪の後に続いた。
土足のまま上がることに眉を顰めつつも、狭く勾配のある階段を登り、二階へと上がる。どうやら、ここが作戦本部として機能しているようだ。
要所要所に敷かれた土足マットを踏み越えたグレイは、自分たちの到来を待っていた、公安機動制圧隊第一分隊分隊長である榊と挨拶を交わした。もはや顔見知りである榊は、快くグレイたちを受け入れてくれる。
「お久しぶりですね」と、バイザーを掻きあげた榊が言った。「早速ですが、我々の現状をお伝えましょう」
簡素な折り畳み机に載せられたホログラム投影機が起動する。映し出されたのは、城下町の全体像であった。
立派な城郭を最奥として、大通りが真っ直ぐに通る。その左右には町屋造りの家屋が列をなし、大通りから外れた通りには、数多くの長屋が迷路を作るように犇めいていた。
「我々が現在勢力下に置いている土地は、次の通りです」
城下町が赤と青の二色に染められた。関所からおおよそ城下町の半分辺りまでが青く染まっている。そこから先は、敵勢力下を示す赤色だった。
「ここまでは順調でした。ですが、戦線の拡大に伴い、部隊運営が厳しくなっているのが現状です。迷対課本部に増援要請を送っていますが、一の扉で環境の変化が相次いで発生しているようでして、しばらくは増援に期待できません」
不徳の致すところ、と言わんばかりに榊がため息をついた。
「異人四課の皆様には、我々の剣となって頂きたい。現在、城下町の左翼方面にて激しい
榊に頭を下げられたグレイは、仲間たちを見やった。全員が賛成を示すように頷いている。グレイはうむ!と鷹揚に頷くと、榊の目をしっかりと見た。
「おう! 任せてくれ。何が相手だろうと、俺たちが道を切り開いてやる」
「ありがとうございます。では、作戦についてなんですが──」
その後、グレイたちが担当する
日が暮れ、城下町にはすっかりと帳が降りていた。今宵は雲一つないようで、眩い月明かりを放つ満月と、銀砂を散りばめたかのような星々が夜空を彩っている。物静かな城下町には静寂が訪れており、闇夜を徘徊する魔物や、警備に当たる魔物が影と共に彷徨っていた。
城下町の左翼方面、そこには大きな水路に囲まれた一地区があった。踏み入れるためにはいくつか存在する橋を渡らなければならないが、当然の如く荷車や家具で
水路を挟んだ対岸には道があり、時折、御用提灯を持った猿型の魔物──猩々が警邏をしていた。事前に教えられた情報によれば、おおよそ同じ時刻に通るらしい。
猩々たちはしっかりと統率がとれている。このことから察せられる通り、彼らにはボスがいた。今回、グレイたちが達成すべき目標とは、猩々のボスを打ち倒し、彼らを烏合の衆とすることだ。それにより、城下町の左翼方面では側面に気にすることなく前進ができるようになる。
この城下町には数多くの魔物が勢力を持ち、互いに牽制しあっているのが現状だ。そこへ人間が加わる。より混沌の坩堝へと変わるが、いずれは人間だけになる。それを目標に掲げ、迷対課本部は日夜彼らと争っているのだ。
警邏がいなくなったところで、グレイはレアと共に梯子を対岸に掛けた。梯子はそこら辺の森から伐採した木材を加工して作っており、はっきり言って不格好だ。だが、渡れればそれで良い。グレイは梯子の上を駆け抜けて対岸に渡ると、固定をするために鉄杭を地面に打ち付けた。
続々と仲間たちが渡ってきた。梯子はいずれ見つかり、破壊されるだろうが構わない。その時のために、対岸には縄梯子を垂らし、水路に浸しているのだから。最悪の場合は縄梯子を使えば逃げられるだろうし、本当の本当に最悪の場合は、この地区一帯を火の海に変えて水路に飛び込めば死ぬことはない。無論、最終手段ではあるが。
地図は頭に入っている。そのため、グレイは事前に決めていたルートを辿って進み始めた。今回は隠密作戦なため、当世具足ではなく、冒険者活動で愛用をしているギャンベゾンにハーフプレートアーマーといった防具類だ。以前、オークにギャンべゾンの腕を切断されたが、応急処置として縫い合わせている。その部位の防御力が著しく落ちているが、致し方なしだ。
狭い道は迷路のように続き、方向感覚を狂わせてくる。だが、その都度ホログラム投影機を持つシズにルートを確認させていたため、迷うことなく猩々のボスがいると思われる屋敷に辿り着いた。
立派な土塀に囲まれた、武家屋敷。かなり広大な土地を占めているようで、土塀が長く長く伸びていた。グレイは当初の作戦通り、庭園があると思われる場所へ近寄り、土塀に背中を預けた。
「レア、飛べ」
両手で足場を作ったグレイを踏み台に、レアが軽々と土塀を乗り越えていった。他の仲間たちも次々と乗り越えていき、最後に一人残ったグレイは、助走をつけて壁を蹴りつけ、持ち前の筋肉で乗り越えた。
剪定をされた松や苔むした岩などが見受けられる庭園は、さぞかし見ごたえがあることだろう。しかし、のんびりと鑑賞している訳にもいかないため、慎重に歩を進めていった。
屋根の上に猩々がいた。子供ほどの大きさをした、赤毛が特徴的な猿の魔物。服は身に着けていないが、顔には『猩々』の能面をつけ、手には小弓を持っていた。
グレイがルークに合図を送ると、即座に矢が放たれ、猩々はその命を散らした。死に際に小さく悲鳴を上げたが、バレた様子はない。グレイは「よくやった」とルークに告げて、屋敷へと侵入していった。
庭園を見渡せる外廊下は、月明かりに照らされて明るい。反対に屋敷の障子は暗かった。下手をしたら、影が映り込むだろう。グレイは少し迷ったが、障子を慎重に開けることにした。
隙間から見える室内には誰もいない。ほっと息をついたグレイは、体が通れるように障子を大きく開き、中へ足を踏み入れた。
畳張りの室内はそこまで広くはなく、質素な調度品が置かれている程度だ。グレイはどちらへ進むべきかと迷ったが、より屋敷の奥へ続く襖を開けることにした。
襖に手を掛け、ゆっくりと開ける。そして、隙間から部屋を覗き見ると──目の前に、『猩々』の能面があった。ほんの僅かな目元の隙間からは爛々と輝く眼光がこちらを覗き込んでおり、巨大生物を思わせる重苦しい呼吸音が間近で聞こえてくる。グレイは、そっと襖を閉じた。
「戦闘準備~ッ⁉」
グレイがそう叫んだ瞬間、襖がぶち破られ、グレイは遥か後方へと吹き飛ばされた。強かに柱へ背中を打ち付ける中、天井に届くほどの巨体を誇る猩々が雄叫びを上げ、配下に招集を掛け始める。これは予想外、とグレイは体を起こしながら悪態をついた。
「シズと鈴木さんで周囲を警戒! 残りでこのデカブツを仕留める! 早期決着で行くぞォ!」
グレイの指示に、レアたちが気合の入った返事をして次々と動き出した。
「〈
レアが猩々の膝へ
「〈
悲鳴を上げる猩々へ、ルークの放った稲妻の如き矢が襲い掛かった。月明かりしかなかった部屋に眩い閃光が迸り、猩々の左胸を貫く。そのまま襖を突き抜けていった稲妻は、一瞬にして視界から消えた。
グレイが前線へ戻った時には、既に猩々は息絶えていた。少々呆気ない最後であったが、これで猩々たちは頭を失ったも同然だ。時期に統率力を失い、烏合の衆となるだろう。
その時、庭園に数え切れないほどの猩々がやってきた。しかし、シズが魔法を唱えて対抗をする。
「〈
生物を死滅させる悍ましい殺戮空間が形作られ、この世と思えぬ絶叫が不気味で恐ろしい雲の中で響き渡った。一体の猩々が〈
「効果時間はおおよそ一分です」長杖をつくシズが言った。「ここで少し様子を見ますか? それとも移動をしますか?」
グレイは少し考え込むと、ここに留まる選択をした。
「一旦、ここで様子を見よう」襖を突き破ってきた猩々を、グレイは殴り飛ばした。「〈
庭園が殺戮空間となったため、屋敷の奥から次から次へと猩々たちがやってくる。廊下を走り回る音、襖を突き破る音、瓦屋根が激しく踏まれる音。様々な音が伴う中、グレイは背負っていた
次々となだれ込んでくる猩々たちに、混乱した様子は見られない。グレイは三十秒ほどが経過した時、強い違和感を抱いた。
「おかしいな、何故こいつらは統率がとれてるんだ?」
「もう新たなボスが立ったのかしら」
修理した
「いや、彼らは先ほどから一貫して僕たちを攻めてきてる。そこから推測するに……」
〈
「もしかして、先ほど倒した大きい猩々はボスではないのでは?」
ルークの言葉に続くように、シズが言った。一体の猩々がシズに襲い掛かるが、鈴木凪によって胴体を撃ち抜かれ、トドメの一撃として長杖が頭部に振り下ろされ、粉砕される。
ボスはまだ死んでいない。これが事実ならば、少々厄介なことになる、とグレイは眉を顰めながら考えた。事前情報では、巨大な個体がボスであるとされていたのだ。そして事実、あの巨大な猩々は配下たちを呼び寄せていた。だが、あの猩々はボスではなく、ボスの側近だった可能性が浮上してきた。
──ボスの外見が分からん。それに、表に出ない選択をとるほど狡猾ときたモンだ。これは困ったな。
グレイは撤退を視野に入れながらも、どうにか目標を達成できないかと思考を巡らす。だが、ボスについて情報がない以上、まずは情報を集めるところから始めなければならない。幸いにも、グレイたち一行に疲労は蓄積しておらず、魔法のリソースも潤沢に残っている。多少の無茶は可能だろう。
見晴らしのいい場所ならば情報を集めやすい。しかし、数の優位性が顕著となる。だからといって、この場所に踏みとどまるのは愚策であろう。障害物が多く、立体的な
「だークソッ! 知能担当シズ、現状を打破できる、凄い良い案をくれ!」
「ボスは近くに居ることでしょう。いや、居ると仮定していいですか?」
「おう、いるだろうさ!」
「なら、全てを無に帰してしまえばいいのです。〈
「構わん、そもそも事前情報が違ってた。かました後に撤退をする」
やがて、〈
「〈
シズの魔法によって、グレイたちは半径三メートルほどの魔法球に包まれた。いつぞや説明した通り、魔法球の内側にいる限りは無敵である。しかし、誰でも出入りができるため、次々と猩々たちが殺到してきた。もしかしたら、今が好機と捉えて攻め込んで来ているのかも知れない。
グレイが拳で、レアが
「──〈
シズの目の前にいた猩々を起点にして、緑色に発光する巨大なエントロピーの円環が広がった。幾何学的な文様が屋敷を貫通しながら展開されていき、半径九メートルにも及ぶ円環が完成する。その瞬間、範囲内にいた生きとし生けるもの全てが塵と化していった。
〈対魔法球〉越しに視界に映る猩々たちは、困惑した様子で分解されていく己を見つめながら無に
やがて、〈対魔法球〉の効果時間である二十秒が経った頃、屋敷は無音に包まれていた。涼やかな夜風の吹く庭園はもはや荒涼としており、先ほどまで騒がしかった屋敷は物音一つしない静寂に支配されている。何処までも静かだ。
「ふう、随分とスマートじゃない作戦になっちまったな」グレイはため息をついた。「今のうちに撤退しよう。ボスが死んでようが生きてようがどうでもいい。数は減らした。その事実があれば十分だろう」
上手くいかなかったことに気を落とすグレイだったが、鈴木凪に「十分過ぎる成果ですよ」とフォローをされたため、気を取り直した。そして、足早に撤退を始める。
撤退の最中、猩々に襲われることはなかった。道中には御用提灯や十手が落ちていることもあり、猩々たちは何処か遠くへ移動したようだった。どうか、大将首が取れていますように。グレイはそう願いながら、闇夜に紛れて作戦本部へと帰還した。