異世界転生したと思ったら、地球に転移した。なんでやねん。   作:卍錆色アモン卍

27 / 28
27異形の戦士

 

 猩々たちのいた地区──猩々地区は、無事に奪取することに成功した。翌朝、公機制の二部隊が突入したところ、多少の抵抗はあったもののそれほど激しい戦闘は行われなかったのだ。グレイたち異人四課も突入作戦に参加をしており、敵勢力下方面の橋で新手が現れないように、牽制の意味も込めて警備に当たっていた。しかし、こちらの様子を伺いに来る魔物たちはいたが、手出しをして来る者はいなかった。

 

 数日掛けて猩々地区は整備され、迷対課のものとなった。前線が押し上がることになれば、自ずと士気が上がるというもの。不本意な攻略とはなったが、猩々地区奪取の一功労者となったグレイは心機一転をして、次の攻略に取り掛かろうとしていた。

 

 猩々地区に設けられた作戦支部にて、グレイは仲間たちと共にホログラムを見つめる。猩々地区を越えた先は、長屋が迷路を作るように犇めいているが、どれもこれもが壁に穴が開いていたり、倒壊していたりと酷い有様だ。初めからそうなっていたわけではなく魔物の仕業なわけだが、この魔物というのが厄介であった。

 

「相手はそこまで群れる魔物じゃない。ボスは存在しないものとして扱うべきだろう」そうグレイは言った。

「各個撃破がベターかしらね……」と、レアが呟く。

「この迷宮に棲む魔物たちは、何かしら特殊だ。予想外のことが起きるかも」と、ルークが忠告を挟んだ。

「何はともあれ、現場で情報を集めましょう。まずは前哨戦です」

 最後にシズが話を締め括り、各々が出立の準備を始めた。武具類の最終確認、おおよその行動の連絡。それらを済ませると、グレイは「うし!」と気合の声を上げて、作戦支部を後にした。

 

 

 

 猩々地区から続く橋。そこで警備をしていたサイボーグ兵に軽く挨拶をしてから、グレイは新たな地区へと足を踏み入れた。一見すると、物静かな地区だ。だが、それがおかしなことは明白であろう。この城下町には数多の魔物が巣食っているはずなのだ。にも関わらず、この地区だけは活気がない。否、活気がないように見受けられる。

 

「俺たちの目的は魔物の数を減らすことだ。だが、あまり深入りしないように気をつけよう」

 

 グレイはそう仲間たちに声を掛けて、ギリギリ偉大なる剣(グレートソード)が振り回せるだろう路地へと進んでいった。

 

 荒廃気味の長屋が犇めく路地は視界が悪く、曲がり角が多かった。少し進めば行き当たりであり、複雑に配置された長屋は道を覚えづらい。また、あくまで迷路ではなく路地なため、迂回して後ろに回ることだって可能だろう。要するに、障害物が多いにも関わらず道も多い。奇襲をするのには持ってこいの環境であった。

 

 四方に存在する長屋に気を配りながら、グレイは歩いていた。その時、地面に魔物の痕跡を見つける。路地を形作る土道には、何か大きなモノが這いずった跡が残っていた。かなりの巨体を想像でき、その痕跡は扉の破壊された長屋の中へと続いているようだ。グレイは仲間たちに目配せをすると、ルークとシズ、鈴木凪をその場に残して、レアを伴って長屋の中へと足を踏み入れた。

 

 一畳半ほどのごく小さな土間には草履、水瓶、竈などがあった。その先には四畳半ほどの広さをした畳張りの部屋がある。一目で部屋の全貌を確認できるほど室内は狭いが、それはともかくとして魔物の姿はない。しかし、反対側の壁が突き破られており、大きな穴が空いていた。高さは三メートルほどだろうか。

 

「むむ、これは……!」

 

 グレイは土に塗れた畳の上に、ある痕跡を見つけた。それは、一本の黒い毛である。長く伸びた毛に癖はなく、柔らかくも細い。これに似ているのは、人間の髪の毛であろう。

 

「黒髪個体。この迷宮限定か? あんまり聞かないな」

「そうね。金髪や茶髪は知ってるけど、黒髪は知らないわ」

 屈んでいたグレイは立ち上がり、今一度壁に開けられた大穴を見つめた。

「……随分とデカイ気がするな」

 

 魔物の姿は無かったが、確かに生息している。グレイはより気を引き締めると、外で待機している仲間たちと合流をした。

 

 路地を歩き回ってしばらく。グレイは長屋を確認したりしていたが、中々魔物と出会うことができなかった。原因は地区の浅い領域だからなのか、はたまた魔物が待ち伏せ型であるために、相手の気分次第なところが大きいからなのか。何はともあれ、魔物の生息数自体はそこまで多くないと考えても良さそうであった。

 

 カラン、コロン、と物音が響く。グレイはすぐさま考えごとを中断して、周囲を警戒した。音の発生源は、目の前の長屋からだった。引き戸が四つ並ぶ長屋には格子窓がそれぞれついており、中が薄っすらと確認できる。しかし、室内が暗いために、完全には視認できなかった。

 

 グレイは偉大なる剣(グレートソード)を引き抜き、レアと共に長屋へ近づいた。引き戸の前まで来る途中、物音は一つとしてせず、生物がいる気配は感じられない。本当に魔物が居るのか、とほんの少しばかりの疑問が脳裏を掠めた時、グレイは第六感とも言うべき直感が働き、無意識のうちに立ち止まった。

 

 モノクロに染まりゆく視界の端で、違和感を感じ取る。グレイは極限の集中状態の中、それを見た。長屋の壁を突き破りながら、恐ろしき刀身がこちらへと迫る。鋭く尖った切先は槍のようでいて、徐々に壁を突き破ってくる刀身はどれほど長いのか、刀のように湾曲した姿を見せ始める。グレイはレアを庇うように腕を広げて後退をするが、その頃には既に刃渡り一メートルをも超える刀身が、グレイの身に着けていた当世具足の胴を掠めていった。

 

 勢い良く後退をしたため、グレイは姿勢が崩れた。それと同時に集中状態も切れる。その瞬間、爆裂するかのように壁や引き戸が吹き飛び、砂塵の舞う長屋に巨大な影が浮かび上がった。そして、ズルズルと這いずる音を響かせながら、魔物が砂塵を突き破り、姿を現したのだ。

 

 艶やかな黒髪を姫カットにした、見惚れるほどに美しい(かんばせ)が視界に映る。ついで何枚もの上衣(うわぎ)──(うちき)打衣(うちぎぬ)表衣(うわぎ)唐衣(からぎぬ)などが優雅に舞い踊り、腰後ろからヴェールのように垂れる()がはためいた。

 乱れた上着が豊満な胸元をはだけさせ、女性らしさに溢れた肢体を振りまき、白磁のような肌が男を魅了するように魔力を放つ。釣られるように魔性の女の下半身へと目を移せば、黒曜石の如き光沢を放つ大蛇の胴体が、荒れ狂う波のように暴れ回っていた。

 この地区一帯の支配者たる魔物の正体とは、美しき女性の上半身を持ち、醜き蛇の下半身を持つ魔物──ラミアである。

 

 蠱惑的な笑みを浮かべたラミアが、全長三メートルはあろうかという大薙刀で、刃先を下に向ける構え──下段の構えをとった。グレイは、「相変わらず惚れちまいそうなほど美人だな!」と叫ぶと、力強く偉大なる剣(グレートソード)を肩に担ぐ。

 

「ここは戦力を温存して戦うぞ。ラミアの戦闘力を推し量る!」

 

 仲間たちの了承の声が響いた時には、既にラミアが行動を起こしていた。巨大かつ強靭な下半身を巧みに操り、上半身、ひいては薙刀に遠心力を加えて薙ぎ払ってきたのだ。

 人間には再現のできない異形の剣術。まるで烈風を思わせるほどに激しい風切り音を伴う超広範囲の薙ぎ払いが、砂塵を巻き起こしながらも迫り来る。グレイは味方に被害が及ぶことも考慮して、偉大なる剣(グレートソード)で受け止めた。だが、まともに受け止めたこともあって力負けしてしまい、大きく弾かれてしまった。

 

 耳鳴りを引き起こすほどの大きな金属音が鳴り響く中、ラミアはルークの射った矢を大薙刀で斬り落とし、シズの唱えた〈不調化光線(レイ・オブ・シックネス)〉を躱し、鈴木凪の放った銃弾を強固な鱗で覆われた下半身で防いだ。

 これまでの相手とは、圧倒的に戦闘力が異なる。のっぺらぼうも強かったが、あれはまだ人間の範疇に収まっていた。だが、ラミアは違う。怪物の力と人間の力を十全に発揮するために、もはや一人の人間が太刀打ちできるような相手ではなかったのだ。

 

 手が痺れるほどの衝撃を受けたグレイは笑みを浮かべると、高い壁を乗り越えてこそ冒険者よ、と己を奮い立たせ、再び立ち上がった。

 

「面白え……! 俺はまだまだ高みへ行ける」

 やる気十分といった仲間たちを見やったグレイは、獰猛に笑った。

「俺とレアがメインで戦う! ルークたちは援護だ!」

 そして、駆け出した。

 一人の人間では太刀打ちできない。ならば、仲間と協力して倒すまで。グレイは冒険者である。これまでにも様々な困難に直面してきた。だが、仲間たちと協力をして乗り越えてきた。今回だって乗り越えられる。グレイはそう信じて、ラミアと激しくぶつかり合ったのだ。

 

 

 

 ⚔

 

 

 

 城下町の右翼方面、その最前線で、異人三課のランサは一体の魔物と相対していた。歴戦をくぐり抜けてきたと思わせる立派な当世具足を上半身に身に纏い、異形たる下半身である馬の胴体には胸甲(むなよろい)尻甲(しりよろい)といった馬鎧(うまよろい)を身に着ける。蹄で強く大地を掻き、全長四メートルはあろうかという十字を描いた槍──十文字槍を振り上げる様は、まさしく猛将を体現していた。

 セントール。人間の上半身に馬の胴体を組み合わせた半人半獣の魔物こそが、ランサに立ちはだかっていた魔物の正体であった。

 

「イオは自衛を」巨槍──薙剣(グレイブ)を構えたゾネが言った。「ドライアドを呼ぶんだ」

 ゾネの指示に対して、イオは素直に従った。

「分かった! 〈森の住人たちの召喚(コンジュア・ウッドランド・ビーイング)〉!」

 

 ゾネとランサに守られるようにいたイオの隣に魔法陣が浮かび、森の住人──ドライアドが召喚された。蔓で構成された人型の肉体がぎこちなく動き出し、頭に相当する部位に咲いた文字盤を思わせる巨大な花が揺れ動く。根本は紫色で、そこから先は真っ白な色の花弁は目を引き、放射状に伸びた糸状の突起である副花冠(かかん)が独特の雰囲気を醸し出していた。

 

 ドライアドが眷属たる木の巨人──ウッド・ウォウドを召喚する中、セントールが走り出した。比較的道幅の広い地区であるセントール地区は他地区と同じく土道であり、激しい土埃が舞い上がる。それに伴って、セントールの騎槍突撃(ランスチャージ)を思わせる突撃に迫力が合わさり、鳴り響く蹄音(ていおん)がランサの心臓を締め上げるように()き立ててきた。

 

「ランサ、私に続け! 奴を仕留めるぞ!」

「はい!」

 

 猛然と走り出したゾネに続き、ランサも片鎌槍を握りしめて駆け出した。セントールとの距離が急速に近づいていき、ほんの数秒で目と鼻の先となる。

 裂帛の声を上げたゾネが駆けながら薙剣(グレイブ)を薙ぎ払い、それに答えるようにセントールが十文字槍を斬り上げた。激しい金属音が鳴り響く。しかし、両者ともが無傷で交差し、通り過ぎた。

 

 ランサは既にセントールの脚を狙って、片鎌槍を薙ぎ払っていた。だが、セントールは軽々と跳躍をして回避し、道幅の広さを最大限活用して旋回をする。そして、再び突撃を繰り出してきた。

 ──イオを狙わないところは助かるけど、普通に強いな。

 ランサは圧倒的な体重差と突破力を誇るセントールに苦手意識を覚えた。もしこれが人間と同等の存在であれば、まだ戦いやすかったことだろう。しかし、人間を遥かに超える筋力を持ち、人間と同等の技術があるとなれば、話が変わるものだ。

 

「……ランサ、そいつは頼んだぞ」

「ッ分かりました!」

 

 突撃をしてくるセントール。そこへ、ランサたちを挟み込むようにして、もう一体のセントールが現れたのだ。最初の個体よりも一回り大きく、燃えるように真っ赤な当世具足と陣羽織、そして馬鎧が見て取れる。手には五メートル近い大身槍が握られており、明らかに格の違う存在だった。

 

〔これは私も参加しないとマズイかなー⁉〕と、イオと共にいる夏目フミが言った。緊張した様子で、自動散弾銃である流星(ながれぼし)を握っている。

 

「フミさんはイオを守っていてくれ!」間近に迫るセントールを視界に収めながら、ランサは叫んだ。「俺と師匠は負けない、どんな苦境に立たされようとも。今回だってそうだ。……ただ、信じていてくれ」

 

 セントールが十文字槍を下から掬い上げるように、振り上げてきた。ランサはそこへ片鎌槍の鎌を引っ掛け、力を横に逃して躱す。しかし、セントールは急停止からの反転をし、前脚を振り上げて自身の体重を力へと変えながら、十文字槍を突き下ろしてきたのだ。ランサは後ろへ下がりながらも回避をするが、セントールの方が一枚上手であった。

 地面に突き刺さった十文字槍が勢い良く跳ね上がり、ランサの顔面を引き裂いたのだ。辛うじて致命傷は免れたが、左目に傷を負い、使い物にならなくなってしまう。

 

「くそっ、ツイてないな!」

 

 口内に広がる血の味に不快感を覚えつつも、ランサは怒涛の攻めを展開するセントール相手に粘り続けた。遠近感がまともに機能しない中、これまで培ってきた勘を頼りに、凶刃を捌きに捌き、段々とランサが優勢となっていく。

 イオは焦っているだろうな、とランサは思う。最近気づいたことだが、イオはランサに淡い恋心を抱いているのだ。ランサは微笑ましいものだと思いつつも、どうか他の男と添い遂げて欲しいと願っていた。イオは心優しき少女である。見目もよく、将来はさぞかし美人となることだろう。そんな天に愛された少女と、陰気な自分が釣り合うわけがない。ランサはそう信じているのだ。

 ──だからといって、イオを悲しませるのは〝男〟じゃない。俺にできることは、とことんやるつもりだ。

 ランサは、地上最強の男を目指すような純朴な青年である。ただ強いだけの男じゃない。武士道や騎士道を重んじるような、心身共に最強の男になりたいのだ。そんな男は、イオのような少女を泣かせたりはしないだろう。ランサはその心を胸に、気高く戦うのだ。

 

「俺は負けられないッ! 俺の──イオの未来のためにも‼」

 

 盛大に勘違いされそうなことを叫んだランサは、ついにはセントールの十文字槍を弾き飛ばした。面頬(めんぽお)の隙間から覗く驚愕した表情を目に焼き付けながら、ランサは神速の突きをセントールの顔面に突き込む。

 セントールの動きが止まった。やがて、頽れる。どしゃりと派手に音を立てたセントールは、息絶えていた。

 

「ランサ~⁉」イオが土埃を上げながらやってきた。そして、即座に第五位階神聖魔法を唱える。「〈大治療(ヒール)〉‼」

 

 ランサの傷は一瞬で治った。なんなら疲労さえ無くなり、清々しい気分まである。

 

「〈傷治療(キュア・ウーンズ)〉で良かったのに」

「うるさいバカ! そんなことより無事で良かった! このアホ!」

「罵倒のサンドイッチ……」

 

 強く抱き着き、顔を(うず)めてくるイオは離してくれそうになかった。その様子を見ていた、夏目フミは後方腕組みお姉さんと化しており、役に立ちそうもない。

 

「イオ。俺はイオを悲しませやしないよ」

「……本当?」

「ああ、本当さ」

 

 顔を上げたイオは、再度「本当に悲しませない?」と問いかけてきた。ランサは「勿論だ」と返す。

 

「そう……じゃあ約束ね! ランサはずっとわたしと一緒にいてね!」

「う~ん、ずっとは難しいかも知れないけど、分かったよ」

「げっへっへっへ!」

 

 妙ちきりんな笑い声を出したイオにランサが笑っていると、肩をつんつんと(つつ)かれた。ランサが振り向くと、そこには無傷のゾネが立っていたのだ。

 

「その、私のこと忘れてないか……?」

「師匠! 無事だったんですね!」

「あ、ああ。まあな」

 

 複雑そうな表情を浮かべていたゾネが咳払いを一つ挟むと、真剣な眼差しで後方へと振り返った。

 新たに現れた五体のセントールが、こちらの様子を伺っていた。体格や具足に多少の差異はあれど、誰もが猛将を思わせるほどの覇気を漂わせている。ランサはすぐさま意識を切り替えて、片鎌槍を肩に担いだ。

 

「イオ、夏目。私たちに力を貸してくれ」ゾネが二人を流し見た。「私とランサでは太刀打ちできん。お前たちの力が必要だ」

「ぬおー、任せて! 今のわたしは百人力だぞ!」と、イオが両腕を振り上げて叫んだ。

〔ま、任せてくださいよー! 私だって戦えますから!〕続けて、夏目フミが流星(ながれぼし)をぎこちなく構えて声を上げた。

 

 ランサは薄く笑う。仲間がいるだけで、こうも頼もしいのか、と思いながら。

 ──地上最強の男の道程は程遠いけど、いつしか自分だけの最強の男像を実現させたいな。

 セントールたちが隊列を組んで騎槍突撃(ランスチャージ)を始め、いつの間にか増えていた十体のウッド・ウォウドたちが壁を作るように行進をする中、ランサは隣にいるイオを見やった。

 イオもこちらを見つめていた。しかし、見られるとは思ってなかったのか、勢い良く顔を逸らされてしまう。ランサは「頼んだよ」とイオに優しく声を掛けて、輝かしい未来を見据えるように、前を見据えたのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。